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HANDEL
1711




RINALDO

HWV7a
オペラ イタリア語
初演:1711年2月24日、ロンドン、ヘイマーケットの女王劇場
台本:ジャコモ・ロッシ
原作:タッソー『解放されたエルサレム』
   →エアロン・ヒルがヘンデルのオペラ用の概略を作成

 ヘンデルがロンドンにやってきて最初に発表したイタリアオペラです。この作品が大当たりを取ったことで、ヘンデルはロンドンを拠点として活動することになります。

イタリアから大英帝国ロンドンへ

 1706年の秋から1709年の暮れまでの約三年半、フィレンツェ、ローマ、ナポリ、ヴェネツィアといったイタリアの都市に留学したヘンデルは、当時のイタリアの最新の音楽を貪欲に吸収し、目覚しい成長を遂げることができました。このイタリア滞在では、ヘンデルは貴族や聖職者といった有力者に客人としてもてなされることを好んでいたため、劇場作品であるオペラはわずかに二つしか手掛けていません。そのうちの一つが1709年の暮にヴェネツィアで初演された《アグリッピーナ》でした。これはシーズン中27公演という大成功を収め、カーニヴァルの時期のヴェネツィアっ子を熱狂させています。イタリアでも屈指の歓楽の街ヴェネツィアで、諸外国からも訪問客が多いカーニヴァルシーズンに大成功を収めたことによって、ヘンデルは国際的に大いに知られるようになりました。
 さて、イタリア滞在を終えたヘンデルは、1710年にドイツに戻っています。6月に、ヴェネツィアでのヘンデルの評判を聞きつけたハノーファーの宮廷が、ヘンデルを宮廷楽長に任じています。ヘンデルはこれを受けてはいるのですが、デュッセルドルフを訪問する先約があることを口実にして、就任と同時に長期休暇を貰っています。そして実際デュッセルドルフに向かっています。そしてヘンデルはそのまま、オランダ経由で大英帝国の大都市ロンドンに向かったのです。
 ヘンデルがなぜロンドンに向ったのか、その理由はよく分かっていません。おそらくイタリア滞在時に彼が知合ったロンドンの貴族か有力商人が彼をロンドンに招待したのだと考えられています。また、いつロンドンに到着したのかもはっきりしていません。1710年の11月から12月というのが有力です。

1700年代初頭のロンドンにおけるオペラの状況

 ヘンデルがロンドンに到着した頃は、ちょうどイタリアオペラのブームが沸きあがる直前の状況でした。
 1700年頃までの状況として、ロンドンでは、アリアを中心にレチタティーヴォで曲をつなぐ形式のイタリア流儀のオペラは浸透していませんでした(ルイ王朝流儀のフランスオペラも盛んではありませんでした)。演劇を主体に英語の歌を適宜混ぜこむセミオペラなどがあったものの、歌が主体となっているオペラは、ロンドンにはまだ広まっていなかったのです。
 1706年3月、ボノンチーノが作曲した《カミッラ》というイタリアオペラ(初演は1697年、ウィーン)を英語に訳して上演したところ、1709年までに64回の上演があるという大変な人気を博しました。
 やがてイタリアから本場の歌手たち、とりわけ優秀なカストラート歌手が訪れるようになります。イタリア人歌手が歌いやすければ、意味がわからなくてもイタリア語の歌で満足するようになります。先ほどの《カミッラ》も、再演が進むにつれ、英語とイタリア語が混ざって歌われるようになっていたといいます。
 1710年の末にヘンデルがロンドンを訪問したのは、まさに絶妙のタイミングだったのです。ロンドンの人々が優秀なイタリアオペラの作曲家を渇望していた時に、最新のイタリアの音楽をたっぷり吸収し、オペラの作曲家として功を遂げようと野心を燃やしていた若者がやってきというわけです。
 ただ、ヘンデルは初めからロンドンに腰を据えるつもりではなく、あくまで一時的な滞在のつもりでした。実際、1711年の初夏には一旦ドイツに戻っています。

《リナルド》の作曲経緯

 ヘンデルがロンドンのために書き下ろした最初のオペラがこの《リナルド》です。
 タッソーの叙事詩による、騎士リナルドと魔女アルミーダの物語は、ヘイマーケットの劇場の1710/11のシーズンの興行主となったエアロン・ヒルの発案によるものでした。《リナルド》の台本は、ヒルが物語の概要を作成し、より職業的な劇場の台本作家、ジャコモ・ロッシが実際に詩句を作成しました。ヒルとロッシのこしらえたドラマは、タッソーの原作から自由に離れ、劇場効果をたっぷりと引出す、多くの見所を盛りこんだものでした。この台本そのものはヘンデルのために作られたものです。しかし、ヒルの《リナルド》の企画が当初からヘンデルを想定したたものなのかははっきりしません。あるいは企画が持ち上がっていたところに、たまたま有望な若者が現れたので、作曲を振ったのかもしれません。
 さて、ロッシによると、ヘンデルは「たった二週間」で作曲をしたといいます。ヘンデルは、《アグリッピーナ》の場合と同様、多数の曲をイタリア時代のカンタータなどの作品から自己借用しています。詳細は後述しますが、序曲を含めて41の曲のうち、10曲ほどは過去のヘンデルの曲と強い関連が見出せます。それ以外にも素材としての類似性をはっきり指摘できるものも合わせ、全体の三分の二以上は、過去の曲との関連があります。ただし、以前の曲を全くそのまま使いまわしているものは一つもありません。ヘンデルは多かれ少なかれ曲を手直しして使用しています。

あらすじ

 11世紀末の第一次十字軍の時代、エルサレム。
第1幕
 ゴッフレードの軍勢がエルサレムの町を包囲している。ゴッフレードと共に、彼の弟エウスターツィオ、ゴッフレードの娘アルミレーナ、彼女の恋人の騎士リナルドがいる。リナルドはアルミレーナと結婚することを望んでいるが、ゴッフレードは勝利を収めた後にしようと答える。アルミレーナはリナルドを励す。エウスターツィオもリナルドに理解を求めるが、リナルドは嘆きを隠せない。ラッパの音が聞こえ、敵方の使者が現れる。エウスターツィオは敵の大将アルガンテが降服するのではないかと期待する。
 アルガンテが城門から派手派手しく現れる。形勢が不利であることを悟ったアルガンテは、虚勢を張りつつも、三日間の休戦を申し込む。ゴッフレードはこれに応じる。一人残ったアルガンテのもとに、激しい雷鳴が鳴り響き、二匹の龍を伴い、空から彼の愛人の魔法使いアルミーダが現れる。アルミーダは、勝利のためには、キリスト教徒の軍勢からリナルドの力を排除しなくてはならない、そしてその役目は自分が担うとアルガンテに告げる。
 泉のある庭園。アルミレーナとリナルドが愛を語り合っていると、突然アルミーダが現れる。リナルドは剣を抜くが、怪物たちに襲われ、その隙にアルミレーナは連れ去られてしまう。リナルドは嘆く。ゴッフレードとエウスターツィオが駆けつけ、山の洞窟に住む魔法使いに助言を求めることにする。リナルドも勇気を取り戻し、 神々に力を求める。

第2幕
 海辺。エウスターツィオはリナルドとゴッフレードに、魔法使いの居る場所はもうそう遠くないと言う。突然、小船から女が、アルミレーナが待っているとリナルドを招く。海では二人のシレーナが飛び跳ねながら魅惑的に歌う。ゴッフレードとエウスターツィオが止めるのも聞かず、リナルドは夢中になって船に乗り込んでしまう。
 囚われのアルミレーナが嘆き悲しんでいる。彼女の美しさに魅せられたアルガンテは彼女を口説くが、彼女は撥ね付ける。
 一方のアルミーダは、捕えたリナルドの毅然とした態度に恋し、愛を打ち明ける。リナルドが拒むので、アルミーダは魔法の力でアルミレーナの姿に変身し、リナルドを誘惑する。リナルドが彼女の腕の中に落ちそうになると、アルミーダが元の姿に戻るので、リナルドは逃げ出す。アルミーダは屈辱の怒りとリナルドを愛する気持ちの板ばさみに苦しみ嘆く。そして、リナルドを誘うため、再びアルミレーナの姿に変身する。そこに現れたのはアルガンテ、彼はアルミレーナの姿のアルミーダを熱烈に口説き始める。元の姿に戻ったアルミーダはカンカンになってアルガンテを激しく罵るが、彼は開き直りアルミレーナを愛していることを認め、二人は喧嘩別れとなる。アルミーダは怒り狂う。

第3幕
 険しい山の麓。ゴッフレードとエウスターツィオが洞窟に住む魔法使いを呼び出している。魔法使いは既に事態を把握しており、山頂にアルミレーナが囚われていることを教える。それを聞いた二人は魔法使いが止めるのも聞かず山へと向かうが、怪物たちに襲われ、退散してくる。魔法使いは魔法の笏(こつ)を彼らに与える。二人は笏の力で怪物を追い払い、先へと進む。
 アルミーダの庭園。アルミーダはリナルドへの復讐にアルミレーナを殺そうとする。しかしゴッフレードとエウスターツィオが魔法の笏の力で魔法の庭園を消し去ってしまう。リナルドはアルミーダに切りかかるが彼女は逃げ去る。4人は再会を喜びあう。ゴッフレードはリナルドに、名誉挽回するためにも勇敢に戦うよう諭す。その言葉にリナルドも奮い立つ。
 アルガンテが将軍たちを鼓舞している。彼はアルミーダと出くわし、しばらく口論となる。しかし戦いが間近なことから和解する。行進曲にのって軍隊が現れる。アルガンテとアルミーダは勝利を誓う。
 戻ってきたゴッフレードたちは安堵し、リナルドとアルミレーナは再会を喜ぶ。エウスターツィオが敵の到来を告げる。キリスト教の軍勢が現れる。リナルドはゴッフレード率いる本隊と別に抜け道から敵を奇襲する策を打ち明ける。
 一方からアルガンテが、他方からゴッフレードが現れ、それぞれ兵士たちを鼓舞する。戦いが始まる。途中リナルドが側面攻撃を加え、アルガンテの軍勢は敗走する。アルガンテとアルミーダは捕えられ、リナルドとアルミレーナはようやく安心して喜び合う。アルミーダは魔法を捨て、アルガンテとともにキリスト教に改宗することを誓う。一同の喜びの声で幕となる。

音楽

 《リナルド》には、全部で28曲のアリア、5曲の二重唱、1曲のコーロ、5曲の管弦楽曲(うち1つは序曲)、2つのレチタティーヴォ・アッコンパニャートがあります。
 28のアリアの内訳は、リナルドに8つ、アルミレーナに4つ、ゴッフレードに4つ、エウスターツィオに4つ、アルミーダが4つ、アルガンテが3つ、キリスト教徒の魔法使いが1曲。やはりスターであるアルトカストラート、ニコリーニが歌う主役のリナルドに多くのアリアが与えられています。
 リナルドの最大の聞かせどころは、第1幕の Cara sposa。ホ短調、ラルゴの沈んだ美しさと、プレストでの一気に溢れる感情の爆発が見事です。この曲は、《復活》の聖ジョヴァンニのアリア〈いとしい息子よ〉が原曲。しかしかなり大きく書き直しています。Cor ingrato も、ハ短調のアダージョとプレストの対比が効いており、さらにこちらではプレストの部分がより長く取られています。Venti, turbini は第1幕を締め括るにふさわしい激しく炎が渦巻くようなアリア。オーケストラ部分はカンタータ《アポッロとダフネ》のアポッロのアリアに基づいていますが、歌の旋律は全く別のものに替えられています。第2幕の Abbrucio, avvampo e fremo では、ニコリーニの煌くようなコロラトゥーラの技術を大いに発揮させています。ここに用いられた音楽はヘンデルのお気に入りで、《アルミーラ》、《アポッロとダフネ》、モテット〈大地が容赦なく荒れ狂おうと Saeviat tellus inter rigores〉、《ロドリーゴ》、そしてこの《リナルド》と、少しずつ手を加えながら5回も使用しています。第3幕の Or la tromba では、4本のトランペットが炸裂、フィナーレに向けて盛り上がりの頂点を築いています。
 ヘンデルの登場人物への愛情の注ぎ方は、アルミーダの方に強く感じられるように思えます。彼女に与えられた4つのアリアはいずれも名曲です。魔女としての姿は、第1幕の激しい Furie terribili や不敵な Molto voglio に現れています。一方、第2幕、報われぬ愛に初めて見せる Ah! crudel では、深い落胆と嘆きに女の情念が見て取れます。ここにはヘンデルの感情表現の見事な一例が見て取れます。この曲にも、ローマで作曲されたカンタータ Ah! crudel! という原曲がありますが、共通しているのは冒頭だけ。ここで使われている旋律もヘンデルのお気に入りで、数回にわたって用いています。第2幕フィナーレの Vo' far guerra は、チェンバロの即興演奏を伴っており、初演ではヘンデルが華麗な演奏を披露したといわれています。
 アルガンテのアリアは3曲とも転用曲。第1幕の Sibilar gli angui d'Aletto は、《アチ、ガラテアとポリフェーモ》のポリフェーモのアリアを、編成を大きくして若干手直ししたもの。バスの力強い名曲。ヘンデルはこの音楽がお気に入りだったようで、類似した音楽は他にもあります。Vieni, o cara は、モテット〈大地が容赦なく荒れ狂おうと〉 HWV240の中の〈誠実な星々よ Stellae fidae〉が原曲。12/8拍子による落ち着きのない伴奏が不安感を表しています。第2幕の Basta che sol tu chiedaは、《アグリッピーナ》のクラウディオのアリアが原曲。
 アルミレーナには、第2幕に Lascia ch'io pianga という屈指の名作が与えられています。ヘ長調、3/2、ラルゴのゆったりした流れは、聞きながらアルミレーナに共感し、思わず涙がにじみ出てくるよう。大元は《アルミーラ》のサラバンドで、この素材を利用して作られた《時と悟りの勝利》の快楽のアリア Lascia la spina が原曲。ただし Lascia ch'io pianga では3/4ほどの長さに短縮されています。
 第1幕早々の Combatti da forte には、アルミレーナの娘らしい無邪気さが表れています。第3幕の Bel piacere は、《アグリッピーナ》のポッペアのアリアが原曲。3/8と2/4が頻繁に入れ替わることで得られる独特の効果は、むしろ《リナルド》での方で発揮されているようです。第2幕の Augeletti che cantate は、歌もさることながら、小鳥の囀りを模写するソプラノ・リコーダーとフルートが非常に美しいもの。
 ゴッフレードのアリアの中では、第3幕の Sorge nel petto のアダージョの平安が美しい。豪華さの勝る第3幕にあって潤いを与えてくれるものです。
 エウスターツィオのアリアは、ヴァレンティーニの特性でしょうが、激しいものは一つもありません。第2幕冒頭の Siam prossimi al porto は、洗練された美しい曲です。
 《リナルド》の二重唱のうち、リナルドの歌う二つ、アルミレーナとの Scherzano sul tuo volto と、アルミーダとの Fermati! は、共にカンタータ《クローリ、ティルシとフィレーノ Clori, Tirsi e Fileno》 HWV96からの転用。前者での若い恋人同士の無邪気な戯れは、直後のアルミーダによる恐ろしい誘拐の場面への効果的な布石になっています。後者は、長調でありながら、冒頭の緊迫したヴァイオリンの音形と、急速な装飾つきの歌を投げあいながら一気に駆け抜ける音楽が刺激的。
 オーケストラは、後のヘンデルのイタリアオペラと比べるとかなり豊かな編成です。フラジオレット、フルート2つ、オーボエ2つ、トロンバ(トランペット)4つ、ティンパニ、チェンバロ・オブリガート、ヴァイオリン・ソロ、ヴァイオリン三部、ヴィオラ、バス群(チェロ、コントラバス、ファゴット、チェンバロ)。《リナルド》の中でもっともオーケストラが雄弁に活躍しているのは、おそらく第3幕のシンフォニアでしょう。この音楽は目をつぶっていても、ゴッフレードたちが怪物に襲われて逃げ帰ってくる場面が浮かび上がってくるようです。後半部分には大胆な2小節の総休止があり、また繰り返し直前に前半の音楽が4小節回帰し、どちらもハッとさせる効果を出しています。

初演

 初演は1711年2月24日、ヘイマーケットの女王劇場で行なわれました。初演のキャストは以下のような人たちでした。


RinaldoNicolo Grimaldi (Nicolini)alto castrato
GoffredoFrancesca Vanini-BoschiContralto
EustazioValentino Urbani (Valentini)Alto castrato
AlmirenaIsabella GirardeauSoprano
ArganteGiuseppe Maria BoschiBass
ArmidaElisabetta Pilotti-SchiavonettiSoprano
Mago christianoGiuseppe CassaniAlto castrato
AroldoMr. LawrenceTenore

 ニコロ・グリマルディ(1673−1732)は、ナポリ生まれのカストラート。1685年、まだ少年の時にデビュー。イタリアで成功を収めた後、1708年にロンドンに登場、1717年まで活躍しました。ヘンデルのオペラでは、《アマディージ・ディ・ガウラ》(1715)の初演にも出演しています。ニコリーニの歌唱がいかに優れていたかは、リナルドに与えられた多彩なアリアを聞けば十分理解できるでしょう。
 エウスターツィオ役もアルトカストラートのヴァレンティーノ・ウルバーニ。1707年からロンドンを拠点に活動していました。ヘンデルのオペラの初演では、《忠実な牧人》(1712)、《テゼオ》(1713)に出演。あまり個性の強くない歌手だったようですが、ロンドンではかなりの人気を博しました。
 さらに、キリスト教徒の魔法使いもカストラートのジュゼッペ・カッシーニと、この貴重な声種が三人を用いるという贅沢さでした。
 アルガンテ役のジュゼッペ・マリア・ボスキと、彼の妻でゴッフレード役のフランチェスカ・マリア・ヴァニーニ・ボスキ(?−1744)は、既にヘンデルとヴェネツィアでの《アグリッピーナ》で顔をあわせていました。ジュゼッペは、後年ロンドンでのヘンデルに不可欠な歌手になり、1720年から28年までのロイヤル・アカデミーのオペラ公演に数多く出演しています。彼は輝かしい高い声が出せるバリトンだったと考えられています。フランチェスカは、声楽的には必ずしも優れた歌手ではなかったようですが、気品があったと伝えられています。
 アルミーダ役のエリザベッタ・ピオッティ=スキアヴォネッティは、1717年の再演までは常にアルミーダを歌っていました。
 アルミレーナ役のイザベッラ・ジラルドーは、おそらく細めの声の人だったようです。彼女は1711年の公演しか参加していません。

 初演は大変な成功を収めました。本来13回の上演で終わるはずだったのが、人気が衰えなかったため、さらに2回の追加公演が行われ、6月までに計15回の上演がありました。
 その後も《リナルド》の人気は衰えませんでした。翌1712年1月、ヘンデルがドイツに帰っている間に、作曲者不在で9回再演されています。この時はニコリーニが再びリナルド役でした。1713年5月に2回。1714年の暮から翌2月までに10回。1715年6月に1回、この時のリナルド役はジェーン・バービアーというコントラルトでした。1717年の1月から6月までに10公演。この時はニコリーニが復帰。この上演でヘンデルはエウスターツィオの役を削除しています。
 1731年の4月から5月に、カストラートのスター、セネジーノことフランチェスコ・ベルナルディをリナルド役に据え久々の再演、6回上演。この時ヘンデルは大幅な改変を施し、8つのアリアを削除、8つの曲を他の作品から転用、10曲以上の調性を移動。既に削除していたエウスターツィオ役はここでもなく、ゴッフレードはテノール、アルガンテもアルトカストラートの役に変更しています。今日、この1731年の楽譜は《リナルド》の第2版とされ、HWV7bの番号が与えられています。
 《リナルド》がヘンデルの生前に上演された総回数は、なんと53回にも上ります。当時のイタリアオペラは基本的に使い捨てで、興行が終われば忘れ去られるのが当たり前、好評でも再演は数回が普通だったことを考えると、いかに《リナルド》の人気が高かったのか良く分かります。

参考資料

Händel / Rinaldo / Klavierauszug nach dem Urtext der Hallischen Händel-Ausgabe / Bärenreiter-Verlag
Handel / Rinaldo / Full Score / Kalmus
Handels Rinaldo : Geschichte, Werk, Wirking / Reinhold Kubik / Hanssler / 1982 / ISBN 3775105948
Handel's Operas 1704-1726 Revised Edition / Winton Dean and John Merrill Knapp / Clarendon Press / 1987 / 1995
Handel / Donald Burrows / Oxford University Press / 1994
ヘンデル 作曲家・人と作品シリーズ / 三沢寿喜 / 音楽之友社 / 2007 / ISBN 9784276221710
ヘンデル / クリストファー・ホグウッド / 三沢寿喜 訳 / 東京書籍 / 1991
ヘンデル 大音楽家人と作品 15 / 渡部恵一郎 / 音楽之友社 / 1966

Kimberly Barber, Laura Whalen, Barbara Hannigan, Marion Newman, Sean Watson, Jennifer Enns Modolo, Giles Tomkins
The Aradia Ensemble, Opera in Concert
Kevin Mallon
Tront, June, August & September 2004
NAXOS 8.660165-67

Diana Moore, Cyndia Sieden, Dominique Labelle, Cécile van de Sant, Andrew Foster-Williams, Christophe Dumaux, Jean-Sébastien Stengel, Irmela Brünger, Theresa Nelles
Concerto Köln
Nicholas McGegan
Göttingen, May 2004
Göttinger Händel Gesellschaft

Vivica Genaux, Miah Persson, Inga Kalna, Lawrence Zazzo, James Rutherford, Christophe Dumaux, Dominique Visse
Freiburger Barockorchester
Runé Jacobs
Innsbruck, August 2002
HARMONIA MUNDI FRANCE HMC 901796.98

現時点ではこれが最も優れた演奏でしょう。ヤーコプスの自由なインスピレーションによる大胆な仕掛けがあちこちで見事に決まっています。歌手は、ジュノー、パーション、カルナ、ザゾ、ラザフォード、デュモー、そしてチョイ役のヴィスに至るまで、全員適材適所。ことにジュノーの超絶技巧は最高です。
完全全曲に加え、第2幕の場面転換に作者不詳のアルチリュートのためのソナタを元にしたシンフォニアを間奏曲代わりに演奏しています。
ちなみに、ジュノーはこの直後にヤーコプスと仲違いしたそうで(おそらくEMIに録音したことが問題になったのでしょう)、2002年秋のベルリンでの上演ではリナルド役が交代(シルヴィア・トロ・サンタフェ)になり、かなり印象が異なってしまったようです。

David Daniels, Cecilia Bartoli, Luba Orgonasova, Bejun Mehta, Gerald Finley, Bernarda Fink, Catherine Bott, Ana-Maria Rinco'n
Academy of Ancient MusicConducted
Christopher Hogwood
London, November 1999
DECCA UCCD 1017/19(Japanese domestic)

これもいい演奏です。英国流儀のヘンデルの演奏が好みならこちらの方が上になるでしょう。
バルトリは、アルミレーナよりアルミーダの方が断然適役だったと思います。

Esswood, Cotrubas, Watkinson, Brett, Cold, Scovotti, Arapian
La Grande Ecurie et la Chambre du Roy
Malgoire
Paris, 19-23 May 1977
SONY CLASSICAL SM3K 34592

2009年に廉価盤で再発されました(SONY 88697576412)。




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