HANDEL SOLOMON

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最新更新 2022年11月14日

無断転載 厳禁

GEORGE FRIDERIC HANDEL

SOLOMON



HWV 67
3幕のオラトリオ
Oratorio in three Acts

初演 1749年3月17日 ロンドン,コヴェントガーデン劇場
First performance Covent Garden Theatre, London, 17 March 1749

台本作家 モウジズ・メンデス
Librettist Moses Mendes

原作
Original

作曲

ヘンデルの17487/1748年のシーズンは、1年前に大成功を収めた《ジューダス・マカビーアス》(1747年4月1日初演)の再演の最終公演(1748年4月7日)で幕を閉じた。
それから一ヶ月ほどたった1748年5月5日、ヘンデルは次シーズンのための新作《ソロモン》に取り掛かった。ヘンデルが冬に初演される予定の声楽大作を5月に着手することは非常に珍しい。同シーズンにはもう一つの新作、《スザナ》が上演される(1749年2月10日初演)ので、《ソロモン》を前倒しで着手したのだろうが、それにしてもいつもよりだいぶ早めなのは、63歳を迎えたヘンデルの用心ゆえかもしれない。なおヘンデルが夏に新作を2作を書き上げたのは1748年が最後である。
いつも通りヘンデルは速筆で書き上げ、《ソロモン》の完成の日付は6月13日となっている。

台本作家の名前は記録されておらず、誰が《ソロモン》の台本を書いたのか長年謎だった。近年になってようやく、同年作の《スザナ》ともども、台本作家はモウジズ・メンデス Moses Mendes (1690頃―1758)と推測されるようになった。メンデスはセファルディ(イベリア半島に居住していたユダヤ人)の子孫で、1740、1750年代にロンドンで詩人、劇作家として活躍していた。

初演

初演は1749年3月17日、コヴェントガーデン劇場で行われた。出演者たちは以下の通り。

SolomonCaterina GalliMezzosoprano
ZadokThomas LoweTenor
A LeviteHenry Theodore ReinholdBass
Pharaoh's daughterGiulia FrasiSoprano
First WomanGiulia FrasiSoprano
Second WomanSibilla GronamannSoprano
Nicaule, Queen of ShebaGiulia FrasiSoprano

カテリーナ・ガッリ(1723頃―1804)はイタリア出身のメッゾソプラノ。おそらくクレモナ近辺の生まれではないかと推測されている。彼女に関する最古の記録は、1742年の春にベルガモでオペラに出演したこと。そしてその直後、1742/1743年シーズンにロンドンに移る。当時オペラ好きで知られた2代ドーセット公チャールズ・サックヴィル(1711―1769)がヘイマーケットの国王劇場でイタリアオペラ興行を行っており、友人であるソプラノのジューリャ・フラージ(後述)と共にこれに招かれたのだった。ガッリは1748年以降、ヘンデルの作品に多く出演しており(当然彼の指導を受けている)、初演だけに限っても、《ジューダス・マカビーアス》のイスラエルの男、《ジョシュア》(1748年3月9日)のオスニール、《アレグザンダー・バラス》(1748年3月23日)のタイトルロール、《スザナ》(1749年2月10日)のジョウアキン、《ソロモン》のタイトルロール、《シアドーラ》(1750年3月16日)のアイリーン、《ジェフサ》(1752年2月26日)のストージェを歌っている。この他にも多くの再演に出演している。ことに重要なのは《メサイア》で、1749年3月以降、ヘンデルが亡くなって以降もたびたびコントラルト独唱を務めている。ガッリは1754年に一旦イタリアに戻って活躍するも、1770年以降再びロンドンを拠点とし、70歳を超えてなお歌い続けたと言う。1804年にロンドンのチェルシーで亡くなった。

ジューリア・フラージ(?―1772)は、ミラノ生まれのソプラノ。生年は定かではないが、弟のジョヴァンニが1795年に65歳で亡くなっていることが知られており、それより上、つまりガッリと同世代くらいではないかと思われる。イタリアで修業した後、前述の通り、1742年暮れ頃にガッリと共にロンドンに移る。ガッリ同様、ヘンデルに重用され、初演だけに限っても、《スザナ》のタイトルロール、《ソロモン》のファラオの娘、第1の女、シバの女王、《シアドーラ》のタイトルロール、《ジェフサ》のアイフィス、《時と真実の勝利》(1757年3月11日)の美を歌っている。また彼女も1749年3月以降《メサイア》の多くの再演でソプラノ独唱を務め、やはり1749年3月以降の《サムスン》の再演ではデイリラは常にフラージが受け持った。浪費が祟って晩年は貧しく、ドーヴァー海峡を渡ってフランスのカレに逃れ、1772年にそこで亡くなった。

トマス・ロウ(1719頃―1783)は英国のテノール。ボーイソプラノとして歌手活動を始め、変声後にテノールに変わったと思われる。記録に残る最古のテノール出演は、アーンの《アルフリド》(1740年8月1日)のタイトルロール。1740、1750年代とテノール歌手としてロンドンを中心に活躍した。ヘンデルの作品の初演では、《ジョシュア》のタイトルロール、《アレグザンダー・バラス》のジョナサン、《スザナ》の第1の長老、《ソロモン》のツァデク、《シアドーラ》のセプティミウス、《ハーキュリーズの選択》(1751年3月1日)の喜びの従者を歌っている。また《サムスン》の初演にロウは端役を歌っていたが、1749年3月と1750年4月の再演ではタイトルロールを務めている。なおジョン・ビアード(1716頃―1791)とはほぼ同世代。

ヘンリー・シアドア・レインホールド(1690頃―1751)はドイツ生まれで英国で活動したバス。彼は、ドレスデン聖十字架教会のカントールを務めたテオドール・クリストリープ・ラインホールト(1682―1755)の親族ではないかと推測されている。ヘンデルの作品の初演に初めて出演したのは、《アタランタ》(1736年5月12日)のメルクーリオ。ヘンデルの作品の初演では他に、《アルミーニョ》(1737年1月12日)のセジェステ、《ジュスティーノ》(1737年2月16日)のポリダルテ、《ベレニーチェ》(1737年5月18日)のアリストボロ、《エジプトのイスラエル人》(1739年4月4日)、《陽気な人、思い耽る人そして穏健な人》(1740年2月27日)、《イメネーオ》(1740年11月22日)のアルジェーニョ、《デイダミーア》(1741年1月10日)のリコメーデ、《サムスン》のハラファ、《セメレ》(1744年2月10日)のカドマス他、《ジョゼフと彼の兄弟》(1744年3月2日)のファラオ他、《ハーキュリーズ》(1745年1月5日)のタイトルロール、《ベルシャーザー》(1745年3月27日)のサイラス(ただし本来はゴブライアスを歌う予定だった)、《機械オラトリオ》(1746年2月14日)、《ジューダス・マカビーアス》のサイモンおよびユーポルマス、《ジョシュア》のケイレブ、《アレグザンダー・バラス》のプトロミー、《スザナ》の第2の長老およびチェルシアス、《ソロモン》のレヴィ人、《シアドーラ》のヴァレンス。また《ソール》の1740年から1750年までのロンドンでの再演では常にレインホールドがタイトルロールだった。1751年に亡くなった。

《ソロモン》の初演に関する情報は皆無に等しい。

ヘンデルの生前の再演

《ソロモン》は、1759年4月14日にヘンデルが亡くなる1ヵ月半ほど前の1759年3月日2と7日に、ヘンデル生前の唯一の再演が行われた。
ヘンデルは既に視力を失い盲目になっていたので、クリストファー・スミス息子が上演を監修し、作品は大幅に改変された。第2部、第3部

SolomonIsabella ScottSoprano
Zadokprobably John BeardTenor
A Leviteprobably Robert WassBass
First WomanGiulia FrasiSoprano
Second Womanprobably Charlotte BrentSoprano
Nicaule, Queen of ShebaGiulia FrasiSoprano

《ソロモン》の台本における政治的仄めかし

一般的に声楽大作の台本における政治的仄めかしは慎重に扱う必要があり、設定だけから安易に判断することは避けるべきである。作品に政治的仄めかしがある場合は、必ず台本にそれを解く鍵が隠されている。
さて《ソロモン》の場合、1727年のジョージ2世の戴冠式のために作曲された戴冠式アンセム《司祭ザドク》でという前例があるため、政治的仄めかしはかなり明確である。つまりこの作品では、イスラエル王国最繁栄期のソロモン王を英国王ジョージ2世(1683―1760 在位1727―1760)に重ね合わせ、それによってハノーファー朝英国を讃えているのである。
ハノーファー朝はジョージ2世の父ジョージ1世(1660―1727 在位1714―1727)がドイツから英国王に招かれたことによって始まった。英国王だというのに二人とも異国のハノーファーの生まれで、英国民にとっては他所者でしかなかった。第2幕のソロモンの最初のレチタティーヴォは、ジョージ2世の苦悩を反映させているとも受け取れる。
一方でジョージ2世の時代にはジャコバイトという強力な反対勢力が急速に弱体化しており、それによって国王の地位が安定して行く時期であった。安定は国の平和に直結する。《ソロモン》にはこの平和の空気が反映されている。
また《ソロモン》が作曲された頃は、十年近く続いたオーストリア継承戦争(1740―1748)がようやく収束に向かっている頃だった。オーストリア継承戦争はハプスブルク家の皇位継承を口実にしてフランスが周辺国を巻き込んで起こした戦争である。英国は、宿敵フランスの敵となったハプスブルク家のオーストリアを支援し、その劣勢を覆させることに成功した。
《ソロモン》が作曲されている1748年5―6月は、オーストリア継承戦争を終結させるアーヘンの和約が進められている時期だった。和約の結果、ルイ15世(1710―1774)のフランスは、戦争に多くの財と労を費やしたにもかかわらず、得るものは僅かに終わった。
《ソロモン》にはこうしたオーストリア継承戦争終結が強く反映されていると考えられる。たとえば第2幕後半の裁きの場は、赤子を奪おうとする第二の女がフランス、第一の女がオーストリア、そして一貫して平和を望み公正な判断で第一の女を救うソロモンが英国と容易に理解できる。
裁きが決着付いた後のレチタティーヴで、第1の女は

No more shall armed bands our hopes destroy;
もう武装した集団たちが私たちの希望を破壊することはないだろう;


と述べている。ここで第1の女は第2の女を「武装した集団たち armed bands」という物々しい言葉(しかも複数形)と呼んでいる。これは明らかに軍隊を、そして戦争を思い起こせる表現である。
さてこれより前、裁きの冒頭で第1の女がソロモンに対してこう言う。

be thou my friend.
あなたが私の友になるように。

身分の低い女が国王を「友 friend」と呼びかけているのは奇妙にも思われるが、友 friend には 同盟 ally の意味もあり、つまりフランスにいちゃもんを付けられて窮地に陥ったオーストリアが、英国に同盟 friend を求めていると採れる。

また第3幕でシバの女王が帰国の途に付く前のレチタティーヴで、

The lily wakes and paints the op'ning rose.
ユリは目覚め そして開花しつつあるバラは化粧する【= ほころび始めたバラには赤味が差す】。

と述べる。ユリの花の紋章 フルール・ド・リス fleur-de-lys は特にフランス王家の象徴である。一方イングランドにおけるバラ、いわゆるテューダー・ローズは、ヘンリー7世(1457―1509 在位1485―1509)の治世以降に用いられるようになり、17世紀以降のイングランド王国ないしはブリテン王国の紋章の下部に採用されており、これも英国王家の象徴である。
この「ユリは目覚めそして開花しつつあるバラは化粧する」という一行には必ずしも明確な解釈があるわけではないが、おそらく、ルイ15世のフランスは野心を捨て現実に立ち返り、そしてハノーヴァー朝が始まったばかりの英国は繁栄をする、といった意味合いなのではないだろうか。

このように《ソロモン》の台本における政治的仄めかしを解く鍵はいくつかはっきり見られる。前述の通りヘンデルは《司祭ザドク》でソロモンとジョージ2世を重ねるという前例を作っており、メンデスがそれを踏まえて、長期に及んだ戦争が終結へ向かっている安堵を汲んで台本を書き、それをヘンデルが良く理解して《ソロモン》を書き上げたと考えるのが妥当だろう。

とろこで、第3幕に登場するシバの女王は何を表しているのだろうか。
これについては現時点でははっきりとした結論は見出せない。ただ、台本ではシバの女王は自らの国について

Bounded by the hoary main,
厳かな大海原によって境界を付けられている、


と述べている。つまりシバの国とイスラエルとの間には大海(この場合は紅海)が横たわっているという意味だ。
これをブリテン島に当てはめてみると、大海とは大西洋のことで、つまりシバの国はは大西洋の向こうの新大陸、すなわち当時の英国の北米植民地を指しているのかもしれない。北米植民地は、シバの国のような香辛料ではないが、小麦などを多く生産、輸出する豊かな地域だった。
シバの国が英国の北米植民地を示しているという見立てに従うと、第3幕半ばのソロモンと合唱の歌は、北米植民地におけるフランス植民地と英国植民地の紛争、いわゆるジョージ王戦争(1744―1748)に触れているようにも思われる。
しかしこれはまだ仮説でしかなく、台本をもう少し読み込んで理解を深める必要がある。

蘇演

対訳付き音楽設計図

登場人物<
ソロモン,イスラエルの王メッゾソプラノあるいはカウンターテノール
ザドク,司祭長テノール
レヴィ人バス
ファラオの娘,彼【=ソロモン】の王妃ソプラノ
第一の女ソプラノ
第二の女ソプラノ
ニコル,シバの女王ソプラノ
司祭たちの合唱

日本語訳は極力文学的な色づけをせず、分析的な直訳にしてある。
音楽部分と歌詞は、基本的に Bärenreiter の楽譜に従っている。

※正しく表示ができない場合は、ブラウザの幅を広げること

Ouverture
4/4
B flat Major
リピートあり
Fuga
Allegro moderato
4/4
B flat Major
Allegro
3/4
B flat Major
1 - 16 リピートあり
16 - 46 リピートあり
ACT Ⅰ
1.
Chorus of Priests

Chorus

4/4
B flat Major
Scene Ⅰ第1場

CHORUS OF PRIESTS司祭たちの合唱
Your harps and cymbals soundあなた方のハープとシンバルを鳴らせ
To great Jehovah's praise,偉大なヤハウェの称賛のために、
Unto the Lord of hosts万軍の主に
Your willing voices raise.あなた方の意欲ある声を上げよ。
二群の四声合唱による二重合唱

Jehovah
元になるヘブライ語からの読みとしては、今日ではヤハウェの方が近いという見解が主流になっている。
2.
Air

Levite
Andante larghetto
3/4
E-flat Major
LEVITEレヴィ人
Praise ye the Lord for all his mercies past,あなた方は主を彼のすべての過去の哀れみにおいて称えろ、
Whose truth, whose justice will for ever last.その方の真実、その者の正義は永遠に続くだろう。
単一形式のエア
3.
Chorus

Chorus
Grave
4/4
c minor
CHORUS合唱
With pious heart and holy tongue敬虔な心と信心深い舌で
Resound your maker's name,あなた方の創造主の名前を鳴り響かせろ、
二部形式の二群の四声合唱による二重合唱
a tempo ordinario
4/4
B-flat Major
Till distant nations catch the song,遠く離れた国々が歌を捉えて、
And glow with holy flame. そして聖なる炎で輝くまで。
4.
Accompagnato

Solomon
Largo assai
4/4
f minor
SOLOMONソロモン
Almighty pow'r, who rul'st the earth and skies全能の力【を持つ者】よ、その者は大地と空を支配し
And bade gay order from confusion rise,そして混乱の増大から明確な秩序を命じた、
Whose gracious hand reliev'd thy slave distress'd,その方の恵み深い手はあなたの苦しむ奴隷を救い、
With splendour cloath'd me, and with knowledge bless'd!私に華やかさを身に纏わせ、そして【私に】知恵を授けた!
Thy finish'd temple with thy presence grace,あなたの完成した神殿をあなたの出現で飾りなさい、
And shed thy heav'nly glories o'er the place!そしてあなたの天国の栄光を至る所に発散しなさい。
♭4つのヘ短調で書かれているが、臨時記号で調性が揺れ動き、終止はハ短調の主和音になっている
Recitative ZADOKザドク
Imperial Solomon, thy pray'rs are heard.皇帝のソロモンよ、あなたの祈願は聞かれた。
5.
Accompagnato

Zadok

4/4
B-flat Major
ZADOKザドク
See, from the op'ning skies見なさい、開いている空から
Descending flames involve the sacrifice.降りて来る炎が犠牲を包んでいる。
And lo, within the sacred domeそして見なさい、聖なる円天井の中に
That gleamy light,あのきらりと光る光が、
Profusely bright,【その光は】豊かに明るい
Declares the Lord of Hosts is come.万軍の主が来たことを布告している。
6.
Air

Zadek
Maestoso
4/4
F Major
ZADOKザドク

Sacred raptures cheer my breast,聖なる歓喜が私の胸を元気付け、
Rushing tides of hallow'd zeal, 神聖な熱情の猛烈な潮の流れを、
Joys too fierce to be express'd,言葉にするにはあまりにも熱烈過ぎる喜びを、
In this swelling heart I feel.私はこの高まる心の中で感じている。

Warm enthusiastic fires暖かい熱烈な炎が
In my panting bosom roll,私の荒い息をする胸の中で巻き上がり、
Hope of bliss, that ne'er expires,至福の希望が、それは決して終わることはない、
Dawns upon my ravish'd soul.私のうっとりとした魂の上に降りて来る。
通作の三部形式のエア
7.
Chorus

Chorus
Alla breve
2/2
F Major
CHORUS合唱
Throughout the land Jehovah's praise record,国のいたるところでヤハウェの賛美を記すように
For full of pow'r and mercy is the Lord.というのも主は力と恵みに満ちているからだ。
単一形式の二群の四声合唱による二重合唱(ただし途中から二群に分かれる)
Recitative SOLOMONソロモン
Bless'd be the Lord, who look'd with gracious eyes主が讃えられるように、その者は慈悲深い両目で見た
Upon his vassal's humble sacrifice,彼の僕 しもべ のささやかな捧げもの【=ソロモンの作った神殿】を、
And has with an approving smileそして満足そうな微笑で
My work o'erpaid and grac'd the pile.私の仕事に支払い過ぎた【=十二分に報いてくれた】そして大建造物【=神殿】を美しく飾った。
8.
Air

Solomon
Larghetto
4/4
E Major
SOLOMONソロモン
What though I trace each herb and flow'r,私が一つ一つの草と花を辿っている【=調査している】からといって、
That drink the morning dew,それ【=花と草】は朝露を飲んでいる【=私が朝露に濡れた草花をすべて調べているからといって】
Did I not own Jehovah's pow'r,もし私がヤハウェの力を持っていなかったなら、
How vain were all I knew.私が知っているすべてはなんと無駄なことだろうか。

Say, what's the rest but empty boast,言ってろ、中身のない鼻にかけた話を除いた残りを【=くだらない自慢話のほかに何があるというのか】
The pedant's idle claim,【その話とはつまり】衒学者の役に立たない主張【なのだが】
Who having all the substance lostその者はあらゆる本質を逸しているにもかかわらず
Attempts to grasp a name.名前を把握しようと試みている。
ダ・カーポを用いた三部形式のエア

Recitative Scene Ⅱ第2場

SOLOMONソロモン
And see, my queen, my wedded love,そして見なさい、私の王妃よ、私の結婚の愛を、
You soon my tenderness shall prove:私の優しさは近いうちにあなたにはっきり示すだろう:
A palace shall erect its head,宮殿がその頭を立てる【=建造される】だろう、
Of cedar built, with gold bespread;ヒマラヤスギで建てられた、金で覆われた;
Methinks the work is now begun,私には仕事は今しがた始まったと思われる、
The axe resounds on Lebanon;レバノンで斧が鳴り響き、
And see, bedeck'd with canvas wings,そして見なさい、帆布の翼で飾り立てられた
The dancing vessel lightly springs,踊る船舶が軽やかに跳ね、
While Ophir's mines, well-pleas'd, disclose一方でオフェルの鉱脈は、大いに喜んで、晒している
The wealth that in their entrails glows.富を それは彼らの腸 はらわた の中で【=地下で】柔らかく輝いている。
Ophir オフェル/オフィル/オフル
旧約聖書に現れる金などの産地。歴代誌上第29章4、列王記第9章28、同第10章11などに記述が見られる。
9.
Air

Queen

6/8
A Major




un poco più lento
6/8
A Major
QUEEN王妃

Bless'd the day when first my eyesその日が祝福されるように 最初に私の目が
Saw the wisest of the wise!賢い者の中で最も賢い者を見た【日が】
Bless'd the day when I was ledその日が祝福されるように 私が導かれた
To ascend the nuptial bed!結婚の寝台に上がるようにと【私が導かれた日が】

But completely bless'd the dayけれども完全にその日が祝福されるように
On my bosom as he lay,私の胸の上に彼が横たわり、
When he call'd my charms divine,彼が私の魅力を神々しいと呼んだ【その日が】
Vowing to be only mine.ただ私のものになると誓いながら。
ダル・セーニョを用いた三部形式のエア
Recitative SOLOMONソロモン
Thou fair inhabitant of Nile,ナイル川の美しい居住者であるあなたよ、
Rejoice thy lover with a smile! あなたの恋人を微笑みで楽しませなさい!

QUEEN王妃
O monarch, with each virtue bless'd,ああ君主よ、一つ一つの徳で祝福されて、
The brightest star that gilds the east!【の空】を金色に塗る最も輝かしい星よ!
No joy I know beneath the sun太陽の下では私は喜びを知らない
But what's compris'd in Solomon.ソロモンに含まれるものの他には。
With thee, how quickly fled the winter's night,あなたと一緒なら、冬の夜がなんとすぐに消え失せることか、
And short is summer's length of light!そして夏の明かりの長さがなんと短いことか!
10.
Duet

Queen
Solomon
Andante
4/4
b minor
QUEEN王妃
Welcome as the dawn of day日の夜明けが
To the pilgrim on his way,【巡礼の】途上の巡礼者たちに【↑】歓迎されるように、
Whom the darkness caus'd to stray,その者たちにとって暗闇が道から外れる原因となる【のだが】
Is my lovely king to me.【それと同様に】素晴らしい王は私に【歓迎される】

SOLOMONソロモン
Myrtle grove or rosy shade,銀梅花 ギンバイカ の林あるいは薔薇の木陰は、
Breathing odours through the glade林間の空き地を抜けて芳香を放っている
To refresh the village maid,村娘を気分をすっきりさせるために、
Yields in sweets, my queen, to thee.【だが】甘さの点で、私の王妃よ、【それらの香りは】あなたに譲る。
単一形式の二重唱

王妃の歌詞は、冒頭の Welcome がas節(巡礼者における夜明け)と主節(王妃におけるソロモン)の両方にかかる。
Recitative ZADOKザドク
Vain are the transient beauties of the face顔の束の間の美しさははかない
Where virtue fails to animate each grace.徳がそれぞれの【顔の】優美さを活気付けないところでは。
Bright and more bright her radiant form appears,彼女の【=徳の】明るい姿は 輝かしくさらにより輝かしく現れるほどに、
Nor dreads the canker'd tooth of rolling years.過ぎ去っていく歳月の腐った歯を恐れない。
O'er such a partner comfort spreads her wing, そのような配偶者の上に快適さはその翼を広げる、
And all our life is one perpetual spring.そしてすべての私たちの命は一つの枯れることのない泉である。
11.
Air

Zadek
Andante
6/8
f-sharp minor
ZADOKザドク

Indulge thy faith and wedded truthあなたの誓約と【あなたの】結婚の忠誠に耽りなさい
With the fair partner of thy youth!あなたの青年時代の美しい配偶者と共に!

She's ever constant, ever kind,彼女はいつも不変で【=誠実で】、いつも優しい、
Like the young roe, or loving hind. 若いノロのように、あるいは愛情を抱いた雌鹿のように。
通作の二部形式のエア

roe = roe deer
ノロ 麕 もしくはノロジカ 麕鹿。日本には生息していないのでなじみが薄いが、ヨーロッパでは一般的な小型の鹿。フェリックス・サルテンの小説『バンビ』(有名なディズニー映画の原作)で取り上げられている鹿がノロ。
Recitative SOLOMONソロモン
My blooming fair, come, come away,私の花盛りの美女よ、来なさい、やって来なさい、
My love admits of no delay.私の愛は遅れを許さない。
12.
Air

Solomon

4/4
e minor
SOLOMONソロモン
Haste, haste to the cedar grove急いで、急いでヒマラヤスギの林に行きなさい
Where fragrant spices bloomそこでは芳しい香りの香辛料が花咲いている
And am'rous turtles loveそして恋をしているキジバトたちが愛している【=キジバトのつがいが愛し合っている】
Beneath the pleasing gloom.心地よい暗がりの下で。

While tinkling down the hill,【鈴の音のように】チリンチリンと鳴りながら丘を降りながら、
Avoiding hateful day,嫌な陽光を避けながら、
The little murm'ring rill小さなサラサラ音を立てる小川は
In whispers glides away.声を潜めてそっと離れて行く。
ダル・セーニョを用いた三部形式のエア

turtles < turtle = turtledove キジバト(模様が亀の甲羅のようなことから)
Recitative QUEEN王妃
When thou art absent from my sightあなたが私の視界から不在になる時は
The court I shun and loathe the light.王宮を私は避けてそして灯りを嫌悪する。
13.
Air

Queen
Largetto
3/4
G Major
QUEEN王妃
With thee th'unshelter'd moor I'd treadあなたと一緒に【木々に】覆われていない荒野を私は歩くだろう
Nor once of fate complain,一度も運命に不平を言うことなく、
Though burning suns flash'd round my headたとえ焼け付く日差しが私の頭を取り巻いて光るとしても
And cleav'd the barren plain. そして【焼け付く日差しが】不毛の平原を割り裂いても。
Thy lovely form alone I prize;あなたの愛らしい姿だけを私は大切にしている;
'Tis thou that canst impartそれはあなたである 授けることができるのは
Continual pleasure to my eyes,私の両目に絶え間ない喜びを、
And gladness to my heart.そして私の心に嬉しさを。
単一形式のエア

Though 節は仮定法過去と採った。

burning suns
suns と複数形なので、これは 太陽 ではなく日光。
Recitative ZADOKザドク
Search round the world, there never yet was seen世界中を探せ、これまで決して見られることはなかった
So wise a monarch or so chaste a queen.これほど賢明な君主はあるいはこれほど貞節な王妃は。
14.
Chorus

Chorus

4/4
G Major
Chorus合唱
May no rash intruder disturb their soft hours;軽はずみな邪魔者が彼らの柔らかい時間を邪魔しないように;
To form fragrant pillows, arise, O ye flow'rs!良い香りのする枕を作るために、現れろ、ああお前たち、花々よ!
Ye zephirs, soft breathing, their slumbers prolong,お前たちやわらかな西風よ、優しくそよいで、彼らの眠りを長くしろ、
While nightingales lull them to sleep with their song.サヨナキドリ 小夜啼鳥/夜鶯 が彼らの歌で彼らをすこやかに寝かせると同時に。
五声の合唱による単一形式の合唱
ACT Ⅱ
15.
Chorus

Chorus
Allegro
4/4
D Major
Scene Ⅰ第1場

Chorus合唱
From the censer curling rise香炉から渦巻いて立ち上る
Grateful incense to the skies;心地よい芳香が空へと;
Heaven blesses David's throne,天がデイヴィッドの玉座を祝福している、
Happy, happy Solomon!幸せな、幸せなソロモン!
Live, live for ever, pious David's son,生き長らえろ、永遠に生き長らえろ、敬虔なデイヴィッドの息子よ、
Live, live for ever, mighty Solomon.生き長らえろ、永遠に生き長らえろ、力強いソロモンよ。
単一形式の二群の四声合唱による二重合唱
Recitative SOLOMONソロモン
Prais'd be the Lord, from him my wisdom springs.主が讃えられるように、彼から私の知恵は生じている。
I bow inraptur'd to the King of Kings.私は恍惚として王たちの王に頭を下げる。
He led me abject to imperial state,彼は惨めな私を帝国の地位【=帝位】へと導いた、
When weak and trembling for my future fate.【私が】私の未来の運命に気弱になりそして震え慄いていた時に。
Strengthen'd by him, each foe with horror fled;彼によって元気付けられ、各々の敵は恐怖を持って逃げた;
Then impious Joab at the altar bled.それから不信心なジョアブは祭壇で出血した。
The death he oft deserv'd stern Schimei found,容赦ないシマイは死を見出した 【その死を】彼はしばしばを受けるに値した、
And Adonijah sunk beneath the wound;そしてアドニジャは傷の下に沈んだ【=傷を負って死に倒れた】
Forc'd by his crimes I spoke a brother's doom,彼の罪によって強いられて私は一人の兄弟の運命を述べた【=ある兄弟の罪によって彼の死を宣告せざるを得なかった】
And his vices perish in his tomb.そして彼の悪行は彼の墓の中で消滅している。
16.
Air

Solomon
Largetto
3/4
g minor
SOLOMONソロモン
When the sun o'er yonder hills太陽が向こうの丘に
Pow'rs in tides the golden day,金色の陽光を潮流のように供給する 【↑】時、
Or when, quiv'ring o'er the rillsあるいは、小川の上で震えながら
In the west he dies away,西で彼【=太陽】が徐々に消えて行く 【↑】時、
He shall ever hear me sing彼はいつも私が歌うのを聞くだろう
Praises to th'Eternal King.不滅の王への讃美を。
単一形式のエア
Recitative LEVITEレヴィ人
Great prince, thy resolution's just:偉大な君主よ、あなたの決意は正しい:
He never fails, in Heav'n who puts his trust,彼は決して失望させはしない、天において彼を信頼する者を、
True worth consists not in the pride of state;本当の価値は国の誇りにあるのではない;
'Tis virtue only makes a monarch great. ただ徳だけである 君主を偉大にするのは。
17.
Air

Levite
Allegro
4/4
a minor
LEVITEレヴィ人
Thrice bless'd that wise discerning kingあの賢明で見識のある王が三度【=大いに】祝福されるように
Who can each passion tame;その者はそれぞれの情熱を抑えることができる;
And mounts on virtue's eagle wingそして【彼は】徳の鷲 ワシ の翼に乗って上る
To everlasting fame.不滅の名声へと。

Such shall as mighty patterns standそのようなことは強力な模範として存在するだろう【=to 不定詞のようなことは立派な模範であり続けるだろう】
To princes yet unborn,まだ生まれていない【=未来の】君主たちにとって、
To honour prompt each distant land,それぞれの遠くの国を速やかに讃えることは、
And future times adorn.そして未来の時代を飾る【=魅力あるものにする】【ことは】
通作の三部形式のエア(ただしA-B-A’のA’はかなり形が変わっている)

Bの詩句は、代名詞の such が後に来る to 不定詞を受けていると理解した。
Recitative Scene Ⅱ第2場

AN ATTENDANT従者
My sovereign liege, two women stand,忠誠を誓った私の君主よ、二人の女が立っている、
And both beseech the king's commandそして両者は王の指令を懇願している
To enter here. Dissolv'd in tearsここに入るという。涙に暮れて
The one a newborn infant bears;一人は新生児を背負っている;
The other, fierce, and threat'ning loud,もう一人は、激しく、そしてけたたましく脅しながら
Declares her story to the crowd;彼女の言い分を群集に力説している;
And thus she clamours to the throng,そしてその結果として彼女は群集に対して騒ぎ立てている、
"Seek we the king, he shall redress our wrong."「私たちは王を捜している、彼が私たちの不正を正すだろう」と。

SOLOMONソロモン
Admit them straight; for when we mount a throne,彼女がたちが真っ直ぐ入ることを認めよ;
Our hours are all the people's, not our own.私たちの時間はすべて民のもの、私たち自身のものではない。


Scene Ⅲ第3場

FIRST WOMAN第1の女
Thou son of David, hear a mother's grief;デイヴィッドの息子であるあなたよ、母の悲しみを聞け;
And let the voice of justice bring relief.そして正義の声が除去をもたらすことを許可しなさい【=あなたの正義の声で私の悲しみを取り去りなさい】
This little babe my womb conceiv'd,小さな赤ん坊を私の子宮は身篭った、
The smiling infant I with joy receiv'd.微笑む幼児を私は喜びとともに受け取った、
That woman also bore a sonあの女もまた一人の息子を産んだ
Whose vital thread was quickly spun.その者の命の糸はすぐに紡がれた【=彼女の赤子の寿命はすぐに尽きた,彼女の赤子はすぐに死んだ】
One house we together kept.一つ家を私たちは一緒に保持していた【=私たちは一つ家で一緒に暮らしていた】
But once, unhappy, as I slept,しかしある時、不幸なことに、私が寝ている時、
She stole at midnight where I lay,彼女は盗み取った 夜中に 私が横になっているところで、
Bore my soft darling from my arms away,【私が】産んだ私のかわいい最愛の子を私の腕からこっそりと、
And left her child behind, a lump of lifeless clay,そして【彼女は】彼女の子を置いて去った、命のない粘土【=死んだ肉体】の一塊を、
And now - oh impious! - dares to claimそして今 ―ああ不信心な! ―【彼女は】厚かましくも主張しようとしている
My right alone, a mother's name.私だけの権利を、母の名を。

Deutsche Händelgesellschaft の楽譜の冒頭の登場人物では、元となる旧約聖書の列王記上第3章に基づいて、二人の女は harlot 遊女,売春婦 となっている。しかし Deutsche Händelgesellschaft の譜面上では woman が用いられており、また B&aum;renreiter の楽譜でも woman である。
18.
Air and Terzetto

First woman
Second woman
Solomon
A tempo giusto
4/4
f-sharp minor
FIRST WOMAN第1の女
Words are weak to paint my fears;言葉は私の涙を描写するには無力だ;
Heartfelt anguish, starting tears,心からの苦悩が、【流れ】始める涙が、
Best shall plead a mother's cause.母の動機を一番主張するだろう。
To thy throne, O king, I bend;あなたの玉座に、ああ王よ、私は曲がる【=跪く,平伏す】
My cause is just, be thou my friend.私の動機は正当だ、あなたが私の友【=支持者】になるように。

SECOND WOMAN第2の女
False is all her melting tale.彼女の【人の心を】解かしている話のすべては嘘だ。

SOLOMONソロモン
Justice holds the lifted scale. 正義は天秤を持ち上げられたままにしている【正義は天秤を掲げている】

SECOND WOMAN第2の女
Then be just and fear the laws.それでは公正でありなさいそして法を恐れなさい。
Recitative SOLOMONソロモン
What says the other to th'imputed charge?もう一方の者は【その者の】せいにされた告発に対して何を言うのか?
Speak in thy turn, and tell thy wrongs at large.あなたの番になって言え、そしてあなたの不当な扱いを詳細に述べろ。

SECOND WOMAN第2の女
I cannot varnish o'er my tongue.私は私の舌にワニスを塗ることはできない【=私は取り繕ったことは言えない】
And colour fair the face of wrong.そして不正の顔を美しく彩ることも。
This babe is mine; the womb of earthこの赤ん坊は私のものだ;大地の子宮【=地中】
Entomb'd, conceals her little birth.埋葬された彼女の小さな赤ん坊を隠している。
Give me my child, my smiling boy,私に私の子を与えろ、私の微笑む少年を、
To cheer my breast with newborn joy.私の胸を新生児の喜びで元気付けるために。

SOLOMONソロモン
Hear me, ye women, and the king regard,【の言うこと】を聞け、あなたたち女たちよ、そして王をしっかり見ろ、
Who from his throne thus reads the just award:その者は彼の玉座から以下のように公正な裁定を読み上げる:
Each claims alike, let both their portions share.各々の主張は同様なのだがら、両者に彼女たちの取り分を分配させる。
Divide the babe, thus each her part shall bear.赤子を分けろ、その結果各々は彼女の部分を担うだろう。
Quick, bring the falchion and the infant smite,速やかに、フォールチョン【=曲刀】を持って来いそして子を一撃しろ。
Nor further clamour for disputed right.そして係争中の権利に対してさらなる抗議はない。
at large
詳細に
19.
Air

Second Woman
Allegro
4/4
F Major
SECOND WOMAN第2の女
Thy sentence, great king,あなたの判決は、偉大な王よ、
Is prudent and wise,賢明でそして思慮深い、
And my hopes on the wingそして私の希望は翼に乗って
Quick bound for the prize.素早く目標へと跳び上がる。
Contented I hear,満足して私は聞き、
And approve the decree,そして判決に同意する、
For at least I shall tearというのも少なくとも私は引き離すであろうから
The lov'd infant from thee. 愛する幼児をあなた【=第1の女】から。
単一形式のエア
Recitative FIRST WOMAN第1の女
Withhold, withhold the executing hand!差し控えろ、実行する手を差し控えろ!
Reverse, O king, thy stern command. 覆しなさい、ああ王よ、あなたの厳しい命令を。
20.
Air

First Woman
Largo
4/4
f minor
FIRST WOMAN第1の女
Can I see my infant gor'd私が見ることができるのだろうか 私の幼児が突き刺されるのを
With the fierce relentless sword?残忍で無慈悲な剣で?
Can I see him yield his breath,私が見ることができるのだろうか 彼が彼の息を放棄しているのを、
Smiling at the hand of death?死の手に掛かって微笑みながら?
And behold the purple tidesそして見るのを 紫色の潮流【=血】
Gushing down his tender sides?彼の柔らかい脇腹から流れ出ているのを?
Rather be my hopes beguil'd,むしろ私の希望が奪い取られるがいい、
Take him all, but spare my child!彼をすべて受け取れ、けれど私の子に危害を加えるな!
単一形式のエア
21. Accompagnato

Solomon
Andante
6/8
g minor
SOLOMONソロモン
Israel, attend to what your king shall say:イスラエルよ、あなたの王が言うであろうことを注意して聞け;
Think not, I meant the innocent to slay.思うでない、私が幼い子どもを殺すつもりであったと。
The stern decision was to trace with art厳しい判決は計略を用いて突き止めるためだった
The secret dictates of the human heart. 人間の心の秘密の命令を。
She who could bear the fierce decree to hear彼女は その者は残忍な判決を聞くことに堪えて【=残忍な判決を聞いても動じることなく】
Nor send one sigh nor shed one pious tear,一つの溜め息を発することなくまた一粒の敬虔な涙を流すこともなかった【のだが】
Must be a stranger to a mother's name.【彼女は】母という名には縁のない者に違いない。
Hence from my sight, nor urge a further claim!このような訳で私の視界から【去れ】、そしてさらなる抗議を訴えるでない。
But you, whose fears a parent's love attest,しかしあなたよ、その者の恐怖心がが親の愛を証明している【のだが】
Receive, and bind him to your beating breast.受け取れ、そして彼をあなたの心臓が鼓動している胸に結び付けろ【=胸に抱きなさい】
To you, in justice, I the babe restore,あなたに、正義において、私は赤子を返す、
And may you lose him from your arms no more.そしてあなたがあなたの腕から二度と彼を失うことがないように。
ここでの二人の女に対しての you は敬称の あなた で訳した。次の二重唱でソロモンは第1の女に対して Thy (古風な)あなたの,そなたの を用いており、ここでの you の方が相対的にやや親称的に用いられている。
22.
Duet

First Woman
Solomon
Andante larghetto
3/4
E Major
FIRST WOMAN第1の女
Thrice bless'd the king, for he's good and he's wise.三度【=大いに】王が祝福されるように、彼は善良で彼は賢明だから。

SOLOMONソロモン
The Lord all these virtues has giv'n,主がこれらの徳のすべてを【私に】与えた【のだから】

FIRST WOMAN第1の女
My gratitude calls streaming tears from my eyes.私の感謝の気持ちは私の両目から流れ出る涙を呼び出している。

SOLOMONソロモン
Thy thanks be return'd all to Heav'n.あなたの感謝はすべて天に返上されるように。
'Tis God that rewards and will lift from the dustそれは神である 報いをしそして塵の中から引き上げるはずの者は
Whom to crush proud oppressors endeavour,高慢な迫害者たちを壊滅しようと努める者に/を、

FIRST WOMAN第1の女
How happy are those who in God put their trust.神に彼らの信頼を置く者はなんと幸せなことか。

SOLOMONソロモン
For His mercy endureth forever.というのも彼の【=神の】哀れみは永遠に続くからである。
23.
Chorus

Chorus
Allegro
4/4
A Major
CHORUS合唱
From the East unto the West,東方から西方まで、
Who so wise as Solomon!誰がソロモンと同じくらい賢明なのか!
Who like Israel's king is bless'd,誰がイスラエルの王のように祝福されているのか、
Who so worthy of a throne!誰がそれほど玉座に相応しいのか!
Recitative ZADOKザドク
From morn to eve I could enraptur'd sing晩から朝まで私はうっとりと歌うことができた
The various virtues of our happy king,私たちの幸せな王の様々な徳を、
In whom, with wonder, we behold combin'dその者の中に、驚嘆をもって、私たちは見ている 結びつけて
The grace of feature with the worth of mind.外観の優美さと精神の価値を。
24.
Air

Zadok
Allegro
4/4
F Major
ZADOKザドク

See the tall palm that lifts the head高い椰子 やし の木を見なさい それは頭を持ち上げている
On Jordan's sedgy side;ヨルダン川の菅 スゲ の生い茂った川岸で;
His tow'ring branches curling spread,彼の高く伸びる枝々は曲がりながら伸び広がり、
And bloom in graceful pride.そして優美に誇らしげに花咲く。

Each meaner tree regardless springs各々のより劣った木はお構いなく跳ね【=成長し】
Nor claims our scornful eyes;私たちの蔑む両目を惹き付けない;
Thus thou art first of mortal kings上のようにあなたは人間の王の筆頭であり
And wisest of the wise.そして賢者の中で最も賢い。
ダル・セーニョを用いた三部形式のエア
Recitative FIRST WOMAN第1の女
No more shall armed bands our hopes destroy;もう武装した集団たちが私たちの希望を破壊することはないだろう;
Peace waves her wing and pours forth ev'ry joy.平和【の神】は彼女【=平和の神】の翼をうねらせそしてあらゆる喜びを注ぎかける。
初演前にこれに続く2行 5小節が削除されている ⇒附録
25.
Air

First Woman

6/8
G Major
FIRST WOMAN第1の女

Beneath the vine or fig-tree's shade,葡萄 ブドウ の木あるいは無花果 イチジク の木の陰で、
Ev'ry shepherd sings the maidあらゆる羊飼いがその娘に歌って聞かせる
Who his simple heart betray'd,その者は彼の純朴な心を裏切った【=撥ね付けた】【のだが】、
In a rustic measure.田舎の拍子【=音楽】で。

While of torments he complains,彼は苦しみを訴えるのだが、
All around the village swains村一帯で田舎の若者たちは
Catch the song and feel his pains,その歌を覚えそして彼の傷みを感じている、
Mingling sighs with pleasure. 溜め息に喜びを混ぜながら。
ダル・セーニョを用いた三部形式のエア
26.
Chorus

Chorus
Allegro ma non troppo
3/4
D Major
CHORUS合唱
Swell, swell the full chorus to Solomon's praise;膨らませろ、ソロモンの賞賛に対する朗々とした合唱を膨らませろ;
Record him, ye bards, as the pride of our days.彼を記録しろ、あなたたち詩人たちよ、私たちの日々【=時代】の誇りとして。
単一形式の合唱

ダル・セーニョを用いた三部形式の長い稿がある ⇒附録
Deutsche Händelgesellschaft の楽譜は長い稿を採用している
ACT Ⅲ
27.
Symphony
Allegro
4/4
B-flat Major
シバの女王の到着(入場) The Arrival of the Queen of Sheba として知られる曲
Recitative QUEEN OF SHEBAシバの女王
From Arabia's spicy shores,アラビアの香辛料の香る海岸から
Bounded by the hoary main,【そこは】厳かな大海原によって境界を付けられている、
Sheba's queen these seats exploresシバの女王はこれらの中心地【=この地=イスラエル】を探検している【=訪れている】
To be taught thy heav'nly strain.あなたの天の調べを教えられるために。

SOLOMONソロモン
Thrice welcome, queen, with open arms三度【=大いに】歓迎する、女王よ、両手を広げて
Our court receives thee and thy charms.私たちの王宮はあなたとあなたの魅力を迎え入れる。
The temple of the Lord first meets your eyes,主の神殿はあなたの両目に初めて出会う、
Rich with the well-accepted sacrifice.【その神殿は】広く受け入れられた捧げ物で豊かである。
Here all our treasures free behold,ここで私たちの宝物 ほうもつ のすべてをじっくり見なさい、
Where cedars lie, o'erwrought with gold.そこにはヒマラヤスギが横たわり【=平らに置かれる=床板に貼られる】、金で至るところ装飾されている。
Next, view a mansion fit for kings to own,隣の、王たちにとって所有するに相応しい屋敷を眺めなさい、
The forest call'd of tow'ring Lebanon,【その屋敷は】高く聳える そびえる レバノンの森と呼ばれている、
Where art her utmost skill displaysそこでは技術が彼女の【=その】最高の技能を示している
And ev'ry object claims your praise.そしてあらゆるものがあなたの賞賛を求めている。
spicy shores
胡椒などの香辛料は莫大な富をもたらしたので、香辛料によって富み栄えている国 という意味合いがあると思われる。なおシバの国を spicy shore と表現するのは、ジョン・ミルトン(1608―1674)の長編詩『失楽園』の模倣かもしれない(Sabaean odour, from the spicy shore / Of Araby)

main
詩語で 大海原。シバの国がアラビア半島南岸に位置していたとすると、紅海を指す。

thy heav'nly strain

28.
Air

Queen of Sheba
Allegro
4/4
g minor
QUEEN OF SHEBAシバの女王

Ev'ry sight these eyes beholdこれらの両目が見つめるあらゆる視界は
Does a different charm unfold;違った魅力を明らかにしている;
Flashing gems and sculptur'd gold,キラキラと輝く宝石と彫刻を施された金は、
Still attract my ravish'd sight.なおも私の視覚をうっとりと引き付けている。

But to hear fair truth distillingしかし素晴らしい真実を聞くことは
In expressions choice and thrilling,選び抜かれたそしてわくわくさせる表現において 【↑】蒸留している【=純化している】
From that tongue so soft and killing,あの舌から とても柔らかくそしてとても面白いので、【=けれどもソロモンの口から発せられる、本質だけを漉して精選されたそして興奮させるような真実を聞くことは、とても甘美で魅力的なので、】
That my soul does most delight.私の魂をこの上なく楽しませる。
通作の三部形式のエア
Recitative SOLOMONソロモン
Sweep, sweep the string to soothe the royal fairさっと動かせ、弦をさっと動かせ【=爪弾け,掻き鳴らせ】 女王である美女をなだめるために
And rouse each passion with th'alternate air.そして交互に起きる調べで【=次々に音楽を変えて】それぞれの情熱を掻き立てろ。
29.
Solo and Chorus

Solomon
Chorus
Andante
3/8
G Major
SOLOMON AND CHORUSソロモンと合唱
Music, spread thy voice around,音楽【の神】よ、あなたの声を広めろ、
Sweetly flow the lulling sound.心を穏やかにする響きを甘美に流せ。
単一形式の独唱と合唱
30.
Solo and Chorus

Solomon
Chorus
Spiritoso
4/4
D Major
SOLOMON AND CHORUSソロモンと合唱
Now a diff'rent measure try,今度は別の拍子【=音楽】を試みろ、
Shake the dome and pierce the sky;聖堂を振動させてそして空を刺し貫け;
Rouse us next to martial deeds;次いで私たちを勇ましい行為へと奮い立たせろ;
Clanking arms and neighing steeds音を立ててぶつかり合う武具といななく馬が
Seem in fury to oppose.激しく向かい合っているかのようだ。
Now the hard-fought battle glows.今は激しい戦いの争いが白熱している。
単一形式の独唱と二群の四声合唱による二重合唱
Recitative SOLOMONソロモン
Then at once from rage remove;それからすぐに激情から移れ;
Draw the tear from hopeless love;希望のない愛からの涙を描け;
Lengthen out the solemn air,厳かな調べを長くしろ【=厳粛な音楽を長く奏でろ】
Full of death and wild despair.死と激しい絶望に満ちて。
31.
Chorus

Chorus
Largo
4/4
g minor
CHORUS合唱
Draw the tear from hopeless love,希望のない愛からの涙を描け;
Lengthen out the solemn air,厳かな調べを長くしろ、
Full of death and wild despair. 死と激しい絶望に満ちて。
単一形式の合唱
Recitative SOLOMONソロモン
Next the tortur'd soul release,次にひどく苦しんでいる魂を解放しろ、
And the mind restore to peace.そして心を平安に回復させろ。
32.
Solo and Chorus

Solomon
Chorus
Allegro
4/4
E-flat Major
SOLOMON AND CHORUSソロモンと合唱
Thus rolling surges rise,うねる大波が膨れ上がった結果、
And plough the troubled main;そして【大波は】荒れた大海原を突き進む;
But soon the tempest dies,だがすぐに嵐は弱まり、
And all is calm again.そしてすべては再び穏やかになる。
単一形式の独唱と合唱
Recitative QUEEN OF SHEBAシバの女王
Thy harmony's divine, great king;あなたの和声【=音楽】は神々しい、偉大な王よ;
All, all obey the artist's string.すべてが、すべてが芸術家【=楽師】の弦に従っている。
And now, illustrious prince, receiveそして今、輝かしい君主よ、受け取りなさい
Such tribute as my realm can give.私の王国が与えられるだけの贈り物を。
Here purest gold, from earth's dark entrails torn,ここに純金が、地の暗い腸 はらわた から【=地下から】引き剥がされた、
And gems, resplendent, that outshine the morn;そして宝物 ほうもつ、キラキラと輝く、それは朝より光が強い;
There balsam breath's a grateful smell,あそこでは香油が心地よい香りを漂わせている、
With thee the fragrant strangers wish to dwell.あなたと一緒に 良い香りのする見慣れぬ品々は留まることを望んでいる。
Yet, of ev'ry object I behold,けれども、私が注視したあらゆる物のうち、
Amid the glare of gems and gold,宝物と金のきらめく輝きに包まれた
The temple most attracts my eye,神殿が私の目をもっとも魅了している、
Where, with unweary'd zeal, you serve the Lord on high.そこで、飽くことのない情熱で、あなたは高みにいる主に仕えている。
33.
Air

Levite
Larghetto
3/8
c minor
LEVITEレヴィ人
Pious king and virtuous queen, 敬虔な王と有徳の女王よ、
May your name resound in story,あなたの名前が歴史において知れ渡るように、
In time's latest annals seen,時の最新の年代記において【あなたの名前が】見られる【ように】
Crown'd with honour, crown'd with glory.名誉の冠を戴いて、栄光の冠を戴いて。
単一形式のエア
一応AとBに相当する部分があるが、A-B-の後がAとBの混合になっている。
Recitative ZADOKザドク
Thrice happy king, to have achiev'd三倍【=大いに】幸福な王よ、成し遂げたことで
What scarce will henceforth be believ'd.今後とても信じられないであろうことを。
When seven times around the sphere7回天球を回って
The sun had led the new-born year,太陽が新しく生まれた年を連れて来た 【↑】【=7年が過ぎて新しい年になった時】
The temple rose to mark thy days 神殿はあなた日々【=人生】を記念するために聳え立った
With endless themes for future praise.未来の賞賛への終わりのない話題を伴って【=後世まで永遠に讃えられる話題を振り撒きつつ】
Our pious David wish'd in vain,私たちの敬虔なデイヴィッドは虚しく望んだ、
By this great act to bless his reign;この偉大な行為によって彼の治世を祝福することを;
But Heav'n the monarch's hopes withstood,だが天は君主の希望に逆らった、
For, ah, his hands were stain'd with blood.というのも、ああ、彼の両手は血で染まっていたからである。
his hands were stain'd with blood
歴代誌上第22章8や同第28章3によると、ダビデが神殿を建てようと考えた時は、彼が戦いで多くの敵の血を流したことから、主からダビデは神殿を建設すべきではないと反対されたという。
34.
Air

Zadok
Pomposo
3/4
D Major
ZADOKザドク
Golden columns, fair and bright,黄金の円柱たちが、【それらは】美しくそして輝いている【のだが】
Catch the mortals' ravish'd sight;人間のうっとりした視線を捉えている;
Round their sides ambitious twine彼らの【=円柱の】脇腹の周りには野心的に絡み付いている
Tendrils of the clasping vine;しがみつく蔓草 つるくさ の巻きひげが;
Cherubim stand there display'd,ケルビム【の彫像】がそこに展示されて立っていて、
O'er the ark their wings are laid:契約の箱の上に彼らの翼がすえられている;
Ev'ry object swells with state,すべての物は荘厳さに満ちており、
All is pious, all is great. すべては敬虔で、すべてが偉大である。
単一形式のエア
35.
Chorus

Chorus
A tempo giusto
4/4
D Major
CHORUS合唱
Praise the Lord with harp and tongue,ハープと舌【=声,歌】で主を讃えろ、
Praise him all, ye old and young,皆彼を讃えろ、あなたたち老人よそして若者よ
He's in mercy ever strong.彼はいつも哀れみにおいて強い【=哀れみ深い】
Praise the Lord through ev'ry state,あらゆる国を通して主を讃えろ、
Praise him early, praise him late,彼を早く【=早朝に】讃えろ、彼を遅く【=夜更けに】讃えろ、
God alone is good and great.神だけが善で偉大だ。
Let the loud hosannahs rise,大きな声のホサナを上げさせろ【=声高くホザナを響かせよ】
Widely spreading through the skies,空を抜けて広範囲に広がって、
God alone is just and wise. 神だけが正しくそして賢明だ。
単一形式の二群の四声合唱による二重合唱
Recitative
SOLOMONソロモン
Gold now is common on our happy shore,黄金は今や私たちの幸せな海岸【=国】にはどこにでもある、
And cedars frequent are as sycamore.そしてヒマラヤスギはエジプトイチジクのように頻出している【=たくさんある】
All, all conspires to bless my days;すべてが、すべてが合わさって私の日々を祝福している;
Fair plenty does her treasures raise,素晴らしい豊かさは彼女の財宝を増大させ
And o'er the fruitful plains her countless gifts displays.そして作物を多く実らせる豊かな平原では彼女の数え切れない贈り物が展示されている。

cedars frequent are as sycamore
イスラエルで一般的なエジプトイチジク(日本のイチジクと異なり大きな木になる)がエルサレムのあちこちに生えているように、ヒマラヤスギで造られた建造物がそこかしこに建っている、という意味。イスラエルの繁栄振りを述べている。前文も同様
36.
Air

Solomon

4/4
G Major
SOLOMONソロモン
How green our fertile pastures look,私たちの肥沃な牧場がなんと緑に見えることか、
How fair our olive groves!私たちのオリーヴがなんと見事に育っていることか!
How limpid is the gliding brook,穏やかに流れている小川がなんと透明なことか、
That through the meadows rovesそれは牧草地を抜けてさまよっている
A hundred diff'rent balmy flow'rs百の異なった芳しい花々が
Salute the passing gale,過ぎ去っていく強風に挨拶をしている、
When ev'ning breezes fan the bow'rs,晩の微風が木陰に風を送っている時に、
And sweep th'enamell'd vale.そして琺瑯 ほうろう 加工された【=つややかな】谷を流れていく。
単一形式のエア
Recitative
QUEEN OF SHEBAシバの女王
May peace in Salem ever dwell!サレム【=エルサレム】に平和がずっとあるように!
Illustrious Solomon, farewell.輝かしいソロモンよ、さようなら。
Thy wise instructions be my future care,あなたの賢明な教えが私の未来の関心事であるように【=あなたの賢明な教えを私は先々まで心に留めておきたい】
Soft as the show'rs that cheer the vernal air,春の空気を活気付けるにわか雨と同じくらい穏やかで、、
Whose warmth bids ev'ry plant her sweets disclose:その温かさはあらゆる植物に彼女の【=植物の】喜びを開く【=花を開く】よう命じている:
The lily wakes and paints the op'ning rose.ユリは目覚めそして開花しつつあるバラは化粧する【= ほころび始めたバラには赤味が差す】
Salem
サレムはエルサレムの古称(として旧約聖書では扱われている)であるが、同時にヘブライ語のシャロム/シャローム/シャーローム 平和 にかけられている。

The lily wakes and paints the op'ning rose.
⇒ 《ソロモン》の台本における政治的仄めかし

37.
Air

Queen of Sheba
Largo
4/4
e minor
QUEEN OF SHEBAシバの女王
Will the sun forget to streak太陽が【光の】筋を付けるのを忘れることがあるであろうか
Eastern skies with amber ray,東の空に 琥珀色の光線で、
When the dusky shades to break薄暗い陰を割るために
He unbars the gates of day?【=太陽】が日の門を開く 【↑】時に ?
Then demand if Sheba's queenそれでは尋ねなさい シバの女王が
E'er can banish from her thoughtいったい彼女の思考から払い除けることができる 【↑】かどうか
All the splendour she has seen,彼女が見た豪華さのすべてを、
All the knowledge thou hast taught.あなたが教えた知識のすべてを。
単一形式のエア

Bärenreiter の楽譜が採用しているのは46小節の長い稿。Deutsche Händelgesellschaft の楽譜には36小節の短い稿も収録されている。歌詞は同じ

demand if
普通に採れば
シバの女王に―かどうか尋ねなさい
なのだが、この場合は文脈から
―かどうか自らに問うてみなさい
のようにも採れる
Recitative
SOLOMONソロモン
Adieu, fair queen, and in thy breastさようなら、美しい女王よ、そしてあなたの胸の中に
May peace and virtue ever rest.平安と徳がずっと留まるように。
38.
Duet

Queen of Sheba
Solomon
Larghetto
6/4
A Major
QUEEN OF SHEBAシバの女王
Ev'ry joy that wisdom knows知恵を知るという喜びをすべて
May'st thou, pious monarch, share.あなたが、敬虔な君主よ、分かち合うように。

SOLOMONソロモン
Ev'ry blessing heav'n bestow's天が授けるあらゆる祝福が
Be thy portion, virtuous fair.あなたの分け前になるように、有徳の美女よ。

QUEEN OF SHEBAシバの女王
Gently flow thy rolling days!あなたの過ぎ去って行く日々が穏やかに流れるように!

SOLOMONソロモン
Sorrow be a stranger here.悲しみはここでは縁のないものであるように。

Both両者
May thy people sound thy praise,人々があなたの賞賛を鳴り響かせるように、
Praise unbought by price of fear!恐怖の代償によって買われたのでない賞賛を!
単一形式の二重唱
39.Chorus

Chorus
Allegro
4/4
D Major
CHORUS合唱
The name of the wicked shall quickly be past,不正な者の名はすぐに過去のものになる【=忘れ去られる】だろう、
But the fame of the just shall eternally last.しかし正義の名声は永遠に続くだろう。
単一形式の二群の四声合唱による二重合唱
APPENDIX
alternative Recitative before 25. Aria First Woman
Recitative FIRST WOMAN第1の女
No more shall armed bands our hopes destroy;もう武装した集団たちが私たちの希望を破壊することはないだろう;
Peace waves her wing and pours forth ev'ry joy.平和【の神】は彼女【=平和の神】の翼をうねらせそしてあらゆる喜びを注ぎかける。
The shepherd shall hail him all over the plain,羊飼いは平原全体に渡って彼【=喜び】を歓迎するだろう、
and the softey'd young virgin unite in the strain.そして【羊飼いは】その口調で優しくなった若い乙女を結ぶ【=若い乙女と結ばれる】だろう。
後半の2行 5小節は初演前に削除されたと思われるもの。Bärenreiter の楽譜では、校訂者の示唆 Vorschlag des Herausgebers. / Editor's suggestion. として選択追加できるようになっている。
alternative 26. Chorus
26.
Chorus

Chorus
Allegro ma non troppo
3/4
D Major
CHORUS合唱

Swell, swell the full chorus to Solomon's praise;膨らませろ、ソロモンの賞賛に対する朗々とした合唱を膨らませろ;
Record him, ye bards, as the pride of our days.彼を記録しろ、あなたたち詩人たちよ、私たちの日々【=時代】の誇りとして。

Flow sweetly the numbers that dwell on his name,彼の名について詳しく述べる楽曲を甘美に流せ、
And rouse the whole nation in songs to his fame.そして国全体を歌で彼の名声へとかき立てろ。
ダル・セーニョを用いた三部形式の合唱

Bとダル・セーニョの指示は初演より前に外されたと思われる。
Deutsche Händelgesellschaft の楽譜ではこのダル・セーニョを用いた三部形式の合唱を採用している。

参考資料

George Friderick Handel : Solomon, Vocal Score / Edited by Andreas Höhs / Bärenreiter / BA 10709 - 90 /

Winton Dean : Handel's Dramatic Oratorios and Masques / Clarendon Press, Oxford / ISBN 0198161840

クリストファー・ホグウッド / ヘンデル / 三澤寿喜 訳 / 東京書籍 / 1991 / ISBN 4-487-76079-8

Carus
SACD
83.242
4009350832428
Solomon
Tim Mead

Solomon's Queen
Dominique Labelle

First Woman
Dominique Labelle

Second Woman
Claron McFadden

Queen of Sheba
Claron McFadden

Zadok, the High Priest
Michael Slattery

Attendant
William Kendall

A Levite
Roderick Williams


Winchester Cathedral Choir
Festpiel Orchester Göttingen
Nicholas McGegan

Frauenkirche, Dresden, Sachsen, Deutsch
26 May 2007

2007年5月26日、ドレスデンの聖母教会でのライヴ録音。

harmonia mundi
CD
HMC 901949.50
794881848423
Solomon
Sarah Connolly

Solomon's Queen
Susan Gritton

First Woman
Susan Gritton

Second Woman
Carolyn Sampson

Queen of Sheba
Carolyn Sampson

Zadok, the High Priest
Mark Padmore

Attendant
Mark Padmore

A Levite
David Wilson-Johnson


RIAS Kammerchor
Akademie für Alte Musik Berlin
Daniel Reuss

Teldex Studio Berlin, Berlin, Deutsch
May 2006


NAXOS
CD
8.557574-75
747313257423
Solomon
Ewa Wolak

Solomon's Queen
Elisabeth Scholl

First Woman
Nicola Wemyss

Second Woman
Elisabeth Scholl

Queen of Sheba
Nicola Wemyss

Zadok, the High Priest
Knut Schoch

Attendant
Knut Schoch

A Levite
Matthias Vieweg


Junge Kantorei
Frankfurt Baroque Orchestra / Barockorchester Frankfurt
Joachim Carlos Martini

Kloster Eberbach, Rheingau, Deutsch
30 May 2004


K&K
CD
KuK 73
4260005910261
Solomon
Michael Chance

Solomon's Queen
Nancy Argenta

First Woman
Nancy Argenta

Second Woman
Laurie Reviol

Queen of Sheba
Laurie Reviol

Zadok, the High Priest
Julian Podger

A Levite
Steffen Balbach


Maulbronner Kammerchor
Hannoversche Hofkapelle
Gesamtleitung
Jürgen Budday


Kloster Maulbron, Maulbron, Baden-W6uuml;rtemberg, Deutsch
27 & 28 September 2003


ARCHIV PRODUKTION
CD
459 688-2
028945968827
Solomon
Andreas Scholl

Solomon's Queen
Inger Dam-Jensen

First Woman
Alison Hagley

Second Woman
Susan Bickley

Queen of Sheba
Susan Gritton

Zadok, the High Priest
Paul Agnew

A Levite
Peter Harvey


Gabrieli Consort & Players
Paul McCreesh

All Saints Church, Tooting, London
June & July1998

カットなし。第26番の合唱はダル・セーニョを用いた三部形式の長い稿を使用。ソロモンはカウンターテノール。
独唱、合唱、オーケストラ、いずれにおいてもたいへん優秀で、ことにアンドレアス・ショルのタイトルロールが素晴らしい。

PHILIPS
CD
412 612-2
028941261229
Solomon
Carolyn Watkinson

Solomon's Queen
Nancy Argenta

First Woman
Joan Rodgers

Second Woman
Della Jones

Queen of Sheba
Barbara Hendricks

Zadok, the High Priest
Anthony Rolfe Johnson

A Levite
Stephen Varcoe


Monteverdi Choir
English Baroque Soloists
John Eliot Gardiner

London, England
June 1984

ピリオド楽器演奏による初めての録音。
カットが多い。第1幕のザドクのレシタティヴと第11番のエア Indulge thy faith and wedded truth、第14番の合唱に先立つザドクのレシタティヴ、第3幕 第28番のシバの女王のエア Ev'ry sight these eyes behold、第33番のレヴィ人のエア Pious king and virtuous queen、ソロモンのレシタティヴと第36番のソロモンのエア How green our fertile pastures look、第39番(幕切れ)の合唱 The name of the wicked shall quickly be past をカット、その上で第35番の合唱 Praise the Lord with harp and tongue を幕切れに移してこの曲で締め括っている。
演奏としては悪くないが、上記の通りカットが多く、また幕切れの合唱を入れ替えていることもあり、問題がある。
録音日と演奏会場は日本向け仕様盤の帯には 1984年6月12―19日、ロンドン、セント・ジョージ・チャーチ とある。

1956年にEMIがトマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団で《ソロモン》を録音しており、ステレオ録音だったこともあって広く知られているが、これは多くの曲をカットし、大幅に曲順を入れて変えた演奏で、編曲ものとして理解するべきものである。

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