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HANDEL
1730





PARTENOPE

HWV27
オペラ イタリア語
初演:1730年2月24日、ロンドン、ヘイマーケット国王劇場
台本:シルヴィオ・スタンピーリャ


作曲

 《パルテーノペ》は、新たに立ち上げたアカデミーのための、ヘンデルの二番目の新作です。
 パルテーノペ(パルテノーペとノを伸ばすのは誤り)は、ナポリを建国したと伝えられる伝説の女王。彼女には三人の求婚者がいて、そのうちの本命=婚約者のアルサーチェが、かつて婚約していながらも棄ててしまったロズミーラが男装してパルテーノペの宮殿に乗り込んで来ることから起こる物語です。
 シルヴィオ・スタンピーリャの台本は、本来ルイージ・マンチャのオペラ(1699年、ナポリ)のために作られたもの。つまり30年以上も前の台本の再使用でした。この台本は人気が高く、ヘンデル以前に多くの作曲家によってオペラ化されていました。実はヘンデルも既に1726年にこの台本を用いてオペラを製作しようと考えていました。ヘンデルはイタリアへの歌手探しの旅行中、ヴェネツィアでレオナルド・ヴィンチの作品(1725年、ヴェネツィア)を見て気に入ったのではないかと推測されています。しかし台本が当時のアカデミーの委員会で認可されなかったため断念せざるをえませんでした。その4年後に、自らが主体となった新しいアカデミーで、自分の気に入った台本を改めて取上げることにしたのです。
 《パルテーノペ》は、ヘンデルのイタリアオペラの台本の中でも、喜劇的要素の強いものです。カストラート歌手が受持つアルサーチェは、英雄どころか、ロズミーラに常に謝り、嘆き、彼女の要求に屈して沈黙を守りざるをえない弱い男。一方のロズミーラは、一貫して鼻息は荒いのに、最後になって上半身裸で決闘するという要求を突きつけられるとあえなく女性であることを明かしてしまいます。そして女王パルテーノペは三人の求婚者の中で最も内気なアルミンドを選びます。愛の葛藤という情熱的な主題を軸に据えつつも、クスクスと思わず笑ってしまう滑稽さ、チクリと来る皮肉が、随所に盛り込まれており、こうした点がイタリアで人気を呼んだ理由でしょうし、ヘンデルが気に入った要素でしょう。ただ、当時のロンドンの聴衆は、こうした物語は好まなかったようです。
 楽譜は、1730年2月12日に完成の日付けが入っています。


あらすじ

第1幕
 女王パルテーノペが新たな国を祝し、人々が女王を讃えている。女王はアルメニアの君主エウリメーネから、船が難破したので保護してほしいとの申し出を受け、これを聞き入れる。次いでクーマの王子エミーリオから女王との面会が求められるが、パルテーノペは敵対するエミーリオの脅しには屈しないと気を引き締める。一方コリントの王子アルサーチェは、エウリメーネが自分の棄てた許婚、キプロスの王女ロズミーラと瓜二つなことに当惑する。そのエウリメーネは、女王とアルサーチェが婚約していることを、ロードスの王子アルミンドから聞きつける。アルミンドも女王を愛しているのだが、内気な彼は女王に愛を告白できないでいる。エウリメーネは力になると彼を励ます。
 エウリメーネは実はロズミーラ本人の変装だった。彼女はアルサーチェに正体を明かし、彼の不実をなじる。その上で、自分の正体を決して漏らさないことを約束させる。
 パルテーノペと隊長オルモンテはエミーリオの意図を計っている。一方アルミンドはおずおずとパルテーノペへの愛を打明けようとするが、アルサーチェが来るので立ち去る。アルサーチェとパルテーノペが愛を語っていると、エウリメーネ(=ロズミーラ)が現れ、自分もパルテーノペを愛していると(お芝居で)告白、さらにアルサーチェの愛は信用できないと侮辱する。今もロズミーラへの愛を棄てきれないアルサーチェは、二人の女性への思いで揺らぐ。
 エミーリオが到着、パルテーノペに強引に結婚を申込むが、女王は軽蔑してこれを拒む。エミーリオは戦いをしかけることにする。パルテーノペはアルサーチェを将軍に任命する。エウリメーネ(=ロズミーラ)はなおもアルサーチェを馬鹿にする。パルテーノペは自分自身が軍を率いることにする。アルサーチェは、ロミルダがエウリメーネとして戦いに加わるのは危険だと、彼女を思いとどませようとする。一方、エウリメーネもパルテーノペを愛していると耳にしたアルミンドは、エウリメーネを非難する。それに対しエウリメーネは、愛している振りをしているだけだ、と答える。

第2幕
 エミーリオの兵とパルテーノペの兵が戦闘を開始する。パルテーノペは危機に陥るが、アルミンドに助けられる。一方エウリメーネ(=ロズミーラ)もエミーリオに攻撃されるが、間一髪でアルサーチェがエミーリオを捕らえる。一同は勝利を喜び、エミーリオは戦いにも恋にも敗れたと運命を嘆く。
 パルテーノペが凱旋する。エウリメーネ(=ロズミーラ)は、アルサーチェがエミーリオを捕らえたにもかかわらず、その功績は自分のものだと言い出すので、一同は呆気にとられる。アルサーチェは反論しない。さすがにパルテーノペも怒り、エウリメーネ(=ロズミーラ)に監視をつける。アルサーチェはロズミーラに自分の苦しみを訴えるが、彼女は聞いてくれない。ロズミーラは怒りと嫉妬に苦しむ。
 アルサーチェはエウリメーネを解放してほしいと願う。一方、アルミンドはついにパルテーノペを愛していることを告げる。女王は彼の魅力を認めつつ、アルサーチェへの愛を大切にする。
 アルミンドはエウリメーネが自由の身になったことを喜ぶ。エウリメーネは彼に、女王への謁見を頼む。アルサーチェが現れるが、ロズミーラはまだ怒りを鎮めていない。アルサーチェは様々な思いが心の中で疼いていることに苦しむ。

第3幕
 パルテーノペはエウリメーネ(=ロズミーラ)との面会に応じる。エウリメーネは、アルサーチェはかつてキプロスの王女ロズミーラと婚約していたが棄てたと非難し、アルサーチェもそれを認める。パルテーノペは、ロズミーラと自分とどちらにも失礼なことだと憤る。エミーリオはアルサーチェを励ます。
 アルサーチェはロズミーラを愛していると訴えるが、彼女は拒む。
 パルテーノペはアルミンドの愛を受け入れることをほのめかす。
 アルサーチェは一人嘆き、眠り込んでしまう。ロズミーラは彼を見て哀れみを感じる。パルテーノペが現れるので彼女はエウリメーネに戻り、アルサーチェを起こして、二人は決闘することになる。アルサーチェは天に苦しみからの解放を願う。一方、アルミンドとエミーリオは和解する。
 決闘を準備が整うと、アルサーチェは二人とも上半身裸で闘うことを提案する。それができないロズミーラは、ついに自分が女性であることを明かす。アルサーチェは彼女との約束で沈黙を守っていたことを述べる。パルテーノペは苦しみと喜びは常に裏表と歌い、そしてアルミンドを伴侶に選ぶ。ロズミーラとアルサーチェは結ばれ、エミーリオは許され、一同の喜びで幕となる。


音楽

(準備中)

初演

 初演は1711年2月24日、ヘイマーケットの女王劇場で行なわれました。初演のキャストは以下のような人たちでした。

PartenopeAnna Maria StradaSoprano
ArsaceAntonio Maria BernacchiAlto castrato
RosmiraAntonia Maria MerighiContralto
ArmindoFrancesca BertolliContralto
EmilioAnnibale Pio FabriTenore
OrmonteJohann Gottfried RiemschneiderBasso

 アンナ・マリア・ストラーダ(18世紀前半)は、ベルガモ生まれのソプラノ。1729年にロンドンを訪れて以来、1737年までヘンデルの元で歌い続けました。ヘンデルのオペラの初演では、《ロターリオ》、《パルテーノペ》、《ポーロ》、《エツィオ》、《ソサルメ》、《オルランド》、《クレタのアリアンナ》、《アリオダンテ》、《アルチーナ》、《アタランタ》、《アルミーニョ》、《ジュスティーノ》、《ベレニーチェ》に出演。さらに多くのオペラの再演にも出演しています。1730年代のヘンデルには不可欠のソプラノだったことが分かります。彼女は歌手としては文句なく優れていたものの、容姿や人柄はあまり良くなかったことが複数の人たちによって伝えられています。
 アントーニオ・マリア・ベルナッキ(1685−1756)は、ボローニャ生まれのアルトカストラート。1703年にデビュー。1710年代後半に名声を高め、1720年からバイエルン選帝侯マクシミリアン2世エマヌエルの元でも度々歌っていました。ベルナッキとヘンデルの関係は比較的早く、1717年にはロンドンに招かれ《リナルド》の再演、《ゴールのアマディージ》の再演に出演していました。1729年に新たなアカデミーの看板歌手として再び契約、《ジューリオ・チェーザレ》の再演、《ロターリオ》初演、《パルテーノペ》初演、《トロメーオ》再演に出演しています。優れた歌手だったことが伝えられていますが、技巧に走りがちな歌だったようです。少なくともセネジーノの記憶が残るロンドンの聴衆は、彼にあまり満足しなかったと伝えられています。1738年に引退。
 アンニバーレ・ピオ・ファブリは「バリーノ」という愛称で知られたテノール。当時まだ重要性の高くなかったテノールという声種において、イタリアのみならず、ロンドンでも絶賛を博したほどの実力の持ち主でした。ヘンデルもファブリを重用し、1729年には《ロターリオ》初演(ベレンガーリオ)、1730年には《ジューリオ・チェーザレ》再演(セスト)、《パルテーノペ》初演(エミーリョ)、《シピオーネ》再演(タイトルロール)、1731年には、《ポーロ》初演(アレッサンドロ)、《リナルド》第2稿初演(ゴッフレード)、《ロデリンダ》(グリモアルド)に出演しています。本来アルトカストラートのために書かれたシピオーネ役を再演でテノールのファブリに回したことからも、彼の実力の程が伺えます。
 アントーニア・マリア・メリーギは、深い声のコントラルトだったと伝えられています。1729年に《ロターリオ》初演(マティルデ)、1730年に《ジューリオ・チェーザレ》再演(コルネーリア)、《パルテーノペ》初演(ロズミーラ)、《シピオーネ》再演(アルミーラ)、1731年に《ポーロ》初演(エリッセナ)、《リナルド》第2稿初演(アルミーダ)、《ロデリンダ》(エドゥイージェ)に出演。さらに1738年に《ファラモンド》初演(ジェルナンド)、《セルセ》初演(アマストレ)にも出演しています。
 フランチェスカ・ベルトッリは、ローマ生まれのコントラルト(実際にはメッゾソプラノだったようです)。1767年に亡くなっています。決してスターではなかったものの、準主役としてたくさんのヘンデルのオペラに出演しています。1729年に《ロターリオ》初演(イデルベルト)に出演して以来、1730年に《ジューリオ・チェーザレ》再演(トロメーオ)、《パルテーノペ》初演(アルミンド)、《シピオーネ》再演(レリオ)、1731年に《ポーロ》初演(ガンダルテ)、《リナルド》第2稿初演(アルガンテ)、《ロデリンダ》再演(ウヌルフォ)、《タメルラーノ》再演(イレーネ)、1732年に《エツィオ》初演(オノーリア)、《ジューリオ・チェーザレ》再演(トロメーオ)、《ソサルメ》初演(メーロ)、《フラーヴィオ》再演(テオダータ)、《アレッサンドロ》再演(タッシーレ)、1733年に《オルランド》初演(メドーロ)、《オットーネ》再演(マティルダ)、1737年に《アルミーニオ》初演(ラミーゼ)、《ジュスティーノ》初演(レオカスタ)、《ベレニーチェ》初演(セレーネ)に出演しています。

 《パルテーノペ》は3月10日までに7回の公演がありました。初演の評判についてはまったく伝わっていません。ただ、7公演があった後、《パルテーノペ》の前に上演されていた《ジューリオ・チェーザレ》(1月17日から2月21日まで、9公演、キャストは《パルテーノペ》と同じ)が3月21日と31日に再び舞台にかけられたことからすると、《パルテーノペ》はあまり好評ではなかったのではないでしょうか。

再演と改編

 《パルテーノペ》は二度再演されています。  一度目は初演の年の暮れからのシーズン。1731年2月2日に《ポーロ》が初演される前の1730年12月12日から翌1731年1月9日まで、《パルテーノペ》が7公演再演されました。この時、ヘンデルは楽譜にいくらかの改編を施しています。アルサーチェ役にセネジーノ(=フランチェスコ・ベルナルディ)が復帰したことで、彼のために新たなアリア Seguaci di Cupido を追加しています。
 二度目の再演は、1737年1月29日から2月9日まで、4公演。


PartenopeAnna Maria StradaSoprano
ArsaceDomenico AnnibaliAlto castrato
RosmiraFrancesca BertolliContralto
ArmindoGioacchino ContiSoprano Castrato
EmilioJohn BeardTenore
OrmonteMaria Caterina NegriContralto

 楽譜にかなり大幅な改編を加えています。またアルミンド役がコントラルトからソプラノカストラートへ、オルモンテ役がバスからコントラルトに変わったため、それぞれに調整をつけています。
(以下準備中)

参考文献

Handel / Partenope / Full Score / Kalmus Edition / ISBN 9780769268927
Handel's operas 1726-1741 / Winton Dean / Boydell & Brewer Ltd / 2006 / ISBN 1843832682
Handel / Donald Burrows / Oxford University Press / 1994
ヘンデル 作曲家・人と作品シリーズ / 三沢寿喜 / 音楽之友社 / 2007 / ISBN 9784276221710
ヘンデル / クリストファー・ホグウッド / 三沢寿喜 訳 / 東京書籍 / 1991
ヘンデル 大音楽家人と作品 15 / 渡部恵一郎 / 音楽之友社 / 1966

Inger Dam-Jensen, Andreas Scholl, Tuva Semmingsen, Christophe Dumaux, Bo Kristian Jensen, Palle Knudsen
Concerto Copenhagen
Lars Ulrik Mortensen
Copenhagen, October 2008
DECCA 074 3348(DVD)

Rosemary Joshua, Lawrence Zazzo, Hilary Summers, Stephen Wallace, Kurt Streit, Andrew Foster-Williams
Early Opera Company
Christian Curnyn
London, 15-19 November 2004
Chandos CHAN0719

 クリスティアン・カーニン率いるアーリー・オペラ・カンパニーによるヘンデルのオペラの初録音。カーニンの指揮は非常に上質で立派な出来栄えです。これでもう少しユーモアが利いててくれればなお良かったのですが。歌手ではジョシュアが出色。

Meredith Hall, Kai Wessel, Annette Markert, Chris Josey,John McVeigh, William Berger
Philharmonia Baroque Orchestra
Nicholas McGegan
Göttingen, 2001
Göttinger Händel-Gesellschaft

Krisztina Laki, René Jacobs, Helga Müller Mollinari, John York Skinner, Martyn Hill, Stephen Varcoe
La Petitte Bande
Sigiswald Kuijken
Freiburg, 27 March-10 April 1979
deutsche harmonia mundi GD 77109

 あまりに生真面目過ぎて、このオペラの特性がほとんど生かせていません。
 リブレットのうち、伊語、英語は初演時の、独語は1736年のハンブルク上演の際の印刷台本をそのままコピーしており(仏語だけは新たなもの)読みづらくてかないません。

参考作品

Sonia Prina, Maria Grazia Schiavo, Maria Ercolano, Eufemia Tufano, Stefano Ferrari, Charles do Santos
I Turchini di Antonio Florio
Antonio Florio
Murcia, April-May 2011
DYNAMIC CDS 686/1-2

スタンピーリャの台本に基づいたレオナルド・ヴィンチの《忠実なロズミーラ》(1725年、ヴェネツィア)のCD。このCDでは題名が《ラ・パルテーノペ》とされています。ヘンデルはこの作品の上演を見てスタンピーリャの台本に興味を持ったといわれています。

Marianna Pizzolato, Clair Brua, Salome Haller, Rossana Bertini, Jacek Laszczkowski, John Elwes, Philippe Cantor
Nice Baroque Ensemble
Gilbert Bezzina
Niece, 2003
Dynamic CDS437

 同じスタンピーリャの台本に基づいたヴィヴァルディのオペラ《忠実なロズミーラ》(1738年、ヴェネツィア)のCD。




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Appendix 1 Appendix 2 Appendix 3


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