HANDEL 1727 |
HWV22
オペラ イタリア語
初演:1727年1月31日、ロンドン、ヘイマーケット国王劇場
台本作家:
第一次ロイヤルアカデミー時代の栄光の連続の最後を飾るのがこの作品です。初演は大成功を収め、実に19回もの公演をみました。しかしこの作品から後、アカデミーは衰退を始めるのです。
物語はいわゆる「アルチェステ」もので、死の床にあるアドメート王を救うためその妻アルチェステが身代わりに冥界に降り、それが助けらるという基本の話はグルックなどと一緒です。しかしヘンデルの場合アルチェステは第2幕の冒頭で早々にエルコーレ(ヘラクレス)によって助けられ(シンフォニアで描写しています)、アドメートの前の婚約者アンティゴナとのアドメートを巡る三角関係に主眼が置かれています。これは当然クッツォーニとファウスティーナを引きたてるためです。そういう意味ではグルックのヘンデル批判をストレートに比較できる格好の材料とも言えます。
ところで、このシーズンの終わりの頃は、アカデミーの終焉を予告する事件が多発しました。
6月6日のボノンチーニの「アスティアナッテ」(彼のロンドンでの最後のオペラ)の上演中、クッツォーニ派とファウスティーナ派の双方の聴衆が劇場内で騒動を起こしたのです(一説には当人同士が舞台上でつかみ合いの喧嘩を始めたとも言います)。そしてシーズンは早々に打ちきれられたのです。 こんなことでは良識ある聴衆が劇場から離れてしまうのも当然でしょう。
この後アカデミーは衰退を余儀なくされてしまいます。ちなみに翌28年6月、第一時アカデミーで最後に上演されたオペラも、さらには18世紀に最後に上演された彼のオペラもこの「アドメート」でした。
René Jacobs, Rachel Yakar, Ulrik Cold, Rita Dams, James Bowman, Jill Gomez, Max van Egmond
Il complesso barocco
Alan Curtis
Haarlem, 23-29 May 1977
Vergin veritas 5 61369 2
時代楽器を使った当時としては最先端の演奏ですが、今となってはスタイルの古さが目立ちます。
HWV23
オペラ イタリア語
初演:1727年11月11日、ロンドン、ヘイマーケット国王劇場
台本作家:パオロ・アントーニオ・ロッリ
原作:フランチェスコ・ブリアーニの台本「暴君イザーチョ」(1710年、ヴェネツィア)
1727年の初夏、大英帝国は大きな悲しみに包まれます。6月11日(英国暦。大陸暦では22日)、ジョージ一世が急逝したのです。
ヘンデルは、この年の2月に国王の署名によって大英帝国への帰化が認められたばかりでした。
6月15日、前国王の息子、ジョージ二世が国王を宣誓します。そして10月11日の戴冠式には当然ヘンデルが音楽において大きな役割を果たします。
そして国王戴冠後初めての新作オペラがこの「リッカルド・プリーモ」でした。
新王の誕生直後に英国の英雄リチャード一世の物語というのはうまくしたものですが、実際にはこの作品は5月16日には既に完成されていました。つまりヘンデルは前のシーズンに初演をする予定だったのです。それが、例のクッツォーニとファウスティーナの諍いが原因でシーズンが早く終ってしまったので、持ち越されてしまったのです。このおかげで偶然良い機会を得たというわけです。ヘンデルとロッリは期を如才なく大幅な手直しをし、リッカルドの英雄性をさらに強調したのは言うまでもないでしょう。
物語はなかなか波乱万丈に富んでいます。
英国王リッカルドと、彼と結婚することになっている(しかしまだ会ったことのない)コスタンツァは、キプロス島の近海で嵐にあい遭難してしまいます。コスタンツァは島の総督イザーチョによって城につれていかれてしまいます。一方、別の海岸にたどり着いたリッカルドも変装して城へ向かい、彼女の引渡しを求めます。イザーチョは一度は応じるそぶりをしますが、救いに行きます。一方、イザーチョの娘プルケーリアは、父の命令でコスタンツァになりすましリッカルドの前に出ますが、すぐに正体がばれてしまいます。彼女の許婚オロンテもこれに怒りコスタンツァを救うためリッカルドに力を貸します。イザーチョは抵抗するものの、娘の説得に応じ、コスタンツァを解放、リッカルドと喜びます。
…と、ここまでがまだ第2幕。第3幕までの間で再度イザーチョはコスタンツァを奪い、リッカルドとオロンテの軍勢が再度攻撃をかけます。混乱の後、コスタンツァは解放、オロンテがキプロスの領主となりプルケーリアと結ばれ、メデタシとなります。
音楽はさすがに充実していますし、新しい国王を歓迎する機会を逃がさず大変劇的でスリリングなものとなっています。
当然ではありまがリッカルドに与えられたアリアはどれも英雄的で、セネジーノの威力が全面に出るよう書かれています。特に速いテンポでコロラトゥーラも鮮烈なアリアが多く配されているのが目を引きます。第1幕の幕切れの"Agitato da fiere tempeste"はリッカルドの性格を焼きつける大変印象的なものです。また第3幕の激しい"all'orror delle procelle"も超絶難易度ですし、特にイザーチョの城壁を攻撃するさいの"Atterrato il muro cada"ではトランペットも加わり、さらに勇壮なものになっています。
第2幕フィナーレでのコスタンツァとリッカルドの愛の二重唱は、ここでオペラが終っても聴衆は不満を漏らさないのではないかと思われるほど幸福に満ちた美しさを堪能できます。
忘れてはいけないのは、コスタンツァの第3幕のアリア"Il volo cosi fido"です。ここでヘンデルはピッコロ・リコーダーをオブリガートに使用、素晴らしい効果を挙げています。
こんな具合ですから、凱旋の行進曲と一堂の幸せに満ちた幕切れのあとでは聴衆も大満足だったことでしょう。
Mingardo,Piau,Brua,Scaltriti,Bertin,Lallouette
Les Talens Lyriques
Rousset
Fontevraud,4-11 June 1995
L'OISEAU-LYRE POCL-1712/4
ルセの音楽は若さに満ちた爽快な演奏ですが、反面ラメントな表現などちょっとコクに欠けるような気もします。
リッカルドを歌うミンガルドは難しい音楽をかなり健闘していますが、"all'orror delle procelle"ではルセのテンポに追いつけていません。またリッカルドという役にはもう少し派手さがあってもいいような気がしました。コスタンツァを歌うピオーはまずまずというところですが、プルケーリア役のブリュアは声に魅力がありません。存在感では敵役イザーチョを歌うスカルトリーティが圧倒的です。ただヘンデルにはちょっと大仰かもしれません。