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最新更新 2024年07月21日

無断転載 厳禁

GIOACHINO ROSSINI

ERMIONE

2幕の音楽のためのドランマ
Azione Tragica in due atti

初演 1819年3月27日 ナポリ サンカルロ劇場
First performance 27 March 1819, Teatro San Carlo, Napoli

台本作家 アンドレア・レオーネ・トットラ
Librettist Andrea Leone Tottola

原作
Original

《エルミオーネ》は、ロッシーニの全オペラの中で最も異様な作品である。ラシーヌの高名な悲劇『アンドロマク』に基づき、物語も音楽も当時のイタリアでは他に類を見ない。初演が大失敗して以来長らく埋もれていたが、近年ではロッシーニの実験的な作品として人気が高い。

作曲

ロッシーニは1818年3月5日にナポリのサンカルロ劇場で《エジプトのモゼ》を初演すると、4月15日に、既に恋仲だったイザベッラ・コルブランと一緒にナポリを発ち、両親のいるボローニャに向かった。二人は4月半ばから8月末までずっとボローニャで過ごした。
ロッシーがナポリを発つ直前の4月7日、彼はポルトガルのリスボン向けのファルサ《アディーナ》の契約を結んだ。《アディーナ》はボローニャ滞在の前半、つまり4月半ばから5月にかけて書かれたと推測されている。
また、この年の秋のシーズンにナポリ、サンカルロ劇場で初演される予定の新作オペラ《リッチャルドとゾライデ》の制作も既に始まっており、ロッシーニはその第1幕の台本をボローニャに携えていた。第2幕の台本も追ってボローニャに届けられる予定で、ロッシーニは《アディーナ》を仕上げ次第、《リッチャルドとゾライデ》の作曲に着手するつもりだったと思われる。
ところがそうはならなかった。6月10日、ロッシーニは故郷のペーザロで、新たに建てられたヌォーヴォ劇場(今日のロッシーニ劇場)のこけら落としとして《泥棒かささぎ》を上演(いくらかの調整が成された)、これは大成功を収めたのだが、その直後からロッシーニは深刻な体調不調に陥った。容体の悪さは、不確かな情報を基にナポリの両シチリア新聞が7月7日にロッシーニの訃報を出したことからも察せられる(2日後に誤報だったと訂正された)。

9月初旬にロッシーニはナポリに戻ったが、《リッチャルドとゾライデ》はまだ完成には程遠く、初演予定(おそらく9月26日)は延期された。
ロッシーニは9月22日付で母アンナに宛てた手紙で、健康が完全に回復したことを報告して、さらにこう書いている。
私は非常に忙殺されています。音楽を付けるべき2つの素晴らしい台本があり、私のオペラはうまく行くと期待しています: 私は10月の終わりに上演する予定のオペラの第1幕を既に書き終えました。題名は ゾライデ です。
Sono ocupatissimo, e spero andran bene Le mie Opere avendo due buoni libri da Porre in musica: ho già finito il prim'atto della mia Opera La quale andrà in scena fine di Ottobre Il Titolo è Zoraide.【注1】


題名こそ明らかになっていないが、予定された2つのオペラのうち、《リッチャルドとゾライデ》でない方が《エルミオーネ》になるであろうと推測されている。この時点では遅れている《リッチャルドとゾライデ》の作曲が最優先だったろう。。
さてロッシーニの見込みとは異なり、《リッチャルドとゾライデ》の初演は12月3日までずれ込んだ。その直前の11月30日付で母アンナに宛てた手紙で。
私は ランドローマカという題名の別のオペラを書き始めました。これはカーニヴァルシーズンの終わりに上演されるでしょう。
Ho principiata L'altra Opera che ha per Titolo L'Andoromaca questa anderà alla fine del Carnevale.【注2】


この ランドローマカ L'Andoromaca が《エルミオーネ》である。
《リッチャルドとゾライデ》の初演に漕ぎつけても、ロッシーニはなお多忙だった。彼はまず《アルミーダ》 1817年11月9日 ナポリ、サンカルロ劇場で初演 を2幕に短縮改訂する作業に取り掛かっており、これは1819年1月に上演されたと思われる。その作業中の1818年12月30日、関係者の会議で内務省が提出した、四旬節までのサンカルロ劇場での上演予定演目に《エルミオーネ》が言及されている。
それ【= 《エルミオーネ》】はロッシーニ氏が書いているところである。
Che sta scrivendo il Sig. Rossini.【注3】


年が明けた1819年1月19日付の母アンナへの手紙で、ロッシーニは《エルミオーネ》の進捗について述べている。
私は私のエルミオーネについて十分に捗っているところです 私は 題材が あまりに悲劇的ではないかと心配していますが、しかしそれについてほとんど気にしていません。今や私は それはやっと仕上がったと言えます。
Sto abbastantemente avanzato colla mia Ermione Temo che il soggetto sia troppo tragico, ma poco me ne importa ormai posso dire che è fatto il becco all'Oca. 【注4】


以上の情報から、ロッシーニは《エルミオーネ》を概ね1818年11月末頃から1819年1月末頃に書いたと推測することができる。これは11月30日付の手紙での、カーニヴァルシーズンの終わりに上演されるだろうという見込みと辻褄が合う。1818/19年のカーニヴァルシーズンは12月26日から2月23日までなので、2月に入ってすぐ練習に入れば2月の後半に初演を見たろう。
1819年2月8日、警察大臣がナポリの劇場群の監督、ジョヴァンニ・カラーファに台本の認可を通知している。通常であればこの直後に練習が始まることになる。

ところが《エルミオーネ》の初演は1か月以上後の3月27日までずれこんでいる。これはこの年の四旬節(2月24日の灰の水曜日から4月10日の聖土曜日まで)のど真ん中である。四旬節では伝統的に聖書に題材を取った宗教劇が好まれており、《エルミオーネ》のような愛憎渦巻く物語は相応しくない。
一方、まさに四旬節に相応しい、旧約聖書から題材が採られた《エジプトのモゼ》が、3月7日、サンカルロ劇場で第3幕を改訂した新しい稿(今日一般的な形のもの)で初演された。
正確なことは分からないが、何らかの理由で《エルミオーネ》の初演がカーニヴァルシーズンに間に合わなくなり、しかも四旬節シーズンの目玉である《エジプトのモゼ》の上演が動かせなかったため、《エルミオーネ》の初演は3月下旬まで下がってしまったのだろう。

注1 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa 214p
注2 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa 222p
注3
注4 GIOACHINO ROSSINI LETTERE E DOCUMENTI VOLUME Ⅲa 230p

ラシーヌ『アンドロマク』

《エルミオーネ》の台本の原作は、17世紀フランスの劇作家、ジャン・ラシーヌ 1639―1699 の悲劇『アンドロマク』 1667 である。
これはさらに エウリピデス 紀元前480頃―紀元前405 の『アンドロマケー』に基づいている。ただしラシーヌはかなり独自の改変をしている。

『アンドロマク』のあらすじ。

第1幕
ギリシャからオレストがピラードを伴って到着する。ピリュスが不当に匿っているアステュアナクスをギリシャ方に取り返すのが目的だが、しかしオレストは密かに愛するエルミオーヌを連れ出すことを考えている。面会に現れたピリュスは、たとえエーペイロスが第二のトロイになろうと、アステュアナクスは引渡せないと、オレステの要求を拒絶する。
ピリュスは息子を捜しているアンドロマクと出会う。アンドロマクはピリュスの求愛を拒絶しているが、彼がアステュアナクスの処遇をちらつかせるので、彼女は苦しむ。

第2幕
エルミオーヌはピリュスと婚約していたが、彼の心が離れていくことに焦り、その元凶のアンドロマクを嫉妬している。オレストが現れる。エルミオーヌははじめ、ギリシャがピリュスを裏切り者とみなして攻撃をすればいいと話していたが、オレステにこの国を離れるよう諭されると、ピリュスが去れというまで出来ないと断る。
ピリュスはオレストに、先の言葉を翻し、アステュアナクスを引き渡すことに応じ、自らはエルミオーヌと結婚すると約束する。ピリュスはフェニックスに、アンドロマクが高慢な態度を取ったことで、強硬策に出たことを打明ける。

第3幕
オレストはエルミオーヌを無理やりでもギリシャに連れ帰るつもりでいる。一方ピュロスの翻意に窮したアンドロマクは、エルミオーヌに息子の命を助けてほしいと願い出るが、断られる。
ピリュスは再度アンドロマクに考えるよう迫る。アンドロマクもついに結婚に応じることにする。

第4幕
アンドロマクは、祭壇でピリュスが息子の命を助けると誓ったその時に自害するつもりでいる。
再びピリュスに裏切られたエルミオーヌは、オレストを呼びつけ、愛しているならピリュスを殺せと、無理やり約束させてしまう。現れたピリュスに、エルミオーヌに平静を装うが、怒りは隠せない。フェニックスはピリュスに警告するが、ピリュスはもはやアンドロマクと結婚することしか頭にない。

第5幕
エルミオーヌは呆然とし、神殿へ向うピュロスの様子を聞く。オレストが復讐を遂げたと駆け込んでくる。ピュロスが死んだと聞き、エルミオーヌは錯乱する。残ったオレストは、エルミオーヌがまだピュロスを愛していたことに気がつく。ピラードが、追手が迫っていること、エルミオーヌがピリュスの亡骸の前で自害したことを伝える。オレストは狂乱し、気を失う。ピラーデが彼を連れて行く。

ラシーヌは、アンドロマクの息子アスティアナクスが生きていることにし、アンドロマクの立場を不安定にしてピュロスとの結婚を受け入れざるを得なくして、エルミオーヌの復讐という劇的な場面を作ることができた。


トットラによる《エルミオーネ》の台本は、ある程度『アンドロマク』を尊重しつつ、エルミオーネを主役、プリマドンナに格上げし、アンドローマカをセカンドドンナに回し、アンドローマカにピッロを奪われたエルミオーネの嫉妬とそれによるオレステのピッロ殺害に物語の軸を移している。

初演

初演は、1819年3月27日、ナポリのサンカルロ劇場で行われた。

エルミオーネ
Ermione
イザベラ・コルブラン
Isabella Colbran
ソプラノ
soprano

アンドローマカ
Andromaca
ベネデッタ・ロスムンダ・ピサローニ
Benedetta Rosmunda Pisaroni
コントラルト
contralto

ピッロ
Pirro
アンドレア・ノッツァーリ
Andrea Nozzari
テノール
tenore

オレステ
Oreste
ジョヴァンニ・ダヴィド
Giovanni David
テノール
tenore

ピラーデ
Pilade
ジョヴァンニ・チッチマッラ
Giuseppe Ciccimarra
テノール
tenore

フェニーチョ
Fenicio
ミケーレ・ベネデッティ
Michele Benedetti
バス
basso

クレオーネ
Cleone
マリア・マンツィ
Maria Manzi
ソプラノ
soprano

チェフィーザ
Cefisa
ラッファエッラ・デ・ベルナルディス
Raffaella De Bernardis
コントラルト
contralto

アッタロ
Attalo
ガエターノ・キッツォラ
Gaetano Chizzola
テノール
tenore


コンサートマイスター 兼 指揮者
Primo violino e capo d'orchestra
ジュゼッペ・フェスタ
Giuseppe Festa


イザベラ・コルブラン 1785―1845 はスペイン、マドリード生まれのプリマドンナ。スペイン国内、パリ、ボローニャなどで歌った後、ミラノ スカラ座に出演しプリマドンナの地位を固める。それからナポリの興行主ドメニコ・バルバイアと契約し、1811年から1822年までナポリを拠点に大活躍した。ここで1815年にナポリに移ったロッシーニと出会い恋仲になり、1822年に結婚。二人はウィーン、ロンドン、パリで精力的に活動した。しかし1830年にはロッシーニはオランプ・ペリシェ Olympe Pelissier 1799―1878 と恋に落ち、夫婦関係は破綻、同時期に健康を害し、1845年、ボローニャ近郊のカステナーゾで亡くなった。一時代を築いた大プリマドンナとして多くのオペラの初演に出演しているが、ロッシーニのオペラの初演に限ると、《エリザベッタ、イングランドの女王》 1815 のタイトルロール、《オテッロ》 1816 のデズデーモナ、《アルミーダ》 1817 のタイトルロール、《エジプトのモゼ》 1818 のエルチア、《リッチャルドとゾライデ》 1818 のゾライデ、この《エルミオーネ》のタイトルロール、《湖の美女》 1819 のエレナ、《マオメット2世》 1820 のアンナ、《ゼルミーラ》 1822 のタイトルロール を歌った(いずれもナポリ)。

(ベネデッタ・)ロスムンダ・ピサローニ 1793―1872 は、1810、20年代に活躍したコントラルト。ソプラノでデビューしたのちコントラルトに変わった。彼女は《湖の美女》初演 1819 のマルコムとして名高い。ロッシーニのオペラでは《リッチャルドとゾライデ》初演 1818 でゾミーラを歌った。男装役を得意とし、力強い声と卓越した装飾歌唱の技術を備えていた。

アンドレア・ノッツァーリ 1775―1832 は、1790年代末から引退する1825年まで絶大な人気を誇った偉大なテノール。1811年にナポリの興行主ドメニコ・バルバイアと契約し活躍した。ロッシーニのオペラの初演では、《エリザベッタ、イングランドの女王》 1815 のレイチェステル、《オテッロ》 1816 のタイトルロール、《アルミーダ》 1817 のリナルド、《リッチャルドとゾライデ》 1818 のアゴランテ、この《エルミオーネ》のピッロ、《湖の美女》 1819 のロドリーゴ、《マオメット2世》 1820 のパオロ・エリッソ、《ゼルミーラ》 1822 のアンテーノレを歌った。彼の声はバリトンの声質でファルセットーネで高い音域を歌う(いわゆるバリテノール)だった。

ジョヴァンニ・ダヴィド 1790―1864 は、当時の若い世代の優秀なテノール。父親も高名なテノールで、その教えで1808年にはデビューしていた。ロッシーニのオペラの初演では、ナポリ時代より前、1814年にミラノ スカラ座での《イタリアのトルコ人》でナルチーゾを歌った(その9か月前にスカラ座での《パルミラのアウレリアーノ》初演でタイトルロールを歌う予定だったが、病気降板した)。ナポリでのロッシーニのオペラの初演では、《オテッロ》 1816 のロドリーゴ、《リッチャルドとゾライデ》 1818 のリッチャルド、この《エルミオーネ》のオレステ、《湖の美女》 1819 のジャコモ5世、《ゼルミーラ》 1822 のイーロを歌った。高音に極めて強いテノールで、ナポリ時代のロッシーニのテノール役に大きく貢献した。

《エルミオーネ》の上演は3月27日の後、28、30日、4月1、13日の5回、さらに第1幕のみの上演が18、19日の2回あった。
一般的に《エルミオーネ》の初演は失敗に終わったとされている。ただ詳細な公演評は一つも残されておらず、なぜ失敗したのか、どのような失敗だったのか、明確なことは分からない。5回の公演があったということはまったくの失敗というほどではなく、また第1幕だけの上演が2回続いたということは第2幕が不評であったと推測しうる。
後日《エルミオーネ》の初演の失敗について報じている新聞記事はいくつかあるが、いずれも伝聞的な内容であまり参考にならない。
したがって、《エルミオーネ》の初演については、あまりに情報がなさすぎるとしか言いようがない。
ただ、前述の通り《エルミオーネ》が四旬節のど真ん中で初演されたことは、失敗の直接の原因でなくとも、背景にはなったのではないかと思われる。逆に言うと予定通りカーニヴァルシーズンの内に初演されていたならば、もう少し観客から受け入れられたのではないだろうか。

ちなみにロッシーニは、3回目の上演が行われた3月30日付で母アンナに手紙を書いている(翌31日にヴェネツィアに向けてナポリを発つという連絡)が、《エルミオーネ》については一言も触れていない。

初演後

ナポリでの初演の後、《エルミオーネ》はイタリアでもイタリア外でも上演されることはなかった、と考えられている。
しかしドイツ・ロッシーニ協会のレート・ミュラー Reto Müller は、NAXOSのCD(2022年の ヴィルトバートでのロッシーニ のライヴ録音)での解説で、

ある資料が 1829年1月30日のセビリアでの上演を 裏付けている;
ein Dokument belegt ihre Auffuhrung am 30. Januar 1829 in Sevilla;


と書いている。ただし ある資料 については触れられていない。
これが事実としても、《エルミオーネ》は初演から10年近くヨーロッパのどの都市でも上演されなかったことに違いはない。

ロッシーニは《エルミオーネ》の制作途中から既に、音楽の半分程度を、直後の1819年4月24にヴェネツィアで初演された《エドゥアルドとクリスティーナ》に更生した(詳しくは 《エドゥアルドとクリスティーナ》を)。
また第1幕 第2番 [合唱]Dall'Oriente は、《マオメット2世》 1820 ナポリ が1822年にヴェネツィアで上演される際に第1幕に用いられた。

さてロッシーニは1823年12月から1824年7月まで英国、ロンドンに滞在していた。ロンドンを訪れる前に、国王劇場の興行主、ジョヴァンニ・バッティスタ・ベネッリ Giovanni Battista Benelli と新作オペラを書く契約を結んでいた。この新作オペラの運命は謎だらけで、楽譜は行方不明で、どの程度作曲が進んでいたのかも分からない。いずれにせよこの新作オペラは陽の目を見ることはなかった。この新作オペラは一般的に《ウーゴ イタリアの王 Ugo, re d'Italia》と呼ばれており、《エルミオーネ》などのロッシーニの既存のオペラが大いに更生されたと考えられている。

近年の上演

近代蘇演は、1977年8月31日 水曜日、イタリア、シエナの聖受胎告知教会 Chiesa della Santissima Annunziata での演奏会形式で催された【注1】。《エルミオーネ》初演から158年後のことである。エルミオーネは島田和江 Katzue Shimada、アンドローマカはシルヴァーナ・マッツィエーリ Silvana Mazzieri、ピッロはブルーノ・セバスティアン Bruno Sebastian、オレステはエドゥワルド・ヒメネス Eduardo Giménez、ピラーデはアンドレア・エレナ Andrea Elena、フェニーチョはマーリオ・ルペーリ Mario Luperi、クレオーネはルリエ・オガタ Rurie Ogata、チェフィーザは アンジェラ・テンツェリ Angela Tentzeri、アッタロは ウンベルト・スカラヴィーノ Umberto Scalavino。ガブリエーレ・フェッロ Gabriele Ferro 指揮 ノースカロライナ芸術大学交響楽団管弦楽団 Orchestra della North Caroline School of the Arts、英語 University of North Carolina School of the Arts Symphony Orchestra。合唱は セッティマーナ・ムジカーレ・セネーゼ Settimana musicale senese、合唱指導はロベルト・ガッビアーニ Roberto Gabbiani。
島田和江は前年1976年に ヴェルディの声国際コンクール Concorso Internazionale Voci Verdiane で優勝したばかりだった。
期待の寄せられた蘇演だったが、しかしピッロに予定されたジュリアーノ・チャンネッラが公演直前に降板、急遽ブルーノ・セバスティアンが代役を務め、ほとんどのレチタティーヴォにカットを入れざるを得なかったという【注2】。また新聞評では、総じて島田和江のタイトルロールの健闘を称えている一方で、他の主要役の歌手の力量不足が指摘されている。実際、たとえばヒメネスはオレステのアリアのカヴァティーナを全音下げて歌っている。結果的にこの蘇演は不成功に終わり、《エルミオーネ》の復権とはならなかった。とはいえ、アルベルト・ゼッダはこの公演を聞いて、オペラブッファとまったく異なるロッシーニの音楽に衝撃を受けたと述べている

次の上演は、1986年6月23日、パドヴァ、パドヴァ音楽院内のアウディトリウム・“チェーザレ・ポッリーニ” Auditorium "Cesare Pollini" での演奏会式上演。信頼できる上演記録が見付からず様々な情報の寄せ集めであるが、出演者は以下の通り。エルミオーネはチェチーリア・ガズディア Cecilia Gasdia、アンドローマカはサンドラ・ブラウン Sandra Browne、ピッロはエルネスト・パラシオ Ernesto Palacio、オレステはクリス・メリット Chris Merritt、ピラーデはウィリアム・マッテウッツィ William Matteuzzi、フェニーチョはシモーネ・アライモ Simone Alaimo、クレオーネはエリザベッタ・タンドゥーラ Elisabetta Tandura、チェフィーザはスザンナ・リガッチ Susanna Rigacci、アッタロは マーリオ・ボロニェージ Mario Bolognesi。クラウディオ・シモーネ Claudio Simone 指揮 イ・ソリスティ・ヴェネティ I Solisti Veneti。合唱はプラハ・フィラルニコ合唱団(チェコ語では Pražský filharmonický sbor)、合唱指導はルボミール・マートル Lubomír Mátl。ガズディア、メリット、マッテウッツィなど、1980年代のロッシーニルネサンスを牽引した歌手が多く参加したこの公演は大成功を収め、《エルミオーネ》がロッシーニの傑作であることを世に知らしめた。YouTubeに録音が上がっている。

このパドヴァでの上演の前か後かに、ERATOが初の全曲録音を行っている。出演者はパドヴァのものと概ね同じだが、アンドローマカがマルガリータ・ツィンマーマン Margarita Zimmermann に代わるなど若干の変更がある。また合唱指導者はジョゼフ・ヴェセルカ Joseph Veselka、オーケストラはモンテ=カルロ・フィルハーモニー管弦楽団 Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo。⇒ 参考資料。レチタティーヴォにいくらかカットがある。

舞台上演の蘇演は、1987年、ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル。出演者などはリンク先を参照。記念すべき上演でたいへん豪華な歌手が集められているが、しかし、ロッシーニ研究の権威フィリップ・ゴセット Philip Gossett がその著『Divas and Scholars』で記述しているように、上演の出来は良くなかった。マリリン・ホーンのアンドローマカ、クリス・メリットのピッロ、ロックウェル・ブレイクのオレステは申し分ない出来だったが、しかしグスタフ・クーンの指揮があまりにも理解に欠け大きく足を引っ張ってしまった。そして目玉であるはずの大プリマドンナ、モンセラート・カバリエも精彩を欠いた。ゴセットは事情を書いていないが、カバリエの評伝によると、彼女は当時母が危篤で、リハーサル期間中に何度もバルセロナに帰っており、準備不足に加えてこの難役に身が入ってなかった。一方、クリス・メリットはピッロを(オテッロと並んで)当たり役とし、この後様々な都市での上演でピッロを受け持ち、《エルミオーネ》を世界に広げる功労者になった。

1988年4月15、18、21、24、27日、ROFと同様なキャストでマドリッドでスペイン初演された。マドリッドのサルスエラ劇場のモンセラート・カバリエ出演記録(PDFファイル)の中に上演記録がある。それによると、エルミオーネはモンセラート・カバリエ Montserrat Caballé、アンドローマカはマルガリータ・ツィンマーマン Margarita Zimmermann、ピッロはクリス・メリット Chris Merritt、オレステはダルマシオ・ゴンザレス Dalmacio González、、ピラーデはジャスティン・ラヴェンダー Justin Lavender、フェニーチョはボアス・セナトル Boaz Senator、クレオーネはウリアーナ・レヴィト Uliana Levit、チェフィーザはフランチェスカ・ロイグ Francesca Roig、アッタロは ホセ・ルイス Jose Ruiz、そしてアスティアナッテがイグナシオ・ディアス・コヤ Ignacio Diaz Coya。合唱 サルスエラ劇場合唱団 Coro Titular del Teatro de la Zarzuela、合唱指導 イグナシオ・ロドリゲス Ignacio Rodríguez、オーケストラはマドリッド交響楽団 Orquesta Sinfonica de Madrid、指揮 アルベルト・ゼッダ Alberto Zedda。演出、舞台装置、衣装 ウーゴ・デ・アナ Hugo de Ana。映像収録されており、YouTubeにも上がっている。

1988年5月4、7、10、18日、ナポリ、サン・カルロ劇場で、ROFのロベルト・デ・シモーネの演出が上演された。サン・カルロ劇場での169年ぶりの上演である。サン・カルロ劇場は公演記録を公表していないので la Repubblica紙の記事などから出演者の情報を集めると、エルミオーネはモンセラート・カバリエ Montserrat Caballé、アンドローマカはマルガリータ・ツィンマーマン Margarita Zimmermann、ピッロはクリス・メリット Chris Merritt、オレステはダグラス・アールシュテット Douglas Ahlstedt(米国人)、ピラーデはルカ・カノーニチ Luca Canonici、フェニーチョはシルヴァーノ・パリューカ Silvano Pagliuca、クレオーネはダニエラ・ロヤーロ Daniela Lojarro、チェフィーザはレジーナ・デ・ヴェントゥーラ Regina De Ventura、アッタロはエンリコ・ファチーニ Enrico Facini、指揮はアルベルト・ゼッダ Alberto Zedda、合唱とオーケストラはサン・カルロ劇場のもの Orchestra e Coro del Teatro di San Carlo。

1991年2月、イタリア、ローマのローマ歌劇場が《エルミオーネ》を上演した。上演記録。出演者などは上演記録を。ウーゴ・デ・アナ演出のマドリードの舞台を持ち込んでいるので、出演者も共通した人が多い。YouTubeに2月17日(最終日)の手持ちカメラで撮影したと思しき映像が全曲上がっているが、上演記録にある通り、この日はピッロのクリス・メリットが降板して、代役のエンリコ・ファチーニ Enrico Facini が歌った。

1992年、英国、ロンドンのエリザベス女王ホールで演奏会形式上演が催された。これが英国での《エルミオーネ》の初演だったようだ。インターネット上に情報が乏しいが、YouTubeに上がっている全曲音声(放送のエアチェック)には冒頭に放送の案内が収録されており、それによると、エルミオーネはアンナ・カテリーナ・アントナッチ Anna Caterina Antonacci、アンドローマカはジュディス・フォースト Judith Forst、ピッロはキース・ルイス Keith Lewis、オレステはブルース・フォード Bruce Ford、ピラーデはヤチェク・ラシュコウスキ Jaczek Laszcwowski、フェニーチョはピーター・シドム Peter Sidhom、クレオーネはアン・ダービック Anne Durbic、チェフィーザはジュリー・ゴセイジ Julie Gossage、アッタロはマリオ・ブッフォリ Mario Buffoli。合唱はニュー・カンパニー・コール New Company Choir、オーケストラは啓蒙時代管弦楽団 Orchestra of the Age of Enlightenment、指揮はマーク・エルダー Mark Elder。上演日は、フィリップ・ゴセット Philip Gossett の『Divas and Scholars』での記述によると、1992年4月10、12日。

同年、米国、サンフランシスコのサンフランシスコ歌劇場で演奏会形式上演があった。フランクリン・メサ Franklin Mesa 著 Opera: An Encyclopedia of World Premieres and Significant Performances, Singers, Composers, Librettists, Arias and Conductors, 1597-2000 によると、上演は1992年6月26日。これが《エルミオーネ》の米国および北米初演だったと思われる。この上演は信頼できる情報が極めて乏しく、エルミオーネがアンナ・カテリーナ・アントナッチ Anna Caterina Antonacci、 アンドローマカはカスリーン・クールマン Kathleen Kuhlmann、指揮はパトリック・サマーズ Patrick Summers、というところまではほぼ確実だが、それ以上の情報は信頼度に疑問があるのでここには載せない。調査中。

同年9月11日には、米国、ネブラスカ州オマハの オペラ・オマハ Opera Omaha で舞台上演があった。1992年9月24日付のThe New York Timesの記事によると、これが《エルミオーネ》の米国での舞台上演初演だった。エルミオーネはブレンダ・ハリス Brenda Harris、アンドローマカはフィリス・パンセラ Phyllis Pancella、ピッロはマーク・ニコルスン Mark Nicolson、オレステはマーク・コーキンズ Mark Calkins、ピラーデはケン・チェスター Kenn Chester、フェニーチョはマルコム・リヴァーズ Malcolm Rivers 、クレオーネはシャロン・キー Sharon Key、オーケストラはオマハ交響楽団 the Omaha Symphony Orchestra、指揮はランサム・ウィルソン Ransom Wilson、演出はジョナサン・ミラー Jonathan Miller、衣装はキャンダイス・ドネリー Candice Donnelly。会場は ウィザースプーン・コンサート・ホール Witherspoon Concert Hall。

1993年には、アルゼンチン、ブエノスアイレスのコロン劇場で《エルミオーネ》が上演され、タイトルロールがアンナ・カテリーナ・アントナッチだったことは同劇場のアントナッチのページで分かるが、その他の出演者の情報は信頼できるものが見当たらない。全曲音声がYouTubeに上がっており、そこには歌手、指揮者などの情報がある。

1995年5、6、7月には英国、グラインドボーン音楽祭で上演、これが英国での舞台上演の初だった。出演者などの詳細はリンク先からさらに各公演日を。この上演は映像収録されDVDで発売された ⇒ 参考資料。
このプロダクションは大変好評だったため、翌1996年8月に再演された。 出演者などの詳細はリンク先からさらに各公演日を。

以降、《エルミオーネ》の上演は盛んになり、記録を追い切れないほどである。
158年埋もれた《エルミオーネ》は、20世紀末にはロッシーニのあまりにも時代を先取りし過ぎた傑作として認められたのである。

日本では2024年現在上演されていない。

注1 この公演はしばしば 野外公演 とされるが、これは公演告知段階での会場が 大聖堂広場 Piazza del Duomo だったことによる誤解で、実際には演奏会場としてもよく使われる 聖受胎告知教会 で行われた。
注2 Opera 1977年11月号 pp.1071 - 1072

音楽

《セビリアの床屋》や《ラ・チェネレントラ》などのオペラブッファでロッシーニに親しんでいる人が《エルミオーネ》を聞いたならば、ひどく面喰うだろう。《エルミオーネ》の音楽は暗く激しく、もっと言えば異様である。当時(前後広めにとっても)のイタリアオペラでこうしたハードな作品は他にまったく見当たらない。
イタリアオペラは伝統的に、機械仕掛けの神によって象徴されるように、理性ないしは善の勝利を根幹に据えている。それにに対して《エルミオーネ》では主要4人の登場人物はひたすら自らの感情、さらには欲望をさらけ出しており、それが悲劇的な破滅に至る。トットラの台本がまたそうした傾向を強めている。
一方、この作品はフランスの悲劇もしくはフランスの悲劇オペラから影響を強く受けているとしばしば論じられるが、実際にはロッシーニが用いている音楽の形式は基本的に伝統的なイタリアオペラの形式である。音楽設計図を見れば分かる通り、ほとんどのアリア、二重唱は、緩(カンタービレ) / 急(カバレッタ)もしくは急 / 緩 / 急の三部形式である。たしかに朗唱的に書かれた箇所はあるが、あくまで限定的である。
《エルミオーネ》は、当時のイタリアオペラの確固とした形式に、それまでのイタリアオペラには見られなかった強烈な物語を流し込み、ナポリの極めて優秀な歌手たちのためにロッシーニが過酷なまでに至難な音楽を書いた作品である。結果として、物語と音楽が内側から形式を突き破らんばかりにエネルギーを孕んでおり、それがこの作品の異様さとなっている。

序曲は、形式的には 序奏付きの 展開部を持たないソナタ形式 という当時のオペラの序曲の定型を踏まえている。しかし繰り返し挿入される舞台裏の合唱によって、通常の序曲とまったく異なる音楽になっている。そしてこの序曲は第1幕冒頭を予告している。なお提示部と再現部のコデッタ(小結尾、ロッシーニクレッシェンドの部分)は 第9番 エルミオーネのグラン・シェーナの Allegro から採られたものだが、これは後に《ビアンカとファッリエーロ》序曲などいくつかの音楽に更生されている。

第3番 エルミオーネとピッロの二重唱は、急 / 緩 / 急 の三部形式という形式的にはいたって普通のものだが、一度たりとも感情が同じ方向を向かないエルミオーネとピッロの応酬を手応えのある音楽にしている。ことに経過句 Allegro vivace でオレステたちの到着が報告されて状況が動いた後、急における Perché soave calma の苦しみ喘ぐような音楽は非常に印象的である。

第6番 ピッロのアリアは、ロッシーニがテノールのために書いたアリアで最も至難なものかもしれない。当時の偉大な、そして全盛期にあった名テノール、アンドレア・ノッツァーリの力量を最大限に引き出した音楽は、今日ですら歌えるロッシーニテノールが限られるほどだ。急 / 緩 / 急 の三部形式。最初の急 Allegro 4/4 変ロ長調 では、君主ピッロの尊大さを、ほとんど歌唱不可能と思えるほどの音楽を用いて示している。le sue vittorie という歌詞には低い変ロ音から高いハ音まで2オクターブ以上の装飾歌唱(さらにトリル)が与えられている。しかもノッツァーリはバリテノールだったので、軽めのロッシーニテノールでは物足りない。これが緩 では一転してアンドローマカへの切々とした愛の歌(Andantino 6/8 ニ長調)に、さらに経過区および急(どちらも Allegro 2/2 変ロ長調)でのエルミオーネへの離縁宣言(と一同の混乱)と激しい変化を見せる。技術面をクリアしたとしてもなおこのアリアを歌い切るのは至難である。

これに対して第4番 オレステのカヴァティーナは緩(カヴァティーナ) / 急(カバレッタ) の二部形式でテンポ・ディ・メッツォ(中間部)を欠くコンパクトなもの。若き高音王ジョヴァンニ・ダヴィドの美質を存分に引き出した音楽で、カヴァティーナには高い変ハ音、カバレッタには6回の高いハ音が与えられている他、高い音域での装飾歌唱もふんだんに散りばめられている。

第7番 第1幕フィナーレは、エルミオーネとオレステの報われない二重唱と、ピッロの策略による混乱に大別される。後者はトットラが展開を第1幕フィナーレ向きにとても旨く仕立てており、ロッシーニの音楽も実に見事である。とりわけストレッタ Pirro, deh serbami(Allegro 2/2 ハ長調)は非常に手が込んだ充実した音楽で聞き応えがある。

第2幕は4曲しかなく、しかもそのうち2曲は中小規模の二重唱である。
第9番 エルミオーネのグラン・シェーネは、第2幕のそして全曲の核である。この曲は全部で10の部分からなり、20分弱かかる、プリマドンナの大場面である。シェーナ、短いアリオーソ Andantino 6/8 イ長調 A major Dì, che vedesti piangere,、シェーナの後、拡大された緩(カヴァティーナ / 急(かバレッタ)のアリアになる。Andante 2/4 ホ長調 の Amata, l'amai, では静かに死を望んでいたエルミオーネは、しかしピッロとエルミオーネが婚礼へ向かう行進曲 Moderato 4/4 ハ長調 に愕然とする。Moderato 2/4 ハ長調 Un'empia mel rapi! は、レチタティーヴォ的な書き方で絶望したエルミオーネの心の中に殺意が目覚める課程を巧妙に描いている。合唱とオレステの場面 [Allegro] 4/4 ハ長調 / ホ長調 がテンポ・ディ・メッツォ(中間部)に当たる。エルミオーネの憎悪は一気に膨らみ、オレステにピッロ殺害をけしかける(この部分の音楽が序曲のコデッタに用いられている)。Del sangue suo fumante / fa, ch'io lo vegga... e allor.... の件で弦の三十二分音符の刻みの伴奏でエルミオーネが囁くのが非常に効果的だ。そしてPiù mosso 4/4 ホ長調 Se a me nemiche o stelle ではエルミオーネは狂乱の様子を示している。

第11番 シェーナ[と]二重唱、第2幕フィナーレ は、オレステが戻ってからのエルミオーネとのシェーナ Moderato 4/4 ハ長調 がむしろ 主 である。ここでの劇的な朗唱による対話は、《エルミオーネ》の中で唯一あまりイタリアオペラ的でない箇所であるが、しかしロッシーニは素晴らしく緊迫した場面を生み出している。続く二重唱 Vivace 2/2 イ短調 Fiere Eumenidi! sorgete! はこれを締め括る役割程度。もう一つの異例は、プリマドンナオペラにもかかわらずエルミオーネが早々に歌い終わってしまうこと。トットラとロッシーニはその気になれば、《アルミーダ》の幕切れのように、オレステが去った後にエルミオーネの恨みと悲嘆のアリアフィナーレを作ることもできたろう。そうすることなく、しかもエルミオーネの最後の一節すら息も絶え絶えにしてしまい、エルミオーネの(実質的な)憤死を強調している。これはプリマドンナ、つまりイザベラ・コルブランの理解がなくては不可能なことで、さらに踏み込んで推測するならば、《エルミオーネ》の制作においてコルブランが大きな役割を果たしていた可能性すらも示唆しうる。

※普請中

あらすじ

序曲
滅亡したトロイアを嘆く声が聞こえてくる。

第1幕
牢獄。捕虜たちが滅亡したトロイアを嘆いている。アンドローマカが息子アスティアナッテの面会に現れ、息子に戦死した夫エットレの面影を見出して悲しむ。アッタロが、ピッロの愛を受け入れることでアスティアナッテを解放することを提案するが、アンドローマカはこれを拒み、フェニーチョも断固として反対する。面会の時間が過ぎ、アンドローマカは悲しみながら立去る。
宮殿の外の庭園。スパルタの娘たちがエルミオーネを狩りに招いている。彼女は、ピッロの心がアンドローマカに奪われていことに嫉妬している。
ピッロがアンドローマカを捜しに現れ、エルミオーネと出くわす。エルミオーネは彼を詰るが、ピッロは誤魔化す。二人は激しい非難の応酬を繰り広げる。ギリシャ王の使者としてオレステが到着したことが伝えられる。ピッロとエルミオーネはそれぞれ、心の安らぎが失われてしまったことを嘆く。ピッロは、オレステたちを宮殿の大広間に案内するよう命じる。
王宮にオレストとピラーデが現れる。エルミオーネを愛するオレステは報いられない愛を嘆き、彼女との再会に心を躍らせている。ピラーデは彼に自制を求める。
ピッロがエルミオーネとアンドローマカを伴って現れる。彼がアンドローマカを席に着かせるのでエルミオーネは憤慨する。オレステはピッロに、死んだアスティアナッテは替え玉で、本当のアスティアナッテはここにいる、彼をギリシャに引渡ように、と要求する。ピッロは、ギリシャはもはや(エットレの一人息子である)アスティアナッテを恐れる必要などない、と引渡しを拒み、さらには彼が共同統治者になることを仄めかす。その上でピッロは改めてアンドローマカに愛を受け入れるよう迫り、さらにエルミオーネにスパルタに帰るよう言い放つ。一同は激しく混乱する。
ピラーデは、この地は危険だと、オレステに警告する。一方アンドローマカは改めて妻になるつもりがないことをピッロに告げに行く。
王宮の外。エルミオーネのピッロへの愛は憎悪に変わった。クレオーネはオレステの力を借りるよう助言する。オレステが現れ、エルミオーネに愛を打ち明ける。彼女はオレステの言葉に感謝しつつも、彼を愛するつもりはない。
ピッロがも現れ、ギリシャの要求に従い、アスティアナッテを引き渡すことにしたと告げる。エルミオーネは彼の愛が自分に戻ってきたのかと喜ぶが、しかしこれはピッロがアンドローマカが求愛を受け入れざるを得なくするための策略だった。案の定アンドローマカは彼に慈悲を乞い、考え直す時間を求める。喜ぶピッロに、エルミオーネはピッロの策略を理解し、彼を非難する。ピラーデはオレステを連れ帰ろうとするが、オレステは聞き入れない。激しい混乱で幕となる。

第2幕
王宮の中庭。アッタロがピッロに、アンドローマカがついに要求を受け入れたと告げる。喜ぶピッロ。アンドローマカは悲しみに打ちひしがれる。ピッロはすぐに結婚式を執り行うよう命じる。
アンドローマカは息子の命を助けるためにピッロの求婚を受け入れたが、悲痛な様子は隠せない。ピッロは去る。彼女はピッロが息子の命を保障すると神々に誓った後に自害するつもりでいる。そこにエルミオーネが現れ、アンドローマカを罵倒する。しかしアンドローマカはエルミオーネに許しを与えて立去る。
エルミオーネはアンドローマカがピッロの心を得たことに激しく動揺し、フェニーチョをピッロの説得に向かわせる。彼女はなおピッロが自分の元に戻ってくることを期待するが、そこに婚礼の行進が通りがかる。愕然としたエルミオーネは、愛が憎しみに転じ、ピッロへの復讐を求める。そこにオレストがやって来る。エルミオーネは彼に、自分をまだ愛しているならピッロを殺せと命じる。オレストはあまりのことに当惑しながらも立ち去る。エルミオーネは神々に復讐の成功を祈る。
フェニーチョがピッロの説得に失敗したことを嘆く。オレステを探しているピラーデは、アガメムノンの艦隊が近づいていることを告げる。二人は事態の成り行きを心配し、神々に悲惨な結末を避けるよう祈る。
エルミオーネが幻影に苦しんでいる。彼女はピッロを愛しているのか憎んでいるのかもはや分からず、ピッロが許しを乞うて戻ってくることを期待している。そして未だ戻らぬオレステに向かって、ピッロを殺してはならないと叫ぶ。そこにオレステが血まみれの剣を携えて戻って来る。彼がピッロが殺された時の様子を物語ると、エルミオーネは、口では復讐を求めたが心はまだピッロを愛しているのだ、とオレステを責める。オレステはまさかのことに愕然とする。ピラーデと仲間が駆けつけ、怒り狂った民衆がオレステを捜し求めているのですぐ逃げろ、と半ば気を失ったオレステを船へ引き連れて行く。エルミオーネは、嵐の海が復讐するだろうと言い放ち卒倒する。

対訳付き音楽設計図

登場人物
エルミオーネ
Ermione
ソプラノ
soprano

アンドローマカ
Andromaca
コントラルト
contralto

ピッロ
Pirro
テノール
tenore

オレステ
Oreste
テノール
tenore

ピラーデ
Pilade
テノール
tenore

フェニーチョ
Fenicio
バス
basso

クレオーネ
Cleone
ソプラノ
soprano

チェフィーザ
Cefisa
コントラルト
contralto

アッタロ
Attalo
テノール
tenore

日本語訳は極力文学的な色づけをせず、分析的な直訳にしてある。
歌詞とト書きは Patricia B. Brauner と Philip Gossett 校訂のクリティカルエディションに従っている。

[SINFONIA] Maestoso
3/4
f minor
CORO合唱
Troia! qual fosti un dì!トロイアよ! おまえは かつて どんなものだったことか【≒ おまえは かつて なんと素晴らしい国だったことか】
Allegro
4/4
f minor
Maestoso
3/4
f minor
di te che resta ancor?おまえの 何が いまだに 残っているのか?
Allegro
4/4
f minor
Ah!ああ!
[Adagio]
3/4
f minor
Ahi! qual balen sparìああ! 閃光のように 消えた
il prisco tuo splendor!昔の おまえの輝きは!
(Maestoso)
4/4
F major
Ah!ああ!
[Allegro]
4/4
F major
Maestoso
3/4
F major
Troia! qual fosti un dì!トロイアよ! おまえは かつて どんなものだったことか【≒ おまえは かつて なんと素晴らしい国だったことか】
[Allegro]
4/4
F major
Maestoso
3/4
F major
di te che resta ancor?おまえの 何が いまだに 残っているのか?
[Adagio]
3/4
F major
Ahi! qual balen sparìああ! 閃光のように 消えた
il prisco tuo splendor!昔の おまえの輝きは!
[Allegro]
4/4
F major
ATTO PRIMO
N. 1
[Introduzione]

Andromaca
Cefisa
Attalo
Fenicio
Coro
Andante
3/4
f minor
(SCENA PRIMA)(第1景)
(Luogo sotterraneo, ove custodisconsi i prigionieri. È per finire la notte)(地下の場所、そこには 捕虜たちが 監視されている。夜が 終わる ところである。)

(Sparsi per la scena, ed in varie meste attitudini veggonsi i prigionieri Frigi, che deplorano la loro sventura. Il piccolo Astianatte, alla custodia del quale vegliano alcune Guardie, giace in 'grembo al riposo. Indi Andromaca scortata da Fenicio, e seguita da Attalo, e Cefisa)(舞台にわたって 散らばった、そして 様々な 悲し気な姿勢の プリュギア人の捕虜たち、その者たちは 彼らの不運を 嘆いている。幼いアスティアナッテは、その者の監護に 何人かの衛兵が 注意を払っている、膝で 眠りに横たわっている。それから アンドローマカ フェニーチョによって 付き添われて、そして アッタロによって、そして チェフィーザ【によって】)

CORO合唱
Troia! qual fosti un dì!トロイアよ! おまえは かつて どんなものだったことか【≒ おまえは かつて なんと素晴らしい国だったことか】
di te che resta ancor?おまえの 何が いまだに 残っているのか?
Ahi! qual balen sparìああ! 閃光のように 消えた
il prisco tuo splendor!昔の おまえの輝きは!
Ti oppresse, incenerìおまえを 虐げて、灰燼に帰した
l'Argivo ingannator,人を騙す アルゴス人は、
e vil catena... aimè!そして 彼【= アルゴス人】は 卑劣にも 鎖につないでいる… ああ!
preme a' tuoi figli il piè!押している【≒ 束縛している】 君の子供たちの足を!

FENICIOフェニーチョ
(indicandole Astianatte)(アスティアナッテを 指し示して)
Miralo: in dolce obblio彼を 見なさい: 快い忘却の中に
il germe tuo riposa.君の息子は 休息している。

ANDROMACAアンドローマカ
Destati, figlio mio,目を覚ましなさい、私の息子よ、
vieni al materno sen.母親の胸に 来なさい。

CORO合唱
Che mai ti guida in questiいったい 何が 君を 案内しているのか この
luoghi di eterno orrore?無限の恐怖の場所【↑】に?

ANDROMACAアンドローマカ
Amor... materno, materno amore...愛が… 母の、母の愛が…
tutto vi dissi appien.私は 君たちに すべてを すっかり 話した。

CEFISA, ATTALO, FENICIO E COROチェフィーザ、アッタロ、フェニーチョ と 合唱
Oh cielo! al suo doloreああ 天よ! 彼女の苦悩に
tregua tu rendi almen!おまえが せめて 休戦【≒ 休止,中断】を もたらすように!
Andantino
4/4
B-flat major
ANDROMACAアンドローマカ
(al figlio)(息子に)
Mia delizia! un solo istante私の 大切なものよ! 一瞬たりとも
non fuggir da questo petto:この胸から 逃げる【≒ 離れる】でない:
ah! ravviso in quel sembianteああ! 私は その顔に 認知している
il tuo prode genitor!君の勇敢な父を!
Sposo! Ettore!夫よ! エットレよ!
緩(カンタービレ)/急(カバレッタ)の二部構成のアリア。
緩(カンタービレ)
Allegro
4/4
d minor
io ti perdei!私は 君を 失った!
Né seguirti ancor mi è dato?君の後を追うことは まだ 私に 与えられないのか【≒ 私には 君の後を追うことすら 許されないのか】
Figlio amato! ah! sol tu sei,愛する息子よ! ああ! 君だけが、
che mi reggi in vita ancor.まだ 私を 生命において 支えている【≒ 私の 生きる 支えだ】

CEFISAチェフィーザ
Ti consola, o sventurata!【の悲しみを】を 和らげなさい、ああ 不幸な女よ!

FENICIOフェニーチョ
Abbian calma le tue pene.君の苦悩が 落ち着きを 手に入れるように。

ATTALOアッタロ
Frangerai le sue catene,君は 彼の鎖を 壊す【≒ 断ち切る】だろう
se di un Re, che ognor ti adora,もし 王の、その者は これまでずっと 君を 熱愛している、
premierai la fedeltà.誠実さに 君が 報いるであろう 【↑】ならば。

ANDROMACAアンドローマカ
Mi lasciate... oh Dio! tacete...私を 放っておきなさい… ああ 神よ! 黙りなさい…
テンポ・ディ・メッツォ(中間部)

冒頭は臨時記号で♭がさらに5つ付いて、実質♭6つの変ロ短調になっている。

(Allegro)
4/4
F major
Perché, barbari! accresceteどうして、残故な人たちよ! 君たちは 増大させるのか
del mio duol la crudeltà?私の苦悩の残酷さを?

CEFISAチェフィーザ
Ti calma.落ち着きなさい。

CORO合唱
Chi non pena al tal tormentoあのような苦悩に 苦しまない者は
sorda ha l'alma alla pietà.哀れみに 耳を貸さない 魂を 持っている。


CEFISA, ATTALO E FENICIOチェフィーザ、アッタロ と フェニーチョ
Chi non pena al suo tormento彼女の苦悩に 苦しまない者は
sorda ha l'alma alla pietà.哀れみに 耳を貸さない 魂を 持っている。

FENICIOフェニーチョ
Ti calma.落ち着きなさい。
急(カバレッタ)。

[Recitativo] Dopo l'introduzione
Recicativo


4/4
(C major)
ATTALOアッタロ
All'ombra del tuo sposo君の夫の亡霊に
pianto donasti assai, tu, illustre esempio大いに 涙を 贈った、君は、令名高い模範である
di rara fedeltà: ma fra gli estinti稀な誠実さの【≒ 君は 亡き夫のために 多くの涙を流し、滅多にない貞操の名高い鑑である】: だが 死者たちの間で
abbia pace l'Eroe. Tempo è, che al figlio英雄は 安らぎを 抱くがいい。【今は】 時だ、【君の】息子に
si consacri il tuo cor. Se appien felice君の心が 献身する。十分に 幸福に
farlo potresti, eppur lo soffri oppresso,彼を する ことが 君は できるだろうに、にもかかわらず 君は 彼が 抑圧されているのに 苦しんでいる【≒ 息子が 虐げられていても ただ 耐え忍ぶばかりだ】
nel figlio oltraggi il tuo consorte istesso.君は 息子において まさに君の配偶者を 侮辱している。

ANDROMACAアンドローマカ
Che far potrei?私は 何を する べきなのか?

FENICIOフェニーチョ
(ad Attalo)(アッタロに)
De' tuoi scaltriti accenti君の 抜け目のない言葉の
comprendo il reo disegno: ov'è Fenicio邪な 目論みを 私は 理解している: フェニーチョが いる ところでは
cerca infingerti almen. Ah sì, una fiamma,少なくとも ふりをしようと 務めなさい。ああ そうだ、炎を、
che di novella guerra il funesto vessilloそれは 新たな争いの 不吉な旗を
farebbe sventolar, nudrir tu brami...はためか させる、【炎を】 育てることを 君は 切望している…
E amico al Re tu sei? sei tu, che l'ami?それで 君は 王の 友なのか? 君は、彼を 愛している者なのか?

ATTALOアッタロ
Chi la pace del Re...王の平安を 【愛している】 者だ…

ANDROMACAアンドローマカ
Ma speri invanoだが 君は 虚しく 期待している
Di sedurre il mio cor.私の心を 籠絡 ろうらく するのに【≒ 君が 私の心を 唆そうとしても 無駄だ】
Allegro
4/4
(C major)
Recicativo


4/4
(C major)
FENICIOフェニーチョ
L'ora è trascorsa,時は 過ぎ去った、
che a' tuoi materni amplessi君の 母親の抱擁に
Pirro concesse, e, mio malgrado, io deggioピッロが 許可した【≒ ピッロが 君が 胸に 君の息子を 抱き締めることを 許可した時間は 過ぎた】、そして、私の意に反して、私は
dividerti dal figlio.君を 息子から 引き離 【↑】さなくてはならない。

ATTALOアッタロ
(piano a Cefisa)(小声で チェフィーザに)
(Mi tronca i detti.)(彼は 私の言うことを 打ち切っている。)

CEFISAチェフィーザ
(È di tacer consiglio.)(黙ることが 忠告だ【≒ 黙っていた方がよい】。)
Andante
4/4
(C major)
Recicativo


4/4
(C major)
ANDROMACAアンドローマカ
Ah sì purtroppo, o tenero Astianatte,ああ そうだ 残念ながら、ああ 幼いアスティアナッテよ、
lasciar ti deggio! oh quanto私は 君を 【ここに】 残さなくては ならない! ああ
per la tua madre amante君を愛している母にとって
lungo spazio di tempo è un breve istante!短い一瞬が 【↑↑】どれほど長い 時の時間で あることか!
Ma di lacrime inondi le mie gote?だが 君は 私の両頬を 【君の】涙で ずぶ濡れにするのか?
Ti affanni al partir mio?私の別れに 君は 不安になっているのか?
Ah! mi sento morir!.. che pena! addio!ああ! 私は 死ぬのを 感じている【≒ 死にそうだ】!… なんという苦悩だ! さようなら!
(parte piangendo)(去る 泣きながら)

CEFISAチェフィーザ
Principessa infelice!不幸な王女だ!

FENICIOフェニーチョ
(Vittima è Pirro di un fatale ardore!)(ピッロは 死に至らせる熱情の犠牲者だ【≒ ピッロは 破滅的な愛に 取りつかれている】。)

ATTALOアッタロ
(Tanta fierezza cesserà in quel core.)(あれほどたくさんの勇敢は 終わるだろう あの心の中で【≒ 彼女の気丈さも 挫けるだろう】。)
[Cefisa, Attalo, Fenicio] (La sieguono)[チェフィーザ、アッタロ、フェニーチョは] (彼女に ついて行く)
N. 2
[Coro]

Coro
Allegro vivace
3/4
C major
(SCENA Ⅱ)(第2景)
(Parte esterna della Reggia, contigua a deliziosi giardini. È per sorgere il giorno)(王宮の外側のあたり、うっとりさせるような庭園に隣接した。太陽が昇るところである)
(Cleone è alla testa delle donzelle Spartane, che armate di arco e di frecce invitano ad una caccia(クレオ―ネは スパルタの若い娘たちの先頭にいる、その者たちは 弓と矢で 武装している 【エルミオーネを】 狩りに 招いている)
(Ermione: indi Pirro, infine Grandi Epirensi)(エルミオーネ: それから ピッロ、最後に エペイロス【= エピロス,イピロス】の貴族たち)

CLEONE E COROクレオーネ と 合唱
Dall'Oriente東方から
l'astro del giorno昼間の星【≒ 太陽】
lieto, e ridente喜ばしく、そして 笑って【≒ 輝いて】
sorgendo va.昇りつつある。

CLEONEクレオーネ
Di luce è adorno光に 彩られている
il colle, il prato,丘は、草原は、
tutto d'intorno周囲のすべては
brilla di già.既に 輝いている。

CLEONE E COROクレオーネ と 合唱
Ti rendi a noi,私たちに 身を委ねなさい、
vieni alle selve,森に 来なさい、
da' strali tuoi君の 矢によって
cadan le belve.獣が 倒れるように。

CLEONEクレオーネ
Così l'oppressoそうすることで 抑圧された
tuo core amante君の 愛する心が
abbia un'istante瞬間を 持つように
d'ilarità.上機嫌の【≒ ピッロへの愛に苦しむ 君の心が 束の間の気晴らしをするように】

DONZELLE若い娘たち
Ah sì, l'oppressoああ そうだ、抑圧された
tuo core amante君の 愛する心が
abbia un istante瞬間を 持つように
d'ilarità.上機嫌の【≒ ピッロへの愛に苦しむ 君の心が 束の間の気晴らしをするように】
[Recitativo] Dopo il Coretto
Recitativo


4/4
(C major)
ERMIONEエルミオーネ
A tante cure, o amiche,これほどたくさんの気遣いに、ああ 友の女たちよ、
riconoscente io son; ma offrite indarno私は 感謝している; しかし 君たちは 虚しく 提供している
sollievo all'alma mia,慰めを 私の魂に、
che vendetta sol pasce, e gelosia.それ【= 魂】は 復讐だけを 育てている、そして 嫉妬を。
La mia sventura a chi non è palese?私の不幸は 誰に 明らかでないのか【≒ 私の不幸を 知らぬ者が いるいというのか】
Chi non conosce i torti miei, le offese?誰が 知らないというのか 私の 迷惑を、侮辱を?
Osa la Frigia schiava il cor di Pirroフリギアの奴隷女は 厚かましくも ピッロの心を
togliermi... iniqua! e della rotta fede私から 奪っている… 邪悪な女め! そして 壊れた誠実に【≒ 誠意を 破って】
esulta il traditor.裏切者は 歓喜している。
Allegro
4/4
(C major)
Recitativo


4/4
(C major)
PIRROピッロ
(non vedendo Ermione)(エルミオーネを 見ずに)
Ma ancor non riedeさて まだ 戻っていないのか
Andromaca? e dov'è? quante in me destaアンドローマカは? それで 彼女は どこにいるのか? なんと多くの 【↓】苦悩を 私に 引き起こすのか
pene la sua tardanza!彼女の遅滞は!
(indi la ravvisa, e cerca evitarla)(それから 彼女を 認知し【≒ エルミオーネに 気付き】、そして 彼女を 避けようと努める)
oh ciel!ああ 天よ!

ERMIONEエルミオーネ
Molesta【↓】それほどに 邪魔な女
tanto a Pirro son io,なのか 私は ピッロには、
che cerca di evitar lo sguardo mio?彼が 私の視線を 避けようと努めるほどに?

PIRROピッロ
T'inganni, o principessa: affar non lieve君は 誤解している、ああ 王女よ: 取るに足らなくはない用事が
mi chiama altrove.私を 別な所に 呼んでいる。

ERMIONEエルミオーネ
(ironica)(皮肉を込めて)
Affar non lieve, è vero,取るに足らなくはない用事だ、それは 本当だ、
è il consolar gli affanni苦悩を 和らげることは
di vedova dolente!悲痛な寡婦の【≒ 悲嘆する寡婦の苦悩を 和らげることは、たしかに、取るに足らない用事ではない】

PIRROピッロ
E di che parli?それで 君は 何について 話しているのか?

ERMIONEエルミオーネ
(sdegnata)(大いに怒って)
Non arrossir!顔が赤くなるでない【≒ 顔を 紅潮させるでない】

PIRROピッロ
Sicuro確実だ
Per te il mio amore...君に対して 私の愛は…

ERMIONEエルミオーネ
(interrompendolo irata)(怒って 彼の話を遮って)
Amor! taci, spergiuro!愛だと! 黙りなさい、虚偽の誓いをした者よ!
T'inganni, o principessa: affar non lieve
このオペラではピッロはエルミオーネと婚約したもののまだ結婚しておらず、王妃ではない。彼女はスパルタ王メネラオスの娘なので、principessa は 王女 と訳した。

Non arrossir!
エルミオーネに図星を指されたピッロが、E di che parli? ととぼけて答えつつ、焦りで顔を紅潮させたのを咎めている。

N. 3
Duetto [Ermione - Pirro]

Ermione
Pirro
Coro
Allegro
4/4
A major
ERMIONEエルミオーネ
Non proseguir! comprendo,続けるでない! 私は 理解してる、
ti leggo appien nel core:私は 君の心の内を すっかり 読んでいる:
un contumace ardore反抗する熱情【≒ 手に負えない 激しい情熱】
tutto divampa in te.君の中で すっかり 燃え盛っている。

PIRROピッロ
Che Pirro io son rammenta:私が ピッロであることを 忘れるでない:
che onte soffrir non voglio:その者は 侮辱に 耐える つもりはない:
Amor, cui guida è orgoglio,愛は、 高慢さは その 手引きである【≒ 高慢さに 導かれた 愛は】
mai può sperar mercé.決して 報酬を 望むことは できない。

ERMIONEエルミオーネ
Trema!震えなさい!

PIRROピッロ
Tremar non soglio.私は 震える 習慣はない。

ERMIONEエルミオーネ
Vendetta!復讐を!

PIRROピッロ
Ebben l'affretta.では それを 急いでしなさい。

ERMIONEエルミオーネ
Di belliche faville戦争の閃光で
va il cielo a balenar.空は ぴかっと光ろうとしている【≒ 戦いの火花で 空が ひらめくことだろう】

PIRROピッロ
Donna! il figliuol d'Achille婦人よ!アキッレの息子は
è avvezzo a trionfar.勝利を収めることに 慣れている。
急 / 緩 / 急 の三部形式の二重唱。
急。
Andantino
2/4
C major
ERMIONEエルミオーネ
(Ah! m'odia già l'ingrato!(ああ! 恩知らずの男は もはや 私を ひどく嫌っている!
mi sprezza il traditore!裏切り者は 私を 粉々にしている。
Povero, e mesto cor!哀れな、そして 痛ましい心よ!
sei nato a sospirar!)お前は 溜息を吐くために 生まれた!)

PIRROピッロ
(Ah! se divenni ingrato(ああ! もし 私が 恩知らずの男になったのならば
per te, crudel Amore,おまえによって、残酷な愛の神よ、
tu rendi a me quel core,おまえが あの【= アンドローマカの】心を 私に 与えなさい、
che ognor mi fa penar!)それは 常に 私を 苦しめさせる!)
緩。
Allegro vivace
4/4
A major
CORO合唱
(Coro di Grandi)(貴族たちの合唱)
Sul lido di Agamennone海岸に アガメンノーネの
il figlio, Oreste è giunto!息子、オレステが 着いた!

PIRROピッロ
Oreste!オレステが!

ERMIONEエルミオーネ
Oreste!オレステが!

CORO合唱
Appunto:そのとおりだ:
de' primi Re di Greciaギリシャの主要な君主たちの
qui venne ambasciador.使者が ここに 来ている。

PIRROピッロ
(Ah! che a tal nome ho l'anima(ああ! どうして そのような名前に 私は 魂を 抱くのか
Ingombra di terror?)恐怖で溢れた?)

ERMIONEエルミオーネ
(Ah venne alfine... oh giubilo!(ああ ついに 来た… ああ 歓喜だ!
Il mio liberator!)私の 救済者が!)

ERMIONEエルミオーネ
(Oh giulilo!)(ああ 歓喜だ!)

PIRROピッロ
Lieta Ermion?嬉しい エルミオンなのか【≒ エルミオーネは 喜んでいるのか】

ERMIONEエルミオーネ
La sono...私は それ【≒ 嬉しい エルミオン】だ…
tu scenderai dal trono,君は 玉座から 下りるだろう、
fia pago il mio furor.私の怒りは 満足するだろう。

PIRROピッロ
Al sesso tuo perdono,君の性には 私は容赦する【≒ 女性なので 大目に見よう】
no, non so che sia timor.いいや 私は 知らない 何が 恐れであるのか。

ERMIONE E PIRROエルミオーネ と ピッロ
(Più straziata un'alma【↓】もっと さらに ひどく苦しめられた 魂が)
dove si vide ancor?どこで 見られるというのか?

CORO合唱
(Coro di Grandi e di Donzelle)(貴族たちの合唱と 若い娘たちの【合唱】)
(Di triste, e rie vicende(悲しい、そして 悪質な 出来事の
tu sei cagione Amor!)おまえは 原因だ 愛の神よ!)
経過句。

Allegro vivace
4/4
A major
ERMIONE E PIRROエルミオーネ と ピッロ
Perché soave calma心地よい平穏よ なぜ
da me fuggisti ognor?おまえは これまでずっと 私から ずっと 逃れたのか?
A pena così barbaraこれほどに残酷な苦悩に
e come può resistereそれで どのように 耐える ことができるというのか
Il mio dolente cor?)私の 苦しんでいる心は?)

CORO合唱
(Di triste, e rie vicende(悲しい、そして 悪質な できごとの
tu sei cagione Amor!)おまえは 原因だ 愛の神よ!)
急。
[Recitativo] Dopo il Duetto
Recitativo


4/4
(C major)
PIRROピッロ
Venga il Greco Orator: nella gran salaギリシャの使節が 来るように: 大きな広間に
siano di Epiro i Grandiエーペイロスの貴族たちが
tosto raccolti. Andromaca, Ermioneすぐさま 集められるように。アンドローマカは、エルミオーネは
vi sian presenti, e a rispettar di Pirroそこに 出席するように、そして ピッロの
apprendano il voler. La Grecia, il mondo意志を 尊重することを 学び取るように。ギリシャは、世界は
vedrà, che invan si tenta見るだろう、それ【= ギリシャ】が 無駄に 試みることを
leggi dettar del gran Pelide al figlio:偉大なペリーデ【= アキッレ,アキレウス】の息子に 法を 押し付けようと:
che la tromba guerriera戦闘的なラッパ【≒ 戦いを告げるラッパの音】
non fia, che questo cor giammai spaventi,決して この心に 恐怖を与えることが、ないだろう 【↑】ことを 【見るだろう】
e a' Greci il valor mio Troia rammenti.そして 私の勇敢さが ギリシャ人たちに トロイアを 思い出させるように。
parte (co' Grandi. Le donzelle vanno altrove)去る (貴族たちと 共に。若い娘たちは 別なところに 行く)
Allegro
4/4
(C major)
Recitativo


4/4
(C major)
ERMIONEエルミオーネ
Ah! son perduta! Andromaca trionfa,ああ! 私は 破滅する! アンドローマカが 勝利を収めている、
e di Epiro sul tronoそして エーペイロスの玉座の上に
la innalza il mancator: qual velenosa不履行者【≒ 婚約を守らなかった者】が 彼女を 就かせる: 有毒な
serpe mi strazia il sen! oh quali, amica,ヘビ 【↑】のように 彼女は 私の胸を ひどく苦しめる! ああ 友の女【= クレオーネ】よ、なんという
pene acerbe son queste!厳しい苦悩なことか これらは!

CLEONEクレオーネ
Altri per te le soffre: il fido Oreste,他の人が 君のために それら【= 苦悩 pene 女性複数形】に 苦しんでいる: 誠実なオレステを、
cui mortal fiamma acceseその者に 死ぬかと思うほどの炎を 火を点けている
la tua beltà, sprezzasti ognor: costante君の美しさは、【オレステを】君は これまでずっと 無視した: 誠実に
in Epiro ei ti segue, e a rivederti,彼は エーペイロスへと 君の 後を追っている、そして 君に 再会するために、
non già de' Greci il procurato impegno,ギリシャの 得させられた責務【≒ ギリシャによって任じられた職務 ≒ ギリシャの使者】 ではなく、
ma qui lo spinge inestinguibil foco:消せない火が ここに 彼を 急き立てている:
men severa...より少なく 厳しく【≒ あまり厳しくせずに】

ERMIONEエルミオーネ
Deh taci! in questo istanteああ 黙りなさい! この瞬間に
non so che sia di me: furente, oppressa,私は 分かっていない 私に 何が 起きているのか【≒ 私が 今 どうなっているのか 私にも 分からない】: 激怒して、苦しめられて、
odio Pirro, odio Oreste, odio me stessa!私は ピッロを 憎んでいる、私は オレステを 憎んでいる、私は 自分自身を 憎んでいる!
parte去る

CLEONEクレオーネ
E regge un'alma ingrataそれで 【ピッロの】恩知らずの心は 持ち堪えるのか
a sì giuste querele?これほどに 正当な訴えに?
Ecco le tue dolcezze, o Amor crudele!ほら ここに 君の甘さが、ああ 残酷な愛の神よ!
(la segue)(彼女の 後を追う)
Altri per te le soffre: il fido Oreste,
この altri は代名詞 他の人,別人。単複無変化なので、この場合は altri で単数形扱い。

N. 4
[Cavatina Oreste]

Oreste

Pilade
Allegro
4/4
E-flat major
(Maestosa reggia: ricco, e magnifico trono da un lato)(荘厳な王宮: 片側に 豪華な、そして 立派な玉座)

(SCENA Ⅲ)(第3景)
(Oreste si avanza fuori di sé. Pilade procura calmarlo)(オレステが 進み出る 自制心を失って。ピラーデが 彼を 落ち着かせようと 努力している)
Recitativo


4/4
(E-flat major)
ORESTEオレステ
Reggia abborrita!憎悪する王宮め!
(Allegro)
4/4
E-flat major
oh quantoああ なんと
l'aspetto tuo m'affanna!おまえ【= 王宮】の外観は 私を 苦しめていることか!

PILADEピラーデ
Frenati!...自制しなさい!…

ORESTEオレステ
Una tiranna alberga in te...暴虐な女が おまえの中に 滞在している…

PILADEピラーデ
Ma taci...さあ 黙りなさい…
Andantino
4/4
E-flat major
ORESTEオレステ
Che sorda al mesto pianto,その者は 私の 痛ましい涙に 耳を傾けようとしない【≒ 私の 痛ましい涙など 気にもかけない】
a' caldi miei sospiri,私の 熱い溜め息に 【耳を傾けようとしない】
sprezzarmi ha sol per vanto,彼女は ただ 誇りために 私を 粉々にした、
esulta a' miei martiri,彼女は 私の苦悩に 狂喜している、
né a tanto ardor concede彼女は 許しはしない これほど多くの 熱情に
grata sperar mercé!ありがたく思って 哀れみを 期待することを!

PILADEピラーデ
Ma il tuo trasporto eccede!だが 君の【感情の】爆発は 度が過ぎている!
degg'io tremar per te?私は 君のために 震え なくてはならないのか?
緩(カヴァティーナ) / 急(カバレッタ) の二部形式のアリア。
緩(カヴァティーナ)

Allegro
4/4
E-flat major
ORESTEオレステ
Ah! come nascondereああ! どうやって 隠せばいいのか
la fiamma vorace,喰いつくすような炎【≒ 猛火】【?】
se in petto quest'anima胸の中の この魂は
smarrita ha la pace?平安を 失くしてしまった 【↑】というのに?
se Amor mi fa vittima愛の神は 私を 犠牲者に しているというのに
di un crudo poter?残酷な力の?

PILADEピラーデ
Suoi dritti la Greciaギリシャは その権利を
or solo a te affida:今や 君だけに 託している:
figliuol di Agamennone!アガメンノーネの息子よ!
ragion ti sia guida;理性が 君にとって 案内人であるように【≒ 君が 理性に 導かれるように】
gli affetti ormai tacciano,今となっては 情愛が 黙るように、
ti parli il dover.君に 義務が 語るように。

ORESTEオレステ
Quali smanie funeste!なんという 不吉な不安だ!
Né spero pietà?哀れみを 期待することは 【でき】ないのか?

PILADEピラーデ
Consolati, Oreste,【自身】を 慰めなさい、オレステよ、
nel sen d'amistà.友情の胸で。
È il creder fallace期待外れの見解だ
che rechi ad un core心に 運ぶ ことは
di Amore la face愛の神の 松明 たいまつ が
piacer, voluttà.喜びを、楽しみを【≒ 愛の神の松明が 心に 喜びや楽しみをもたらすなんて 虚しい期待でしかない】

ORESTEオレステ
È il creder fallace期待外れの見解だ
che rechi ad un core心に 運ぶ ことは
di Amore la face愛の神の 松明 たいまつ が
piacer, voluttà.喜びを、楽しみを【≒ 愛の神の松明が 心に 喜びや楽しみをもたらすなんて 虚しい期待でしかない】
急(カバレッタ)

[Recitativo] Dopo la Cavatina [Oreste]
Recitativo

4/4
(C major)
PILADEピラーデ
Che fia di te, se tal mollezza a Pirro君は どうなるのだろうか、もし そのような弱々しさを ピッロに
farà palese il tuo明らかにするであろう 【↑】ならば 君の
impeto giovanil? qual diverresti軽率な衝動が? 君は どのように なるだろうか
a Grecia in faccia? il genitore istesso,ギリシャと面と向かって? 【君の】父ですら、
che a tanto augusto incarcoその者は これほどたくさんの厳かな【≒ これほどに重要な】任務に
nel vederti prescelto君が 抜擢されたのを 見て
per tenerezza inumidì il suo ciglio,愛情から 彼の眼を 少し濡らした、
or dovrebbe arrossir di un debol figlio?今では 弱い息子に 顔が赤くなるに違いない。

ORESTEオレステ
De' rimproveri tuoi君の非難の
l'autorevole suon mi scese all'alma.説得力ある声は 私の魂に 下りた【≒ 私の心に 触れた】
Di me, del padre mio, se il vuol la sorte,もし 運命が そのことを 望むなら、私に、私の父に、
degno mi mostrerò: ma di Ermione私が 相応しいことを 私は 見せるだろう: だが エルミオーネの
nelle vaghe sembianze almen concedi美しい容姿に せめて 許しなさい
che una sol volta avido il cor si bei,もう一度だけ 【私の】心が 喜びに浸る ことを、
e poi guida a tua voglia i passi miei.そして それから 私の歩みを 君のもの【= 君の歩み】へと 案内しなさい。

PILADEピラーデ
Pago ti rende il fato:宿命は 君を 満足させる:
che una sol volta avido il cor si bei,
si bei < bearsi。

Allegro
4/4
(C major)
al fianco di Ermion Pirro si avanza.エルミオンの隣で ピッロが 進み出ている。

ORESTEオレステ
(si slancia a vederla)(彼女を見ようと 突進する)
Dessa!彼女自身だ!

PILADEピラーデ
Oreste! e dov'è la tua costanza!オレステよ! 君の意志の強固は どこに あるのか?
N. 5
Marcia


Marziale
4/4
D major
(Scena Ⅳ:)(第4景)
(Pirro è preceduto da Grandi, Gardie, e numeroso corteggio: lo sieguono Ermione, Fenicio, ed Attalo. Egli va sul trono, e seggono al suo cenno sovra ricchi sgabelli Ermione, e Fenicio: Oreste, e Pilade di fronte al trono: indi Andromaca)(ピッロは 貴族たち、衛兵たち、そしてたくさんの従者によって 先行されている: エルミオーネ、フェニーチョ、そして アッタロが 彼に ついて行く。彼は 玉座の上に行き、そして 彼の指示で エルミオーネは、そして フェニーチョは 豪華な椅子の上に 座る: オレステは、そして ピラーデは 玉座の向かいに 【座る】: それから アンドローマカが 【座る】)
e seggono al suo cenno sovra ricchi sgabelli Ermione, e Fenicio:
古い時代の sgabello は、持ち運びのできる肘掛けのない椅子を指す。

[Recitativo] Dopo la Marcia
Recitativo


4/4
(C major)
ERMIONEエルミオーネ
(vedendo Oreste)(オレステを 見て)
(Mi guarda, e impallidisce!)(彼は 私を 見ている、そして 彼は 青ざめている!)

ORESTEオレステ
(Io reggo a stento!)(私は かろうじて 持ちこえている!)

PILADEピラーデ
(Il tuo spirto rinfranca.)(君の精神を 再び勇気づけなさい)

ORESTEオレステ
(Oh fier tormento!)(ああ 厳しい苦痛だ!)

PIRROピッロ
(ad Andromaca che giunge, e resta in fondo alla scena)(アンドローマカに その者は 来る、そして舞台の奥に 留まる)
Andromaca! a che resti?アンドローマカよ! 何ために 君は 留まっているのか?
T'assidi, e ascolta.座りなさい、そして 聞きなさい。

ANDROMACAアンドローマカ
Io! Sire...私が! 陛下…

ERMIONEエルミオーネ
(alzandosi)(立ち上がって)
Ed osa tantoそれで それほど あえてするのか
un avanzo di Troia?トロイアの残り物は【≒ トロイアの生き残りは それほどに 厚かましいことをするのか】

PIRROピッロ
Illustre donna令名高い婦人は
rispettabile è sempre.いつでも 尊敬すべきだ。

ANDROMACAアンドローマカ
Ah lascia, o Pirroああ ピッロよ ああ、
che umiliata ognor fra' ceppi miei...私の足かせの間で 常に 屈辱を受けた 【↑】ままにさせなさい…

PIRROピッロ
Chi fosti ognor rammento, e non chi sei.私は いつでも 君が 何者であったか 覚えている、そして 【今】 君が 何者であるか ではなく。
Siedi.座りなさい。

(Andromaca ubbidisce)(アンドローマカは 従う)

ERMIONEエルミオーネ
(Di sdegno avvampo.)(私は 怒りに 燃え上る)

PIRROピッロ
(Il tuono scoppierà, fu questo il lampo.)(雷鳴が 爆発するだろう、これは 稲光だった【≒ 稲妻の後に 雷鳴が轟くだろう】。)

FENICIOフェニーチョ
(O Patria! io già ti veggo in rio servaggio!)(ああ 祖国よ! 私は 既に 見ている お前が 悪質な奴隷状態にあるのを!)

PIRROピッロ
Parli l'ambasciador.話しなさい、使者よ。

ORESTEオレステ
(E avrò coraggio?)(それで 私は 勇気を抱く【ことができる】のだろうか)
Favellan sul mio labbro私の口の上で 話している
tutti di Grecia i Re: troppo è palese,全ギリシャの君主たちが【≒ 私は 全ギリシャの君主たちに 成り代わって 発言する】: あまりにも 明らかだ、
che con falso Astianatte al supplizio死刑に処された偽のアスティアナッテを用いた
seppe il vero rapir l'empio artifizio;邪悪な策略が 本物【≒ 本当のアスティアナッテ】を 誘拐することができた 【↑】ことは:
e che di Ettore il germeそして エットレの息子は
vive fra lacci tuoi.君の拘束の間で 生きている 【↑】ことは
Allegro
4/4
(C major)
Recitativo


4/4
(C major)
Sì reo virgultoそのような 邪な幼子は
troncar si deve. I giorni suoi son gravi切断され【≒ 殺され】 なければならない。彼の日々【≒ 命】は 重大である
alla Grecia, a te stesso. In lui tu nudriギリシャにとって【も】、君自身にとって【も】。彼に関して 君は 育てている
fiera serpe nel sen. Del patrio sangue残忍なヘビを 【君の】胸の中に。祖国の血の
vendicator, forse avverrà che un giorno報復者は、ことによると することがあるだろう ある日
del nostro egli si pasca,彼が 私たちのもの【= 私たちの血】を 糧とする 【↑】ことを、
e dalle sue rovine Ilio rinasca.そして イリオス【= イリオ = トロイア】は その崩壊から 復活する。

ANDROMACAアンドローマカ
(Me sventurata!)(不幸な私!)

ERMIONEエルミオーネ
(E che dirà l'ingrato?)(それで 恩知らずの男は なんと 言うつもりか?)

ATTALOアッタロ
(Come ardito si espresse!)(なんと 向こう見ずに 自分の考えを言い表した ことか!)

FENICIOフェニーチョ
(Oh Ciel! prevedo l'ire di Pirro,(ああ 天よ! 私は ピッロの怒りを 予見している、
e gelo e mi confondo!)そして 私は 凍っている そして 混乱している!)

PIRROピッロ
Alla Grecia, ed a te così rispondo.ギリシャに、そして 君に このように 私は 答える。
(scende dal trono)(玉座から 下りる)
In lui tu nudri / fiera serpe nel sen.
ピッロがアスティアナッテを世継にしようとしていることを指す。次のピッロのアリアから分かるように、ピッロはアンドローマカに結婚を認めさせるためには、アスティアナッテを世継にすることも考えている。それはトロイア王プリアーモの孫がエペイロスの将来の君主になることであり、トロイア残党がギリシャに復讐することを恐れているギリシャ人たちにとって決して容認できないことである(第2幕フィナーレでオレステが述べていることから、結局このことがピッロの命取りになったことが分かる)。

N. 6
Aria Pirro

Pirro

Ermione
Andromaca
Pilade
Attalo
Fenicio
Coro
Allegro
4/4
B-flat major
PIRROピッロ
Balena in man del figlio【アキッレの】息子の手の中で 光っている
l'asta di Achille ancora,アキッレの槍は まだ、
né sa temer periglioそれでも 危険を 恐れることを 知らない
di Troia il vincitor.トロイアの勝者は【≒ それでも トロイアを滅ぼしたギリシャは 危険を 恐れなくてもよい】
Delle mie prede io voglio私の戦利品を 私は
disporre a mio talento:私の意向で 思い通りに使う 【↑】ことを望む【≒ 私の捕虜たちは 私の思う通りに 扱うつもりだ】
meco vedrai sul soglio君は 見るだろう 玉座の上に 私と共に
forse Astianatte ancor.ことによると アスティアナッテもまた。

ERMIONEエルミオーネ
Che parli?君は 何を 話しているのか?

ANDROMACAアンドローマカ
(Oh vana speme!)(ああ 虚しい希望だ!)

ORESTEオレステ
Dunque ha ragion se freme,それゆえに それ【= ギリシャ】は 道理を 持っている もし それ【= ギリシャ】が 震えるとしても、
se un figlio a lei ribelleそれ【= ギリシャ 女性名詞】に対して 反逆心のある息子を
teme la Grecia in te.ギリシャが 君に 恐れるとしても【≒ だからこそ、ギリシャに復讐をしかねないエットレの息子が 君の手元にいることに ギリシャが 恐怖を覚え 震えるとしても 当然だ】

PIRROピッロ
Per lei sfidai le stelle,それ【= ギリシャ 女性名詞】のために 私は 星々に 勇敢に立ち向かった、
di lauri ornai sue chiome,私は その【= ギリシャの】頭髪に ゲッケイジュを 飾った【≒ 私は ギリシャのために 運命に歯向かった、そしてギリシャに 栄冠を 授けた】
deve di Grande il nome,それ【= ギリシャ】は 偉大さという名を、
le sue vittorie a me.その【= ギリシャの】勝利を 私に 追っている【= ギリシャの名声も、ギリシャの勝利も 私のおかげである】

ERMIONE E ANDROMACAエルミオーネ と アンドローマカ
(Dolce speranza! oh come(甘い希望よ! ああ なんと
quest'alma ti perdé!)この魂は おまえを 失ったことか!)

ORESTE, PILADE, ATTALO, FENICIO E COROオレステ、ピラーデ、アッタロ、フェニーチョ と 合唱
(Quel cor di calma oh comeああ 何と あの心は 平静を
capace più non è!)もはや 収容できないことか【≒ なんと あの心は もはや 平静を 保っていないことか】
急 / 緩 / 急 の三部形式のアリア。
急。

Andantino
6/8
D major
PIRROピッロ
(ad Andromaca)(アンドローマカに)
Deh serena i mesti rai,お願いだから 悲し気な眼差しを 落ち着かせなさい、
spegni alfin tanto rigore,ついに たくさんの手厳しさを 弱めなさい、
e pietosa accogli un core,そして 哀れみ深く 心を 受け入れなさい、
che offre a te l'amante e il Re.それ【= 心】は 君に 愛する人と 王を 申し出ている。

ERMIONEエルミオーネ
(E resisti o mio furore?(それで おまえは 耐えるのか ああ 私の激情よ?
e il soffrite astri tiranni?それで おまえたちは そのことを 我慢するのか 暴虐な星々よ?
Ah! quel sen, nido d'inganni,ああ! あの胸を、欺瞞 ぎまん の巣窟を、
ite, o furie, a lacerar!)ああ フリアエ【= 復讐の3女神】よ、ずたずたに切り裂きに 行きなさい!)
緩。

Allegro
2/2
B-flat major
PIRROピッロ
【(エルミオーネに)】
Non pavento: quest'alma ti sprezza;私は 恐れていない: この魂は 君を 軽蔑している;
con me invano si ostenta fierezza.私に対して 残酷が 虚しく 装われている【≒ 君が 私に 厳しいふりをしても 無駄だ】
Son già infrante le nostre catene,私たちの絆は 既に 砕けた、
puoi tu a Sparta tranquilla tornar.君は おとなしく スパルタに 帰ってよい、
経過句。

(Allegro)
2/2
B-flat major
Altre tede mi accende già Imene,イメーネ【= ヒュメン,ヒュメナイオス,婚礼の神】は 既に 別の 私の松明 たいまつに 火を点けている【≒ 私に 別の結婚を 促している】
per me amico va il cielo a brillar.天は 私に好意的に 輝こうとしている

CORO合唱
(Ah! di Marte la tromba già viene(ああ! マルテ【= マルス,軍神】のラッパが 既に
l'ire ultrici ne' petti a destar!)【彼らの】胸の中に 復讐の怒りを 目覚めさせている!)

ERMIONE E ANDROMACAエルミオーネ と アンドローマカ
(Più non reggo a sì barbare pene!(私は もはや 耐え【られ】ない これほどの残酷な苦悩に!
già va l'alma nel seno a mancar.)既に 胸の中の 魂は ぐったりし始めている。)

ORESTEオレステ
(Ah chi sa, se, pentito il mio bene(ああ 誰が 分かるのか、私の最愛の人が、考えを改めて【≒ 心変わりをして】
il mio duolo saprà mitigar?)私の苦悩を 静める ことができる 【↑】かどうか を?)

PILADEピラーデ
(Ah chi sa, se, pentito il suo bene(ああ 誰が 分かるのか、彼の最愛の人が、考えを改めて【≒ 心変わりをして】
il suo duolo saprà mitigar?)彼の苦悩を 静める ことができる 【↑】かどうか を?)

ATTALO E FENICIO
(Ah! di Marte la tromba già viene(ああ! マルテ【= マルス,軍神】のラッパが 既に
l'ire ultrici ne' petti a destar!)【彼らの】胸の中に 復讐の怒りを 目覚めさせている!)

(Pirro entra col corteggio. Ermione, ed Oreste si allontanano).(ピッロは 入る 従者と共に。エルミオーネは、そして オレステは 遠ざかる)
急。

l'ire ultrici ne' petti a destar!)
ultrici は ultore の女性形 ultrice の複数形。この場合は形容詞 復讐の で、女性複数名詞の ire に掛かっている。

(Ah chi sa, se, pentito il mio bene
この場合の pentire は 考え方を改める。

[Recitativo] Dopol'Aria di Pirro
Recitativo


4/4
(C major)
PILADEピラーデ
(Periglioso è il restar: Sciolgansi al vento(留まることは 危険だ; 風に 解放されるように
le vele argive. Oresteアルゴスの【≒ ギリシャの】【船団の】帆が。オレステは
mi seguirà: vano in quel cor mai scende私に ついて来るだろう: 決してあの心に 虚しく 下りない
della mia voce il suon.)私の声の音が【≒ 私の声が 彼の心に 届かないことなど 決してない】。)
parte去る

ANDROMACAアンドローマカ
Vieni, Fenicio,来なさい、フェニーチョよ
guidami a Pirro: esca d'inganno: io mai私を ピッロに 案内しなさい: 私が 欺瞞を 脱するように【≒ 私は ピッロの策略から 逃れよう】: 私は 決して
sarò sua sposa.彼の妻には ならない。

FENICIOフェニーチョ
A dissipar se giungiもし 君が 一掃するに 至る ならば
il suo folle deliro,彼の 狂気の妄想を、
riconoscente avrai Grecia, ed Epiro.君は ギリシャに ありがたく思わ させるだろう、そして エーペイロスに【≒ 君は ギリシャと エーペイロスを 君に 感謝させるだろう】
(partono)(【二人とも】 去る)

(SCENA Ⅴ)(第5景)
(Parte esterna della reggia, come prima)(王宮の外側のあたり、以前と同様に)
(Ermione, Cleone, indi Oreste)(エルミオーネ、クレオーネ、それから オレステ)

CLEONEクレオーネ
E Pirro ancor di tanti oltraggi ad ontaでは おびただしい侮辱にもかかわらず ピッロが いまだに 占めているのか
occupa il tuo pensier?君の気持ちを?

ERMIONEエルミオーネ
No, lo detestoいいや、私は 彼を 憎んでいる
quanto l'amai... vendetta io bramo: ultrici私が 【かつて】 彼を 愛していた【のと同じ】くらいに… 私は 復讐を 切望している: 復讐の
idee sol volgo in mente.考え だけを 頭脳の中で 思い巡らせている。

CLEONEクレオーネ
Oreste è all'uopo,オレステが 役に立つ、
serva Oreste al tuo cenno. Il vidi...オレステを 君の指示に 取っておきなさい。君は 彼を 見ている…

ERMIONEエルミオーネ
(Oh Dio!)(ああ 神よ!)

CLEONEクレオーネ
Sull'orme tue confuso, palpitante,君の足跡の上で 混乱して、胸がどきどきしながら、
miralo, ei già sen viene.彼を見なさい、彼は もう 来ている。
La fierezza deponi.残酷を 下に置きなさい【≒ 冷たく あしらうでない】

ERMIONEエルミオーネ
A tenerezze優しさから
sai, che quest'alma è schiva.君は 知っている、この魂は 避けたがっている ことを。

CLEONEクレオーネ
Vuoi vendicarti? In lui la speme avviva.君は 復讐をしたいのか? 彼に 希望を 活気づけなさい。
parte去る

ERMIONEエルミオーネ
Oh istante! a quell'aspettoああ 【なんという】瞬間だ! あの姿に
perché mi balzi in petto o core ingrato?なぜ 私の胸の中で おまえは 飛び跳ねるのか【≒ 激しく鼓動するのか】 ああ 恩知らずの心よ?

ORESTEオレステ
Ah mio Nume adorato! ormai la sorteああ 私の熱愛する神よ! やっと 運命は
quel piacer mi concede,あの喜びを 私に 授けている、
che sospirai ben mille volte, e mille:それを 私は 待ち望んだ たっぷり千回、そして千【回】
vagheggio alfin le amate tue pupille!ついに 私は 愛する君の目を じっと見つめている!

ERMIONEエルミオーネ
Rendi d'ingiurie invece無礼の代わりに 君は 返すのか
soavi accenti a me? no, generoso私に 優しい言葉を? いいや、【↓】そんなに 寛容で
tanto Oreste non fia: troppo rammentoないだろう オレステは: 私は あまりにも【よく】 覚えている
il mio rigore, e appien dolente io sono!私の手厳しさを、そして 私は まったく 気の毒に思っている!

ORESTEオレステ
Amami, o cara, e al tuo rigor perdono.私を 愛しなさい、ああ いとしい人よ、そうすれば 私は 君の手厳しさを 容赦する。
N. 7
Finale Primo










Maestoso
4/4
C major
ERMIONEエルミオーネ
Amarti?君を 愛する だと?

ORESTEオレステ
Ah sì, mio ben!ああ そうだ、私の 最愛の人よ!
amor ti chieggo... amor!私は 君に 愛を 求めている… 愛を!

ERMIONEエルミオーネ
E come, se dal senそれで どうやって、【↓】私の胸から
mi fu rapito il cor?心は 奪われたのに?

ORESTEオレステ
E non poss'io sperar?それでは 私は 期待する ことができないのか?
mi resta sol morir?死ぬことだけが 私に 残っているのか?

ERMIONEエルミオーネ
Ah! me pria vedrai spirar...ああ! 君は 先に 私が 死ぬのを 見るだろう…
ciò basti al tuo martir.そのことが 君の苦悩に 十分であるように【≒ 私が死ぬことで 君の苦悩が 終わればいい】

ORESTEオレステ
Ah no... piuttosto... ingrata!ああ いいや… むしろ… 恩知らずの女よ!
dì, che mi aborri ognor.言いなさい、君は 私を 今でもやはり 憎悪している と。

ERMIONEエルミオーネ
Non son così spietata,私は それほどに 無情ではない、
sol la tua pace anelo:私は ただ きみの平安だけを 希求している:
fervidi voti al cielo天に 熱烈な 願いを
volsi per te finor.私は 君のために これまで 向けた。

ORESTEオレステ
Oh del destin crudeleああ 残酷な運命の
vicende a me funeste!私にとって 不幸をもたらす出来事だ!
Sol voti hai per Oreste,君は ただ オレステのためだけに 願いを 持った、
ma sacro a Pirro è il cor!しかし 心は ピッロに 捧げられている!
Maestoso
4/4
C major
ERMIONE E ORESTEエルミオーネ と オレステ
Anime sventurate,不幸な魂たちよ、
che al par di me soffrite,それら【= 魂たち】は 私と 同じだけ 苦しんでいる、
se v'ha maggior, voi dite,おまえたち【= 魂たち】は 言いなさい、より大きい【苦悩】があるかどうか、
del fiero mio dolor!私の厳しい苦悩よりも!
ここは前の部分から楽譜上は速度も拍子も調性も変化がないが、音楽の感触が明らかに異なるので、区切りを入れた。

Marziale
4/4
F major
(SCENA Ⅵ)(第6景)
(Coro di Grandi, e di donzelle, Pirro con seguito, indi Andromaca, Pilade, Fenicio, Attalo, Cefisa, e Cleone in ascolto)(貴族たちの合唱、そして 若い娘たちの【合唱】、ピッロ 従者を伴った、それから アンドローマカ、ピラーデ、フェニーチョ、アッタロ、チェフィーザ、そして クレオーネ 聞き耳を立てて)

CORO合唱
Alfin l'Eroe da forteついに 強い英雄は
d'inaugurato affetto忌まわしい情愛の
il rio poter domò.悪質な力を 鎮めた。

ORESTEオレステ
(Quai voci?)(あの声は?)

ERMIONEエルミオーネ
(Quai voci?)(あの声は?)

CORO合唱
Riede alle sue ritorte,彼は 彼の縄【≒ 絆】に 戻る、
torna al suo bel diletto,彼は 彼の 美しい 愛する人に 戻る、
da saggio trionfò.彼は 分別によって 勝利を収めた。
Maestoso
4/4
F major
PIRROピッロ
(ad Oreste)(オレステに)
Dal valor de' detti tuoi君の言葉の功績によって【≒ 君の言葉に 従って】
fu quest'alma alfin convinta:この魂は ついに 納得した:
se pietà l'avea già vinta,哀れみが 既に 勝利を得たからには、
al dover si ridestò.私は 義務に 再び目を覚ました。
Deggio al padre, alla mia gloria私は 【私の】父に、私の功績に 負っている
quel, che a me la Grecia or chiede;今 ギリシャが 私に 求めていることを【≒ 今 ギリシャが 私に 求めていることは 父アキッレに、私の武功に 責任がある】
e de' Teucri il solo eredeそして トロイア人たちの 唯一の後継者を
or fra' lacci renderò.私は 今 縄【≒ 束縛】に 戻そう。
Primo Tempo [Marziale]
4/4
F major
CLEONE, PILADE E FENICIOクレオーネ、ピラーデ と フェニーチョ
(Stelle!)(星々よ!)

ANDROMACA, CEFISA ED ATTALOアンドローマカ、チェフィーザ と アッタロ
(Misera!)(哀れな女だ!)

ORESTEオレステ
(Che farò?)(私は 何を しよう?)

ERMIONEエルミオーネ
(E dò fede(それで 私は 信用を 与えるのか
all'ingrato?)恩知らずの男に【≒ 私は あの不誠実な男を 信じてよいのだろうか】?)

PIRROピッロ
Pace regni, e ne sia pegno平和が 支配するように、そして そのことについて 証であるように
questa man,この【右】手が、
(ad Ermione)(エルミオーネに)
che a te tributo.それを 私は 君に 捧げている。
(Così paghi il suo rifiuto(こうして 彼女の拒絶の 報いを受けるように
quella rea, che mi sprezzò.)あの邪悪な女が、その者は 私を 軽蔑した。)
Andantino
2/4
A-flat major
ERMIONEエルミオーネ
(Sperar... possi'io?)(期待することを… できるのか 私は?)

PILADEピラーデ
(Temer... possi'io?)(恐れる… べきなのか 私は?)

PIRROピッロ
(Penar... dovrò?)(苦しむ… だろうか 私は?)

ANDROMACAアンドローマカ
(Morir... dovrò?)(死なねば… ならないのか 私は?)

CLEONE, CEFISA ED ATTALOクレオーネ、チェフィーザ と アッタロ
(Qual cangiamento!)(何という 【心の】変化だ!)

FENICIOフェニーチョ
(Un Dio(神が
forse in quel cor parlò?)ことによると あの心に 語ったのか?)

ERMIONE, CLEONE, ANDROMACA, CEFISA, PILADE, PIRRO E ATTALOエルミオーネ、クレオーネ、アンドローマカ、チェフィーザ、ピラーデ、ピッロ と アッタロ
(Sì crudo affanno e rioこれほどに 過酷な苦悩を そして 悪質な【苦悩を】
soffrir come si può?どうやって 耐える ことができるというのか?
che fiero stato è il mio!私の【状態】は 何と 厳しい状態なことか!
che far, che dir non so!)何をする【べき】か、何を言う【べき】か 私は 分からない!

FENICIOフェニーチョ
(Che far, che dir non so!何をする【べき】か、何を言う【べき】か 私は 分からない!
Primo Tempo [Marziale]
4/4
A-flat major
PIRROピッロ
(ad Attalo, che parte con poche guardie)(アッタロに、その者は 去る 数人の衛兵と共に)
A me Astianatte.私の元に アスティアナッテを。

ANDROMACAアンドローマカ
Ah! suppliceああ! 嘆願者が
a' piedi tuoi...君の足元に…

PIRROピッロ
Ti scosta!遠ざかりなさい!

ANDROMACAアンドローマカ
(ad Ermione)(エルミオーネに)
Sul tuo bel cor...君の 気高い心に…

ERMIONEエルミオーネ
T'invola!消え去りなさい!
Sposo! al mio sen deh vola...夫よ! 私の胸に お願いだから 飛んで来なさい…
più che a bramar non ho!私は さらに多く 切望することを 持っていない【≒ 私には それ以上 望むことは ない】

ORESTEオレステ
(Empia!)(無慈悲な女め!)

PILADEピラーデ
(Che fai?)(君は 何を するのか?)

ORESTEオレステ
(Mi lascia!)(私を 放っておきなさい)

FENICIOフェニーチョ
(Oh qual piacer!)(ああ なんという 喜びだ!)

ERMIONEエルミオーネ
(Oh qual piacer!)(ああ なんという 喜びだ!)

ANDROMACA, ORESTE E PIRROアンドローマカ、オレステ と ピッロ
(Che ambascia!(なんという 息苦しさだ!
Le pene che mi straziano,苦悩を それは 私を ひどく苦しめている
come frenar potrò?)どのように 私は 抑える ことができるのだろうか?)

(Attalo conduce tra le guardie Astianatte)(アッタロは 衛兵たちの間の アスティアナッテを 連れて来る)

PIRROピッロ
È questi, vedilo...この人が、彼を 見なさい…
d'Ettore il figlio.エットレの息子だ。
(mentre è per consegnarsi Astianatte, Andromaca si frappone, e disperata dice a Pirro)(彼が アスティアナッテを 自らに 渡そうと【≒ アスティアナッテを 自分の方に 引寄せようと】すると、アンドローマカが 間に入り、そして 絶望して ピッロに 言う)

ANDROMACAアンドローマカ
Signor, concedi..陛下よ、【私に】 許しなさい…
miglior consiglio.より適切な 決意を。

PIRROピッロ
(con gioia)(喜びをもって)
E fia possibile?では それは ありうるのだろうか?

ERMIONEエルミオーネ
Che dici, o perfida!君は 何を 言っているのだ、ああ 恩知らずの女よ!
voi trascinatelo!君たち【= 衛兵たち】は 彼【= アスティアナッテ】を 連れて行きなさい!

PIRROピッロ
Fermate olà!止まりなさい そら!
miglior consiglio.
この consiglio は 決意 で採った。ピッロが(策略で)エルミオーネと結婚し、アスティアナッテをギリシャに引き渡すと宣告したので、アンドローマカは息子の命を守るためにはピッロの求婚を受け入れざるを得なくなった。

Allegro
2/2
C major
ERMIONEエルミオーネ
(prendendolo per mano, ed in tuono deciso)(彼【= ピッロ】の手を 掴んで、そして 決然たる口調で)
Pirro, deh serbamiピッロよ、お願いだから 守りなさい 私に
la fé giurata,誓った 忠誠を、
è ormai colpevole今ではもう 道を外れている
la tua pietà.君の哀れみは。

PIRROピッロ
Tigre d'Ircania!ヒルカニアのトラめ!
furia spietata!無慈悲なフーリア【≒ 復讐の女神】め!
chi mai ti superaいったい 誰が 君を 凌ぐのか
in crudeltà?残酷さにおいて?

ANDROMACAアンドローマカ
(Ah! pria di perderti(ああ! 君を 失う よりも前に
o figlio amato,ああ 愛する息子よ、
tua madre esanime君の母親は 生命のなく
restar saprà!)なる ことができるだろう!)

ERMIONE, CLEONE, ORESTE E PILADEエルミオーネ、クレオーネ、オレステ と ピラーデ
Come resistereどうやって 耐える
può il cor straziato,ことができるのか 痛めつけられた心は、
o inesorabileああ 情け容赦しない
avversità!逆境よ!

FENICIO E COROフェニーチョ と 合唱
(Quai nuovi fulmini(なんという 新たな雷が
minaccia il fato!宿命を 脅かしていることか!
sparì l'amabile消えた 愛すべき
serenità!)晴朗は【≒ 気持ちの良い 晴天は 消え去った】!)

PILADEピラーデ
(Oreste! ah sieguimi,(オレステよ! ああ 私に ついて来なさい、
per te pavento...私は 君のために 恐れている…
No, più quell'animaいいや、あの魂は もう
ragion non ha!)理性を 持っていない!)

ORESTEオレステ
(Amico! ah lasciami(友よ! ああ 私を 置いておきなさい
al rio tormento!悪質な苦悩に!
morte al mio spasimo死が 私の胸の痛みに
termin darà!)終わりを 与えるだろう!)
ATTO SECONDO
[Recitativo]
Allegro
4/4
C major
(SCENA Ⅰ)(第1景)
(Atrio della reggia: si vegga il mare da lungi, e per mezzo di un intercolunio, sul quale sia costruito magnifico loggiato)(王宮の柱廊に囲まれた中庭: 遠くから 海が 見える、そして 柱間 はしらま を通じて【海が 見える】、その上に 立派な 長い開廊が 建築されている)
(Attalo, che frettoloso incontra Pirro, Cleone, che sopraggiunge, e resta in ascolto, indi Andromaca, e Cefisa)(アッタロ、その者は 大急ぎで ピッロに 出会う、クレオーネ、その者は 不意に来る、そして 聞き耳を立てている、それから アンドローマカ、そして チェフィーザ)
Recitativo


4/4
(C major)
ATTALOアッタロ
Liete novelle, o Sire!喜ばしい知らせが、ああ 陛下よ!

PIRROピッロ
E che mai? parla...それで いったい 何が? 話なさい…

ATTALOアッタロ
Propizia a' voti tuoi si arrende alfineついに 君の願いに 情け深く 屈している
la Teucra Principessa.トロイアの王女が。

PIRROピッロ
Oh me felice!ああ 幸せな私だ!
Primo Tempo
4/4
(C major)
Recitativo


4/4
(C major)
PIRROピッロ
Ma.. ma donde il sai?しかし… だが どうして 君は そのことを 知っているのか?

ATTALOアッタロ
Cefisa,チェフィーザは、
che, mia mercé, gli affari tuoi secondaその者は、私の仕事によって、君の関心事を かなえてやっている
nel cor di lei, guari non ha mel disse.彼女の心の中に【≒ その者は、私の指示に従って、彼女【= アンドローマカ】の心が 君の求めを受け入れるよう 仕向けている】【チェフィーザは】この間【≒ 先ほど】 私に そのことを 言った。
A vincerla bastò l'alto decreto,彼女に勝つには 強い命令が 十分であった、
che a' Greci in braccio abbandonava il figlio.それは ギリシャ人たちの腕の中に 息子を 委ねた という【≒ アンドローマカを屈服させるには、アスティアナッテをギリシャ人たちに引き渡すという 厳しい命令で こと足りた 】

PIRROピッロ
Ah! del piacer l'eccessoああ! 喜びの過度が
mi rapisce a me stesso!私を 私自身から 強奪している【≒ 喜びのあまり 私は 有頂天になっている】

ATTALOアッタロ
Alfin coronaついに 冠を被せる
tante mie cure amico il ciel!友好的な天が たくさんの私の配慮に【≒ 親切な天が 私の苦労に 報いてくれる】

CLEONEクレオーネ
(Che ascolto!)(私は 何を 聞いているのか!)

PIRROピッロ
Servo fedel! quanto a te deggio! ah venga忠実な使用人だ! どれほど 私は 君に 負っていることか! ああ 来るように
la regal donna a me. Dal suo bel labbro【族】の婦人が 私の元に。彼女の美しい口から
si pronunzi la mia彼女が 宣告するように 私の
felicità. Dell'inatteso annunzio,幸せを。思いがけない知らせに、
che a tristi giorni mieiそれは 私の 悲しい日々に
promette ormai lieta, e brillante aurora,今ではもう 喜びを 保証している、そして まばゆい夜明けを、
quest'alma mia pende dubbiosa ancora.この私の魂は また再び 疑わしく 傾いている。

ATTALOアッタロ
Tutto risponde al tuo desir. Non vedi,すべては 君の願いに 応えている。君は 見ていないのか、
che volontaria a te si reca...彼女が 自発的に 君の元に 来ているのを…

PIRROピッロ
Oh stelle!ああ 星々よ!
Andromaca! e fia ver?アンドローマが! それで 本当なのか?

CLEONEクレオーネ
(La tua sciagura(君【= エルミオーネ】の災難を
or che da me saprai,君は 私から 知ることになるだろうからには、
infelice Ermion! che far potrai?)不幸なエルミオンよ! 君は 何を するべきなのだろうか?)
parte去る


CEFISAチェフィーザ
【(アンドローマカに)】
(E ancor perplessa? ah! ti rivolgi al figlio,(それで 【君は】 まだ 決断できないのか? ああ! 息子の方に 向き直りなさい、
e se perderlo vuoi, cangia consiglio.)そして もし 君が 彼を 失いたいのであれば、熟慮を変えなさい【≒ 思いあぐねることをやめなさい】。)
parte去る

ANDROMACAアンドローマカ
(Misera! e che farò?)(哀れな女よ! それで 私は 何を するのだろうか?)

PIRROピッロ
Sperar poss'io私は 期待する ことができるのか
pietosa al mio martir colei, che adoro?この女が 私の苦悩に 哀れみを催すのを、その者を 私が 熱愛している?
colei, che il viver mio governa e regge?この女が、その者は 私の生きること【≒ 命】を 支配している そして 治めている?

ANDROMACAアンドローマカ
(Scoppiami, o cor!)(破裂しなさい、ああ 私の心よ!)
(reprimendo la sua ripugnanza)(彼女の嫌悪を 押さえつけて)
ah! il tuo voler mi è legge.ああ! 君の意志は 私の法律である。

PIRROピッロ
Oh cari accenti! ah vola,ああ いとしい言葉だ! ああ 飛んで行きなさい、
Attalo, al tempio: alla festiva pompaアッタロよ、聖堂に: 楽し気な豪華【≒ 盛大な結婚式】
tutto si affretti, e sia da ceppi sciolto,すべてが 急ぐように、そして 拘束が 解かれるように、
anzi qual figlio mio si rispetti Astianatte.それどころか 私の息子のように アスティアナッテが 敬意を表されるように。

(Attalo parte)(アッタロは 去る)

ANDROMACAアンドローマカ
(Oh istante! oh Dio!)(ああ 瞬間だ! ああ 神よ!)
Alfin corona
この場合の coronare は

nel cor di lei, guari non ha mel disse.
non ha guari = non molto tempo fa あまりたくさんの時間の前でなく = この間,少し前に。guari は molto と同義だが否定文でのみで用いられる。

N. 8
Duetto [Andromaca - Pirro]

Andromaca
Pirro
Andantino
6/8
C major
ANDROMACAアンドローマカ
(Ombra del caro sposo!(いとしい夫の影よ!
tu mi circondi irata?君は 怒って 私を 取り巻いているのか?
deh torna al tuo riposo,お願いだから 君の平安に 戻りなさい、
non dubitar di me.私を 疑うでない。
Spero salvarti un figlio,私は 君の息子を 守ることを 望んでいる、
ma non mancar di fé.)だが 誠意を 欠くことはない。)

PIRROピッロ
A che quel mesto ciglio?その 悲し気な眼は なんのために?
incerta ancor perché?なぜ まだ ためらっているのか?
Del greco nembo ostileギリシャの 敵意ある大群の
puoi paventar l'offesa,攻撃を 君は 恐れる ことができるのか、
se Pirro è in tua difesa,ピッロが 君の防御であるのに、
se scudo è al figlio, a te?【君の】息子にとって 盾であるのに、君にとって?

ANDROMACAアンドローマカ
Signor... sospendi... oh Dio!陛下よ… 中止しなさい… ああ 神よ!

PIRROピッロ
Ah! non fia ver, ben mio!ああ それは 本当ではないだろう、私の最愛の人よ!

ANDROMACAアンドローマカ
Temo di avversa stella私は 恐れている 敵対する星の
il barbaro rigore.残酷な手厳しさを。

PIRROピッロ
Tutto cangiò, se Amoreすべては 代わるだろう、愛の神が
mi rese alfin mercé.ついに 私に 哀れみを 与えたのなら。

ANDROMACAアンドローマカ
Sospendi...中止しなさい…

PIRROピッロ
No.いいや。
Allegro
4/4
C major
Vieni a giurar sull'ara,祭壇の上で 誓いに 来なさい、
vieni a regnar, mia diva:支配しに来なさい、私の女神よ:
della tua sorte avara君の けちな【≒ 幸せを出し渋る】運命の
cessò la crudeltà.残酷さは 終わった。

ANDROMACAアンドローマカ
(M'avrai, ma fredda spoglia,(君は 私を 手に入れるだろう、だが 冷たい死体を、
e lieta a Dite in senoそして 喜んで 冥界に 胸の中では
fida al consorte almeno少なくとも 配偶者に 誠実に
quest'alma scenderà.)この魂は 下りるだろう。)

(Pirro parte)(ピッロは 去る)
[Recitativo Dopo il Duetto]
Recitativo


4/4
(C major)
(SCENA Ⅱ)(第2景)

(Andromaca, indi Ermione seguito da Cleone, e Fenicio)(アンドローマカ、それから エルミオーネ クレオーネに ついて来られて、そして フェニーチェに)

ANDROMACAアンドローマカ
Sia compiuto il mio fato.私の宿命が 完了されるように。
Altro io non veggo私は 見【ることができ】ない 他の
scampo al periglio estremo,逃げ道を
che al mio consorte infida,私の配偶者に 不実な 他は、
o spietata mi rende, e matricida.あるいは 自分から残酷になって、そして 【息子を】殺す母親に【自分からなる】【他は】
Pria giuri a' Numi in facciaまず 神々の前で 【↓】 ピッロが 誓うように
Pirro salvezza al tenero Astianatte.幼いアスティアナッテへの 安全を。
e poi mi vegga... oh pena!そして それから 彼が 見るように… ああ 苦悩だ! 私が
a' piedi suoi spirar. Della mia morte彼の足元で 死ぬのを。私の死の
la memoria saprà pel figlio almeno記憶は 少なくとも 息子に
scintilla di pietà serbargli in seno.彼の胸の中に 哀れみの口火を 取っておく 【↑】ことができるだろう。

ERMIONEエルミオーネ
Ove, fatal nemica,どこへ、宿命の敵の女よ、
ove drizzi i tuoi passi? al tempio? al trono?どこへ 君の歩みを 向けているのか? 聖堂か? 玉座か?
o spietata mi rende, e matricida.
matricida は伊伊辞典でも 母親殺しの犯人 という意味しかないが、ここでは合わない。ここでは明らかに 殺人を犯す母親 の意味で用いられている。

scintilla di pietà serbargli in seno.
ここでの scintilla は 口火。息子が成長して母親の死の理由を知った時に、彼の心の中に残されていた幼い時の記憶が口火となって母親への哀れみを燃え上らせることだろう、という意味。

Allegro
4/4
(C major)
Ma fin ch'io viva, ah non sperar giammai,だが 私が 生きている限り、ああ 決して 期待するでない、
che la man stringerai dell'infedele.不実な人の手を 握り締めるだろう と。

ANDROMACAアンドローマカ
Aggiungi a' mali miei le tue querele?君は 私の不幸に 君の苦情を 加えるのか?

FENICIOフェニーチョ
Ma dì, non sparse invanoところで 言いなさい、彼が 無益に 流布させたのではないと
dunque la fama, che fra breve a Pirro...それでは 報せを、間もなく ピッロに…【≒ それでは 君が 間もなく ピッロに【屈する】】 という知らせを ピッロが 無駄に 流したわけではないと…

ERMIONEエルミオーネ
E qual dubbio, o Fenicio? i vezzi, e l'arti,それで どんな疑いを【持っているのか】、ああ フェニーチョよ? 愛らしさは、そして 手管は、
che usò la scaltra a riportar vittoria,それを 狡猾さが 勝利を 持ち帰るために 用いた、
han sepolto in oblio promesse, e gloria.忘却に埋葬した 約束を、そして 栄光を。

ANDROMACAアンドローマカ
Arti: vezzi! deh taci, e in me rispetta手管: 愛らしさ! お願いだから 黙りなさい、そして 私に 敬意を表しなさい
chi non conosci appien... potrei... ma tantoその者を 君は 十分には 理解していない… 私は できるのだが… だが 非常に
da te diversa io sono,私は 君とは 異なっているので、
che generosa all'ire tue perdono.私は 寛大に 君の怒りを 容赦する。
parte去る

FENICIOフェニーチョ
Oh incauto Pirro!ああ 無分別な ピッロだ!

CLEONEクレオーネ
Oh sventurata amica!ああ 不幸な 友の女だ!
N. 9
Gran Scena Ermione

Ermione

Cleone
Oreste
Fenicio
Coro
Vivace
4/4
(C major)
ERMIONEエルミオーネ
Essa corre al trionfo!.. Ah! dov'è Pirro?彼女は 勝利へと 走っている!… ああ ピッロは どこにいるのか?
Perché pria che mi lascia ei non mi ascolta,なぜ 彼が 私を 捨てる よりも前に 彼は 私【の言うこと】を 聞かないのか、
e per l'ultima volta? ah! se ti muoveそして 最後に【もう一度だけ】? ああ! もし 君【の心】を 動かすならば
l'acerbo affanno mio, Fenicio, ah corri,私の 厳しい苦悩が、フェニーチョよ、ああ 走りなさい、
vedi per me l'ingrato... a lui favella...私のために 恩知らずの男に 会いなさい… 彼に 話しなさい…
la data fé, l'amore... i giuramenti...【彼に】与えられた誠意を、愛を…、誓いを…
tutto il tuo labbro al mancator rammenti.すべてを 君の口が 違反者【≒ 婚約を破棄した男】に 思い出させなさい。
Andantino
6/8
A major
Dì, che vedesti piangere,言いなさい、君は 泣いているのを 見た と、
chi non conobbe ancorまだ 知らなかった者が
che volle dir viltà.卑劣と 言うことを 欲していた ことを【≒ ピッロに 伝えなさい 君は まだ 卑劣という言葉の意味を 知らなかった者が 泣いているのを 見た と】
E a queste amare lacrimeそして この 苦い涙に
conceda il traditor裏切者が 与えるように
se non amor, pietà.もし 愛でなくても、哀れみを。
che volle dir viltà.
volere dire - ―を意味する

Recitativo


4/4
(C major)
FENICIOフェニーチョ
Ah! voglia il ciel, che a' detti miei si arrendaああ! 天が 望むように、私の言葉に 従うことを
quell'alma pertinace!あの 強情な魂が!
(parte)(去る)
Allegro
4/4
A major
CLEONEクレオーネ
Eh! non fia degnoええ! 【↓】もはや 相応しくないだろう
più di Ermion chi l'alte doti, i pregiエルミオンに 【↓】彼女の 高い天分を、名誉を
tanto sprezzò di lei!大いに侮蔑している【↑】者は!

ERMIONEエルミオーネ
Taci, e se grata黙りなさい、そして もし 君が 心地よく
esser mi vuoi, lusinga i sensi miei,私を する ことを望むなら【≒ もし 君が 私の 気を 晴らしたいのなら】、私の気持ちを 大いに喜ばせなさい、
pingilo amante, avviva in me la speme,彼が 恋人である と 描きなさい【≒ 彼が 私を 愛していると 言い表しなさい】、私の中の希望を 活気づけなさい。
ch'ei ritorni pentito, e che il rimorso彼が 後悔して 戻る という【希望を】、そして 呵責が
abbia quel cor dal suo fallir già scosso...既に あの心を 彼の 誤りを犯すこと から振り落とした 【↑】という【希望を】
Ah no... senza di lui viver non posso!ああ いいや… 彼無しでは 私は 生きる ことができない!
Andante
2/4
E major
Amata, l'amai,愛されて、私は 彼を 愛した、
l'adoro, sprezzata;私は 彼を 熱愛している、【だが】 軽蔑されて;
e sento, che maiそして 私は 感じている、決して
quest'alma piagataこの 傷つけられた 魂は
l'acerba ferita厳しい傷を
potrà risanar.治す ことができないだろう 【↑↑】と。
Mi tolgan la vita私の命を 奪うように
le atroci mie pene,私の 耐え難い苦悩が、
ma in queste cateneだが 私は この鎖の中で
vo' fida spirar.誠実に 息を引き取る ことを望んでいる。
Moderato
4/4
C major
(Si sente da lungi festiva marcia; indi sul loggiato in prospetto vedesi Pirro, che conduce per mano Andromaca. Il numeroso corteggio attraversa la scena, mentre cantasi il Coro)(遠くから 陽気な行進曲が 聞こえる; それから 正面の長い回廊の上に ピッロが 見える、その者は アンドローマカの手を引いている。大勢の従者が 舞台を横切る、合唱が 歌っている 間に)

CLEONEクレオーネ
Ma che ascolto?ところで 私は 何を 聞いているのか?

ERMIONEエルミオーネ
Qual lieto concento!なんという 陽気な 快い響きだ!

CLEONEクレオーネ
Infelice! mi siegui...不幸な人よ! 私に ついて来なさい…

ERMIONEエルミオーネ
Oh tormento!ああ 苦悩だ!

CLEONEクレオーネ
Delle nozze la pompa si avanza!結婚式の行進が 近付いて来る!

CORO合唱
(Coro, che accompagna il corteggio)(合唱、それを 従者が 随行している)
Premia o Amore sì bella costanza,報いなさい ああ 愛の神よ これほどに美しい節操を、
questa coppia felice tu rendi;おまえは この二人一組に 幸福を 与える;
in que' petti propizio deh scendi,あの胸々の中に 情け深く お願いだから 下りなさい、
e gli avviva di tenero ardor.そして それらを 柔らかい熱情で 活気づけなさい。

ERMIONEエルミオーネ
Ah! lo perdo... ah non v'è più speranza!ああ! 私は 彼を 失う… ああ もはや 希望は ない!
M'abbandona l'usato vigor!いつもの活力が 私を 離れている【≒ 私から いつもの活力が 失われていく】
Moderato
2/4
C major
(In questo frattempo Ermione è quasi priva di sensi, guarda sull'alto, e non vedendo più Pirro, languente esclama:)(その間に エルミオーネは ほとんど 気を失っており、上を向いて 眺める、そして もはや ピッロを 見ることなく、意気消沈して 感情を露わにして叫ぶ)

ERMIONEエルミオーネ
Un'empia mel rapì!無慈悲な女が 私から 彼を 強奪した!
egli più mio non è!彼は もう 私の男ではない!
come si può cosìどうやったら これほどに
mancar di fedeltà?誠意を 欠く 【↑】ことができるのか?
E questa soffre il cielそして 天は 我慢するのか この
perfidia, ed empietà?不実な行為を、そして 背徳的な行動を?
e ancor per l'infedelそして それ【= 天】は 不貞に対して まだ
un fulmine non ha?雷を 持っていないのか?
[Allegro]
4/4
C major
(SCENA Ⅲ)(第3景)
(Coro di donzelle, e di amici di Ermione, indi Oreste)(若い娘たちの合唱、そして エルミオーネの友人たちの【合唱】、それから オレステ)

CORO合唱
Il tuo dolor ci affretta...君の苦悩が 私たちを 急がせている…
a consolarti...君を 慰めに…

ERMIONEエルミオーネ
Andate!行きなさい!
tutti da me sgombrate!皆 私から 遠ざかりなさい!
vendetta... ah sì... vendetta復讐が… ああ そうだ… 復讐
sol pace a me darà.だけが 私に 平安を 与えるだろう。

CORO合唱
L'addita: una vendettaそれを 教示しなさい: 復讐を
chi a te negar potrà?誰が 君に 復讐を 否定する ことができるだろうか?
[Allegro]
4/4
E major
ORESTEオレステ
Che più a veder si aspetta?【あれを】見て さらに 何が 待たれているのか 【≒ 婚礼の行列を見て 君は これ以上 何を 待つというのか】
Sei tu così oltraggiata!君は これほどに 侮辱されたのだ!

ERMIONEエルミオーネ
Dì... mi ami ancora?言いなさい… 君は 私を まだ 愛しているのか?

ORESTEオレステ
Ingrata!嫌な女だ!
puoi dubitarne?君は そのことについて 疑う ことができるのか?

ERMIONEエルミオーネ
Ah vanne...ああ ここから 行きなさい…
Se l'amor mio ti è caro,もし 私の愛が 君にとって 大切ならば、
(gli presenta un pugnale)(彼に 短剣を 差し出す)
immergi questo acciaroこの剣を 突き通しなさい
nel sen del traditor.裏切者の胸に。
Del sangue suo fumante彼の血で 蒸気を出す
fa, ch'io lo vegga... e allor...それ【= 剣 男性名詞単数】を 私が見るように させなさい【≒ 彼の血で 湯気を立てている剣を 私に 見させなさい】… そうすれば その時…

ORESTEオレステ
(inorridito)(ぞっとして)
Che dici mai!君は いったい 何を 言っているのだ!

ERMIONEエルミオーネ
Tu amante!君が 【私を】愛する者だなんて!
Di me degno non sei,君は 私に 相応しくない、
o vile! o debil cor!ああ 臆病者よ! ああ 決断力に欠ける心よ!

ORESTEオレステ
Incerto... palpitante...ためらって… 心臓がどきどきして…
chi regge i passi miei?誰が 私の歩みを 支えるのか?
Quanto mi costi o Amor!なんと おまえは 私に 【苦しみを】 要するのか ああ 愛の神よ!
(parte confuso)(去る 混乱して)
Più mosso
4/4
E major
ERMIONEエルミオーネ
Se a me nemiche o stelle,もし 【↓ おまえたちが】私に 敵意ある【↓ のでない】ならば ああ 星々よ、
se irate ancor non siete,もし おまえたちが もう 怒っていないならば、
la destra voi reggeteおまえたちは 支えなさい
del mio vendicator.私の 復讐者の【↑】右手を。
De' tristi affetti miei私の 悲しい感情の
strano, e fatal conflitto!奇妙な、そして 致命的な争いが【≒ 私の悲しい気持ちの中で なんと奇妙な、そして死に至る 葛藤が 巻き起こっていることか】
Attende da un delitto,罪から 期待している
ristoro il mio dolor!慰めを 私の苦悩は!
Misero cor trafitto!痛手を負った 哀れな心よ!
oh sventurato ardore!ああ 不幸な 激しい情熱よ!

CORO合唱
Troppo è quel cor trafittoその心は あまりにも 痛手を負った
da barbaro dolor!残酷な苦悩によって!

(Ermione, che parte furibonda, è seguita da tutti)(エルミオーネ、その者は 去る 怒り狂って; 彼女は 皆に ついて来られる)
[Recitativo dopo la Gran Scena Ermione]

4/4
C major
(SCENA Ⅳ)(第4景)
(Fenicio, indi Pilade)(フェニーチョ、それから ピラーデ)

FENICIOフェニーチョ
Ah qual sovrasta a Pirroああ なんと ピッロに 差し迫っていることか
atra sciagura! invan le usate vie大きな 惨事が! 虚しく 【↓】あの心の いつもの道へと
io tentai di quel cor! sordo a' miei prieghi,私は 誘った【≒ 彼の心を いつも通りに戻そうと 試みたが 無駄だった】! 私の懇願に 耳を傾けようとせず、
ei da sé mi discaccia,彼は 自分自身から 私を 追い出している、
e nel nodo fatale ebbro si allaccia.そして 死に至る絆の中に 陶酔して 自らを 結んでいる。

PILADEピラーデ
Ov'è Oreste, o Fenicio?オレステは どこにいるのか、ああ フェニーチョよ?

FENICIOフェニーチョ
Io non mi avvenni私は 出くわしていない
in lui finor.彼に 今まで。

PILADEピラーデ
Vero è, che Pirro...本当なのか、ピッロが…

FENICIOフェニーチョ
Ah troppo!ああ 非常に!
n é così fosse il ver!それでも それが そのように 本当で なかったならば!

PILADEピラーデ
Ah forsennato!ああ 正気を失った男だ!
Già d'immense falangi既に 莫大な軍隊の
veggo alla guida Agamennon, che fiero指導者に 私は アガメンノンを 見ている【≒ 私は アガメンノーネが 大軍を率いているのを もう 見ている】、その者は 荒々しく
il grave oltraggio a vendicar si accinge,深刻な侮辱に 復讐するために 準備をしている、
ed Epiro di assedio avvolge, e stringe.そして 彼は エーペイロスを 包囲に包み、そして 締め付ける。
Già d'immense falangi
farange は、古代ギリシャなどで用いられた、軍隊が密集した陣営のこと。ファランクス。ここでは 軍隊 と理解しておけばよい。

N. 10
Duettino [Pilade - Fenicio]


Allegro giusto
4/4
A major
FENICIOフェニーチョ
A così trista immagineこのように 悲しい心象に
l'alma dolente geme!魂は 悲嘆に暮れて 呻いている。

PILADEピラーデ
E di evitarsi il turbineそして 暴風雨を 避ける
come nudrir più speme?希望を どうやって もっと多く 胸に育む 【ことができる】のか?

PILADE E FENICIOピラーデ と フェニーチョ
Quanto sei sempre infaustoなんと おまえは いつでも 不幸をもたらす ことか
mal consigliato Amor!拙く 思慮深く 愛の神よ【≒ 愛の神よ おまえは なんと いつでも 軽率に 不幸をもたらす ことか】
Voi, Numi, ah disarmateおまえたちは、神々よ、ああ 静めなさい
il vostro giusto sdegno:おまえたちの 公正な怒りを:
da' Greci allontanateギリシャ人たちから 遠ざけなさい
la strage, ed il terror.大虐殺を、そして 恐怖を。

(partono per opposte vie)(【二人とも】去る 向かい合っている道を通って)
N. 11
Scena [e] Duetto - Finale Secondo

Ermione
Oreste
Pilade
Coro
Allegro agitato
4/4
c minor
(Scena V)(第5景)
(Ermione nella estrema agitazione, indi Oreste)(エルミオーネ 甚だしい同様にある、それから オレステ)

ERMIONEエルミオーネ
Che feci? dove son?.. m'insegue ovunque私は 何をしたのか?… どこにでも 私に 付きまとっている
spaventevole immago! Errante il piede恐ろしい像が! 落ち着かない足を
cve io volga non so!... dal mio tirannoどこに 私は 向けているのか 私は 分からない!… 私の暴君から
mentre fugge il pensier, Amor crudele思いは 逃げているのに、残酷な愛の神は
al pensier lo ritorna... e quando a morte彼を 思いに 戻している… そして 死に
lo abbandona il furor, che mi divora,怒りが 彼を 委ねる時、それは 私の心を蝕む、
se l'amo o se l'abborro ignoro ancora.彼を 愛しているのか それとも 彼を 憎悪しているのか 私は まだ 気付いていない。
Parmi, che ad ogn'istante私には 思われる、あらゆる瞬間に
de' suoi rimorsi al grido彼の呵責の呼びかけに
ei si arresti, a me rieda,彼が 阻まれて、私の元に 戻り、
e del suo lungo error perdon mi chieda.そして 彼の長い誤りの許しを 私に 求める ことを。
Ma de' suoi giorni al fin, donna spietata!だが、冷酷な女よ! 彼の命の終わりへと
non corre per te? rapido oh quantoお前のせいで 彼は 急いで向かっているのではないのか? ああ 何と素早く
fu il cenno tuo!... ti offuscò il senno, il ciglioだったことか お前の指示は!… お前の思慮を、眼を ぼんやりさせた
la furia che t'investe...激怒が それは お前を 襲った…
Ah no!... fermati Oreste!ああ いけない!… 止めなさい オレステよ!
chi ti spinge a seguir mia rabbia stolta?誰が 君に 私の愚かな怒りに 従うように 急き立てているのか?
Fermati! lo perdono un'altra volta...止めなさい! もう一度 彼に 許しを…
Ah misera! deliro! all'aura io spargoああ 惨めな女よ! 私は 錯乱している! 微風に 私は まき散らしている
i miei lamenti... in questo punto... io gelo!私の呻き声を… この点に…私は 凍り付いている!
Santi Numi del Cielo!天の聖なる神々よ!
chi a me si avanza? Oreste! al fero sguardo!..誰が 私に 近付いて来るのか? オレステだ! 厳しい様子に!…
al passo incerto, alle scomposte chiome不確かな足取りに、乱れた髪に
già quest'alma agitata既に この取り乱した心は
prevede il suo destin...彼の運命を 予想している…

ORESTEオレステ
(presentandole il pugnale datogli, intriso di sangue)(彼女に 彼に与えられた短剣を 差し出して、血のべっとり付いた)
Sei vendicata.君は 復讐した。
Moderato
4/4
C major
ERMIONEエルミオーネ
Vendicata! e di qual sangue...復讐した! それで どんな血で
Giusto ciel! quel ferro hai tinto?公正な天よ!その剣を 君は 染めたのか?

ORESTEオレステ
Tu il chiedesti? e giace estinto君が そのことを 尋ねるのか? そして 死んで横たわっている
quel crudel, che ti oltraggiò.あの残酷な男は、その者は 君を 侮辱した。

ERMIONEエルミオーネ
(covrendosi colle mani il volto inorridita)(ぎょっとして 両手で 顔を 覆って)
Oh barbarie orrenda! estrema!ああ 身の毛もよだつ蛮行だ! 甚だしい【蛮行だ】

ORESTEオレステ
Già d'Andromaca sul crine既に アンドローマカの頭髪の上には
risplendea regal diadema:【族】の 宝石付き髪飾りが きらめいていた:
trascorrendo ogni confine,あらゆる限度を 超えて、
Pirro, audace, a' Greci in faccia,ピッロは、厚かましくも、ギリシャ人たちに 面と向かって、
preda vil di molle affetto,淫奔な情愛に 卑劣にも 取りつかれ、
serbar d'Ilio al pargolettoイリオス【= イリオ = トロイア】の幼子に 残しておくとと
vita, e scettro ancor giurò.命を、そして笏【≒ 王権】を もう一度 誓った。

ERMIONEエルミオーネ
Dei! qual giuro!神々よ! 何という誓いだ!

ORESTEオレステ
A tanto eccessoそれほどたくさんの行き過ぎに
chi frenar può l'ira ascosa,誰が 隠された怒りを 抑えることができるだろうか、
che gli Argivi petti invade?それは アルゴス人たちを 襲った?
Già lampeggian mille spade,既に 千の剣が 閃光を発している、
a ferir già ognun si affretta,既に 誰もが 傷を負わせに 急いでる、
e di un grido di vendetta!そして 復讐の叫びで!
tutto il tempio risuonò.神殿中が 鳴り渡った。

ERMIONEエルミオーネ
Quale orror!何という 恐怖だ!

ORESTEオレステ
Tutto è sconvolto...すべてが 混乱した…
Pirro è cinto... è a lui rivoltoピッロは 取り巻かれた… 彼に向けられた
ogni ferro... ei cade... il vedoあらゆる剣が… 彼は 倒れる… 私は 彼を 見る
già trafitto... a te men riedo...既に 刺し貫かれた… 私は 君の元に 戻っている…
e il pugnal, che ad altra manoそして 短剣を、それを 別の手に
affidai, ti rendo...私は 委ねた、君に 返す…

ERMIONEエルミオーネ
Oh insano!ああ 正気でない男め!
Oh ardir folle! ah! va! ti ascondi,ああ 無謀な大胆だ! ああ! 行きなさい! 身を隠しなさい!
o maggior di ogni altra belva!ああ あらゆる 他の 野生動物よりも 大きい者よ【≒ どんな 野獣よりも ひどい奴め】
va'! tra' boschi ti rinselva!行きなさい! 森の中に 森に入り込みなさい!
Cela al guardo de' viventi人間の視線から 隠しなさい
un sicario, un traditor!刺客を、裏切者を!

ORESTEオレステ
Che mai dici? quali accenti?いったい 君は 何を 言っているのか? その口調は?
Non mi spinse a tal misfattoそのような凶行に 私を 急き立てたのではないのか
il tuo labbro seduttor?君の 誘惑するような唇が?

ERMIONEエルミオーネ
T'ingannasti... era un'amante君は 思い違いをしたのだ… 愛する者だった
forsennata, delirante,正気を失った、錯乱した、
che parlò.話したのは。

ORESTEオレステ
Che ascolto!私は 何を 聞いているのだ!

ERMIONEエルミオーネ
Ah dimmi...ああ 私に 言いなさい…
Il mio cor... sì questo core...私の心を… そうだ この心を…
non smentiva... anima rea!偽りであることを示さなかったのか… 邪な魂よ!
ciò, che il labbro a te chiedea?そのことが、私の唇が 君に 頼んだ?
Ne' suoi palpiti frequentiその頻繁な心臓拍動の中に
Non vedesti, non leggesti,君は 見なかったのか、君は 読まなかったのか、
ch'egli ardea d'immenso amor?それ【= 心 男性名詞単数】が 莫大な愛に 燃えている ことを?

ORESTEオレステ
Pirro amavi? e perché o barbara!君が ピッロを 愛していただと? では なぜ ああ 残酷な女よ
lusingar gli affetti miei?私の情愛に おべっかを使ったのか?
Ah crudel! tu fosti, e seiああ むごい女め! 君は だった、そして である
fatal sempre a questo cor!この心に いつでも 害のある。
Vivace
2/2
a minor
ERMIONEエルミオーネ
Fiere Eumenidi! sorgete!残忍なエウメーニディ【= エウメニデス,復讐の女神たち】よ! 立ち上がりなさい!
Voi, che invoco, distruggeteおまえたちは、それらを 私は 呼んで祈っている、破壊しなさい
D'empio fallo il tristo autor!残忍な罪の 邪な作者を!

ORESTEオレステ
Sì... del mio rimorso eternoそうだ… 私の 終わりのない後悔の 【↓↓】恐怖を
mille in sen furie d'Averno私の 胸の中で 千の冥界の激怒が
già mi accrescono l'orror!既に 増大させている!
Allegro vivace
3/4
F major
(SCENA ULTIMA)(最終景)
(Pilade con suoi seguaci e detti)(ピラーデ 彼の従者たちと共に そして 前の景の人たち)

PILADEピラーデ
Ah! ti rinvenni!ああ! 私は 君を 見つけた!

CORO合唱
Fuggiam! fuggiamo!急いで立ち去ろう! 急いで立ち去ろう!

PILADEピラーデ
Dall'ira salvati di un popol forte,力強い人々の怒りから 逃れなさい、
che te sol chiede... che la tua morteその者たちは ただ 君に 求めている… 君の死を
brama in vendetta del suo signor.切望する 【↑】ことを 彼らの主君の復讐に。

ERMIONEエルミオーネ
Ah sarò paga!ああ 私は 満足するだろう!

ORESTEオレステ
No... mi lasciate...いいや… 私を 放っておきなさい…
a' miei nemici m'abbandonate.私の敵たちに 私を 置き去りにしなさい。

PILADEピラーデ
Vieni...来なさい…

CORO合唱
Ti arrendi...従いなさい…

ORESTEオレステ
Che osate... oh barbari!君たちは 何を あえてするのだ… ああ 残酷な者たちめ!

PILADEピラーデ
Cedi all'amico... vieni... ti guido友に 譲歩しさい… 来なさい 私が 君を 誘導する
fra i cari amplessi del genitor.父親の優しい抱擁の中に。

ERMIONEエルミオーネ
(vacillando)(よろめいて)
Mostro! tu fuggi!怪物め! 君は 逃げるのだな!


CORO合唱
Già il legno è al lido...既に 木【≒ 船】が 岸に ある。

ERMIONEエルミオーネ
Va pur... sia... vindice... quel flutto... infido...どうぞ 行きなさい… 復讐者で… あるように… あの波が… 信用のおけない…【≒ 変わりやすい】
de'... tuoi... delitti... del... mio... dolor.君の… 罪の… 私の 苦しみの。
(Cade svenuta)(気を失って 倒れる)

ORESTEオレステ
Cadete o fulmini! morte! ti sfido!落ちなさい ああ 雷よ! 死よ! 私は おまえに 勇敢に立ち向かう【≒ 私は 死を 物ともしない】
no, più a quest'anima non dai terror!いいや、おまえ【= 死】は もはや この魂に 恐怖を 与えない!

PILADE E CORO
Corri a salvarti nel patrio nido.急いで向かいなさい 身を守りに 祖国の家で【≒ 故郷で】
Calmate o stelle tanto furor!静めなさい ああ 星々よ たくさんの怒りを!
Calmate o stelle tanto rigor!静めなさい ああ 星々よ たくさんの厳しさを!

(Pilade e i suoi seguaci trascinano verso il lido Oreste quasi privo di sensi. Si abbassa il sipario)(ピラーデと 彼の従者たちは ほとんど 気を失っているオレステを 岸に向かって 連れて行く。幕が 下りる。)

参考資料

GIOACHINO ROSSINI ERMIONE PARTITURA a cura di Patricia B. Brauner e Philip Gossett / FONDAZIONE ROSSINI PESARO / 1995

Dizionario Rossiniano / Eduardo Rescigno / Biblioteca Universale Rizzoli / 2002 / ISBN 88-17-12894-5 / 9788817128940

CD
NAXOS
8.660556-57

ErmioneSerena Farnocchiasoprano
AndromacaAurora Faggiolimezzosoprano
PirroMoisés Maríntenore
OrestePatrick Kabongotenore
PiladeChuan Wangtenore
FenicioJusung Gabriel Parkbasso
CleoneMariana Poltoraksoprano
CefisaKatarzyna Guranmezzosoprano
AttaloBartosz Jankowskitenore

Krakow Philharmonic Chorus
Chorus MasterMarcin Wrobel

Krakow Philharmonic Orchestra
Antonino Fogliani

16 and 23 July 2022
Trinkhalle, Bad Wildbad, Germany

2022年7月、バート・ヴィルトバートの ヴィルトバートでのロッシーニ での公演のライヴ録音。上演記録。バート・ヴィルトバートでの上演は上記の7月16、23日の2回で、その前の7月10日にクラクフでの上演があったという。


CD
OPERA RARA
ORC 42

ErmioneCarmen Giannattasiosoprano
AndromacaPatricia Bardonmezzosoprano
PirroPaul Nilontenore
OresteColin Leetenore
PiladeBulent Bezduztenore
FenicioGraeme Broadbentbasso
CleoneRebecca Bottonesoprano
CefisaVictoria Simmondsmezzosoprano
AttaloLoic Felixtenore

Geoffrey Mitchell Choir

London Philharmonic Orchestra
conductorDavid Parry

March 2009
Henry Wood Hall, London, UK

OPERA RARAによる演奏会式上演を基にした商業録音。上演は2009年3月28日、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで行われており(1回のみ)、基本的のその前にリハーサルを兼ねて録音が行われたと思われる。
OPERA RARAの多くのオペラ全曲録音の中でもこの《エルミオーネ》は総じて歌手が決め手に欠ける。そんな中でコリン・リーのオレステが比較的良い。南アフリカケープタウン生まれのこのテノールは、ロンドンを拠点にロッシーニ、ベッリーニなどのハイテノールを得意としたが、2014年に早々に引退してしまったので、この《エルミオーネ》は貴重な記録となった。デイヴィッド・パリーの指揮は彼としては比較的良い方。


DVD
DYNAMIC
33609

ErmioneSonia Ganassisoprano
AndromacaMarianna Pizzolatomezzosoprano
PirroGregory Kundetenore
OresteAntonino Siragusatenore
PiladeFerdinand von Bothmertenore
FenicioNicola Ulivieribasso
CleoneIrina Samoylovasoprano
CefisaCristina Fausmezzosoprano
AttaloRiccardo Bottatenore

Coro da Camera di Praga
Maestro del CoroJaroslav Brych

Orchestra del Teatro Comunale di Bologna
DirettoreRoberto Abbado

RegiaDaniele Abbado
Regista collaboratoreBoris Stetka
SceneGraziano Gregori
CostumiCarla Teti

August 2008
Adriatic Arena, Pesaro, Italy

2008年のロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルの上演を収録した映像。上演記録。
ロベルト・アッバードの気迫溢れる指揮に乗って、適材適所の歌手たちが実力を発揮して聞き応えがある。ソーニャ・ガナッシはこのエルミオーネが代表盤といってよいだろう、嫉妬に狂う女を熱演している。またまさにバリテノールのグレゴリー・クンデのピッロ、突き抜ける高音のアントニーノ・シラグーザ、どちらも素晴らしくかつ対比が良い。
ダニエーレ・アッバードの演出は、舞台をファシスト時代にすることでピッロの異常性を高めている。
なおこのDVDは、日本語字幕の付いた国内盤 KKC-9006 も発売されたことがあるが、どういうわけか音声がほぼモノラルである。

DVD
WARNER MUSIC VISION
0630-14012-2

ErmioneAnna Caterina Antonaccisoprano
AndromacaDiana Montaguemezzosoprano
PirroJorge Lopez-Yaneztenore
OresteBruce Fordtenore
PiladePaul Austin Kellytenore
FenicioGwynne Howellbasso
CleoneJulie Unwinsoprano
CefisaLorna Windsormezzosoprano
AttaloPaul Nillontenore
AstianatteOliver Bridge

Glyndebourne Chorus

London Philharmonic Orchestra
ConductorAndrew Davis

DirectorGraham Vick
Set Designer, Costume DesignerRichard Hudson
Lighting DesignerWolfgang Göbbel

June 1995
Glyndebourne Festival, England

1995年、グラインドボーン音楽祭での上演の収録。上演記録。上演は1995年5月22、24、30日、6月3、5、10、17、19、22、24、27日、7月2、9、12日と催され、 そのうち上記出演者によるものは 5月22、24日、6月3、5、10、17、19、27日、7月2、9、12日。
舞台を大きく傾いた馬蹄形劇場に据えたグレアム・ヴィックの演出が秀逸。エルミオーネとアンドローマカはヴィクトリア朝風の服装で、この時代の厳しいが表面的な道徳観を背景に、男に身勝手に翻弄される女性の抑鬱と、その極限から爆発するエルミオーネの激情がが巧く描かれている。出演者は全員演技面でも卓越しており、アンナ・カテリーナ・アントナッチのエルミオーネ(歌唱的にはロッシーニの要求に十分応えられていないとはいえ)とダイアナ・モンタギューのアンドローマカは秀逸。ブルース・フォードはこの頃がロッシーニ・テノールとしての全盛期で非常に充実している。

CD
LEGATO CLASSICS
LCD-159-2

ErmioneMontserrat Caballésoprano
AndromacaMarilyn Hornemezzosoprano
PirroChris Merritttenore
OresteRockwell Blaketenore
PiladeGiuseppe Morinotenore
FenicioGiorgio Surjanbasso
CleoneDaniela Lojarrosoprano
CefisaPaola Romanomezzosoprano
AttaloEnrico Facinitenore

Coro di Radio Budapest (Rádióénekkar)
Maestro del CoroFerenc Sapszon

Orchestra Giovanile Italiana
DirettoreGustav Kuhn

1987
Teatro Rossini, Pesaro, Italy

1987年8、9月、ROFでの初上演のライヴ録音。CDには 1987 とあるだけでいずれの日の録音かは分からない。
マリリン・ホーンのアンドローマカとロックウェル・ブレイクのオレステが聞けるのが貴重だが、このCDは音の状態が悪く、YouTubeに上がっている映像を見れば十分だろう。



ErmioneCecilia Gasdiasoprano
AndromacaMargarita Zimmermannmezzosoprano
PirroErnesto Palaciotenore
OresteChris Merritttenore
PiladeWilliam Matteuzzitenore
FenicioSimone Alaimobasso
CleoneElisabetta Tandurasoprano
CefisaElisabetta Tandurasoprano
AttaloMario Bolognesitenore

Chœur Philharmonique Prague (Pražský filharmonický sbor)
Chef des chœursJoseph Veselka

Orchestre Philharmonique de Monte-Carlo
DirectionClaudio Simone

June 1986
Salle Garnier, Opera de Monte-Carlo

パドヴァでの成功を収めた上演に関連した商業録音。1980年代のロッシーニのオペラセリアの録音では特に成功したものの一つ。まだ25歳のカズディアがやや線が細いながらも健闘している。
レチタティーヴォにいくらかカットが入っている。
なおパドヴァでの上演のライヴ録音も音声のみYouTubeに上がっている。