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最新更新 2024年5月17日

無断転載 厳禁

GIUSEPPE VERDI

I DUE FOSCARI

3幕のオペラの悲劇
Tragedia lirica in tre atti

初演 1844年11月3日 ローマ アルジェンティーナ劇場
First performance 3 November 1844, Teatro Argentina, Rom

台本作家 フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ
Librettist Francesco Maria Piave

原作 ジョージ・ゴードン・バイロン《二人のフォスカリ》 1821
Original George Gordon Byron: The two Foscari 1821

ジュゼッペ・ヴェルディ 1813―1901 の《二人のフォスカリ》は、《ナブッコ》、《第一回十字軍のロンバルディア人たち》、そして《エルナーニ》と立て続けに成功作を世に出した後に、それまでの成功路線からあえて新たな方向に舵を切った意欲作である。当時のイタリアオペラでは異例なまでに暗く重苦しい物語と音楽は、後のヴェルディの方向を大いに予見させるものである。

作曲1 ヴェネツィア

《二人のフォスカリ》はローマで初演されたが、始まりはヴェネツィアだった。
ヴェルディは1843年5月28日付けのヴェネツィアのフェニーチェ劇場との契約書に署名し、始めてミラノのスカラ座の外の劇場に新作を書くことになる。その題材の候補に様々な作品が浮かんだが、その中の一つに、英国の作家、詩人、ジョージ・ゴードン・バイロン George Gordon Byron 1788―1824 の『二人のフォスカリ The two Foscari』があった。
ヴェネツィアにおける《二人のフォスカリ》の経緯は、ここでは深入りしないでおく。要約すると、この題材候補にヴェルディは大いに乗り気だったのだが、劇場側から断られてしまった。

1843年7月4日付でフェニーチェ劇場の運営委員会の総裁アルヴィーゼ・フランチェスコ・モチェニーゴ Alvise Francesco Mocenigo 1799―1884 の秘書であるグリエルモ・ブレンナ Guglielmo Brenna に宛てた手紙で、ヴェルディは『二人のフォスカリ』を提案している。

発送した題材に 私は別の題目を同封しています: 二人のフォスカリで その概要を数日中に私は送るつもりです。これはヴェネツィアの出来事で、事実であり、ヴェネツィアでは【観客を】この上なく引き付けることが出ることでしょう; その一方で それは情熱に満ちており そして この上なく音楽を付けやすい。
Agli argomenti mandati unisco l'altro intitolato: I Due Foscari di cui fra pochi giorni mandero il programma. Questo è fatto veneziano, e potrebbe interessare moltissimo a Venezia; d'altronde è pieno di passione e musicabilissimo.
【注1】

しかしブレンナは1843年7月26日付の返信で、モチェニーゴが以下のように難色を示したと伝えている。

二番目、つまり《二人のフォスカリ》は、ヴェネツィアに住んでいるロレダーノ家やバルバリーゴ家の一族への然るべき注意を含んでいます。彼らは、彼らの祖先になされるであろう憎らしい人物像に苦情を言うかもしれません。
il secondo, cioè i Due Foscari, perché involgono riguardi dovuti a famiglie viventi in Venezia quali sono le famiglie Loredano, e Barbarigo che potrebbero dolersi della figura odiosa che vi si farebbe fare ai loro antenati.
【注2】

もっとも、名前の問題だけならば名前を変えれば解決する話である。また後述のようにローマでの初演の僅か2年3か月後には《二人のフォスカリ》はフェニーチェ劇場でも上演されている(ちなみにヴェネツィア初演は初演から僅か5か月後の1845年3月30日、サン・ベネデット劇場)。本当に名前が問題だったのなら、2年強経っても事態は変わらないはずである。
フェニーチェ劇場は、ヴェネツィア共和国の政治の汚いところを扱ったバイロンの『二人のフォスカリ』を、ヴェネツィアの筆頭劇場である自分たちの劇場でオペラにして舞台に掛けることが嫌だったに違いない。
同じ日付でヴェルディもモチェニーゴに手紙を出している。

『二人のフォスカリ』の題材が認可されなかったことは残念に思われます、というのも私はそれについて満足していたからです; そして 台本は 既に発注されていて、そして、言わば、ほとんど出来上がっていたからです。これは別の機会に私の役に立つことでしょう。
Spiacemi che non sia stato approvato l'argomento I due Foscari perché io ne era persuaso; e perchéera libretto già comesso, e, si può dire, quasi fatto. Servirà per me in altra circostanza.
【注3】

ヴェルディが『二人のフォスカリ』を気に入っていたことがわかる。そして彼は別の機会を探ることになる。
フェニーチェ劇場への新作は《エルナーニ》になった(そしてこれも大成功を収めた)。

後述するように、ヴェルディが始めてスカラ座の外に書く新作オペラの題材に『二人のフォスカリ』を強く推していたことは、かなり重要である。

注1,注2: La bottega della musica. Verdi e la Fenice / Marcello Conati / il Saggiatore / Milano / 1983
注3: Giuseppe Verdi, Lettere / A cura di Eduardo Rescigno / Einaudi / 2012

作曲2 ローマ

ヴェルディがスカラ座の外に新作オペラを書く2番目の劇場が、ローマのアルジェンティーナ劇場だった。この劇場の興行主はアントーニオ・ラナーリだったが、彼は1830、40年代に活躍した名高い劇場興行主アレッサンドロ・ラナーリ 1787―1852 の息子である。おそらくヴェルディとの交渉も父ラナーリの主導だったのだろう。
これより前に父ラナーリとヴェルディには接点があった。1843年7月29日、アドリア海に面した小さな町セニガッリアで、8月に開催される市 いち の時期にオペラ興行があり、父ラナーリが興行主を務めた。ここで《ロンバルディ》の地域初演がなされ、父ラナーリはヴェルディを上演監修に招いた(ちなみにこの時ヴェルディはオロンテのアリアをのカバレッタを差し替えている)。何も確証はないが、この時父ラナーリがヴェルディに自身が関わる劇場への新作オペラを打診していてもおかしくない。
それから7ヶ月後の1844年2月29日、ヴェルディがヴェネツィアで《エルナーニ》初演の準備をしている時期に、ヴェルディはアルジェンティーナ劇場への新作オペラの契約を結んでいる。息子ラナーリがアルジェンティーナ劇場の興行主に就いたのはその1か月半後で(4月12日、ローマの 海賊 Il Pirata 誌で報じられている)、さらに1か月半後の5月29日にアルジェンティーナ劇場で《エルナーニ》がローマ初演され、成功を収めている。一連の流れはやり手の興行主父ラナーリによる段取りと考えて間違いないだろう。

ローマ向けの新作オペラの台本作家は、《エルナーニ》で初めて組んだフランチェスコ・マリア・ピアーヴェ(1810―1876)が再度受け持つことになった。彼がローマ向けに選んだ題材は、トリエステ生まれの作家、ジュゼッペ・レヴェーレ Giuseppe Revere 1812―1889 の『ロレンツィーノ・デ・メディチ Lorenzino de' Medici』 1839 だった。ピア―ヴェから筋書きを受け取ったヴェルディは、1844年4月18日付けで次のように返信している。

このロレンツィーノはたいへん良い: 極めて良い; フランスの劇から扱われていないのでリコルディも満足している。ただ警察が許可しないことだけが心配だ: 今日 とりあえず 私は それを ローマに送る、そして 私たちは 【ローマ側の意見を】 聞こう…。
もし警察がそれを許可しなかった場合は、解決法について 間に合うよう 考えなくてはならない そこで 私は 二人のフォスカリを提案する。この題材は 私が気に入っており そして概要を 私から ヴェネツィアの
【フェニーチェ劇場の】総裁に送った。その人から それを回収することを 私は 君に 頼む。もし君が その概要に何か変更を加えるべきと考えるならば それをしなさい ただし バイロンに忠実でありなさい。私はまた それを3幕に縮小することを君に頼みたいのだが; 第2幕は 若いフォスカリの死で終わらなくてはならない。
Benissimo questo Lorenzino: tre volte bene; Ricordi pure è contento perché non è tratto da un dramma francese. Temo solo che la Polizia non permetta: oggi intanto lo mando a Roma e sentiremo ...
Caso mai la polizia nol permettesse bisogna pensare in tempo al rimedio ed io ti propongo il Due Foscari. L'argomento che mi piace e che vi è già il programma a Venezia da me mandato alla Presidenza, dalla quale ti prego di ritirarlo. Se tu credi di fare alcune modificazioni a quel programma falle ma sta attaccato a Byron. Ti pregherei di ridurre anche quello in tre atti; il secondo dovrebbe finire alla morte del giovane Foscari.


つまり、バイロンの『二人のフォスカリ』は補欠だったのである。
3週間後の5月9日付でピア―ヴェに宛てた手紙で、ヴェルディは『ロレンツィーノ・デ・メディチ』を断念し、ローマ向けの新作を『二人のフォスカリ』にする。

ロレンツィーノが認可されないかもしれないことを 私は君に予言していた。私が君に一昨日書いたように そういうわけでロレンツィーノは 正式に禁じられた。[…]すぐに二人のフォスカリに専念しなさい…[…]真剣に そのこと【訳注 概要 programma を急いで作ること】をしなさい、なぜなら それは 素晴らしい題材で、繊細で、そしてとても哀れを誘うからだ。このバイロンの劇には 音楽作品に望まれる舞台の豪華がないことにも私は気付いている: 君の才知を責め苦にかけて そして特に第1幕に少し賑やかなことも見付けなさい。[…]
Io te l'avevo predetto che il Lorenzino non sarebbe approvato. Come ti scrissi l'altro ieri dunque il Lorenzino venne formalmente proibito. [...] Attendi con sollecitudine ai Due Foscari...[...] Fallo con impegno perché è un bel soggetto, delicato, ed assai patetico. Osservo che in quel di Byron non c'è quella grandiosità scenica che è pur voluta dalle opere per musica: metti alla tortura il tuo ingegno e trova anche cosa che faccia un po' di fracasso specialmente nel primo atto.[...]


その上でヴェルディはピア―ヴェに概要を早く送るよう催促している。ピア―ヴェはすぐさま概要を書き上げ、早くも5月14日にはヴェルディはそれを受け取った。同じ日付でヴェルディはピア―ヴェに返信し、事細かな指示を出している。この手紙は《二人のフォスカリ》を理解する上で極めて重要である。

たった今 二人のフォスカリを受け取った。素晴らしい劇だ、たいへん素晴らしい、最高に素晴らしい! とはいえ[…]率直に私の意見を言おう。
最初の場面はとてもうまく行っている、そして最初の合唱の詩は素晴らしく、明日には音楽が付けられているだろう。
父親の性格は素晴らしく高貴でうまく扱われていると思う。マリーナ
【後にルクレツィアに改められる】の性格も同様だ。だがヤコポの性格は弱くそして舞台効果に乏しい―もっと言えばほとんど脇役だ―。第1幕にはロマンツァしかない―そして第2幕も。この部分に関してはぜひとも改善が必要だ[…]
Ricevuto in questo istante i due Foscari. Bel dramma, belissimo, arcibelissimo!__ Ma [...] ti dirò apertamente la mia opinione.
La prima scena và benissimo, e la poesia del primo coro è superba e domani sarà forse musicata.
Trovo che il carattere del padre è nobile bellissimo e ben trattato. Quello di Marina pure. Ma quello di Jacopo è debole e di poco effetto scenico - oltre di che è quasi una parte scondaria - Nel primo atto non avrebbe che una romanza - e tutto l'atto secondo. A questa parte bisogna assolutamente rimediare [...]
【注1】

ヴェルディはさらにピア―ヴェに具体的な指示を書いている。長くなるので箇条書きする。
・ヤコポには強い性格を与え、拷問にかけさせず、ヴェネツィアへの優しい語りかけの後に何か力強さを与えて美しいアリアにしたい ⇒ 実現。
・マリーナ(= ルクレツィア)にフォスカリ宮で歌うアリアを与え、シェーナで侍女たちが彼女を慰めるアダージョのカンタービレを与える、その後にヤコポの処罰が伝えられ、マリーナは共和国を呪い、ドージェに会いに行くことを決心する ⇒ 実現。
・ヤコポの出立と死をなおざりにするのは気に入らない。第3幕の冒頭に据えるべき ⇒ ほぼ実現。
・サン・マルコ広場の場面の冒頭に男女の人々の合唱の場面を据えたい ⇒ 実現。
・可能ならばその合唱の間に、遠くの潟でタッソの詩を歌うゴンドラ漕ぎの歌を据えたい ⇒ 実現しなかったが、第2幕の二重唱での舞台裏の合唱が同様の効果を上げる。
・その後に、マーリナとヤコポの美しい二重唱が続く ⇒ 第3幕冒頭のヤコポのアリアの中で部分的に実現。

このように、ヴェルディが台本に関してピア―ヴェに具体的な提案をており、制作の初期の段階でヴェルディが既に《二人のフォスカリ》に明確な見解を抱いていたことが分かる。この後もヴェルディからピア―ヴェへ手紙での細かい要請がいくつもは続く。

5月22日付のピア―ヴェへの手紙で、ヴェルディは『私は 既に ローマに メモ【≒ あらまし】を送った そして 彼らが それを 認可するであろうことを期待している Ho gi&agarave; mandato a Roma la Selva e spero che l'approveranno.』と書いている。この手紙でもヴェルディはピア―ヴェにいろいろ注文を付けているので、台本がある程度出来上がるまでにはまだ時間がかかったろうが、とはいえヴェルディは5月の末には作曲に取り掛かっていたと思われる。

6月30日付でヴェルディの弟子エマヌエーレ・ムツィオ 1821―1890 がヴェルディの義父アントーニオ・バレッツィに宛てた手紙によると、ヴェルディは《二人のフォスカリ》の第1幕をほぼ書き上げたという。したがって7月中には全曲を大方書き上げていたと思われる。

ヴェルディは8月11日からのベルガモのリッカルディ劇場(現在のドニゼッティ劇場)での《エルナーニ》の上演で監修をつとめると、ブッセートに移っている。そしてミラノに戻ったヴェルディは、9月30日にローマに向けて発った。ヴェルディはリヴォルノから海路でチヴィタヴェッキアに向かい、10月3日にローマ入りした。


なお、ローマは検閲が厳しい都市の一つで、やはり検閲の厳しいナポリが政治的な内容に神経を尖らせるのに対して、ローマでは道徳に関する言葉に煩かった。たとえば 呪われろ maledetto のような言葉は基本的に検閲を通らない。
《二人のフォスカリ》もローマの検閲による指示に応じて歌詞がいくつか書き換えられている。自筆総譜の該当する歌詞に取り消し線が引かれて、そこに手書きで差し替えの歌詞が書き加えられているというので、かなり初演に近い時期の改変なのだろう。
旧版はこれらの変更を反映している。一方クリティカルエディションではこれらは本来の歌詞に戻されている。

初演

初演は1844年11月3日、ローマのアルジェンティーナ劇場で行われた。

フランチェスコ・フォスカリ
Francesco Foscari
アキッレ・デ・バッシーニ
Achille De Bassini
バリトン
baritono

ヤコポ・フォスカリ
Jacopo Foscari
ジャコモ・ロッパ
Giacomo Roppa
テノール
tenore

ルクレツィア・コンタリーニ
Lucrezia Contarini
マリアンナ・バルビエーリ=ニーニ
Marianna Barbieri-Nini
ソプラノ
soprano

ヤコポ・ロレダーノ
Jacopo Loredano
バルダッサーレ・ミーリ
Baldassare Miri
バス
basso

バルバリーゴ
Barbarigo
アタナージオ・ポッツォリーニ
Atanasio Pozzolini
テノール
tenore

ピサーナ
Pisana
ジューリア・リッチ
Giulia Ricci
メッゾソプラノ
mezzosoprano


コンサートマイスター 兼 指揮者
Primo violino e capo d'orchestra
エミーリオ・アンジェリーニ
Emilio Angelini


アキッレ・デ・バッシーニ 1819―1881 はミラノ生まれのバリトン。ヴェルディのオペラの初演では、《二人のフォスカリ》のフランチェスコ・フォスカリの他、《海賊》 1848年、トリエステ でのセイド、《ルイーザ・ミッレル》 1849年、ナポリ でのミッレル、《運命の力》 1862年 サンクトペテルブルグ でのメリトーネ神父を歌った。もちろんそれ以外にもヴェルディのバリトン役を数多く歌った。
マリアンナ・バルビエーリ=ニーニ 1818―1887 はフィレンツェ生まれのソプラノ。バルビエーリ=ニーニは《マクベス》(初稿) 1847年 フィレンツェ 初演でのマクベス夫人として名高い。また《海賊》初演 1848年、トリエステ ではグルナーラを歌った。
ジャコモ・ロッパは、生没年不詳だが、分かる限り1832年から1856年まで20年以上に渡って活躍した、この時代のイタリアの名テノールの一人。ヴェルディのオペラの初演はこの《二人のフォスカリ》のヤコポだけだが、この時期のヴェルディやメルカダンテなどのオペラで活躍した。

初演は、少なくとも初日については、期待された成功を収めることはできなかった。

《二人のフォスカリ》の初演については、ヴェルディ自身が初演の翌日の11月4日付でミラノのジャーナリスト、ルイージ・トッカーニ Luigi Toccagni 1788―1853 に宛てた手紙が良く知られている

フォスカリは完全に失敗ではありませんでしたが、あやうく不成功に終わるところでした。歌手たちが盛大に音程を外したからかもしれませんし、【観客の】要求があまりに過ぎたからかもしれませんし、等々…。このオペラが半ば大失敗してしまったことは事実です。私はこのオペラをとても偏愛していました: もしかしたら私が思い違いをしたのでしょう、しかし考え直す前に 別の判断を望みます。
Se i Foscari non sono del tutto caduti poco è mancato. Sia poi perché i cantanti hanno stonato assai , sia perché l'esigenze erano troppo spinte, etc . il fatto si è che l'opera ha fatto mezzo fiasco. Io aveva molta predilezione per quest'opera: forse mi sono ingannato, ma prima di ricredermi voglio un altro giudizio.
【注1】

この『半ば大失敗 mezzo fiasco』という表現が、《二人のフォスカリ》の初演を象徴するものとして後世広まってしまった。自作の上演に厳しいヴェルディにとって、とりわけ《エルナーニ》で大成功し熱狂を巻き起こした後であれば、自信を持って世に出した《二人のフォスカリ》に対する観客の反応は、彼にとっては半ば大失敗だったのだろう。

同じく初日の翌日の11月4日付のローマの雑誌 ラ・リヴィスタ La Rivista 誌が、もっと客観的に初日の観客の反応を伝えている。評者のアントーニオ・トージ Antonio. Tosi は、1回見ただけでは《二人のフォスカリ》の詳細な分析はできないので(つまり彼も《二人のフォスカリ》を十分に理解できなかったのだろう)、観客の反応を書き記すと断っているのだが、おかげで初日の劇場内の反応がたいへん詳しく伝えられた。
長いので要約する。

第1幕
第2番 導入 控えめな拍手 applaudita discretamente。
第3番 ヤコポのアリア ロッパに拍手、ヴェルディのカーテンコール applandita, e una chiamata al Maestro。
第4番 ルクレツィアのアリア バルビエーレ=ニーニに、Andante maestoso では盛大な拍手 applausi universali al largo 【largo は ゆっくりな音楽 の意味で用いられている】、Allegro mosso(カバレッタ)では沈黙 silenzio alla cabaletta.。
第6番 ルクレツィアとドージェの二重唱、Andante でヴェルディのカーテンコール chiamato il Maestro al largo【注】。Allegro prestissimo では歌手がいくらか叫んだために不評 disapprovala la stretta per alcune grida degli esecutori.。

第2幕
第8番 ヤコポのアリア チェロのオブリガートを伴った本当に魅惑的な楽器法による伴奏: 【アリアは】 沈黙 silenzio。
第9番 ルクレツィアとヤコポの二重唱 同上 idem 【= 沈黙】。
第10番 三重唱 万雷の拍手、ヴェルディのカーテンコール2回 fragorosi plausi e due chiamate al Maestro。続く四重唱 ヴェルディのカーテンコールさらに3回 tre altre chiamate al Verdi。
第11番 第2幕フィナーレ 沈黙 Finale: silenzio.。

第3幕
第12番 導入の合唱とバルカローラ 導入の合唱 沈黙 silenzio。バルカローラ 拍手喝采 applaudita. 第13番 ヤコポのアリア ロッパの声があまりに疲労困憊しており、続けられるのかひどく心配させられる il cantante palesa tale spossatezza di voce da lasciar dubitare fortemente se potra proseguire.
第14番 ルクレツィアのアリア バルビエーレ=ニーニがフレーズの終わりで何回か絶叫するのが不満 dispiacciono alcune grida con cui l'esecutrice termina la frase。
第15番 ドージェのアリアとフィナーレ 聴衆が皆 興奮して叫び 万雷の拍手を送る。素晴らしいエネルギーで演じたデ・バッシーニの独唱の後にヴェルディのカーテンコール2回、幕が下りた後 彼と他の3人の歌手が一緒に【カーテンコール】 l'intero uditorio prorompe in entusiastiche grida ed in istrepitose manifestazioni. Il Maestro, chiamato due volte dopo il solo di De Bassini, eseguito con grandissima energia, lo e per altre tre dopo calata la tela in unione del cantante.

これを読む限り、たしかに大成功ではなかったにせよ、しかし 半ば大失敗 というほどひどい結果ではなかった、と誰もが思うだろう。とりわけ最も重要な第3幕フィナーレが大いに受けたのであれば、ひとまずは成功を収めたとすら言えるだろう。

11月16日付で弟子ムツィオが書いた手紙には、二日目11月4日はずっと盛り上がったとある。
またラ・リヴィスタ誌には二日目の公演評も同じトージの筆で載っている。

4日の晩、最も称賛に値するオペラ 二人のフォスカリの2回目の公演で、マエストロ・ヴェルディは最も注目すべき勝利の一つを得た。出演者たちは、恐れから立ち直り、前の晩にまったく不快だった絶叫を捨て去り、 より良く演じた役に入り込み、力強く、見事に歌った。観客は[…]すべての曲に万雷の拍手を送り、そしてマエストロは 満員の聴衆の熱狂的な万歳の只中で 少なくとも30回 舞台に【呼び出された】。
La sera del 4, uno de' più segnalati trionfi s'ebbe il Maestro Verdi, alla seconda rappresentazione della pregevolissima sua Opera - I Due Foscari. = Gli attori, riavutisi dalla tema, lasciate le grida, che tanto dispiacquero la sera innanzi, e meglio penetrati dei caratteri che sostenevano, cantarono energicamente, magistralmente. Il Pubblico [...] applaudi fragorosamente ciascun pezzo, ed il Maestro venne per trenta volte almeno sulla scena in mezzo agli entusiastici evviva di un' affollatissima udienza.


二日目は初日と異なり圧倒的な大成功を収めたことがわかる。
ともかく、ヴェルディの『半ば大失敗』という発言にはあまり捉われなくてよいだろう。

トージによる初日と二日目の公演評からは、初日は歌手の不調、特にヤコポのロッパの喉の調子が悪かったことが、ヤコポの出番が多いだけに大きく影響したが窺える。翌日に回復したのならば、一時的な喉の不調(歌手にはしばしばある)だったのだろう。
クリティカルエディションの解説では、これに加えて、《エルナーニ》で大成功を収めたヴェルディのローマへの初の新作ということで、興行主ラナーリがチケット価格を釣り上げたことも悪影響を及ぼした、と書いている。あり得る話だが、これに関しては立証しようがない。

とはいえ、《二人のフォスカリ》という作品が、当時のイタリアオペラでは相当に異色だったことは疑いない。《エルナーニ》のような情熱溢れるオペラを期待していた観客が、暗い物語と音楽に当惑するのは不思議ではない。二日目の観客が作品を受け入れたのは、《二人のフォスカリ》の作品の性格を分かった上で観劇したこともあるかもしれない。
ともかく、初日の冷淡な反応の理由を上演環境だけに帰するのは、正しい判断ではないだろう。

正直なところ、バイロンの『二人のフォスカリ』のような難しい題材をオペラにするには、まだヴェルディは若く未熟だったことは否めないだろう。
例えば、第2幕 第10番 三重唱の Presto、ロレダーノも加わって四者四様の心情の歌を絡めた手の込んだ四重唱に仕立てる絶好の状況なのだが、この時のヴェルディはルクレツィアとヤコポをほぼユニゾンにして、ロレダーノは補助的、フォスカリはその中間という、単純なものにしか出来なかった。
後の熟達したヴェルディであればもっと深みのある充実したオペラに仕立てられたに違いない。
一方で、前述のように、ヴェルディがミラノの外で初めてオペラを書く時から《二人のフォスカリ》にこだわっていたことは非常に重要だ。というのも、ヴェルディが自身で台本の題材を積極的に選んだのはこれが初めてだからである。《オベルト》の台本は自分の習作の台本の改作と推測されている。《一日だけの王様》はヴェルディがまだましと渋々選んだもの。《ナブッコ》は元々他の作曲家のために書かれたものだった。《ロンバルディ》は明らかに《ナブッコ》の路線に乗るよう作られた。そして《エルナーニ》ですらモチェニーゴの勧めで選んだものだった。ヴェルディが自分で台本の題材を選んだのは《二人のフォスカリ》が最初だと言うことも可能だ。
とすると、我々が抱いている初期のヴェルディの特徴、《ナブッコ》や《ロンバルディ》に見られる荒々しくも力強く熱気の漲る音楽は、実は必ずしもヴェルディがぜひとも書きたかったものではなく、彼は活動の初期から《二人のフォスカリ》のような暗く重厚なオペラを書きたかったのかもしれない。そう思わざるを得ないほど、《二人のフォスカリ》には若きヴェルディがどうしても書きたいと思った強い信念が感じられ、それはもちろん作品の魅力に直結している。だからこそ《二人のフォスカリ》にはヴェルディの未来が明確に見て取れるのだ。

注1 Verdi / Massimo Mila / Biblioteca Universale Rizzoli / 2012/

19世紀半ばの上演と、20世紀における復活

先にクリティカルエディションの解説でも触れられている重要な再演2つ、ナポリとパリについて触れる。

ローマの初演からほぼ3か月後の1845年2月9日、ナポリのサン・カルロ劇場で《二人のフォスカリ》はナポリ初演された。
フランチェス・フォスカリ … フィリッポ・コレッティ Filippo Coletti 1811―1894。
ヤコポ・フォスカリ … ガエターノ・フラスキーニ Gaetano Fraschini 1816―1887。
ルクレツィア … アンナ・ビショップ Anna Bishop 1810― 1884 英国人。結婚前の本名は アン・リヴィエール Ann Rivière。作曲家ヘンリー・ビショップ Henry Bishop 1787―1855 の二番目の妻。
前述の通りナポリでは政治的な要素に対する検閲が極めて厳しく、《二人のフォスカリ》はそのままでは検閲を通らなかった。
第4番のルクレツィアのアリアでは、カバレッタ O patrizi... tremate... が貴族たちに天からの報復があるという内容が問題になったのだろう、これが外され、代わりに《エルナーニ》第1幕 第3番 エルヴィーラのアリアのカバレッタ Tutto sprezzo che d'Ernani というまったく性格の違う音楽に新たな歌詞を与えて差し替えられた。
最も重要な第3幕フィナーレも、君主たるドージェが陰謀で失脚させられることが問題となり、ほぼハッピーエンド(!)に直された。
大きく改竄されてしまったナポリでの《二人のフォスカリ》だが、好評を博し、長く上演が続いた。《アルジーラ》初演(1845年8月12日、サン・カルロ劇場)の準備のためにヴェルディは6月26日にナポリ入りしており、ここでの《二人のフォスカリ》も何度も見ていたそうだが、どうやら我慢をしていたようだ。

パリでの初演は、1846年12月17日、イタリア劇場で行われた。
フランチェス・フォスカリ … フィリッポ・コレッティ。
ヤコポ・フォスカリ … マーリオ Mario(本名ジョヴァンニ・マッテオ・カヴァリエーレ・ディ・カンディア Giovanni Matteo Cavaliere di Candia 1810―1883。
ルクレツィア … ジューリア・グリージ Giulia Grisi 1811―1869。
マーリオとグリージは夫婦である。
この上演ではナポリで改竄された楽譜が用いられることになっていたのだが、これにはヴェルディが抗議をし撤回させた(やはりナポリでヴェルディは改竄稿での上演に腹を立てていたようだ)。
一方でマーリオの要請を受けて、第3番 ヤコポのアリアのカバレッタ Allegro vivoの激しい Odio solo, ed odio atroce を Sì, lo sento, Iddio mi chiama という新しいカバレッタに差し替えている。この差し替えカバレッタは、カバレッタといってもテンポが Allegro moderato で曲調も穏やか。そしてファルセットーネを得意としたマーリオのために、ヴェルディとしてはまったく異例なことに、高い変ホ音を記譜している。カバレッタとしては本来の Odio solo, ed odio atroce の方が劇的効果に映えるので、この差し替えカバレッタがオペラ本体に組み込まれて上演されることはまずないだろうが、しかしこれはこれでたいへん魅力的な音楽なので、演奏会用アリア的に歌われることはたまにある。
もう一か所、第9番のルクレツィアとヤコポの二重唱のカバレッタも、ヴェルディはマーリオの要請を受けて、ハ長調から変ホ長調に上げている。

さて、ローマでの初演後、《二人のフォスカリ》は急速に上演が広がった。これを一覧表無しに説明するのは難しいが、大雑把に言って、1840年代中に(つまり5年ほどで)イタリアのあらかたの諸都市の劇場で上演があり、さらに1840年代末からはイタリア外での上演も盛んになった。

1845年、パルマ・レージョ劇場での上演は詳細な情報が伝わっている。3月24日の初日から、25,26,29,30日、4月1,2,5,6,8,9,10,12,13,16,23,26日、5月4,10,12日と、20回も公演があった。
フランチェス・フォスカリ … フェリーチェ・ヴァレージ Felice Varesi 1813―1889 《マクベス》および《リゴレット》のタイトルロール、《椿姫》のジェルモンの創唱者)
ヤコポ・フォスカリ … エウジェニオ・ムジク Eugenio Musich。
ルクレツィア … ジュゼッピナ・レーヴァ Giuseppina Leva。
ヤコポ・ロレダーノ … カミッロ・フェッラーラ Camillo Ferrara。

物語の舞台であるヴェネツィアでは、まず1845年3月30日にサン・ベネデット劇場で上演があった。
そして、《二人のフォスカリ》を拒んだフェニーチェ劇場は、上演記録によると1847年2月10,11,13,28日,3月4,6,7,9,10,11日と、10回の公演が催された。

英国初演は1847年4月10日、ロンドンの女王陛下劇場。英国で上演された4番目のヴェルディのオペラだった。
フランチェス・フォスカリ … フィリッポ・コレッティ。
ヤコポ・フォスカリ … ガエターノ・フラスキーニ。
ルクレツィア … アントニエッタ・モンテネグロ Antonietta Montenegro(カディス生まれのスペイン人で、本名は アントニア・モンテネグロ・デル・カルメン Antonia Montenegro del Carmen)。
ヤコポ・ロレダーノ … リュシアン・ブシェ Lucien Bouché。
実はこの英国初演は、この日予定されていたドニゼッティ《愛の妙薬》の上演が、ドゥルカマーラを歌う予定だったルイージ・ラブラーシュ Luigi Lablache が喉の不調でキャンセルになり、急遽予定より10日も前倒しで上演されたそうだ。

ロンドンでは2か月後の1847年6月19日にも、コヴェント・ガーデン劇場で上演された。
フランチェス・フォスカリ … ジョルジョ・ロンコーニ Giorgio Ronconi 1810―1890
ヤコポ・フォスカリ … マーリオ。
ルクレツィア … ジューリア・グリージ。

ドイツ語圏の最初の上演は、1845年4月1日、ウィーンのケルンテン門劇場。
フランチェス・フォスカリ … 創唱者のアキッレ・デ・バッシーニ。
ヤコポ・フォスカリ … エンリーコ・カルツォラーリ Enrico Calzorari。
ルクレツィア … リタ・デ・バッシーニ=ガブッシ Rita De Bassini-Gabussi 1822―_? アキッレ・デ・バッシーニの妻。
ヤコポ・ロレダーノ … フェデリーコ・ベッカー Federico Becker。
バルバリーゴ … ジューリオ・ソルディ Giulio Soldi。
ピサーナ … エンマ・アウエ Emma Aue
使用人 … カルロ・ラインホルト Carlo Reinhold
召使 … エドワルド・ヘルツェル Edoardo Hölzel

西半球初演は、1847年1月2日、キューバ、ハバナのタコーン劇場 Tacòn Theatre。巡業イタリアオペラ団による上演で、シーズン中に10回の上演があった。彼らは同じシーズンに《エルナーニ》も上演しており、その後米国西海岸に移って、4月15日にニューヨークで《エルナーニ》の米国初演、それからボストンに移り、1847年5月10日、ハワード・アシニーアム Howard Athenaeum で米国初演された。このオペラ団はさらに6月9日にニューヨーク、マンハッタンのパーク劇場 Park Theatre で、さらに7月19日にフィラデルフィアのウォルナット・ストリート劇場 Walnut Street Theatre で《二人のフォスカリ》を上演した。
米国西海岸初演は、1855年3月23日、サンフランシスコのアメリカ劇場 American Theater。

日本初演は、2001年12月8日、東京オペラ・プロデュースによる上演、新国立劇場中劇場。翌12月9日と2回公演。
日本ではその後は上演がなかった(滋賀県のびわ湖ホールでの一連のヴェルディのオペラの上演でも取り上げられなかった)が、2023年9月9、10日、藤原歌劇団が公演を予定している

※普請中※

音楽

《ナブッコ》、《ロンバルディ》、《エルナーニ》と、3作続けて熱気に満ちた音楽で人気を博したヴェルディだったが、《二人のフォスカリ》では一転して暗く重苦しい空気に包まれている。現代から見れば、《二人のフォスカリ》が後年のヴェルディを予告する要素が多々含まれていることが容易に理解できるわけだが、1844年という年代を考えれば、この作品はイタリアオペラでは相当な異色作である。
もう一つの異色な点は動機の活用である。十人委員会の動機、ヤコポの動機、ルクレツィアの動機、フォスカリの動機が明確に描かれている。これらの動機は発展することも相互に関わり合うこともなく、あくまで単純なシンボルの役目しか持たないが、それでも当時のイタリアオペラでは他に例がないかもしれない。

第1番 前奏曲は、不気味で荒々しい冒頭の後、まずクラリネット・ソロがアダージョでヤコポの動機を悲しげに奏でる。続くフルート・ソロの音楽は、第1幕のルクレツィアのカヴァティーナのカンタービレで用いられる素材。

第1幕
第2番 導入では、途中から十人委員会の動機が現れる。男声三部合唱の委員会には個人の性格が感じられず、しかも旋律よりもリズムで耳に残り、得体のしれない集団の不気味さが浮き上がっている。

第3番 シェーナとヤコポのアリア では、冒頭にヤコポの動機が現れる。アリアはカンタービレ/カバレッタ形式。カンタービレ Dal piu remoto esiglio, では、上昇音型を多用した歌に久々にヴェネツィアの地を踏んだヤコポの感慨が現れている一方で、伴奏は弦の簡素なピツィカートから発展し、ヤコポの気持ちの高まりを描いている。カバレッタ Odio solo, ed odio atroce は若い頃のヴェルディらしい勇壮な音楽だが、無実 l'innocenza という言葉に付けられた最高音の変ロ音が変イ長調の主和音にぶつかり、それがヤコポの苦しみを痛々しいほどに浮かび上がらせている。

第3番 シェーナ、合唱とルクレツィアのアリア。冒頭に焦燥したようなルクレツィアの動機。ルクレツィアのアリアはカンタービレ/カバレッタ形式。カンタービレ Tu al cui sguardo onnipossente はハープ伴奏に乗った優美な音楽。それを破るような中間部(ピサーナがヤコポの再流刑を知らせる)を経て、カバレッタ O patrizi... tremate... l'Eterno はかなり激しい音楽で、最高音は高いハ音。

第6番 シェーナとドージェのロマンツァでは、チェロとヴィオラによる渋い前奏が素晴らしい。ドージェの責務から一時解放されたフォスカリの心情が描かれている。ロマンツァ O vecchio cor, che batti はしみじみと深みのある音楽で、後年のヴェルディを予感させる。

第7番 シェーナと二重唱は、実質的に第1幕フィナーレである。基本的にカンタービレ/カバレッタ形式を採っているが、テンポと調性が頻繁に変わる。カンタービレはルクレツィアがハ短調 Tu pur lo sai, che giudice、フォスカリがハ長調 Oltre ogni umano credere と対比されている。中間部の後半 Senti il paterno amore... は美しい二重唱に発展すると思いきや途中で切れ、唐突にカバレッタに入る。前半のルクレツィアの Se tu dunque potere non hai と後半のドージェの (O vecchio padre misero は、テンポも拍子も調性も異なっており、両者の対場の違いが強調されている。ストレッタなってようやく二重唱らしい音楽になる。全般にルクレツィアの音楽はかなり激しく、高いハ音が2回用いられている。

第2幕
第8番 導入、シェーナとヤコポのアリアは強烈な曲だ。ヴィオラ独奏とチェロ独奏による暗く侘しい前奏はとても効果的だ。ヤコポのアリアはいわゆる狂乱の場で、シェーナから非常に劇的である。アリア Non maledirmi, o prode, では、激しい鼓動を表す音楽と、自らの無実を訴えるカンタービレな音楽が交替する。そしてクライマックスは一転してシェーナ的な音楽になり、ヤコポの絶叫で彼の恐怖を際立たせている。

第9番 シェーナと二重唱。カンタービレ/カバレッタ形式の二重唱だが、中間部に舞台裏からのバンダ(楽隊)と合唱による平和な歌声を挟むことで、ヤコポの悲劇を引き立てている(⇒ 作曲 の項目を参照)。

第10番 三重唱 は、急/緩/急の三部構成。最初の急 Ah padre!... は、真の家族の再会の喜びの爆発。緩 Nel tuo paterno amplesso は美しい三重唱だが、ヤコポが父から心の支えを期待するのに対し、フォスカリの歌はハープ(天上の象徴)で伴奏されており、自らと息子の死を予感していることが伺える。経過区でロレダーノが登場する。急 ah sì, il tempo che mai non s'arresta は、ほとんどユニゾンのルクレツィアとヤコポの歌を軸に一気に駆け抜ける。3/4 ヘ長調 の音楽でありながらたいへん劇的で、ルクレツィアは3箇所で高いハ音に至っている。

第11番 第2幕フィナーレは、まず3つめの十人委員会の合唱で始まる。この第2幕フィナーレは、コンチェルタート Queste innocenti lagrime が中心になっているが、その前のシェーナがたいへん充実しており、ヤコポの Non hai, padre, un solo detto は短いアリアのような印象を残す。そこにルクレツィアが押し入って一気に緊張感が高まる。コンチェルタート Queste innocenti lagrime はたいへん熱の入った感動的な音楽だが、クライマックスに至るかというところでロレダーノによって断ち切られ、ヤコポの言葉から徐々に力が失われていく。続くストレッタは僅か17小節。ヤコポの無念が強く出たやるせないフィナーレである。

第3幕
第12番 導入の合唱とバルカローラ は、暗い場面の多い《二人のフォスカリ》の中にあって例外的に明る い場面。バルカローラの音楽は、第2幕の二重唱で舞台裏から歌われたものと同じ素材。ト書きには特に記されていないが、ここではバレが披露されるのが常。

第13番 シェーナとヤコポのアリア。かなり劇的なシェーナの後、アリアはロレダーノが割り込むことで前半と後半に分かれるが、テンポは変化しない。前半 All'infelice veglio は実質的に変イ短調という珍しい調性で、ヤコポの悲痛な思いが切々と歌われる。後半 Ah padre, figli, sposa, はルクレツィアと合唱が大きく加わりヤコポが別れを告げ、まるでフィナーレのコンチェルタートのようになっている。

第14番 レチタティーヴォとルクレツィアのアリア は珍しい作りをしている。レチタティーヴォではルクレツィアは現れずフォスカリだけの場面。ここでフォスカリはしみじみとした Oh morto fossi allora, を歌うが、これはあくまで挿入的に留まる。一方アリア Più non vive!.. l'innocente はルクレツィアだけでフォスカリは加わらない。このアリアは途中でテンポが上がるとはいえ、基本的に単一構成。力強い声で装飾歌唱を捌かなくてはならない。

第15番 シェーナとドージェのアリアと最終幕フィナーレ。ここは主役のカンタービレ/カバレッタ形式のアリアフィナーレを下地にしつつ、しかしカバレッタをほぼアンサンブルにすることで最後の最後のフォスカリの死を際立たせている。アリア Questa dunque è l'iniqua mercede, では、それまでドージェとして感情を必死に抑えてきたフォスカリが、堰を切ったように父の感情を吐き出し、息子を返してくれと訴える。このオペラで最も心を揺さぶる名場面で、涙無しには聞けない。後継ドージェを祝う鐘の音が聞こえる。フィナーレ D'un odio, d'un odio infernale は、すべてを失ったフォスカリの悲痛な嘆きがしかし一同の声の中に埋もれていく。そして「私の息子よ!!!」の一言でこと切れる。これはヴェルディが生涯に渡って追い求めることになる『死の場面をじっくり描く』ことに初めて成功した例だろう。


第3a番 シェーナとヤコポのアリアのための差し替えカバレッタ。前述の通り、1846年12月17日、パリのイタリア劇場で行われたパリ初演の際にヤコポを歌ったマーリオのために差し替えられたカバレッタ。カバレッタと言っても Allegro moderato でゆっくりめに感じられる。最高音は高い変ホ音で、これはヴェルディがテノールに与えた最高音である。この超高音も含めカバレッタ全体がファルセット―ネを得意としたマーリオの優美な魅力を引き立てるように作られている。同時に、十人委員会への怒りを露わにするオリジナルの Odio solo, ed odio atroce と異なり、天上への逃避を願う差し替えカバレッタは、ヤコポの諦めが前面に出ている。したがってヤコポの人物像が大きく変わることになる。

あらすじ

第1幕
1457年、ヴェネツィア、パラッツォ・ドゥカーレの広間。十人委員会の委員たちが集まって来る。その中にはバルバリーゴとロレダーノもいる。ドージェのフランチェスコ・フォスカリは先に中に入っており、委員たちもそこへ向かう。
ドージェの息子ヤコポ・フォスカリが牢から引き出されて来る。彼は十人委員会の議長エルモラオ・ドナートを暗殺した容疑で捕らえられクレタ島に流刑されていたが、ヴェネツィアの敵方であるミラノ公爵スフォルツァに手紙を出したことから尋問のためヴェツィアに呼び戻された。ヤコポは、遠い流刑の地からもいつもヴェネツィアのことを思っていたと故郷を再び見ることのできた喜びに浸る。しかし十人委員会室に入るよう求められると、自分へ敵意を剥き出しにする委員たちへの怒りを露にし、フォスカリ家の誇りを持って無実を主張しようと、部屋に入って行く。
フォスカリ宮の大広間。ヤコポの妻ルクレツィアがドージェにヤコポの減刑を求めに行こうとし、それを侍女たちが止めている。ルクレツィアは天に祈る。だが侍女のピザーナから、ヤコポが改めて流刑に処されたと聞き、神が委員たちに報復をするであろうと激しく憤る。
パラッツォ・ドゥカーレの広間。委員たちが、ヤコポは罪を認めなかったが、彼がミラノ公爵スフォルツァに宛てた手紙が証拠となって、再流刑が決まったことを述べる。
ドージェの私室。フランチェスコ・フォスカリは一人になって、ドージェとしてヤコポを裁いたが、父親の思いで涙が涸れたと嘆く。ルクレツィアが泣きながらドージェにを訪れ、無実の夫ヤコポを罪人に仕立てる十人委員会を非難し、彼を返してほしいと訴える。しかしドージェにもどうすることができない。一緒に嘆願してほしいと訴えるルクレツィア。フォスカリは、ドージェでありながら息子を助けられない無力を悲しみ、涙を落とす。

第2幕
牢獄。ここに収監されているヤコポは、カルマニョーラ[注]の亡霊を見て慄き、気を失ってしまう。ルクレツィアは倒れ伏した夫を見つけ驚き、介抱する。意識を取り戻したヤコポに、ルクレツィアはまたも流刑の判決が下ったことを知らせる。二人は家族が離れ離れに暮らさなくてはならないことを嘆く。遠くから運河で競争をするゴンドラ漕ぎたちの陽気な声が聞こえてくる。ヤコポは判決を下した者たちを罵り、ルクレツィアと共に愛だけが生きる糧だと嘆く。
フォスカリが現れ、ここでは父として息子への愛を隠さず、父子は泣きながら抱き合い、一方ルクレツィアは天に復讐を求める。フォスカリが立ち去ろうとすると、ロレダーノが現れ、ヤコポが再び十人委員会に呼び出されていると告げ、自分もクレタ島まで同伴するというルクレツィアの申し出を退ける。夫婦はロレダーノを罵り、フォスカリはドージェに戻って二人を諌める。ロレダーノは、かつてフォスカリ家に一族を弾圧されたことを恨み、ヤコポの流刑で復讐を果たそうとしている。ヤコポは連れて行かれる。
十人委員会の広間。委員たちはヤコポの流刑を急ぐよう話し合う。フォスカリが加わる。引き出されたヤコポは父に恩赦を求めるが、ここではフォスカリもドージェとして振舞うしかない。突然、ルクレツィアが二人の子供を伴って会議室に押し入る。ヤコポは泣きながら子供たちを抱きしめ、ルクレツィアと共に慈悲を必死に訴える。バルバリーゴはロレダーノに情けをかけるよう働きかけるが、ロレダーノはそれを聞き入れず、クレタ島に向かうよう冷酷に告げる。ヤコポは子供たちを父に託し、退出させられる。あまりのことにルクレツィアは気を失ってしまう。

注  カルマニョーラ il Carmagnola、本名フランチェスコ・ブッソーネ Francesco Bussone 1380頃―1432 は、イタリアの傭兵。生地がピエモンテの小都市カルマニョーラなので、彼もまたカルマニョーラと呼ばれる。ミラノ公フィリッポ・マリア・ヴィスコンティ 1392―1447 の軍で頭角を現し軍功を上げるも、フィリッポ・マリアはカルマニョーラを危険視し、軍司令官の職を解き、支配下のジェノバの首長 Capitano に命じた。これを不服としたカルマニョーラは、1425年3月、フランチェスコ・フォスカリがドージェになって2年ほどの頃、ヴェネツィアに身を転じた。1427年10月、ミラノとの戦い(マクローディオの戦い)では、カルマニョーラの活躍でヴェネツィアが勝利を収めた。ヴェネツィアの英雄となったカルマニョーラだったが、フィリッポ・マリア・ヴィスコンティと手紙で接触を持ったことが明るみに出て、1432年5月5日、サン・マルコ広場で斬首された。

第3幕
サン・マルコ広場。夕方。広場では人々が陽気に騒いでいる。仮面をつけたバルバリーゴとロレダーノが現れ、ロレダーノは人々に陽気なバルカローラ(舟歌)を歌わせる。
ドージェの館から刑の執行のラッパの音が聞こえ、人々は散り散りに去る。間もなく島送りの船に乗せられるヤコポは、ルクレツィアに家族を託し、天上で再会しようと告げて乗船する。 フォスカリの私室。フォスカリが一人、三人の子に先立たれ、四人目のヤコポを無実の罪から救えなかったことに苦悩している。そこにバルバリーゴが、エリッツォという男が死ぬ間際にドナート殺しの真相を白状し、ヤコポの無実が明らかになったと告げる。フォスカリは息子の無実が証明されたとが喜ぶが、ルクレツィアがヤコポが出発する際に亡くなったことを知らせる。フォスカリは苦悶する。
十人委員会の委員たちがやって来て、フォスカリをドージェから解任すると一方的に宣告する。これに、かつて二度辞任を申し出て拒まれ、終身ドージェを誓わされたフォスカリは、激しく抗議する。だが委員たちは取り合わない。フォスカリは彼らに息子を返してくれと悲痛に訴える。ドージェの指輪と冠を引き渡すと、ルクレツィアを呼び出して出て行こうとする。そこに後継ドージェを讃える鐘の音が鳴り響く。フォスカリは苦しみ、「私の息子よ」と言い残して息絶える。一同の嘆きとロレダーノの冷酷な一言で幕となる。

史実の人々

フランチェスコ・フォスカリ 1373―1457 ドージェ在位 1423―1457 は、ヴェネツィア共和国のドージェを34年間務め、歴代ドージェの在任期間の最長記録を持っている。彼の時代はヴェネツィア共和国の全盛期であり、ジェノヴァとの講和 1381 を始め数々の功績を上げているが、一方長命して80歳を過ぎた高齢でもドージェを辞められなかったこと、そして彼の息子ヤコポにかけられた陰謀の嫌疑のため、晩年は苦しんだ。1457年1月12日にヤコポが流刑先で亡くなった悲しみで衰えが進み、1457年10月21日に十人委員会から(終身制であるにもかかわらず)ドージェの退任を強いられ、その直後の11月1日に亡くなっている。フォスカリは、1415年に結婚した二番目の妻マリーナ・ナーニとの間に、5人の息子、4人の娘を儲けたが、息子に関しては、1438年にドメニコという息子が亡くなるとヤコポが唯一の生き残った息子だったという。

ヤコポ・フォスカリ 1416頃―1457 はフランチェスコの息子。1441年にルクレツィア・コンタリーニと結婚。ヴェネツィアの宿敵、ミラノ公フィリッポ・マリア・ヴィスコンティ 1392―1447 から許可無く金品を受け取ったとして、1445年2月18日、十人委員会からナフプリオ(ギリシャのアルゴリコス湾の奥に位置する)への流刑に処された。段階的に恩赦が下り、ヴェネツィア本土に戻ることも可能になったのだが、1450年11月5日、裁判でヤコポに有罪判決を下した十人委員会の一人、エルモラオ・ドナートが暗殺され、ヤコポに陰謀の嫌疑がかけられた。確実な証拠は無かったにもかかわらず、ヤコポは有罪判決を受け、1451年3月にギリシャのクレタ島のハニア(イタリア語でカネーア)に流刑された。この時は収監されることはなかったが、彼が流刑中にミラノ公フランチェスコ・スフォルツァ 1401―1466 やオスマン帝国のスルタン、メフメト2世 1432―1481 に手紙を送ったことが発覚し、ヤコポはまたも十人委員会から呼び出され、1456年7月、再度クレタ島への流刑判決が下され、今度は収監された。その半年後の1457年1月12日、ヤコポはハニアで亡くなった。

ルクレツィア・コンタリーニは、ヤコポ・フォスカリの妻。ヴェネツィアの名門貴族コンタリーニ家の出。ヤコポとは1441年に結婚し、二男二女を儲ける。

オペラでのヤコポ・ロレダーノに直接相当する実在の十人委員会委員がいたかどうか分からない。彼がフォスカリ親子に執拗に復讐を求めている理由は、第2幕 第10番 三重唱の中で『(私の血筋に対して 死をもたらす 邪悪な血統め; (Empia schiatta al mio sangue funesta;』という台詞くらいでしか説明されていない。しかしバイロンの原作では言及されている。

ドージェは ピーター・ロレダンが死ぬまでは、自分が君主であるとは思うべきではない と宣言したのだが、 【その発言から】すぐに 兄弟は二人とも病気になった: 【今】彼は 君主だ。
When the Doge declared that he
Should never deem himself a sovereign till
The death of Peter Loredano, both
The brothers sicken'd shortly: -he is sovereign.


ピーター・ロレダンとは、実在するピエトロ・ロレダン Pietro Loredan 1372―1438(同名のドージェとは別人)のことである。ピエトロ・ロレダンはヴェネツィアの海軍大将で、1416年5月、ガリポリの戦いでオスマン帝国軍を打ち破るなど、数々の海戦で功績をあげたヴェネツィアの英雄である。次期ドージェの有力候補と目されていた物の、1423年のドージェ選出では対立するフォスカリ家のフランチェスコに破れた。両家の対立は深刻だったため、1439年にピエトロが亡くなると、フォスカリによって毒殺されたという噂が流れた。オペラでのロレダーノは、このことを恨みフォスカリ家を絶やそうとしているのである。

バルバリーゴ家もヴェネツィアの名門貴族である。バルバリーゴ家からはマルコ・バルバリーゴ 1413―1486 ドージェ在位1485―1486 とアゴスティーノ・バルバリーゴ 1419―1501 在位1486―1501 の兄弟がドージェに就いた。

ヴェネツィア共和国におけるドージェと十人委員会

※普請中※

※※『ヴェネツィア共和国 ドージェ 十人委員会』 で検索すると詳しい解説がたくさん見つかるので、とりあえずそちらを。※※

対訳付き音楽設計図

登場人物
フランチェスコ・フォスカリ
Francesco Foscari,
ヴェネツィアのドージェ、80歳の
Doge di Venezia, ottuagenario
バリトン
baritono

ヤコポ・フォスカリ
Jacopo Foscari,
彼の息子
suo figlio
テノール
tenore

ルクレツィア・コンタリーニ
Lucrezia Contarini,
彼の妻
sua moglie
ソプラノ
soprano

ヤコポ・ロレダーノ
Jacopo Loredano,
十人委員会の一員
membro del Consiglio dei Dieci
バス
basso

バルバリーゴ
Barbarigo,
元老院議員
senatore
テノール
tenore

ピサーナ
Pisana,
ルクレツィアの友人 そして 腹心の友
amica e confidente di Lucrezia
ソプラノ
soprano

十人委員会の使用人
Fante del Consiglio dei Dieci,

テノール
tenore

ドージェの召使
Servo del Doge

バス
basso


1457年、舞台はヴェネツィア。

台本は、歌詞、ト書き、楽曲区分も、アンドレアス・ギガー校訂のクリティカルエディションに従っている。旧版とは少なからぬ相違がある。
日本語訳は極力文学的な色づけをせず、分析的な直訳にしてある。

N. 1.
Preludio
Allegro agitato
4/4
c minor
Adagio
4/4
E-flat major
クラリネットによってヤコポの動機が示される。

Allegro come prima
4/4
c minor
ATTO PRIMO
N. 2.
Introduzione

Barbarigo
Loredano
Coro
Andante con moto
3/4
E-flat major
(Una sala nel palazzo ducale di Venezia. Di fronte veroni gotici da' quali si scorge parte della città e delle lagune a chiaro di luna. A destra dello spettatore due porte, una che mette negli appartamenti del Doge, l'altra all'ingresso comune; a sinistra altre due porte che guidano all'aula del Consiglio de' Dieci, ed alle carceri di Stato. Tutta la scena è rischiarata da due torcie di cera, sostenute da bracci di legno sporgenti dalle pareti)(ヴェネツィアのパラッツォ・ドゥカーレ【= ドゥカーレ宮殿,総督宮殿,総督宮】の中の広間。正面に ゴシック様式のバルコニー そこから 月の光で 町の一部が そして 潟の【一部が】 認められる。観客の右には【≒ 上手 かみて には】 二つの扉、一つ それは ドージェの住居の中に 通じている 別のものは 出入口の入口に 【通じている】; 左には【≒ 下手 しもて には】 別の2つの扉 それらは 十人委員会の広間へと 案内している、そして 国の牢獄へと 【案内している】。舞台は 2本の蜜ろうそくで すっかり 照らされている、【それは】 壁から突き出た腕木によって支えられている)
(SCENA PRIMA: Il Consiglio dei Dieci e Giunta, che vanno raccogliendosi)(第1場: 十人委員会 と 追加委員、その者たちは 徐々に 集合する)
La scena è vuota舞台は 空である
I membri del Consiglio de' dieci van raccogliendosi per sedere al giudizio di Jacopo Foscari十人委員会の委員たちは ヤコポ・フォスカリの裁判に 座る【≒ 出席する】ために 徐々に集合している

CORO DI SENATORI元老院議員たちの合唱
Silenzio. Mistero.沈黙が。秘密が。
Silenzio, mistero qui regnino intorno.沈黙が、秘密が この辺りでは 支配するように。
Qui veglia costante la notte ed il giornoここでは 夜は そして 昼は【≒ 昼も 夜も】 常に 見守っている
sul veneto fato di Marco il Leon.ヴェネトの宿命を 【サン・】マルコの獅子が。
Silenzio, Mistero, Venezia fanciulla沈黙が、秘密が、未熟なヴェネツィアを
nel sen di quest'onde protessero in culla,この波の懐の中の 揺り籠の中で 保護した、
e il fremer del vento fu prima canzon.そして 風の唸りが 最初の歌だった。
Silenzio, mistero, la crebber possente沈黙が、秘密が、それ【= ヴェネツィア 女性名詞】を 育てた 強力に
de' mari Signora, temuta, prudente恐れられた、思慮深い、海の女主人に
per forza e sapere, per gloria e valor.力と 知識によって、栄光と 勇気によって。
Silenzio, mistero, la serbino eterna,沈黙が、秘密が、それ【= ヴェネツィア 女性名詞】に 永遠を 取っておくように、
sien l'anima prima di chi la governa,それらが【= 沈黙が、秘密が、】 それ【= ヴェネツィア 女性名詞】を 統治する者の 基本の精神であるように、
ispirin per essa timore ed amor.それ【= ヴェネツィア 女性名詞】に対する 恐怖と 愛を 生じさせるように。
Silenzio, mistero, silenzio, mister.沈黙が、秘密が、沈黙が、秘密が。


(SCENA Ⅱ: Detti, Barbarigo e Loredano, che entrano dalla comune)(第2場: 前の場の人たち、バルバリーゴ と ロレダーノ その者たちは 出入口から 入る)

BARBARIGOバルバリーゴ
Siam tutti raccolti?私たちは 全員 集められたのか?

CORO合唱
Il numero è pieno.数は いっぱいだ【≒ 全員いる】

LOREDANOロレダーノ
E il Doge?それで ドージェは?

CORO合唱
Fra i primi qua venne sereno;彼は 最初の者たちの間で ここに 来た 冷静に【≒ 最初に ここに 来た者たちと一緒に 穏やかな様子で ここに来た】
dei Dieci nell'aula poi tacito entrò.それから 十人委員会の広間に 黙って 入った。

BARBARIGO, LOREDANO E COROバルバリーゴ、ロレダーノ と 合唱
Or vadasi adunque, giustizia ne attende,それでは 今こそ 行こう、公正さが 私たちを 待っている、、
giustizia che eguali qui tutti ne rende,公正さ それは ここでは 私たちに 皆に 平等に 与える、
giustizia che splendido seggio fermò,公正さ それは 【ヴェネツィアの】 輝かしい地位を 安定させた、
giustizia qui seggio fermò.公正さは ここで 地位を 安定させた。
Silenzio. Giustizia.沈黙が。公正さが。
partendo退場しながら
Silenzio, mister.沈黙が、秘密が。
(entrano nell'aula del Consiglio)(委員会の広間に 入る)
che entrano dalla comune)
この場合の comune は 出入口。

Tutta la scena è rischiarata da due torcie di cera,
torcia (英語の torch に相当) は松明 たいまつ のことだが、転じて ろうそく を意味することもある。cera は 蜜蝋(ミツバチの巣から取れる蝋) のことだが、これだけでも ろうそく を意味することもある。蜜ろうそく torcie di cera は蜜蝋でできたろうそくで、動物性油脂でできたろうそくに比べて油煙が少なく、教会や上流社会で好まれた。

Il Consiglio dei Dieci e Giunta,
この場合の Giunta はヴェネツィア共和国における Zonta のこと。どちらも 付け加え,追加 を意味し、つまり ゾンタ は十人委員会の追加委員を指す。

Silenzio. Mistero.
ここでの silenzio や mysteroは、sien l'anima prima di chi la governa, という部分から分かる通り、ヴェネツィアという潟に打ちたてられた新興国家の信条を示している。なので mistero は 秘密。silenzio は、一応 沈黙 と訳したが、 対になっているので、口外しないこと,他言しないこと の意味が強い。つまり Silenzio, mistero, で 秘密を決して他人に漏らさないこと という意味。当然これは十人委員会の閉鎖的、密室的な性格も示している。

N. 3
Scena [ed] Aria Jacopo

Jacopo

Fante del Consiglio
Andante
4/4
g minor
(SCENA Ⅲ: Jacopo Foscari che viene dal carcere preceduto dal Fante, fra i due Comandadori)(第3場: ヤコポ・フォスカリ その者は 牢獄から 来る 使用人によって 先立たれて、二人の司令官の間で)
シェーナを前に置いたカンタービレ(緩)/カバレッタ(急)の二部形式のアリア
前奏。

(Recitativo)


4/4
(g minor)
FANTE DEL CONSIGLIO委員会の使用人
Qui ti rimani alquanto,ここで いくらか 留まりなさい、
finché; il Consiglio te di nuovo appelli.委員会が 君を 再び 呼ぶまで。

JACOPOヤコポ
Ah sì, ch'io senta ancora, ch'io respiriああ そうだ、私が また 感じるように、私が 呼吸をしていることを
aura non mista a gemiti e sospiri.微風を 呻きの混じっていない そして 溜め息【≒ 私が 呻きや 溜め息をすることなしに 微風を吸い込むことが また 感じられるように】
シェーナ。

Adagio
3/4
B-flat major
(SCENA Ⅳ: Jacopo ed i due Comandadori di guardia)(第4場: ヤコポと 二人の護衛兵の指揮官)

JACOPOヤコポ
(Il Fante entra in Consiglio)(使用人は 委員会に 入る)
si appressa al veroneバルコニーに 近付く
Brezza del suol natio故郷の国の微風が
il volto a baciar voli all'innocente!...無実の者の顔に キスをしに 飛んでくるように!…
Ecco la mia Venezia!... ecco il suo mare!...ほら これが 私のヴェネツィアだ!… ほら これが その【= ヴェネツィアの】海だ!…
Regina dell'onde, io ti saluto!...波々の【≒ 海の】女王よ、私は お前に 挨拶する!…
シェーナ(続き)。

(Recitativo)


4/4
(B-flat major)
Sebben meco crudele,私に 残酷 ではあるが、
io ti son pur de' figli il più fedele.それでも 私は お前の息子たちのうちで 最も忠実な【息子】だ。
シェーナ(続き)、レチタティーヴォ。

Andante
6/8
D-flat major
Dal più remoto esiglio,最も遠方の流刑地から
sull'ale del desio,憧れの翼の上に乗って
a te sovente rapidoしばしば 素早く お前【= ヴェネツィア】
volava il pensier mio;私の思いは 飛んだ;
come adorata vergine熱愛された【≒ 大好きな】乙女のように
te vagheggiando il core,心は お前を 切望して、
l'esiglio ed il dolore流刑と 苦悩が
quasi sparian per me.私には まるで ほとんど 消えているかのようだ。
カンタービレ(緩)。

Allegro
4/4
D-flat major
(SCENA Ⅴ Detti, ed il Fante che viene dal Consiglio)(第5場: 前の場の人たち、そして 使用人 その者は 委員会から 来る)

FANTE使用人
Del Consiglio alla presenza委員会の前に
vieni tosto, e il ver disvela.すぐに 来なさい、そして 真実を 明らかにしなさい。

JACOPOヤコポ
(Al mio sguardo almen vi cela,(そこでは 私の視線から せめて 隠しなさい、
ciel pietoso, il genitor!)慈悲深い天よ、父を!)

FANTE使用人
Sperar puoi pietà, clemenza...君は 期待することができる 哀れみを、慈悲を…

JACOPOヤコポ
Chiudi il labbro, o mentitor.口を閉じなさい、ああ 嘘吐きめ。
テンポ・ディ・メッツォ(中間部)。

Al mio sguardo almen vi cela,
この vi は 副詞 そこに で採った。

Allegro vivo
4/4
A-flat major
Odio solo, ed odio atroce憎悪だけが、そして 残忍な憎悪が
in quell'anime si serra;あれらの魂々の中に 閉じ篭っている;
sanguinosa, orrenda guerra血まみれの、恐ろしい戦いが
da costor si farà.奴らによって 為されるだろう。
Ma sei Foscari, una voceだが 君はフォスカリ家の者だ という声が
va tuonandomi nel core:私の心の中で 徐々に 轟いている:
forza contro il lor rigor彼らの厳しさに 立ち向かう 力を
l'innocenza ti darà.【= ヤコポ】に 無実が 与えるだろう と。

(Tutti entrano nella sala del Consiglio)(全員が 委員会の広間に 入る)
カバレッタ。

1846年12月17日、イタリア劇場でのパリ初演の際、ヴェルディはこのカバレッタを Sì, lo sento, Iddio mi chiama という新たなカバレッタに差し替えている(⇒ 19世紀半ばの上演と、20世紀における復活,⇒ 対訳付き音楽設計図の末尾)。

N. 4
Scena, Coro [ed] Aria Lucrezia

Lucrezia
Coro
Allegro agitato
4/4
e minor
(Sala nel palazzo Foscari. Vi sono varie porte all'intorno con sopra ritratti dei Procuratori, Senatori ec. della famiglia Foscari. Il fondo è tutto forato da gotici archi, a traverso i quali si scorge il canalazzo, ed in lontano l'antico ponte di Rialto. La sala è illuminata da grande fanale pendente del mezzo)(フォスカリ宮の大広間。辺りには 様々な扉がある 上方に フォスカリ家の 財務官たち、元老院議員たち 等々 の肖像画のある。奥は 完全に ゴシック調のアーチ【を連ねた柱廊】によって 穴が開けられている【≒ 抜けている】、それらを横切って【≒ そこを通して】 大運河が 認められる、そして 遠くには 古いリアルト橋が【認められる】。広間は 照らされている 大きな灯りによって 中央に ぶら下がった)

(SCENA Ⅵ: Lucrezia esce precipitosa da una stanza seguita dalle Ancelle che cercano di trattenerla)(第5場: ルクレツィアが 大急ぎで 部屋から 出る 侍女たちに 後を追われて その者たちは 彼女を 引き留めようとしている)
シェーナと合唱を前に置いたカンタービレ(緩)/カバレッタ(急)の二部形式のアリア
前奏。

Recitativo


4/4
(e minor)
LUCREZIAルクレツィア
No... mi lasciate... andar io voglio a lui...いいや… 私を 放しなさい… 彼のところに 私は 行きたい…
Prima che Doge, egli era padre... il coreドージェである前に、彼は 父だった… 心を
cangiar non puote un soglio...玉座が 変える ことはできない…
Figlia di Dogi al Doge nuora io sono:私は ドージェたちの娘であり ドージェの息子の嫁である:
giustizia chieder voglio, non perdono.私は 公正さを 求めるつもりだ、赦免ではなく。

CORO合唱
Resta...留まりなさい…
シェーナ。

Figlia di Dogi al Doge nuora io sono:
Figlia di Dogi ルクレツィアの出身家であるコンタリーニ家は、フランチェスコ・フォスカリがドージェになる前に3人のドージェを輩出している。

Allegro agitato
4/4
e minor
resta: quel pianto accrescere留まりなさい: その涙は 増大させる
può gioia a' tuoi nemici;ことができる 君の敵たちの喜びを;
al cor qui non favellanoここでは 心に 語らない
le lagrime infelici...不幸な涙は…
Tu puoi sperare e chiedere君は 期待する ことができる そして 求める【ことができる】
dal ciel giustizia solo...ただ 天からの公正さだけを…
Cedi, raffrena il duolo;屈しなさい【≒ あきらめなさい】、苦悩を 抑さえなさい;
pietade il cielo avrà.天が 哀れみを 抱くだろう。

LUCREZIAルクレツィア
Ah sì conforto ai miseriああ 哀れな者たちには これほどに 慰め
del ciel è la pietà.である 天の哀れみは。
合唱。

ルクレツィアの2行は col canto。
Andante maestoso
4/4
D major
Tu al cui sguardo onnipossente君よ その者の 全能の眼差しを
tutto esulta, e tutto geme,皆が 歓喜し、そして 皆が 呻く、
tu che solo sei mia speme,君よ その者は 私の唯一の希望である、
tu conforta il mio dolor.君は 私の苦悩を 慰めている。
Per difesa all'innocente無実な者の 擁護のために
presta a me del tuon la voce, ah!私に 雷鳴の声を 提供しなさい、ああ!
ogni cor il più feroceどんな 最も残忍な心も
farà mite il suo rigor.その厳しさを 穏やかにするだろう。

CORO合唱
Sperar puoi dal ciel clemente君は 期待できる 慈悲深い天から
un conforto al tuo dolor.君の苦悩に対する 慰めを。
カンタービレ(緩)。

Allegro
4/4
D major
(SCENA Ⅶ: Dette e Pisana che giunge piangendo)(第7場: 前の場の人たち と ピサーナ その者は 泣きながら 来る)
Entra Pisanaピサーナが 入場する

LUCREZIAルクレツィア
Che mi rechi? favella? di morte君は 私に 何を 持って来ているのか? 話すのか? 死の
pronunciata fu l'empia sentenza?無慈悲な判決が 言い渡されたのか?

PISANAピサーナ
Nuovo esiglio al tuo nobil consorte新たな流刑を 君の 高貴な配偶者に
del Consiglio accordò la clemenza.委員会の慈悲が 是認した。
テンポ・ディ・メッツォ(中間部)。

Assai moderato
4/4
g minor
LUCREZIAルクレツィア
La clemenza! s'aggiunge lo scherno...慈悲だと! 馬鹿にした振る舞いが 付け加わった…
D'ingiustizia era poco il delitto?不正行為の罪が 少なかったのか【≒ 不当な扱いをするという恥ずべき行為が 不十分だったとでもいうのか】
Si condanna e s'insulta l'afflitto苦しむ男は 有罪の判決を下されて そして 【さらに】 侮辱されるのか
di clemenza parlando e pietà?慈悲と 哀れみを 話して【≒ 乞うて】
テンポ・ディ・メッツォ(中間部)、続き。

Allegro mosso
4/4
g minor
O patrizi... tremate... l'Eternoああ貴族たち… 震え上がりなさい… 永遠なるもの【≒ 神】
l'opre vostre dal cielo misura...君たちの行為を 天から 測っている…
D'onta eterna, d'immensa sciagura永遠の恥辱で、計り知れない災難で
Egli giusto pagarvi saprà.彼は 当然に 君たちに 支払う【≒ 報いる】ことができるだろう。

PISANA E COROピサーナ と 合唱
Ti confida: premiare l'Eterno信頼しなさい: 永遠なるもの【≒ 神】は 報いることを
l'innocenza dal cielo vorrà.望むだろう 天から 無実に。
カバレッタ(急)。

N. 5.
Coro

Barbarigo
Loredano
Coro
Andante con moto
3/4
E-flat major
(Sala come alla prima Scena)(広間 第1場と同様の)

(SCENA Ⅶ Membri del Consiglio de' Dieci e Giunta, che vengono dall'aula)(第7場: 十人委員会の委員たち そして 追加委員、その者たちは 広間に行く)

BARBARIGO E COROバルバリーゴ と 合唱
Tacque il reo!邪悪な者は 黙り込んだ!

LOREDANO E COROロレダーノ と 合唱
Ma lo condannaだが 彼を 糾弾している
allo Sforza il foglio scritto.スフォルツァに書かれた書類が。

BARBARIGO E COROバルバリーゴ と 合唱
Giusta pena al suo delitto.彼の罪に対する 正当な罰を。

LOREDANO E COROロレダーノ と 合唱
Nell'esilio troverà.彼は 流刑に 見出すだろう。

BARBARIGO E COROバルバリーゴ と 合唱
Rieda a Creta.彼が クレタ島に 戻るように

LOREDANO E COROロレダーノ と 合唱
Solo rieda.一人で 戻るように。

BARBARIGO, LOREDANO E COROバルバリーゴ、ロレダーノ と 合唱
Non si celi la partenza...出発を 隠さないように…
Imparziale tal sentenzaこうした判決は
il Consiglio mostrerà.公正な委員会の 証しとなるだろう。
緩/急の二部形式の合唱。
緩。

Giusta pena al suo delitto. / Nell'esilio troverà.
この2文は、台本では1文であったものを、ヴェルディが2群の合唱に振り分けて2文になってしまったもので、したがって二つで1文として理解すべき。

velocissimo
3/4
C major
Al mondo sia noto, che qui contro i rei,世界に 知られるように、ここでは 邪悪な者たちに対して
presenti o lontani, patrizi o plebei,現在に あるいは 遠い過去に【≒ 今も 昔も】、貴族を あるいは 庶民を
veglianti son leggi d'eguale poter.等しい力で 法が 見守っている。
Qui forte il Leone col brando, con l'aleここでは 剣を持った獅子が、翼を持った【獅子が】 力強く
raggiunge, percuote qualunque mortaleどの人間も 打ち、殴る
che ardito levasse un detto, un pensier.その者は 厚かましくも 言葉を 上げる、考えを【上げる】
急。

raggiunge, percuote qualunque mortale
他動詞の giungere に 打つ,殴る の意味があり、ここでの raggiugere も同様と思われる。

Andante come prima
3/4
C major
N. 6.
Scena e Romanza Doge

Doge
Andante
4/4
F major
(Stanze private del Doge. Avvi una gran tavola coperta di damasco, sopra una lumiera d'argento, una scrivania e varie carte; di fianco un gran seggiolone, sul quale, appena entrato, si abbandona il Doge.)(ドージェの私的な部屋部屋。ダマスク織の布で覆われた 大きなテーブルが ある、上の方には 銀のシャンデリア、書き物机と 様々な書類; 脇に ひじ掛け椅子、その上には、入って間もなく、ドージェが 身を委ねている。)

(SCENA Ⅸ)(第9場)
シェーナを前に置いた単一形式のロマンツァ。
前奏。

Recitativo


4/4
(F major)
DOGEドージェ
Eccomi solo alfine!そら 私は ついに 一人だ!
Solo!... e il sono io forse!一人だ!… そして 私は おそらく そのことだ【≒ 私は たぶん 一人だ】
Dove de' Dieci non penetra l'occhio?...どこに 十人委員会の目が 入り込まないのか【≒ 十人委員会の監視の目が 届かないところが あるというのか】
Ogni mio detto o gesto,どの 私の言葉も あるいは 仕草も、
il pensiero perfin non m'è spiato?私の考えですらも 見張られているのでは?
シェーナ(レチタティーヴォ。

Più mosso
4/4
(F major)
Uno schiavo qui sono coronato!ここでは 私は 冠を頂いた 奴隷だ!
シェーナ、続き。

Andantino
6/8
f minor
O vecchio cor, che battiああ 年老いた心臓よ、それは 鼓動している
come a' prim'anni in seno,初期の年齢【≒ 若い頃】と同様に 胸の中で、
fossi tu freddo almenoできれば お前が 冷たくなっていれば【よいのだが】
come l'avel t'avrà.墓が お前を 受け取る【時の】ように。
ma cor di padre sei:だが お前は 父親の心だ:
vedi languire un figlio,お前は 息子が 弱っているのを 見ている、
piangi pur tu, se il ciglioどうか お前は 泣きなさい、眼が
ロマンツァ。

(Andantino)
6/8
F major
più lagrime non ha.もはや 涙を 持っていない 【↑】以上は、
piangi pur tu, se il ciglioどうか お前は 泣きなさい、眼が
più lagrime non ha.もはや 涙を 持っていない 【↑】以上は。
ロマンツァ、続き。
N. 7.
Scena e Duetto [Lucrezia e Doge]

Lucrezia
Doge
[Recitativo]


4/4
(F major)
(SCENA Ⅹ: Detto ed un Servo, poi Lucrezia Contarini)(第10場: 前の場の人たち そして 召使、それから ルクレツィア・コンタリーニ)

SERVO召使
L'illustre dama Foscari.令名高い フォスカリ婦人が。

DOGEドージェ
(sospirando)(溜め息を吐いて)
(Altra infelice!) Venga.(もう一人の 不幸な者が!) 彼女が 来るように。

(il Servo parte)(召使は 退場する)

(Non iscordare, Doge, chi tu sia.)(忘れるでない、ドージェよ、お前が 誰であるのかを)
シェーナを前に置いた緩/急の二部構成の二重唱。
シェーナ(レチタティーヴォ)。

Allegro
4/4
d minor
Figlia t'avanza...娘よ 近付きなさい…
(andandole incontro)(彼女の方に 行って)
Piangi?..君は 泣いているのか?…

LUCREZIAルクレツィア
Che far mi resta, se mi mancan folgori私に 何をすることが 残っているのか、私に 稲妻が 欠けているならば
a incenerir queste canute tigriこの白髪のトラたちを 灰にするための
che de' Dieci s'appellano Consiglio?...それ【= トラたち】は 十人委員会という名前である?

DOGEドージェ
Donna, ove parli, e a chi, rammenta...婦人よ、君が どこで 話しているのか、そして 誰に 【話しているのか】、思い出しなさい…

LUCREZIAルクレツィア
Il so...私は そのことを 分かっている…

DOGEドージェ
Le patrie leggi qui dunque rispetta...それでは ここでは 祖国の法を 尊重しなさい…

LUCREZIAルクレツィア
Son leggi ai Dieci or sol odio e vendetta.十人委員会には 法は 今や ただ 憎しみと 復讐 だけだ。
シェーナ。

Andante
4/4
c minor
Tu pur lo sai, che giudice君も また そのことを 知っている、その者は 裁判官として
in mezzo a lor sedesti,彼らの真ん中に 座っていた、
che l'innocente vittimaその者は 無実の犠牲者を
a' piedi tuoi vedesti;君の足元に 見ていた;
e con asciutto ciglioそして 乾いた眼で【≒ 涙を 見せずに】
hai condannato un figlio...君は 息子に 有罪の判決を下した…
L'amato sposo rendimi,私に 愛する夫を 返しなさい、
barbaro genitor.残酷な 父親よ。
緩 前半。

(Andante)
4/4
C major
DOGEドージェ
Oltre ogni umano credereあらゆる 人間の 信じることを 超えて【≒ 誰にも 信じられないほどに】
è questo cor piagato!...この心は 傷ついている!…
Non insultarmi, piangere私を 冒涜しないでくれ、涙を
dovresti sul mio fato...君は 流すだろうに 私の宿命に…

LUCREZIAルクレツィア
L'amato sposo rendimi,愛する夫を 私に 返しなさい、
barbaro genitor.残酷な父親よ。

DOGEドージェ
Ogni mio ben darei...私は あらゆる 私の財産を 与えるだろうに…
gli ultimi giorni miei,私の 最後の日々を【与えるだろうに】
perché; innocente e libero潔白に そして 自由に
fosse mio figlio ancor.なるためには 私の息子が また再び。
緩 後半。

Allegro
4/4
C major
LUCREZIAルクレツィア
Di sua innocenza dubiti?君は 彼の無実を 疑っているのか?
Non lo conosci ancora.君は まだ 彼を 分かっていない。

DOGEドージェ
Sì... ma intercetto un foglioいいや 【私は 分かっている】… だが 途中で捕らえられた書類が【≒ 運ばれている時に 差し押さえられた 手紙が】
chiaro lo accusa, o nuora.はっきりと 彼を 告発しているのだ、ああ 息子の嫁よ。

LUCREZIAルクレツィア
Sol per veder Veneziaヴェネツィアを見るためだけに
vergò, perdé; lo scritto.彼は 【手紙を】 手書きをした、【そして】 手紙を 失くした。

DOGEドージェ
(commosso)(心を動かされて)
È ver, ma fu delitto...それは 本当だ、だが それは 罪だった…

LUCREZIAルクレツィア
E aver ne dei pietà.だから 君は 哀れみを 抱くべきだった。

DOGEドージェ
Vorrei... nol posso...私は したいのだが【≒ 哀れみを 抱きたいのだが】… 私は そのことを できない…

LUCREZIAルクレツィア
Pietà!哀れみを!
Ascoltami!【の言うこと】を 聞きなさい!
中間部。

Meno mosso
4/4
C major
LUCREZIAルクレツィア
Senti il paterno amore...父の愛を 感じなさい…

DOGEドージェ
Commossa ho tutta l'anima...私は すっかり 心を動かされた魂を 持っている…

LUCREZIAルクレツィア
Deponi quel rigore...その厳しさを 放棄しなさい…

DOGEドージェ
Non è rigore... intendi...それは 厳しさではない… 分かりなさい…

LUCREZIAルクレツィア
Perdona, a me t'arrendi...容赦しなさい、私に 屈しなさい…

DOGEドージェ
No... di Venezia il Principeだめだ… ヴェネツィアの君主【≒ 元首】
in ciò poter non ha.そのことに関しては 権力を 持っていない。
中間部 続き。

Allegro prestissimo
3/4
f minor
LUCREZIAルクレツィア
Se tu dunque potere non haiもし 君が そういうわけで 力を 持っていないならば
vieni meco pel figlio a pregare...私と一緒に 来なさい 息子のために 祈りに…
il mio pianto, il tuo crine, vedrai,君は 見るだろう、私の涙が、君の頭髪が
potran forse ottenere pietà.おそらく 【十人委員会から】 哀れみを 獲得する ことができる のを。
Questa almeno, quest'ultima prova,せめて この、この最後の試練を、
ci sia dato, signor, di tentare; ah!試みることが、貴君よ、私たちに 与えられるように; ああ!
l'amor solo di padre ti mova父親の愛だけが 君を 動かすように
s'ora il Doge potere non ha.もし 今 ドージェが 権力を 持っていないのならば。
急 前半。

Questa almeno, quest'ultima prova, / ci sia dato, signor, di tentare; ah! の2行は col canto。

Allegro moderato
4/4
F major
DOGEドージェ
(O vecchio padre misero(ああ 哀れな 年老いた父親よ
a che ti giova un trono,玉座は お前に 何に 役立っているのか、
se dar non puoi, né; chiedereもし 君が 与える ことをできないのならば、求める 【こともできないのならば】
giustizia, né; perdono,公正さを、赦免も、
pel figlio tuo ch'è vittima君の息子のために その者は 犠牲者である
d'involontario error!..故意でない過ちの!…
Ah! nella tomba scendereああ! 墓に 下りることを
m'astringerà il dolor!)苦悩が 私に 強制するだろう!)

LUCREZIAルクレツィア
Tu piangi?.. la tua lagrima君は 泣いているのか?… 君の涙は
sperar mi lascia,私に 期待させる、
急 後半。

Più mosso
4/4
F major
LUCREZIAルクレツィア
Tu piangi? la tua lagrima君は 泣いているのか? 君の涙は
sperar mi lascia ancor!まだ 私に 期待させる!

DOGEドージェ
(Ah! nella tomba scendere(ああ! 墓に 下りることを
m'astringerà il dolor!)苦悩が 私に 強制するだろう!)
ストレッタ。

ATTO SECONDO
N. 8.
Introduzione Scena ed Aria Jacopo

Jacopo
Largo
4/4
e minor
(Le prigioni di stato. Poca luce entra da uno spiraglio praticato nell'alto del muro)(国の牢獄。僅かな光が 入っている 明り取りから 壁の上部に 施された【≒ 据え付けられた】)

(SCENA PRIMA: Jacopo Foscari seduto sopra un masso di marmo)(第1場: ヤコポ・フォスカリ 座って 大理石の岩の上に)

La scena rappresenta le prigioni di stato di Venezia chiamate i pozzi舞台は 表している 井戸 と呼ばれる ヴェネツィアの国の牢獄を
Jacopo Foscari è seduto sopra un sasso di marmo rappresentate un leoneヤコポ・フォスカリは 座っている 大理石の岩の上に 獅子を描写した
導入とシェーナを前に置いた単一構成のアリア。
導入。

le prigioni di stato di Venezia chiamate i pozzi
pozzo は 井戸 の意味。パラッツォ・ドゥカーレの1階にある牢獄が、暗く湿気が充満して井戸のようだったので 井戸 pozzi と呼ばれた。

Recitativo4/4
(e minor)
JACOPOヤコポ
Notte! perpetua notte, che qui regni!夜よ! 永遠の夜よ、それは ここを 支配している!
シェーナ(レチタティーヴォ)

Primo tempo
4/4
e minor
Siccome agli occhi il giorno【私の】目から 昼の光を
potessi ancor celare al pensier mioお前が ずっと 隠す ことができる 【↑】ように 私の考えから
il fine disperato che m'aspetta!...絶望的な結末を 【隠す ことができるならば】 それは 私を 待っている!…
Tormi potessi alla costor vendetta!...お前が やつらの復讐から 私を 取り除くことができるのならば!…
シェーナ 続き。

Tormi potessi alla costor vendetta!...
tormi = torre + mi。torre は togliere と同義。
costoro は本来指示代名詞だが、ここでは形容詞的に用いられている。

Allegro
4/4
G major
s'alza spaventato立ち上がる 恐怖に満ちて
Ma oh ciel!... che mai vegg'io?それはそうと ああ 天よ!… 私は いったい 何を 見ているのか?
Sorgon di terra mille e mille spettri!...地面から 幾千もの 亡霊が 湧き上がっている!…
Han irto crin... guardi feroci, ardenti!...彼らは 逆立った頭髪を 持っている… 凶暴な視線を、燃えるような【視線を】!…
A se mi chiaman essi!...彼らは 自分へと 私を 呼んでいる!…
シェーナ 続き。

Allegro assai
3/4
a minor
Uno s'avanza!.. ha gigantesche forme!..一人が どんどん近付いている!…彼は 巨人のような 体形を 持っている。
シェーナ 続き。


4/4
(a minor)
Il suo reciso teschio彼の 切り落とされた頭蓋骨【≒ 頭,首】
ferocemente colla manca porta!...残酷に 彼は 左手で 持って来る
A me lo addita... e con la destra mano私に それを 指し示している… そして 右手で
mi getta in volto il sangue che ne cola...彼は 私の顔に 血を 投げつけている それは そこ【= 頭蓋骨】から滴り落ちている…
Ah lo ravviso!... è desso... è Carmagnola!ああ 私は 彼を 見分けている!… 彼だ… カルマニョーラだ!
シェーナ 続き。

カルマニョーラ 1380頃―1432 は、フランチェスコ・フォスカリがドージェに就任して程なくの1432年に反逆罪で処刑された軍人(⇒ あらすじ 第2幕 注)

Andante agitatissimo
4/4
a minor
s'inginocchia跪く
Non maledirmi, o prode,私を 非難するでない、ああ 勇者よ、
se son del Doge figlio;たとえ 私が ドージェの息子 であるとしても;
de' Dieci fu il consiglio十人委員会だった
che a morte ti dannò!君を 極刑に 断罪したのは!
Ah! me pure sol per frodeああ! 私も ただ 不正行為 だけによって
vedi quaggiù dannato,ここへと 断罪されているのを 君は見ている、
e il padre sventuratoそして 不幸な父は
difendermi non può...私を 守る ことができない…
Non maledirmi, o prode,私を 非難するでない、ああ 勇者よ、
cessa, cessa... no, no!止めなさい、止めなさい… だめだ、だめだ!
Cessa, cessa... la vista orribile!..止めなさい、止めなさい… 恐ろしい光景だ!…
più sostener non so.私は もう もちこたえる ことができない。
cade boccone (per terra)倒れる うつぶせに(地面に)
アリア。

la vista orribile!.. / più sostener non so.
sostenere は他動詞なので、ここは
恐ろしい光景に 私は もう もちこたえる ことができない。
と1文で理解すべきなのだろう。

cade boccone (per terra)
boccone = bocconi うつぶせに

N. 9.
Scena e Duetto

Lucrezia
Jacopo
Coro
Allegro agitato
4/4
e minor
(SCENA Ⅱ Detto e Lucrezia Contarini)(第2場:前の場の男 と ルクレツィア・コンタリーニ)
シェーナを前に置いた 緩/急の二部形式の二重唱。
前奏。

Recitativo


4/4
(e minor)
LUCREZIAルクレツィア
Ah sposo mio!... che vedo!ああ 私の夫よ!… 私は 何を 見ているのだ!
Me l'hanno forse ucciso i maledetti,ことによると 忌々しい者たちが 私の彼を 殺したのか、
e per maggiore schernoそして より大きな 嘲りのために
m'hanno qui tratta a contemplar la salma?彼らは ここで 私が 死体を 凝視するように 試みたのか?
シェーナ(レチタティーヴォ)。

m'hanno qui tratta a contemplar la salma?
ここでの trattare 扱う は 自動詞 試みる で採った。

Adagio
4/4
(e minor)
Ah sposo mio!ああ 私の夫よ!
シェーナ 続き。

Andante
4/4
(G major)
gli palpa il cuore彼の心臓を 掌で軽く触る
Vive ancor!彼は まだ 生きている!
シェーナ 続き。

Andante
4/4
(G major)
Qual freddo sudore!何という 冷たい 汗が!
シェーナ 続き。

Largo
4/4
E-flat maor
Vieni, amico, ti posa sul mio cor!来なさい、友よ、私の胸の上で 休みなさい!

JACOPOヤコポ
(delirando)(うわ言を言って)
Verrò!..私は 来よう!…

LUCREZIAルクレツィア
Che di'...君は 何を 言っているのか…

JACOPOヤコポ
M'attendi,私を 待っていなさい、
orrendo spettro!恐ろしい亡霊め!

LUCREZIAルクレツィア
Son io!私だ!

JACOPOヤコポ
Che vuoi?.. Vendetta?..君は 何を 望んでいるのか?… 復讐か?…
シェーナ 続き。

Allegro
4/4
E-flat maor
LUCREZIAルクレツィア
Non riconosci la sposa tua?君は 君の妻を 認識しないのか?

JACOPOヤコポ
Non è vero!...それは 本当ではない!…
シェーナ 続き。

Largo e tempo
4/4
E-flat major
LUCREZIAルクレツィア
lo abbraccia con trasporto彼を 抱擁する 熱狂をもって【≒ 激しく 抱き締める】

JACOPOヤコポ
Ah!... sei tu? fia ver!..ああ!… 君なのか? 本当なのだ!…

LUCREZIAルクレツィア
Ah! ti posa sul mio cor...ああ! 私の胸の上で 休みなさい…

JACOPOヤコポ
fra le tue braccia ancor?..君の腕の間で また再び?…
respiro!..私は 息をついている【≒ ほっとしている】!…
Fu dunque un sogno? orrendo sogno il mio?..それでは それは 夢だったのか? 私の 恐ろしい夢だったのか?…
Il carnefice attende? estremo addio死刑執行人が 待っている? 最後の別れを
vieni ora a darmi?...私に 与えに 今 君は 来ているのか?…

LUCREZIAルクレツィア
(piangendo)(泣きながら)
No!いいえ!

JACOPOヤコポ
E i figli miei? mio padre?それで 私の 子供たちは? 私の父は?_
Saran dischiuse loro queste porte,これらの扉は 彼らに 開けられるであろうか、
pria che il panno mi copra della morte?死の布が 私を 覆うよりも 前に?

LUCREZIAルクレツィア
No, no, no.いいえ、いいえ、いいえ。
シェーナ 続き。

Andantino
3/8
B-flat major
LUCREZIAルクレツィア
No, non morrai; ché; i perfidi,いいえ、 君は 死なないだろう; 悪意のある者たちは、
peggiore d'ogni morte,どんな死よりも もっと悪い、
a noi, clementi, serbano慈悲を 私たちに 取って置いている 【↑↑】からだ
più orribile una sorte.もっと 恐ろしい運命を。
Tu viver dei morendo君は 生きなくてはならない 死にながら
nel prisco esiglio orrendo...最初の 恐ろしい 流刑地で…
noi desolati in lagrime私たちは 涙に 悲しまされて【≒ 涙に暮れて】
dovremo qui languir.ここで 憔悴しなくてはならないだろう。

JACOPOヤコポ
Oh ben dicesti!... all'esuleああ 君は よく 言った!… 流刑で 【生きることは】
più crudo della morte死よりも もっと残酷だ
da voi lontano è il vivere,君たちから 遠く離れて 生きることは、
o figli, o mia consorte!...ああ 息子たちよ、ああ 私の配偶者よ!…
Ascondimi quel pianto...その涙を 私から 隠しておくれ…
su questo core affranto 【↓】私の この 打ちのめされた心に
mi piomban le tue lagrime君の涙が 急襲している
a crescerne il soffrir.苦しむことを 増そうと。
緩。

Allegretto
6/8
F major
(s'ode una lontana musica di voci e suoni)(遠くからの音楽が 聞こえる 声の そして 音の【≒ 演奏の】 )

CORO合唱
Come è calma la laguna:潟は なんと 穏やかなことか:
voga, voga, o gondolier,漕ぎなさい、漕ぎなさい、ああ ゴンドラ漕ぎよ、

JACOPOヤコポ
Quale suono?何の音だ?

LUCREZIAルクレツィア
È il gondolieroそれは ゴンドラ漕ぎだ
che sul liquido sentieroその者は 液体の小道の上で
provar debbe il suo valor.彼の勇気を 試さなくてはならない。

CORO合唱
batti l'onda e la fortuna波を 叩きなさい そして 幸運が
ti secondi ed il piacer.君を 満たすように そして 喜びが 【君を 満たすように】
Voga, voga, o gondolier.漕ぎなさい、漕ぎなさい、ああ ゴンドラ漕ぎよ。

JACOPOヤコポ
(con impeto)(激情をもって)
Là si ride, qua si muor!あそこでは 笑って、ここでは 死ぬ!
中間部。

Allegro
4/4
d minor
Maledetto chi mi toglie呪われろ 私を 奪う者は
a' miei cari, al suol natio;私のいとしい人たちから、故郷の国から:
sul suo capo piombi Iddio神が 彼の頭に 急に落とすように
l'abbominio e il disonor...憎悪を そして 不名誉を…
中間部の続き、もしくは二重唱 急の導入。

Allegro moderato
4/4
C major
LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Ah! speranza dolce ancoraああ! 甘い希望は まだ
non m'abbandona il core:私の心を 見捨てていない:
un giorno il mio doloreいつか 私の苦悩を
con te dividerò.私は 君と 分かち合おう。
Vicino a chi s'adora熱愛する人の近くでは
men crude son le pene:苦悩は より少なく 残酷だ:
perduto ogn'altro beneあらゆる 他の 幸福を 失っても
dell'amor tuo vivrò.私は 君の愛で 生きよう。
急。


12/8
C major
CORO INTEERNO内側の合唱
più viciniより 近くで
Ti secondi la fortuna,幸運が 君を 満たすように、
voga, voga, o gondolier.漕ぎなさい、漕ぎなさい、ああ ゴンドラ漕ぎよ。

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Ah, vivrò.ああ、生きよう。
経過区。

テンポの指定は付けられていないが、先の合唱と同様になる。

(Allegro moderato)
4/4
C major
LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Ah, speranza dolce ancoraああ、甘い希望は まだ
non m'abbandona il core:私の心を 見捨てていない:
un giorno il mio doloreいつか 私の苦悩を
con te dividerò.私は 君と 分かち合おう。
Vicino a chi s'adora熱愛する人の近くでは
men crude son le pene:苦悩は より少なく 残酷だ:
perduto ogn'altro beneあらゆる 他の 幸福を 失っても
dell'amor tuo vivrò.私は 君の愛で 生きよう。
急 続き。

N. 10.
Terzetto

Lucrezia
Jacopo
Doge
Loredano
Allegro agitato e assai mosso
4/4
B-flat major
(SCENA Ⅴ: Il Doge avvolto in ampio e nero mantello entra nel carcere, preceduto da un servo con fiaccola, che depone, e parte)(第5場: ドージェ 広い そして 黒い マントに 包まれて【≒ 身を包んで】 牢獄に 入る、 松明 たいまつ をもった召使によって 先行されて、彼は それ【= 松明】を 下に置き、そして 彼は 退場する)

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Ah padre!...ああ 父よ!
corre incontro【彼の】 ところに 駆け寄る

DOGEドージェ
Figlio? Nuora!...息子か? 息子の嫁か?

JACOPOヤコポ
Sei tu?君なのか?

LUCREZIAルクレツィア
Sei tu?君なのか?

DOGEドージェ
Son io.私だ。
Volate al seno mio.私の胸に 飛んで来なさい。

LUCREZIA, JACOPO E DOGEルクレツィア、ヤコポ と ドージェ
si abbracciano彼らは 抱き合う
Provo una gioia ancor!私は また再び 歓喜を 覚えている。

DOGEドージェ
Padre ti sono ancora,私は まだ 君の父だ、
lo credi a questo pianto;そのことを この涙で 信じなさい;
il volto mio soltantoただ 私の顔だけが
fingea per te rigor.君に対して 厳しさを 装っていた。

JACOPOヤコポ
Tu m'ami?君は 私を 愛しているのか?

DOGEドージェ
Sì.そうだ。

JACOPOヤコポ
Oh contento!...ああ 満足【≒ 喜び】
Ripeti il caro accento...優しい口調【≒ 言葉】を 繰り返して言いなさい…

DOGEドージェ
T'amo sì t'amo o misero...君を 愛している そうだ 君を 愛してる ああ 哀れな男よ…
il Doge qui non sono.私は ここでは ドージェではない。

JACOPOヤコポ
Come è soave all'anima何と 魂に 快いことか
della tua voce il suono!君の声の響きが!

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Così furtiva palpitaこれほどに ひそやかに 胸をときめかすのか
la gioia nel dolor!歓喜が 苦悩の中で!

DOGEドージェ
O figli, sento battereああ 息子たちよ、私は 打っているのを 感じている
il vostro sul mio cor!君たちのもの【≒ 君たちの心臓】が 私の心臓の上で!
急/緩/急 の三部形式の三重唱。
急。

Andante
4/4
D-flat major
JACOPOヤコポ
Nel tuo paterno amplesso君の 父にふさわしい抱擁に
io scordo ogni dolore...私は あらゆる苦悩を 忘れている…
mi benedici adesso,今 私に 神の恵みを祈りなさい、
dà forza a questo core,力を 与えなさい この心に、
e il pane dell'esiglioそうすれば 流刑の糧 かて は
men duro fia per me... Ah!より少なく つらくなくなるだろう 私にとって… ああ!
Quest'innocente figlio,この 無実の息子が、
trovi un conforto in te.君に 心の支えを 見出すように。
(s'inginocchia)(跪く)

DOGEドージェ
Abbi l'amplesso estremo最後の抱擁を 受け取りなさい
del genitor cadente...落ちていく父の…
Il giudice supremo最高の審判者【≒ 神】
protegga l'innocente...無実の者を 保護するように…
Dopo il terreno esiglio現世の流刑の後に
giustizia eterna v'è.永遠の裁きが ある。
Ah! al suo cospetto, o figlio,ああ 彼の面前に、ああ 息子よ、
comparirai con me.君は 出頭するだろう 私と一緒に。

JACOPOヤコポ
Ah padre!ああ 父よ!
quest'innocente figlio,この無実の息子が、
trovi un conforto in te.君に 心の支えを 見出すように。

LUCREZIAルクレツィア
(Di questo affanno orrendo(この恐ろしい苦悩の
farai vendetta, o ciel,復讐を お前は するだろう、ああ 天よ、
quando nel dì tremendo恐ろしい日に
si squarcerà il gran vel,大きなヴェールが 裂けて、
e scoprià ogni ciglio,そして どの眼も 見出すだろう 【↑↑】時に、
il giusto, il reo qual è!)どの人が 善人であるか、悪人であるか を!)
con tutta l'animaすべての魂をもって【≒ すっかり 感情を込めて】
Dopo il terreno esiglio,現世の流刑の後に
sposo, sarò con te.夫よ、私は 君と いよう。

(Restano abbracciati piangendo; il Doge si scuote)(泣きながら 抱き合ったままでいる; ドージェは 飛び上がる)
緩。

Allegro
4/4
D-flat major
DOGEドージェ
Addio...さようなら…

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Parti?君は 去るのか?

DOGEドージェ
Conviene.しなければならない。

JACOPOヤコポ
Mi lasci in queste pene?君は 私を 残すのか これらの苦悩の中に?

DOGEドージェ
Il deggio...私は それを しなくてはならない…

LUCREZIAヤコポ
Attendi...待ちなさい…

JACOPOヤコポ
Ascolta...聞きなさい…
Ti rivedrò?私は 君と 再会するだろうか?

DOGEドージェ
Una volta...もう一度…
ma il Doge vi sarà.だが ドージェが いるだろう。

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
E il padre?それでは 父親は?

DOGEドージェ
Penerà.彼は 苦しむだろう。
S'appressa l'ora...時が 近付く…
(avviandosi)(出発しながら)
Addio!さようなら!

JACOPOヤコポ
(disperato)(絶望して)
Ciel! che m'aita!天よ! 何が 私を 助けるのだ!


(SCENA Ⅳ: Detti e Loredano preceduto dal Fante del Consiglio e da quattro Custodi con fiaccole)(第4場: 前の場の人たち と ロレダーノ 委員会の使用人に 先立たれて そして 松明 たいまつ を持った4人の守衛によって【先行されて】)

LOREDANOロレダーノ
(dalla porta)(扉から)
Io!私が!

LUCREZIAルクレツィア
Chi? tu?誰だ? 君は?

JACOPOヤコポ
Oh ciel!ああ 天よ!

DOGEドージェ
Loredano!...ロレダーノが!…

LUCREZIAルクレツィア
Ne irridi anco, inumano?また 私たちを 愚弄するのか、残酷な男よ?

LOREDANOロレダーノ
(freddamente a Jacopo)(ヤコポに 冷ややかに)
Raccolto è già il Consiglio,委員会は 既に 集められている、
vieni di là al naviglio向こうの 船に 行きなさい
che dee tradurti a Creta.それは クレタに 移送する ことになっている。
Andrai...君は 行くだろう…

LUCREZIAルクレツィア
Io pur?私も?

LOREDANOロレダーノ
Tel vieta君に そのことは 禁じている
de' Dieci la sentenza.十人委員会の判決は。

DOGEドージェ
(ironico)(皮肉に)
Degno di te è il messaggio!伝言は 君に 似合っている!

LOREDANOロレダーノ
Se vecchio sei... sii saggio.君が 老人であるならば… 思慮深くありなさい。
(ai Custodi che s'avanzano)(守衛たちに その者たちは 近付く)
S'affretti la partenza.出発を 急ぎなさい。

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Padre! un amplesso ancora.父よ! もう一度 抱擁を。

DOGEドージェ
(li abbraccia)(彼らを 抱擁し)
Figli...息子たちよ…

LOREDANOロレダーノ
(dividendoli)(彼らを 引き離して)
Varcata è l'ora.時が 過ぎた。

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Ah!ああ!
経過区。

Presto
3/4
F major
LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
con disperazioni (a Loredano)絶望をもって (ロレダーノに)
ah sì, il tempo che mai non s'arrestaああ そうだ、時が それは 決して 止まることのない
rechi pure a te un'ora fatale,【時が】 どうか 君に もたらすように 致命的な時を、
e l'affanno che m'ange mortaleそして 苦悩が それは 私を 死ぬほど 悩ます
più tremendo ricada su te.もっと ひどく 君に のしかかるように。
Il rimorso in quell'ora funestaその致命的な時に 呵責が
ti tormenti, o crudele, per me.君を 苦しめるように、ああ 残酷な者め。

DOGEドージェ
(a Lucrezia e Jacopo)(ルクレツィア と ヤコポに)
Deh frenate quest'ira funestaお願いだから その 死をもたらす怒りを 抑えなさい
l'inveire, o infelici, non vale:彼を 罵るのは、ああ 不幸な人たちよ、役に立たない【≒ ロレダーノを 罵っても 仕方がない】
s'eseguisca il decreto fatale...死をもたらす命令を 遂行しよう…
sparve il padre, ora il Doge qui c'è.父親は 消え失せて、今は ドージェが ここに いる。
La giustizia qui mai non s'arresta,公正さは ここでは 決して 遮られることはない、
obbedire a sue leggi si dee.その法に 従わなくてはならない。

LOREDANOロレダーノ
da sé; (guardandoli con disprezzo)自分で【≒ 独白】; (彼らを 凝視して 蔑んで)
(Empia schiatta al mio sangue funesta;(私の血筋に対して 死をもたらす 邪悪な血統め;
a difenderti un Doge, no, non vale;ドージェは、いいや、役に立たない お前【= 血統】を 守るのには;
per te giunse alfin l'ora fataleお前に ついに 死の時が 来た
sospirata cotanto da me.)私によって これほどにも長い間 待望の【時が 来た】。)
(a Jacopo)(ヤコポに)
La giustizia qui mai non s'arresta,公正さは ここでは 決して 遮られることはない、
obbedire a sue leggi si dee.その法に 従わなくてはならない。

(Jacopo parte fra i Custodi preceduto da Loredano, e seguito lentamente dal Doge, che si appoggia a Lucrezia)(ヤコポは 看守たちの間で 退場する ロレダーノによって先行されて、そして ドージェによって ゆっくりと ついて来られ、その者は ルクレツィアに もたれている)
急。

N. 11.
Finale Atto Ⅱ

Lucrezia
Pisano
Jacopo
Barbarigo
Doge
Loredano

Coro
Andante con moto
3/4
c minor
(Sala del Consiglio dei Dieci)(十人委員会の広間)

(SCENA Ⅴ: Li Consiglieri e la Giunta, trà i quali è Barbarigo, van raccogliendosi)(第5場: 委員たち と 追加委員たちは その者たちの中に バルバリーゴがいる、だんだんと集合する)

CORO (BASSI)合唱(バス)
Che più si tarda?...どうして さらに 遅れるのか…

CORO (TENORI)合唱(テノール)
Affrettisi急がれるように
dell'empio la partita.邪悪な男の出発が。

CORO (BASSI)合唱(バス)
Inulte l'ombre fremono復讐を受けていない亡霊たちが 震えている
chedendone la vita.彼の命を 求めて。

CORO合唱
Parta l'iniquo Foscari...非道なフォスカリは 去るがいい…
ucciso egli ha un Donato.彼は ドナートを 殺した。
Per istranieri Principi外国の君主たちを
l'indegno ha parteggiato.恥ずべき男は 支持していた。
第2幕フィナーレ。
合唱

(Andante con moto)
3/4
C major
Non fia che di Veneziaないだろう ヴェネツィアの
ei sfugga alla vendetta...復讐を 彼が 免れる 【↑】ことは…
giustizia incorruttibile腐敗しない 【≒ 清廉な】 公正さは
non fia qui mai negletta;ここでは 決して ないがしろにされることはないだろう;
baleni, e come folgore稲妻、そして 雷電のように
colpisca i traditori;それ 【= 公正さ】が 裏切り者たちを 叩くように;
mostri ai soggetti popoliそれが 見せるように 服従する人々に
un vigile rigor.用心深い 厳しさを。


(SCENA Ⅵ: Detti ed il Doge, che preceduto da Loredano, dal Fante del Consiglio e dai Comandadori, e seguito dai Paggi, va gravemente a sedere sul trono. Lui seduto, tutti fanno lo stesso)(第6場: 前の場の人たち と ドージェ その者は ロレダーノによって、委員会の使用人によって そして 司令官たちによって 先立たれている、そして 小姓たちによって ついて来られている、重々しく 玉座の上に 座る。彼が 座ると、全員が 同じことを する )

Entra il Doge e va a sedere taciturno al suo posto. Tutti se gli inchinanoドージェが入場し そして 無口に 彼の席に 座りに行く。全員が 彼に 頭を下げる。
合唱 続き。

Recitativo


4/4
(C major)
DOGEドージェ
O patrizi... il voleste... eccomi a voi...ああ 貴族たちよ… 君たちが そのことを 望んでいる【ので】… そら 君たちの前に 私が…
Ignoro se il chiamarmi ora in consiglio私は 知らない 今 私を 委員会に 呼び出したことが
sia per tormento al padre, oppure al figlio.父親の苦悩のためなのか、あるいは 息子の【苦悩のためなのか】
ma il volere vostro è legge...だが 君たちの意志は 法律だ…
giustizia ha i dritti suoi...公正さは その権利を 持っている…
m'è d'uopo rispettarne anco il rigore...私には 厳しさも 尊重する 必要がある。
(sospirando)(溜息をついて)
Sarò Doge nel volto, e padre in core.私は 顔では ドージェであろう、そして 心の中では 父【であろう】
シェーナ(レチタチティーヴォ)。

Andante
4/4
a minor
CORO合唱
Ben dicesti...君は よく言った…
(vedendo aprirsi la porta)(扉が 開くのを 見て)
Il reo s'avanza...犯行者が 近付いている…

DOGEドージェ
(Ciel, ispira a me costanza!)(天よ、私に 意志の強固を 吹き込みなさい!)
シェーナ 続き。

(Ciel, ispira a me costanza!) は col canto。

Andante
4/4
(C major)
(SCENA Ⅶ: Detti e Jacopo, che entra fra quattro Custodi)(第7場: 前の場の人たち と ヤコポ、その者は 入場する 4人の守衛の間で)

entra Jacopo Foscariヤコポ・フォスカリが入場する

LOREDANOロレダーノ
(dà una pergamena al Fante, che la consegna a Jacopo, il quale legge)(使用人に 羊皮紙を 与える、その者は それを ヤコポに 手渡す、その者は 読む)
Legga il reo la sua sentenza;犯行者が 彼の判決文を 読むように;
del consiglio la clemenza委員会の慈悲は
qui la vita ti donò.ここで 君に 命を 提供した。

JACOPOヤコポ
(restituisce la pergamena)(羊皮紙を 返す)
Nell'esiglio io morirò.流刑で 私は 死ぬだろう。
シェーナ 続き。

Allegro
4/4
f minor
con agitazione(動揺をもって)
Non hai, padre, un solo detto君は 持っていないのか、父よ、ただ一言も
pel tuo Jacopo reietto?見捨てられた 君のヤコポに対して?
Se tu parli, se tu preghiもし 君が 話すなら、もし 君が 懇願するならば
non sarà chi grazia neghi...慈悲を 拒む人は いないだろう…
Pregar puoi; sono innocente;君は 懇願する ことができる; 私が 無実だと;
il mio labbro a te non mente.私の口は 君に 嘘を吐かない。

CORO合唱
Non s'inganna qui la legge,ここでは 法は 間違えない、
qui giustizia tutto regge.ここでは 公正さが すべてを 治めている。

DOGEドージェ
(s'alza, tutti lo imitano)(立つ、全員が 彼を 模倣する)
Il Consiglio ha giudicato:委員会は 判決を下さした:
parti, o figlio, rassegnato.去りなさい、ああ 息子よ、諦めて。

JACOPOヤコポ
Non più dunque ti vedrò?それでは もう二度と 君に 会えないのか?

DOGEドージェ
Forse in cielo, in terra no.おそらく 天で、地上で ではない。

JACOPOヤコポ
Ah che di'?... morir mi sento.ああ 君は 何を 言うのか?… 私は 死ぬような気がする【≒ 死にそうだ】

LOREDANOロレダーノ
(ai Custodi che gli si pongono al fianco, e si avviano)(守衛たちに その者たちは 彼の脇に 身を置く、そして 出発する )
Da qui parta sul momento.彼は 直ちに ここから 出発するように。


(SCENA Ⅷ: Detti e Lucrezia Contarini che si presenta sulla soglia co' due figli suoi, seguita da varie Dame sue amiche e da Pisana)(第8場: 前の場の人たち と ルクレツィア・コンタリーニ その者は 入り口に 現れる 彼女の二人の息子たちと共に、彼女の多くの友人の婦人たちによって ついて来られて そして ピサーナによって 【ついて来られて】)

LUCREZIAルクレツィア
No... crudeli!...だめだ… 残酷な者たちめ!…

JACOPOヤコポ
Ah! figli miei!.. Ah! miei figli!ああ! 私の息子たちよ!… ああ! 私の息子たちよ!
(corre ad abbracciarli)(彼らを抱き締めに 駆け付ける)

BARBARIGO E COROバルバリーゴ と 合唱
(Sventurata!.. Qui costei!)(哀れな女だ!… ここに この女が!)

LOREDANOロレダーノ
(Sciagurata!.. Qui costei!)(惨めな女だ!… ここに この女が!)

DOGEドージェ
con un grido叫び声をもって
Sventurata!...不幸な女だ!…

DOGE, BARBARIGO, LOREDANO E COROドージェ、バルバリーゴ、ロレダーノ と 合唱
Quale audacia vi guidò?どのような大胆が 君たちを 案内したのか?

JACOPOヤコポ
Miei figli! miei figli!...私の息子たちよ! 私の息子たちよ!…
シェーナ 続き。

Andante mosso
3/4
E-flat major
prende i figli e li pone in ginocchio a' piedi del Doge息子たちを 抱えて そして 彼らを ドージェの足元で 跪かずかせる
Queste innocenti lagrimeこれらの 無垢な涙が
ti chieggono perdono...君の赦免を 求めている…
a lor m'unisco, e supplice私は 彼らと 団結して、そして 嘆願する
a' piedi del tuo trono,君の玉座の 足元で、
padre, t'invoco, implorami,父よ、私は 君に 懇願する、切に願う、
concedimi pietà.哀れみを 私に 認めなさい。

LUCREZIAルクレツィア
(ai Consiglieri)(委員たちに)
O voi, se ferrea un'animaああ 君たちよ、もし 鉄の魂を
non racchiudete in petto,君たちが 胸の中に 収めていないのならば、
se mai provaste il teneroもし 感じたならば
de' padri e figli affetto,父たちの そして 息子たちの 【↑】優しい 情愛を、
quelle strazianti lagrimeあの 悲痛な涙が
vi muovano a pietà.君たちを 哀れみに 動かすように。

BARBARIGOバルバリーゴ
(a Loredano)(ロレダーノに)
Ti parlin quelle lagrime,あれらの涙が 語るように
o Loredano, al core,ああ ロレダーノよ、【↑】君の 心に、
quei pargoli disarminoあれらの子供たちが 鎮めるように
l'atroce tuo furor;君の 残忍な怒りを;
almeno per quei miseriせめて あれらの哀れな者たちへの
t'inchina alla pietà.哀れみに 屈服しなさい。

LOREDANOロレダーノ
(a Barbarigo)(バルバリーゴに)
Non sai che in quelle lagrime君は 分かっていない あれらの涙に
trionfa una vendetta,復讐が 勝ち誇っている 【↑】ことを、
che qual rugiada scendono露のように それら【= 涙】が 下がっている【≒ 滴り落ちている】ことを
al cor di chi le aspetta,それらを 待ち受けている者の 心に、
che per gli alteri Foscari尊大なフォスカリ家のために
sentir non vo' pietà.私は 哀れみを 感じることは 望まない ことを。

DOGEドージェ
(Non ismentite, o lagrime,(嘘を暴くでない、ああ 涙よ、
la simulata calma:見せかけの落ち着きを:
a ognuno qui nascondasi一人一人に ここでは 隠れるように
l'affanno di quest'alma...この魂の苦悩が【≒ この心の苦しみが 誰にも 悟られないように】
ne' miei nemici infondere私の敵たちに 呼び覚ます
non potria la pietà.ことはできないのだろう 哀れみを。

CORO CONSIGIERI議員たちの合唱
(alle Dame)(婦人たちに)
Son vane ora le lagrime;今は 涙は 無駄だ;
provato è già il delitto:罪は 立証された:
non sia ch'esse cancellinoそれら【= 涙】が 取り消すことは ない
quanto giustizia ha scritto;裁判が 書いたこと【≒ 判決】を;
esempio sol dannabileただ 非難すべき例 だけ
sarebbe la pietà.だ 哀れみは【≒ 恩赦は 非難すべき例になるだけだ 】


COEO Dame婦人たちの合唱
(ai Consiglieri)(議員たちに))
Quelle innocenti lagrimeあの無実の涙が
muovano il vostro core;君たちの心を 動かすように;
in voi clemenza ispirino,それら【= 涙】が 君たちに 慈悲を 吹き込むように、
ne plachino il rigore;それの【= 心の】 厳しさを 和らげるように;
di pace come un'iride平和の虹のように
qui brilli la pietà.ここで 哀れみが 輝くように。
コンチェルタート。

quanto giustizia ha scritto;
この場合の giustizia は 裁判。

ne plachino il rigore;
ne = di quello = di core

(Andante mosso)
3/4
(c minor)
LOREDANOロレダーノ
Parta... perché; ancor s'esita?彼が 出発するように… なぜ まだ 躊躇っているのか?
Parta lo sciagurato.悪人が 出発するように。

LUCREZIAルクレツィア
La sposa, i figli seguano,妻が 息子たちが ついて行くように、
dividano il suo fato...彼の宿命を 共にするように…

JACOPOヤコポ
Ah sì...ああ そうだ…

LOREDANOロレダーノ
Costor rimangano:やつらは 残留するように:
la legge omai parlò.もはや 法律が 語った【≒ 既に 法律が そのように 命じた】
(toglie i figli alle braccia di Jacopo e li consegna ai Comandadori)(ヤコポの腕から 息子たちを 奪う そして 彼らを 司令官たちに 引き渡す)

JACOPOヤコポ
(al Doge)(ドージェに)
Ai figli tu dell'esule君が 追放された者の息子たちに
sii padre e guida almeno...せめて 父でありなさい そして 指導者で【ありなさい】
Tu li proteggi...君が 彼らを 保護しなさい…

DOGEドージェ
(Misero!)(哀れな男だ!)

JACOPOヤコポ
Vedi! al sepolcro in seno,見なさい! 墓の懐の中に
illacrimata polvere嘆く人もいない遺灰【となって】
fra poco scenderò.もうすぐ 私は 降りるだろう。
経過区。

Più mosso
3/4
E-flat major
LUCREZIA, PISANA, BARBARIGO E CORO DAMEルクレツィア、ピサーナ、バルバリーゴ と 婦人たちの合唱
Affanno più terribileもっと恐ろしい苦悩を
in terra chi provò!地上で 誰が 体験したことか!


DOGE, LOREDANO E CORO CONSIGLIERIドージェ、ロレダーノ と 議員たちの合唱
Parti; t'è forza cedere,出発しなさい; 屈服するのは どうしようもないことだ【≒ 判決には 従わざるを得ない】
la legge omai parlò.もはや 法律が 語った【≒ 既に 法律が そのように 命じた】

(Jacopo parte fra le guardie, Lucrezia sviene fra le braccio delle Dame, tutti si ritirano)(ヤコポは 退場する 護衛兵たちの間で、ルクレツィアは 卒倒する 婦人たちの腕の中で、全員が 身を引く【≒ 退場する】)
ストレッタ。

ATTO TERZO
N. 12.
Introduzione
Coro e Barcarola

Coro
(Maestoso)
4/4
C major
(L'antica Piazzetta di S. Marco. Il canale è pieno di gondole che vanno e vengono. Di fronte vedesi l'isola dei Cipressi, ora S. Giorgio. Il sole cammina all'occaso)(サン・マルコの古い小広場。運河は ゴンドラで いっぱいである それらは 行く そして 来る。正面に チプレッシ島が 見える 今日のサン・ジョルジョ【島】。太陽は 日没に 動いている)
導入。
前奏。

Di fronte vedesi l'isola dei Cipressi, ora S. Giorgio.
ヴェネツィアのサン・ジョルジョ(・マッジョーレ)島は、かつて チプレッシ島と呼ばれていた(島に糸杉 cipresso がたくさん生えていたことから)。9世紀に聖ゲオルギオスに献堂した教会が建てられ、やがて島もサン・ジョルジョ島と呼ばれるようになった。

Allegro brillante
2/2
C major
(SCENA PRIMA: La scena, da principio vuota, va riempiendosi di popolo e maschere, che entrano da varie parti, s'incontrano, si riconoscono, passeggiano. Tutto è gioia)(第1場: 舞台は、初めは空だが、だんだん いっぱいになる 人々で そして 仮面を被った人たち【で】、その者たちは 様々な側から 入って来る、出会う、認め合い、散策する。すべては 歓喜である。)

CORO DI POPOLO人々の合唱
Alla gioia, alle corse, alle gare,歓喜に、レースに、試合に、
sia qui lieto ogni volto, ogni cor.ここでは どの顔も 陽気であるように、どの心も。
figlia, sposa, signora del mare,【海の】娘、【海の】妻、海の女主人【である】
è Venezia un sorriso d'amor.ヴェネツィアは 愛の微笑みだ。
Come specchio l'azzurra laguna鏡のように 青い潟は
le raddoppia il fulgore del dì.その【= ヴェネツィアの 女性名詞】陽の輝きを 倍加している。
Le sue notti inargenta la luna,その夜を 月が 銀色に光らせて、
né; le grava se il giorno sparì. それ【= 月】が それら【= 夜 女性名詞複数】に 迷惑を引き起こしはしない たとえ 太陽が 見えなくなったからといって【≒ 陽が沈んでも 月で 夜も 十分である】


(SCENA Ⅱ: Detti, Loredano e Barbarigo mascherati a parte)(第2場: 前の場の人たち、ロレダーノ と バルバリーゴ 仮面をつけて 傍らで)
合唱。

né; le grava se il giorno sparì.
この場合の le は女性複数形を受ける a loro、つまり alle notti。
この場合の gravare は 自動詞 迷惑を引き起こす。



Recitativo


4/4
(C major)
BARBARIGOバルバリーゴ
Ve'! come il popol gode...ほら! 何と 人々が 心から喜んでいることか…

LOREDANOロレダーノ
A lui non cale,【= 人々 男性名詞単数形】には 気にかからないのだ、
se Foscari sia Doge, o Malipiero.フォスカリが ドージェかどうか、あるいは マリピエロが 【ドージェかどうか】
シェーナ(レチタティーヴォ)。

Allegro come prima
2/2
C major
CORO合唱
Alla gioia, alle corse, alle gare,歓喜に、レースに、試合に、
sia qui lieto ogni volto, ogni cor.ここでは どの顔も 陽気であるように、どの心も。
合唱の続き。

Recitativo


4/4
(C major)
LOREDANOロレダーノ
(si avanza fra il popolo)(人々の中に 近付く)
Amici... che s'aspetta?..友たちよ… 何が 待たれているのか【≒ どうして 何もせずにいるのか】?…
Le gondole son pronte, omai la festaゴンドラは準備ができている【のだから】、ついに お祭り騒ぎを
coll'usata canzone incominciamo.いつもの歌で 始めよう。
シェーナ(レチタティーヴォ)。

Allegro a tempo
4/4
C major
CORO合唱
Ben dicesti! allegri, orsù, cantiamo.君は 良く 言った! 陽気に、さあ、歌おう。
シェーナ 続き。

(Barcarola)

Allegro moderato
4/4
F major
Tutti vanno alla riva del mare e con fazzoletti bianchi e coi gesti animano i Gondolieri皆が 海岸に行き そして 白いハンカチで そして 身振り手振りで ゴンドラ漕ぎたちに 活気を与える
Tace il vento, è queta l'onda;風は 静かになっている、波は 凪いでいる;
mite un'aura l'accarezza...穏やかな風が それ【= 波】を 撫でる。
D&egarave;i mostrar la tua prodezza,君は 君の勇ましさを 見せなくてはならない、
prendi il remo, o gondolier.櫂 かい を 取りなさい、ああ ゴンドラ漕ぎよ。
La tua bella dalla sponda君の恋人は 岸から
già t'aspetta palpitante;既に 君を 待っている 胸をドキドキさせながら;
per far lieto quel sembianteあの顔を 喜ばせるために
voga, voga, o gondolier.漕ぎなさい、漕ぎなさい、ああ ゴンドラ漕ぎよ。
Fendi, scorri la laguna,かきわけて進みなさい、滑りなさい 潟を、
che dinanzi a te si stende;それは 君の前に 広がっている;
chi la palma ti contendeヤシ【≒ 勝利】を 君と 争う者が
non ti vinca, o gondolier.君に 勝たないように、ああ ゴンドラ漕ぎよ。
Batti l'onda e la fortuna波を 打ちなさい そうすれば 幸運は
assecondi il tuo valore...君の勇気を 助ける…
alla bella vincitore恋人に 勝者は
torna lieto, o gondolier.嬉しそうに 戻る、ああ ゴンドラ漕ぎよ。
バルカローラ。

Allegro moderato
4/4
C major
(SCENA Ⅲ: Detti. Escono dal palazzo ducale due trombettieri seguiti dal Messer Grande. I trombettieri suonano, ed il popolo si ritira. Anche le gondole scompariscono dal canale, ove si avanza una galera, su cui sventola il vessillo di S. Marco)(第5場: 前の場の人たち。パラッツォ・ドゥカーレから 二人のラッパ手が 出て来る 高位高官氏に ついて来られ。ラッパ手たちは 【ラッパを】吹く、すると 人々は 後ろに下がる。ゴンドラも 姿を消す 運河から、そこには ガレー船が どんどん近付いて来る、その上には サン・マルコの旗が 翻っている)

CORO合唱
(udite le trombe)(ラッパを 聞いて)
La giustizia del Leone!..獅子の裁きだ!…
finché; passi... via di qua.それが 通過する間は… ここから 出て行こう。
(Si ritirano e si tengono a molta distanza)(後ろに下がる そして たくさんの距離に いる【≒ 遠くに 留まる】)

BARBARIGOバルバリーゴ
Di timor non v'ha ragione!恐れの理由はない!

LOREDANOロレダーノ
Questo volgo ardir non ha.この庶民たちは 大胆【≒ 勇気】を 持っていない。
シェーナ。
第12番と第13番は続けて演奏されるので、2つの曲の橋渡しの役割をしている。

N. 13.
Scena ed Aria Jacopo

Jacopo

Lucrezia

Andante
4/4
g minor
(SCENA Ⅳ: Sbarca dalla galera il Sopracomito, a cui il Messer Grande consegna un foglio. Dal ducale palazzo poi esce lentamente fra i custodi Jacopo Foscari, seguito da Lucrezia e Pisana)(第4場: ガレー船から艦長が下船する、その者に 高位高官氏が 書類を 手渡す。それから ドゥカーレ宮から 出て来る ゆっくりと 守衛たちの間で ヤコポ・フォスカリ、ルクレツィアとピサーナに ついて来られて)
シェーナを前に置いたヤコポのアリア。
前奏。

Sbarca dalla galera il Sopracomito,
Sopracomito は、ガレー船の船長、艦長、かつ指揮官のこと。貴族出身であることが要件で、ガレー船に関する莫大な費用を負担する必要がある(経費は政府から後払いだった)が、海軍要職への足掛かりになる職でもあった。ともかくも、単なる 船長 ではない。

Recitativo


4/4
(g minor)
JACOPOヤコポ
Donna infelice, sol per me infelice,不幸な妻よ、ただ 私のためだけに 不幸な、
vedova moglie, a non estinto sposo.寡婦の妻よ、死んでいない夫の。
Addio... fra poco un mareさようなら… もうすぐ 海が
fra noi s'agiterà... e per sempre!..私たちの間で 荒れるだろう… そして 永遠に!…
シェーナ(レチタティーヴォ)

Allegro
4/4
(g minor)
almenoできれば
tutte schiudesse ad ingoiarmi... tutteすっかり 私を飲み込むために 開くならば… すっかり
le sirti del suo seno.その【= 海の】懐の 浅瀬が。

LUCREZIAルクレツィア
Taci!. crudel, deh taci!黙りなさい!… 酷い人よ、お願いだから 黙りなさい!

JACOPOヤコポ
L'inesorabil suo cor di scoglio,岩礁の その非情な心が、
più di costor pietoso,やつらより もっと 哀れみ深い、
frangesse il legno, ed una pronta morte船を 壊すならば、そして 即座の死が
quest'esule togliesseこの流刑者を 奪うならば
al suo lento morire...彼の ゆっくりとした死から…
Paghi gli odii sarieno e il mio desire.【十人委員会の】憎しみは 満足するだろうに そして 私の 願いは 【満足するだろうに】
シェーナ 続き。

Paghi gli odii sarieno e il mio desire.
sarieno は sariano の異形で、sarebbero と同じ、essere の条件法現在3人称複数形。旧版では sariano になっている。

Allegro
4/4
g minor
LUCREZIAルクレツィア
E i figli? e il padre? ed io?それで 息子たちは? それで 父親は? それで 私は?

JACOPOヤコポ
Da voi lontano è morte il viver mio.君たちから 遠く離れては 私の生きることは 死んだ【≒ 私の人生は 死んだも同然だ】
シェーナ 続き。

Andante mosso
4/4
f minor
All'infelice veglio不幸な老人の
conforta tu il dolore,苦悩を 君が 慰めなさい、
de' figli nostri in core私たちの息子たちの心に
tu ispira la virtù.君が 徳を 吹き込みなさい。
A lor di me favella:彼らに 私について 話しなさい:
di' che innocente io sono,言いなさい 私が 無実である ことを、
che parto, che perdono,私が 出発する ことを、私が 許す ことを
che ci vedrem lassù.私たちは あの上の方で【≒ 天国で】 会えるだろう ことを。

LUCREZIAルクレツィア
Cielo, s'affretti al termine天よ、急ぐように 終わりへと
la vita mia penosa!..私の つらい人生を!

JACOPOヤコポ
Di Contarini e Foscariコンタリーニ家の そして フォスカリ家【の】
mostrati figlia e sposa;娘を そして 妻を 君に 見せなさい【≒ コンタリーニ家の娘らしい そして フォスカリ家の嫁らしい 態度を示しなさい】
che te non veggan piangere,君が 泣いているのを 彼らが 見ないように、
gioir alcun ne può.誰一人 嬉しがる ことができない。
二部形式のアリア。
前半。

調性は♭4つのヘ短調だが、臨時記号で♭がさらに3つ付けられており、実質 変イ短調 である。

(Andante mosso)
4/4
f minor
LOREDANOロレダーノ
(imperiosamente al Messer Grande)(傲慢に 高位高官氏に)
Messere, a che più indugiasi?氏よ、何のために さらに あなたは 遅れるのか?
Parta, n'è tempo omai.それが 出発しなさい、もはや それについての 時間だ。

JACOPOヤコポ
Chi sei?君は 誰だ?

LUCREZIAルクレツィア
Chi sei?君は 誰だ?

LOREDANOロレダーノ
(si leva per un istante la maschera)(仮面が 一瞬 持ち上がる)
Ravvisami.私を 見分けなさい。

JACOPOヤコポ
Oh ciel, chi veggio mai!...ああ 天よ、私は いったい 誰を 見ているのだ!…
Il mio nemico demone!私の敵 悪魔だ!

LUCREZIA E JACOPOルクレツィア と ヤコポ
Hai d'una tigre il cor!君は トラの心を 持っている【≒ 残酷な心の持ち主だ】
中間部。

(Andante mosso)
4/4
A-flat major
JACOPOヤコポ
Ah padre, figli, sposa,ああ 父よ、息子たちよ、妻よ、
a voi l'addio supremo;君たちに 最後の別れを;
in cielo un giorno avremo天で いつか 私たちは 受け取るだろう
mercè di tal dolor.このような苦悩の 償いを。

LUCREZIAルクレツィア
Ah ti rammenta ognora,ああ これからもずっと 記憶しなさい、
che sposo e padre sei,君が 夫 そして 父であることを、
che anco infelice dèi不幸ですらも 君は
vivere al nostro amor!生き 【↑】なくてはならない 私たちの愛のために!

PISANA, BARBARIGO E COROピサーナ、バルバリーゴ と 合唱
(Frenar chi puote il pianto,(誰が 涙を 抑える ことができるのだ、
a vista sì tremenda!..これほどに 凄まじい光景に!
troppo, infelici, è orrendaあまりにも、不幸な人たちよ、戦慄すべきだ
tal pena ad uman cor!これほどの苦悩は 人間の心に!

LOREDANOロレダーノ
(Comincia la vendetta,(復讐が 始まっている、
tant'anni desïata;たくさんの年々 欲した【復讐が】
o stirpe abbominata,ああ ひどく憎まれた家柄よ、
m'è gioia il tuo dolor!)君の苦悩は 私の歓喜だ!)

JACOPOヤコポ
in cielo un giorno avremo天で いつか 私たちは 受け取るだろう
mercè di tal dolor.このような苦悩の 償いを。

LUCREZIAルクレツィア
al nostro amor!私たちの愛のために!

PISANA, BARBARIGO E COROピサーナ、バルバリーゴ と 合唱
è orrenda戦慄すべきだ
tal pena ad uman cor!)これほどの苦悩は 人間の心に!)

LOREDANOロレダーノ
stirpe abbominata.)ひどく憎まれた家柄よ。)、

Sposa, addio.妻よ、さようなら。

(Jacopo, scortato dal Sopracomito e dai Custodi, sale sulla galera. Lucrezia sviene tra le braccia di Pisana; Loredano entra nel palazzo ducale; Barbarigo s'avvia per altra strada; il popolo si disperde)(ヤコポは、艦長によって 付き添われて そして 守衛たちによって 【付き添われて】、ガレー船に 乗り込む。ルクレツィアは ピサーナの腕の中に 卒倒する; ロレダーノは パラッツォ・ドゥカーレの中に入る; バルバリーゴは 別の道の方へ 向かう; 人々は 散会する)
後半。

N. 14.
Recitativo ed Aria Lucrezia

Lucrezia

Barbarigo
Doge
Andante
4/4
d minor
(Stanze private del Doge, come nell'Atto Primo)(ドージェの私室、第1幕と同様に)

(SCENA Ⅴ: [Doge])(第5場: [ドージェ])
レチタティーヴォを前に置いた 単一構成のアリア。
前奏。

Recitativo


4/4
(d minor)
DOGEドージェ
(entra afflitto)(入場する 悲嘆に暮れて)
Egli ora parte! Ed innocente parte!..彼は 今 出発している! そして 罪無くして 出発している!…
Ed io non ebbi per salvarlo un detto!..そして 私は 彼を 救うための 言葉を 持っていなかった!…
Morte immatura mi rapia tre figli!..時期尚早の死が 私から 3人の息子たちを 奪った。
Io, vecchio! vivo per vedermi il quarto私は、老人だ! 見るために 生きている 4人目【の息子】
tolto per sempre奪われるのを 永遠に
da un infame esiglio!不名誉な 流刑によって!
シェーナ(レチタティーヴォ)。

a tempo
4/4
d minor
Oh morto fossi allora,ああ あの時 私が 死んでいたならば、
(depone il corno)(冠を 下に置く)
che quest'inutil pondoこの 役に立たない重荷が
sul capo mio posava!..私の頭の上に 立っていた【≒ 据えられていた】よりも!…
Almen veduto avrei少なくとも 見たろうに
intorno a me spirante i figli miei!..死につつある私の周りに 私の息子たちを!…
シェーナ 続き。
ここはドージェの短い歌になっている。



(Recitativo)


4/4
(d minor)
Solo ora sono! e sul confin degl'anni今は 私は 一人だ! そして ほぼ 年齢の限界にあって
mi schiudono il sepolcro atroci affanni.耐えがたい苦悩が 私に 墓を 開いている。
シェーナ(レチタティーヴォ) 続き。

Allegro vivo
4/4
F major
(SCENA Ⅵ: Detto e Barbarigo che entra frettoloso, recando un foglio)(第6場: 前の場の男 と バルバリーゴ その者は 慌ただしく 入る、書類を持って来て)

DOGEドージェ
Barbarigo, che rechi?..バルバリーゴよ、君は 何を 持ってきているのか?…

BARBARIGOバルバリーゴ
Morente瀕死の
a me un Erizzo inviò questo scritto;エリッツォが 私に この手紙を 送った;
da lui solo Donato trafittoただ 彼によってだけ ドナートは 刺し貫かれた と
ei confessa, ed ogn'altro innocente...彼が 打ち明けている、そして どの他の者も 無実だ と…

DOGEドージェ
(con gioia)(歓喜をもって)
Ciel pietoso! il mio affanno hai veduto!..慈悲深い天よ! お前は 私の苦悩を 分かっ【てくれ】た!…
A me un figlio volesti renduto!!!お前は 息子が 私に 返されることを 望んだ!!!

(SCENA Ⅶ: Detto e Lucrezia desolata)(第7場: 前の場の男 と ルクレツィア 悲嘆に暮れて)

LUCREZIAルクレツィア
Ah! più figli, infelice, non hai...ああ! 君は もう 息子たちを、不幸な人よ、持っていない…
nel partir l'innocente spirò!出発する時に 無実の者は 死んだ!

DOGEドージェ
Ed il cielo placato sperai!そして 私は 天が 静められたと 期待した!
me infelice!!! più figli non ho!不幸な私だ!!! 私は もう 息子たちを もっていない!
(si abbandona sul seggiolone)(肘掛け椅子に 身を委ねる)
シェーナ 続き、もしくは経過区。

Allegro assai moderato
4/4
A major
LUCREZIAルクレツィア
Più non vive!.. l'innocente彼は もう 生きていない!… 無実の者は
s'involava a' tuoi tiranni;消え去った 君の暴虐【な行為】から;
ora in cielo degli affanni今や 天で 苦悩の
la mercede ritrovò.救済を 彼は 見付けた。
単一構成のアリア。

Più mosso
4/4
A major
Sorga in Foscari possenteフォスカリ家に 強力に 生じるように
più del duolo or la vendetta...今すぐ 復讐が 苦悩よりも もっと多く…
tanto sangue un figlio aspetta息子は 血を 待っている
quante lagrime versò.流した涙と 同じくらいに。
アリア 続き。

Ⅰ. Tempo
4/4
A major
Più non vive!.. l'innocente彼は もう 生きていない!… 無実の者は
s'involava a' tuoi tiranni;消え去った 君の暴虐【な行為】から;
forse in cielo degli affanniおそらく 天で 苦悩の
la mercede ritrovò.救済を 彼は 見付けた。
アリア 続き。

forse in cielo degli affanni
こちらでは ora ではなく forse になっている。

Più mosso
4/4
A major
Sorga in Foscari possenteフォスカリ家に 強力に 生じるように
più del duolo or la vendetta...今すぐ 復讐が 苦悩よりも もっと多く…
tanto sangue un figlio aspetta息子は 血を 待っている
quante lagrime versò.流した涙と 同じくらい。
(parte)(退場する)
アリア 続き。

N. 15.
Scena ed Aria Doge e Finale ultimo

Doge

Lucrezia
Barbarigo
Loredano

Servo


4/4
(C major)

(Recitativo)
(SCENA Ⅷ: Detti ed un Servo)(第8場: 前の場の人たち と 召使)

SERVO召使
Signor! chiedon parlarti i Dieci!貴君よ! 十人委員会が君と 話すことを 求めている!

DOGEドージェ
I Dieci? (Che bramano da me?)十人委員会が? (彼らは 私から 何を 切望しているのか?)
(al servo che esce)(召使に その者は 退場する)
Entrino tosto...すぐさま 彼らが 入るように
A qual onta novellaどのような 新たな 不名誉に
mi serbano costoro!..やつらは 私を 取って置いているのだ!
(siede)(座る)
シェーナを前に置いたドージェのアリアと最終幕フィナーレ。
シェーナ。

Andante con moto
3/4
c minor
(SCENA Ⅸ: Detto, Barbarigo ed i Membri del Consiglio dei Dieci e Giunta, fra i quali è Loredano, che gravemente entrano e, dopo inchinato il Doge, se gli dispongono intorno)(第9場: 前の場の男、バルバリーゴ と 十人委員会の委員たち と追加委員【の委員たち】、その者たちの中には ロレダーノがいる、その者たちは 厳粛に 入る、ドージェに お辞儀をした後に、彼の周りに 整然と集まる)

Entrano i Dieci e Giunta十人委員会 と 追加委員が 入場する
シェーナ 続き。
十人委員会の動機が現れる。

Recitativo


4/4
(c minor)
DOGEドージェ
O nobili signori!ああ 高貴な 貴君たちよ!
che si chiede da me?私から 何が 求められているのか?
(si ripone in capo il corno ducale)(ドージェの冠を 頭に 再び置く)
v'ascolta il Doge...ドージェは 君たち【の言うこと】を 聞く…

LOREDANOロレダーノ
Il Consiglio convinto ed il Senato,委員会と 元老院は 納得させられた【≒ 確信した】
che gli anni molti e il tuo grave dolore多くの年齢【≒ 高齢】と 君の 深刻な苦悩は
imperiosamente切実に
ti chieggono un riposo, ben dovuto君に 休息を 求めており、十分に 当然に
della patrioa a chi tanto ha meritato,故国に対して 大いに 功労がある者に【当然に】
dalle cure ti liberan di stato.国の世話【≒ 統治】から 君を 解放する 【↑↑↑↑】ことを。

DOGEドージェ
Signori! ho ben inteso?貴君たちよ! 私は 良く 聞いたのか【≒ 私の聞き間違いでは ないのか】

LOREDANOロレダーノ
Uniti or qui ne vedi君は 私たちを 見ている 今 ここに 一致して
a ricever da te l'anel ducale...君から ドージェの指輪を 受け取りに…
シェーナ(レチタティーヴォ) 続き。

ben dovuto / della patrioa a chi tanto ha meritato,
この場合の meritare は 自動詞 勲功を立てる。meritare della patria で 故国に対して功労がある という意味。

Allegro
4/4
E-flat major
DOGEドージェ
(alzandosi impetuoso)(激しく 立ち上がって)
Astringermi non può forza mortale!..人の力は 私を 無理に従わせる ことはできない!…
Due volte in sette lustri,35年間に 2度、
dacché; Doge io seggo, ben due volte私が ドージェの地位に就いてから、十分に【≒ 少なくとも】 2度
chiesi abdicare, e mel negaste voi!私は 退位することを 願った、そして 君たちは 私に そのことを 拒絶した!
Di più... a giurar fui stretto....それどころか… 誓うことを 私は 強制された
che Doge morirei!...ドージェとして 死ぬであろうことを【≒ ドージェのまま 死ぬように と】!…
Io, Foscari, non manco a' giuri miei.私は、フォスカリは、私の誓約を 怠らない【≒ 必ず 私の誓約を 果たす】

BARBARIGO, LOREDANO E COROバルバリーゴ、ロレダーノ と 合唱
Cedi, cedi, rinunzia al potere,屈しなさい、屈しなさい、権力を 放棄しなさい、
o il Leone t'astringe a obbedir,さもないと 獅子が 君に 言うことを聞くように 無理に従わせる。
cedi, cedi.屈しなさい、屈しなさい。
シェーナ(レチタティーヴォ) 続き。

dacché; Doge io seggo, ben due volte
seggo = siedo < sedere。本来であれば近過去形を用いて dacché; in Doge io sono seduto のようになるはずだが、現在形が用いられている。

Anadante mosso
4/4
E major
DOGEドージェ
Questa dunque è l'iniqua mercede,それでは これが 不法な褒美なのか
che serbaste al canuto guerriero?それを 君たちは 白髪の戦士に 取っておいた?
Questo han premio il valore e la fede,功績と 忠誠が この褒美を 受け取るのか、
che han protetto e cresciuto l'impero?..それらは 帝国【≒ 国】を 守った そして 大きくした?…
A me padre un figliuolo innocente父親である 私から 無実の息子を
voi strappaste, o crudeli, dal core!..君たちは はぎ取った、ああ 残酷な者たちめ、胸から!…
A me Doge pegli anni cadente沈み行く年々の間の ドージェである私から
or del serto si toglie l'onor!いま 冠の名誉が 奪われるのだ!

BARBARIGO, LOREDANO E COROバルバリーゴ、ロレダーノ と 合唱
Pace piena godrai fra tuoi cari,君の家族の中で 君は いっぱいの平安を 楽しく味わうだろう、
cedi alfine; ritorna a' tuoi lari.最後に 屈しなさい; 君の家庭に 戻りなさい

DOGEドージェ
Fra miei cari?.. Rendetemi il figlio:私の家族の中で だと?… 私の息子を 返しなさい:
desso è spento... che resta?...彼は 死んでしまった… 何が 残っている?

BARBARIGO, LOREDANO E COROバルバリーゴ、ロレダーノ と 合唱
Obbedir.言うことを聞きなさい。

DOGEドージェ
Ah! rendetemi il figlio a me.ああ! 私の息子を 返しなさい。

BARBARIGO, LOREDANO E COROバルバリーゴ、ロレダーノ と 合唱
Cedi.屈しなさい。
アリア。
基本的に フィナーレ D'un odio, d'un odio infernale と対になってカンタービレ/カバレッタ形式を成す構成だが、カバレッタはもはやほぼアンサンブルに仕立てられている。


Questa dunque è l'iniqua mercede,
iniquo には 不公平な,邪悪な,非道な などの意味もあるが、この場合、終身任期であるドージェの地位を、しかも過去に終身を誓わせおきながら、本人の同意もなしに十人委員会が実質的に免職させていることを 不法な と非難していると思われる。

Allegro
4/4
a minor
DOGEドージェ
Che venga a me, se lice,来るように、もし 許されるならば、
la nuora mia infelice...不幸な 私の息子の嫁が…
(uno esce)(一人が 退場する)
(consegna l'anello ad un Senatore)(一人の元老院議員に 指輪を 引き渡す)
A voi l'anello... Foscari君たちに 指輪を… フォスカリは
più Doge non sarà.もう ドージェでは なくなる。

CORO合唱
Tosto la gemma infrangasi.すぐに 宝石が 砕かれるように。

LOREDANOロレダーノ
(va per torgli di capo il corno ducale)(彼の頭のドージェの冠を 奪いに行く)
Deponi ogn'altra insegna...他のいかなる名誉の印も 下ろしなさい…

DOGEドージェ
(a Loredano)(ロレダーノに)
Non mi toccare, o misero...私に 触るでない、ああ 卑しい男よ…
n'è la tua destra indegna...君の右手は 【私に触れるに】値しない…
シェーナ。

va per torgli di capo il corno ducale
torgli = torre + gli。torre = togliere。

Mosso
4/4
a minor
(consegna il corno ad altro Senatore; un terzo lo spoglia del manto)(別の元老院議員に 冠を 引き渡す; 3人目が 彼のマントを 脱がせる)


(SCENA ULTIMA: Detti e Lucrezia)(最終場: 前の場の人たち と ルクレツィア)

LUCREZIAルクレツィア
Padre... mio Prence!...父よ… 私の君主よ!…

DOGEドージェ
Principe!君主だと!
Lo fui,私は 【かつて】 それだった、
or più nol sono...今は もはや 私は それではない。
Chi m'uccideva il figlio,私の息子を 殺した者が、
ora mi toglie il trono...たった今 私の 冠を 奪っている…
(prende per mano Lucrezia e s'avvia, quando è colpito dal suono della campana)(ルクレツィアの腕を掴み そして 出発する、その時 彼は 射抜かれる【≒ 衝撃を受ける】 鐘の響きによって)
Vieni, vieni, partiam di qua.来なさい、来なさい、ここから 去ろう。
Che ascolto!私は 何を 聞いているのだ!
Oh ciel! salutanoああ 天よ! 彼らは 歓迎している
me vivo un successor!私が 生きているのに 後継者を!

LOREDANOロレダーノ
(avvicinandosi al Doge con gioia)(ドージェに近づいて 歓喜をもって)
In Malipier, di Foscariマリピエールにおいて、フォスカリの
s'acclama il successor.後継者が 歓呼され迎えられている。

BARBARIGO E COROバルバリーゴ と 合唱
(a Loredano)(ロレダーノに)
Taci, abbastanza è misero;黙りなさい、彼は かなり 哀れだ;
rispetta il suo dolor.彼の苦悩を 尊重しなさい【≒ 彼の苦悩に 配慮しなさい】

LUCREZIAルクレツィア
(Oh cielo! Già di Foscari(ああ 天よ! もう フォスカリの
s'acclama il successor!)後継者が 歓呼され迎えられている!)
シェーナ、あるいは経過区。

Andante
3/4
e-flat minor
DOGEドージェ
(da sé; nella massima commozione)(自分一人で【≒ 独白】); 最高の興奮で
Quel bronzo ferale,あの 不吉な青銅【≒ 鐘】は、
che all'alma rimbomba,それは 魂に 轟いている、
mi schiude la tomba...私の墓を 開いている…
sfuggirla non so.私は それ【= 墓】を 避けることができない。
D'un odio, d'un odio infernale憎しみの、恐ろしい憎しみの
la vittima, la vittima sono...犠牲者だ、私は 犠牲者だ…
più figli, più trono,もう 息子たちを、もう 玉座を、
più vita non ho!もう 命を 私は 持っていない!

LUCREZIAルクレツィア
(Quel bronzo ferale,(あの 不吉な青銅【≒ 鐘】は、
che intorno rimbomba,それは 辺りに 轟いている、
com'orrida tromba恐怖を催させるラッパのように
vendetta suonò,復讐を 告げた、

BARBARIGOバルバリーゴ
(tra loro)(彼らの間で)
Tal bronzo ferale,あのような 不吉な青銅【≒ 鐘】は、
pel vecchio rimbomba,老人に向かって 轟いている、
più presto la tombaより 速く【↓】彼の墓を
dischiudergli può,開く ことができる。

LOREDANOロレダーノ
(Il suono ferale不吉な響きが
che intorno rimbomba,それは 辺りに 轟いている、
com'orrida tromba恐怖を催させるラッパのように
vendetta annunciò,復讐を 知らせた。

CORO合唱
Tal suono ferale,あのような 不吉な青銅【≒ 鐘】は、
che all'alma rimbomba,それは 【彼の】魂に 轟いている、
più presto la tombaより 速く 【↓】彼の墓を
dischiudergli può!開く ことができる!

DOGEドージェ
Più figli, più trono,もう 息子たちを、もう 玉座を、
più vita non ho!もう 命を 私は 持っていない!
アンサンブル。

Poco più mosso
3/4
E-flat major
D'un odio, d'un odio infernale憎しみの、恐ろしい憎しみの
la vittima, la vittima sono...犠牲者だ、私は 犠牲者だ…
più figli, più trono,もう 息子たちを、もう 玉座を、
più vita non ho!もう 命を 私は 持っていない!

LUCREZIAルクレツィア
vendetta suonò!)復讐を 告げた!)
(al Doge)(ドージェに)
Ah! nell'ora fataleああ! 死に至らせる時に
sii grande, sii forte,君は 偉大でありなさい、君は 強者でいなさい、
maggior della sorteより大きく 運命よりも【≒ 運命を 超越して】
che sì t'oltraggiò.それは これほどに 君を 侮辱した。

BARBARIGOバルバリーゴ
dischiudergli può.開く ことができる。
Ah! ah troppo fataleああ! ああ あまりにも 死に至らせる
quest'ora tremenda;この 恐ろしい時だ;
la sorte più orrenda最も 身の毛もよだつ 運命が
su desso gravò.彼に のしかかった。

LOREDANOロレダーノ
vendetta annunciò,復讐を 知らせた。
Ah! quest'ora fataleああ この 死に至らせる時は
bramata dal core,心によって 切望された【時は】
più dolce fra l'ore時々の中で 最も甘美に
alfine suonò.)ついに 鳴り響いた。)

CORO合唱
dischiudergli può.開く ことができる。
Ah! troppo fataleああ! ああ あまりにも 死に至らせる
quest'ora tremenda;この 恐ろしい時だ;
la sorte più orrenda最も 身の毛もよだつ 運命が
su desso gravò.彼に のしかかった。

DOGEドージェ
Ah morte è quel suono!!!ああ あの響きは 死だ!!!

LUCREZIAルクレツィア
Fa core...しっかりしなさい…

DOGEドージェ
Mio figlio!!! mio...私の息子よ!!! 私の…
(cade morto)(死んで倒れる)

LUCREZIA, BARBARIGO E COROルクレツィア、バルバリーゴ と 合唱
D'angoscia spirò!激しい苦悩によって 彼は 死んだ!

LOREDANOロレダーノ
Pagato ora sono!今 私は 償われた【≒ 私の借りは 払われた ≒ 恨みが 晴らされた】
(scrivendo sopra un portafoglio che trae dal seno)(書類袋の上に 書きながら それを 彼は 懐から 引き出す)
フィナーレ。

N. 3a. Una Cabaletta sostituiva
per la Scena [ed] Aria Jacopo
N. 3a.
Una Cabaletta sostituiva per la Scena [ed] Aria Jacopo
Allegro
4/4
D-flat major
(SCENA Ⅴ Detti, ed il Fante che viene dal Consiglio)(第5場: 前の場の人たち、そして 使用人 その者は 委員会から 来る)

FANTE使用人
Del Consiglio alla presenza委員会の前に
vieni tosto, e il ver disvela.すぐに 来なさい、そして 真実を 明らかにしなさい。

JACOPOヤコポ
(Al mio sguardo almen vi cela,(そこでは 私の視線から せめて 隠しなさい、
ciel pietoso, il genitor!)慈悲深い天よ、父を!)

FANTE使用人
Sperar puoi pietà, clemenza...君は 期待することができる 哀れみを、慈悲を…

JACOPOヤコポ
Io la spero dal Signor, sì, dal Signor.私は それ【= 哀れみ,慈悲】を 期待している 主から、そうだ、 主から。
Allegro moderato
4/4
D-flat major
Sì, lo sento, Iddio mi chiamaそうだ、私は そのこと【= 次節】を 聞いている、神が 私を 呼んでいる
de' miei mali alfin pietoso;私の不幸から とうとう 慈悲深く;
quest'ingrata a chi più l'amaその恩知らずなもの【= ヴェネツィア】は それを 最も 愛する者に
un sospir, un sospir non mi darà.溜め息を、溜め息を 私に 与えないだろう。
Cara donna, figli amati,愛しい妻よ、愛する息子たちよ、
voi perdete e padre e sposo君たちは 失う そして 父を そして 夫を
ma sottrarvi a que' spietatiだが 彼【= 父,夫 = ヤコポ】は あれらの残酷な者たちから 逃れる
più che in terra, in ciel potrà.ことができるだろう 地上でよりも 天で。
1846年12月17日、イタリア劇場でのパリ初演の際にヤコポを歌ったマーリオ 本名ジョヴァンニ・マッテオ・カヴァリエーレ・ディ・カンディアの要請で差し替えられたカバレッタ。

quest'ingrata a chi più l'ama
quest'ingrata は、クリティカルエディションの解説では、カンタービレまで遡って ヴェネツィア を指していると推測している。

参考資料

Giuseppe Verdi I due Foscari / edited by Andreas Giger / The University of Chicago Press / 2017 / ISBN 978-0-226-07451-1

Giuseppe Verdi I due Foscari Riduzione per canto e pianoforte condotta sull'edizione critica della partitura a cura di Andreas Giger / The University of Chicago Press / Ricordi / 2021 / ISBN 978-/88-8192-072-3 / ISMN979-0-041-40170-6

DYNAMIC
57865 Blu-ray Disc

37865 DVD
CDS 7865.02 CD
Francesco FoscariVladimir Stoyanovbaritono
Jacopo FoscariStefan Poptenore
Lucrezia ContariniMaria Katzaravasoprano
Jacopo LoredanoGiacomo Prestiabasso
BarbarigoFrancesco Marsigliatenore
PisanaErica Wenmeng Gusoprano
FanteVasyl Solodkyytenore
ServoGianni De Angelisbasso

Coro del Teatro Regio di Parma
Martino FaggianiMaestro del coro
Martino FaggianiChorus Master

Filarmonica Arturo Toscanini
Orchestra Giovanile della Via Emilia
Paolo Arrivabeni
Leo MuscatoRegia
Andrea BelliScene
Silvia AymoninoCostumi
Alessandro VerazziLuci


11 October 2019
Teatro Regio di Parma, Parma, Italy
Festival Verdi 2019
Live Recording

イタリア、パルマのレージョ劇場における2019年のフェスティヴァル・ヴェルディでの上演。上演記録によると、上演は2019年9月26日,10月6,11,17日、シングルキャストだった。
大スターはいないながら、上演としては良い。ブルガリア出身のバリトン、ヴラディミール・ストヤーノフのドージェはやや地味だが堅実な歌で、決めるところはキッチリ決めている。ルーマニアのテノール、シュテファン・ポップのヤコポは、声にやや癖があって歌い方も大らかだが、2つの別れの場面などよく歌っている。メキシコ出身のソプラノ、マリア・カツァラヴァは、熱唱しているがルクレツィアには力不足。ベテランのジャコモ・プレスティアが前に出ない陰湿なロレダーノを巧妙に演じている。
すっかりイタリアオペラのベテラン指揮者になったパオロ・アッリヴァベーニが、クリティカルエディションの意図を良く汲みつつ、1840年代のヴェルディの面白さを引き出して見事。
レオ・ムスカートの演出は、予算の限界を感じさせつつも、創意の工夫が当たっており、十分見応えがある。
クリティカル・エディション使用。ただしクリティカルエディションで元に戻された検閲で変更された台詞は、一部戻していないものがある。カット無し。

BR KLASSIK
900328 CD
Francesco FoscariLeo Nuccibaritono
Jacopo FoscariIvan Magrìtenore
Lucrezia ContariniGuanqun Yusoprano
Jacopo LoredanoMiklós Sebestyénbasso-baritono
BarbarigoIstván Horváthtenore
PisanaBernadett Fodormezzosoprano
FanteMoon Yung Ohtenore
ServoMatthias Ettmayrbasso

Chor des Bayerischen Rundfunks
Howard Arman

Münchner Rundfunkorchester
Ivan Repušić

23 & 25 November 2018
Prinzregententheater, München, Germany
27 November 2018
Müpa Budapest, Budapest, Hungary



C major
742104 Blu-ray Disc

742008 DVD
Francesco FoscariPlácido Domingobaritono
Jacopo FoscariFrancesco Melitenore
Lucrezia ContariniAnna Pirozzisoprano
Jacopo LoredanoAndrea Concettibasso
BarbarigoEdoardo Millettitenore
PisanaChiara Isottonsoprano
FanteAzer Rza-Zadetenore
ServoModestas Sedlevičiusbasso

Coro e Orchestra del Teatro alla Scala
Michele MariottiDirettore
Bruno CasoniMaestro del coro

Regia e sceneAlvis Hermanis
LuciGleb Filshtinsky
CostumiKristine Jurjane
CoreografiaAlla Sigalova

ミラノのスカラ座の2015/2016シーズンにおける上演の収録。上演記録によると、公演は2016年2月25日、3月1、4、9、12、15、18,22、25日の9回、そのうち上記出演者によるものは3月4日だけで(召使のモデスタス・セドレヴィチウスはこの3月4日しか出演していない)、この日を中心とした収録と思われる(ただし召使の出演場面は少ないので、他日の収録も含まれるかもしれない)。ちなみにプラシド・ドミンゴがフランチェスコ・フォスカリを歌ったのは最初の5回で、その後はルカ・サルシ Luca Sarsi に交代している。その他は召使を除いてシングルキャスト。
フランチェスコ・メーリのヤコポが素晴らしい。悲劇的で不幸に圧し潰されながらも気高さを失わない歌はヤコポに打って付け。当時75歳のドミンゴはフォスカリを極めて巧妙に歌っているとはいえ、本質的にバリトンの中低音の力強さに欠けるので、最も肝心な第3幕フィナーレでどうしても劇的迫力が薄い。アンナ・ピロッツィのルクレツィアは立派だが、やや迫力一辺倒か。アンドレア・コンチェッティの明るく柔らかいバスの声はロレダーノの執拗かつ陰湿な性格を薄めてしまっており、演出もこの役を俗っぽい野心家に描いているので違和感が強い。
ミケーレ・マリオッティはまだまだ若々しい感性で31歳のヴェルディの作品の新鮮さを引き出している。
ラトヴィアの演出家、アルヴィス・ヘルマニスの演出は、舞台、衣装もいたって伝統的でとっつきやすい舞台とはいえるが、やや表面的で作品に切り込む鋭い視点があまり感じらない。
旧版を使用。第2幕 第10番 三重唱 の Presto に2箇所、56小節+8小節のカットがある



Francesco FoscariLeo Nuccibaritono
Jacopo FoscariRoberto de Biasiotenore
Lucrezia ContariniTatiana Serjansoprano
Jacopo LoredanoRoberto Tagliavinibasso
BarbarigoGregory Bonfattitenore
PisanaMarcella Polidorisoprano
FanteMauro Buffolitenore
ServoAlessandro Bianchinibasso

Orchestra e Coro del Teatro Regio di Parma Donato RenzettiMaestro concertatore e direttore
Matino FaggianiMaestro del coro

Joseph Franconi LeeRegia
William OrlandiScene e costumi
Valerio AlfieriLuci
Marta FerriCoreografie

8, 16 October 2009
Tatro Regio di Parma, Parma, Italy

2009年10月8,16日、パルマ・レージョ劇場におけるフェスティヴァル・ヴェルディの公演の収録。上演記録によると、上演は10月2,8,11,13,16日の5回、このうち父フォスカリだけダブルで、ヌッチが歌ったのは10月2、8、16日。
フランチェスコ・フォスカリのレオ・ヌッチがたいへんに素晴らしい。当時67歳、ベテランの貫禄でフォスカリと一体になって歌い演じており、特に第3幕フィナーレでは《二人のフォスカリ》の醍醐味を存分に味合わせてくれる。。ヤポコ・フォスカリのロベルト・デ・ビアージョはやや線が細く歌にあまり余裕がないが、悲劇のヤコポの姿は悪くない。ルクレツィア・コンタリーニのタチヤナ・セルジャンは技術的にこの難役を良くこなしている。ヤコポ・ロレダーノのロベルト・タリアヴィーニは冷酷な脇役に徹して適切な存在感を発揮している。
ドナート・レンゼッティの指揮はキリリと引き締まっており、その上で緩急、明暗を巧に操りってこの作品をたいへん見事に捌いている。
ジョゼフ・フランコーニ・リーの演出は、基本的に伝統的な舞台作りだが、それに留まらない作品への切込みが随所にある。例えば第2幕での父息子再会の場面での喜びの直後に、フォスカリがヤコポの拷問具を見付けて衝撃を受けるような、作品の奥行きを深める工夫が随所にみられる。

PHILIPS
422 426-2 CD
Francesco FoscariPiero Cappuccillibaritono
Jacopo FoscariJosé Carrerastenore
Lucrezia ContariniKatia Ricciarellisoprano
Jacopo LoredanoSamuel Rameybasso
BarbarigoVincenzo Bellotenore
PisanaElizabeth Connellsoprano
FanteMieczlaw Antoniaktenore
ServoFranz Handlosbasso

ORF Symphonieorchester und Chor
Lamberto Gardelli
Gottfried PreinflakChorus mater

21-27 June 1976
Konzerthaus, Wien, Austria

初のステレオ録音の商業録音。名歌手をしかも適材適所で揃え、長く《二人のフォスカリ》の代表的録音だった。旧版を使用。カット無し。
ヤポコ・フォスカリのホセ・カレーラスがこの上ないはまり役。暗く悲し気な声でありながら常に高貴で、無実の罪で流刑に処されるドージェの息子を体現している。彼のヤコポはこの録音しかないのでなおのこと貴重だ。しばしば迫力一辺倒になりがちなルクレツィア・コンタリーニだが、カーティア・リッチャレッリは貴婦人の、妻の、母の優しさも宿っているのが素晴らしい。ロッシーニなども歌うリッチャレッリなので装飾歌唱も十分。ピエロ・カップッチッリは当時49歳、ヴェルディバリトンとして絶頂の頃で、ここでもフランチェスコ・フォスカリを圧倒的な声で歌い切っている。ただセッション録音でのカップッチッリの常だが、知が勝りがちで常に余裕を残しているように聞こえてるのが贅沢な不満。まだあまり国際的に活躍する前の(ニューヨークシティオペラ時代の)サミュエル・レイミーが出過ぎず引き過ぎず絶妙な悪役具合のヤコポ・ロレダーノを歌っている。
ランベルト・ガルデッリの指揮も引き締まっていて良い。