ROSSINI 1820-1 |
初演:1820年3月1日、ナポリ、サンカルロ劇場
1818年に初演された《エジプトのモゼ》は、1819年に第3幕を大幅に改訂され、この時、有名なモゼの祈りの場面が加えられたことで、爆発的な人気を得ることが出来ました。
その翌年、1820年の四旬節での上演で、ロッシーニは再度《エジプトのモゼ》に手を加えています。
1818年、1819年の上演とも、第1幕のファラオーネのアリアは、ミケーレ・カラーファが作曲した A rispettarmi apprenda でした。1820年の上演で、ロッシーニはこのアリアを外し、新たに自分で作曲したアリア Cade dal ciglio il velo に差替えています。
《エジプトのモゼ》は、既に1819年の上演で人気が出たたため、カラファのアリアを含む形で各地に広まり始めていました。そのため、1820年のこの差替えアリアは、必ずしも優勢という訳ではなく、19世紀前半の出版譜でも A rispettarmi apprenda が採用されていることがしばしばあります。
この時の公演も、定かではありませんが、第2幕のアマルテアのアリア(N.7) La pace mia smarrita はカットされていたと推測されています。
《エジプトのモゼ》 (1818年初演稿)
《エジプトのモゼ》 1819年3月,ナポリ,サンカルロ劇場
《モイーズとファラオン》
Gioachino Rossini / Mosè in Egitto / Edited by Charles S. Brauner / Fondazione Rossini / 2004 / ISBN 978-0-226-72866-7
Gioachino Rossini: Mosè in Egitto / A facsimilie edition of Rossini's original manuscript edited by Philip Gossett / Garland, New York / 1979
Eduardo Rescigno: Dizionario Rossiniano / Biblioteca Unicersale Rizzoli / 2002 / ISBN 88-17-12894-5
Philip Gossett: Mosè or Moïse? An original masterpiece restored / I Programmi del Rossini Opera Festival / 1983
Ruggero Raimondi, June Anderson, Siegmund Nimsgern, Ernesto Palacio, Zehava Gal, Salvatore Fisichella, Sandra Browne, Keith Lewis
Philharmonia Orchestra, Ambrosian Opera Chorus
Claudio Scimone
London, August 1981
PHILPS 420 109-2
1820年6月20日、サンカルロ劇場で《湖の女》が再演されました。
Giacomo | Giovanni Battista Rubini | tenore |
Douglas d'Angus | Michele Benedetti | basso |
Rodrigo di Dhu | Andre Nozzari | tenore |
Elena | Isabella Colbran | soprano |
Malcolm Groeme | Adelaide Comelli | contralto |
ジャコモ役がジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニに、マルコムが彼の妻のアデライデ・コメッリに替わりました。
この再演で、ロッシーニはルビーニのために第2幕にジャコモのアリアを追加挿入しています。このシェーナとカヴァティーナ T'arrendi al mesto pianto は、《エルミオーネ》第1幕のオレステのアリア Che sorda al mesto pianto を転用したものです。シェーナは大きく書き替えられ、また歌詞(ベルトラムの歌詞も含めて)の一部が変わっていますが、基本的にはそのままの挿入です。
このカヴァティーナは、第2幕のマルコムのアリアの後に挿入され、クリティカルエディションでは N.10a として補遺に収録されています。この挿入は、その後の各地の再演でもしばしば採用されているようです。
《エルミオーネ》
《湖の女》 ナポリ初演稿
《湖の女》 1824年9月,パリ,イタリア劇場
《湖の女》 1825年11月,パリ,イタリア劇場
初演:1820年8月9日、ナポリ、サンカルロ劇場
ミラノで初演された《泥棒かささぎ》は、ナポリではまず1819年7月にフォンド劇場で上演されました。その翌年の1820年8月9日から、今度はナポリで最も重要な劇場であるサンカルロ劇場で再演されることになりました。
この上演には少し特別な意義がありました。スカラ座での初演でフェルナンドを歌った、当代随一のバス歌手、フィリッポ・ガッリがバルバイヤと契約したのです。この《泥棒かささぎ》は、ガッリのナポリでのデビューの舞台として選ばれたのです。ガッリは1820年5月の末にナポリに到着したようです。
この1820年のサンカルロ劇場での上演については、印刷台本が残っていない(あるいは印刷配布されなかった)ために、使用された楽譜がどのようなものだったのか、詳細については分かっていません。ただ、ガッリのためにフェルナンドに新しいアリアが作られたことは間違いありません。
前年のフォンド劇場での上演では、ミラノ初演でガッリのために書かれた第2幕のフェルナンドのアリア Accusata di furto が削除されていました。このサンカルロ劇場での上演で Accusata di furto を復活させることも可能だったわけですが、ロッシーニはそうしませんでした。オリジナルのシェーナとアリアを外し、同じ場所に新たなシェーナとフェルナンドのアリア Oh! colpo impensato! を与えています。
ミラノ初演稿の Accusata di furto と、1820年ナポリ稿の Oh! colpo impensato! は、同じ役のための、同じ状況の、しかも同じ歌手のための二つのかなり性格の異なるアリアとして、大変興味深い比較ができます。
Accusata di furto は、前半(Allegro agitato)と後半(Allegro)の二部構成。前半では、不安を表す細かい動きを全て伴奏に集約し、歌はあえて切れ切れで動きの乏しいものにすることで、フェルナンドの不安と緊張をうまく表しています。後半では、音楽は幾分華やかで明るい印象です。
一方、Oh! colpo impensato! では、速度指定は Allegro agitato のままですが、明らかに前半−長めのテンポ・ディ・メッツォ−後半、という作りになっています。前半部分は、ヘ短調の暗くドラマティックな音楽。テンポ・ディメッツォではルチアと女声合唱が大きく参加。そして後半では三連符が多用され、大変動きのある音楽になっています。そして力強いコーダで締めくくっています。
どちらのアリアも優れた音楽だとは思いますが、ガッリの特性は Oh! colpo impensato! の方がより発揮できたでしょう。また当時の聴衆は Oh! colpo impensao! の方を好んだようで、19世紀に《泥棒かささぎ》が上演される時には、こちらの方が優勢だったようです。
今日でも Oh! colpo impensato! を選択した上演がもっとあっても良いでしょう。
《泥棒かささぎ》 (ミラノ初演稿)
《泥棒かささぎ》 ナポリ,フォンド劇場,1819年7月
Lucio Gallo
Stuttgart SWR Radio-Symphony Orchestra
Maurizio Benini
Pesaro, August 1993
RICORDI OPERA RFCD 2022
ペーザロのロッシーニフェスティヴァルで行われた、ロッシーニの珍しいアリアなどを集めた DI TANTI PALPITI という演奏会のライヴ録音です。
ガッロは込み入った音符の処理が今一つですが、音楽の魅力は十分伝わってきます。
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